不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

剣鬼 闘技祭準備編

ナオの警告

――数時間後、目を覚ましたレナは頭に頭痛を覚えながらも自分の身体に毛布が掛けられている事に気付き、身体を起き上げると最初に彼が見たのは庭で稽古を行っているゴンゾウとミナとシズネの姿だった。


「ぬんっ！！はあっ！！」
「そんな速度では私には当たらないわよ。相手の動きを予測し、攻撃を仕掛けなさい」
「このぉっ！！」
「貴方は攻撃が正直すぎるのよ。だから読みやすいわ」


ミナは槍を、ゴンゾウがシズネを相手に闘拳を身に着けた拳を振り下ろすが、彼女は最小限の動作で攻撃を回避する。二人を相手にしながらも剣聖の称号を所持する彼女には及ばず、逆に足払いを受けてミナが倒れこむ。


「わあっ！？」
「うおっ！？」
「こんな風に近づきすぎると、同士討ちを起こすわよ」


ゴンゾウが倒れこんだミナを慌てて抱き上げようとするが、その隙にシズネは剣を構え、彼の首元に近づける。稽古でも手心は加えない彼女を見ながらもレナは机の上に置いてある果物籠に気付き、誰かが用意してくれたのか彼の好物が用意されていた。


「お、有難い。頂きます……あれ、手紙はどこ行った？」


レナは机の上に置いていたはずの手紙が消えている事に気付き、謎の紋様と文章が浮かんだ手紙だったのでアイリスに差出人の情報を問い質して置けば良かったのだが、聞き忘れていた事を思い出す。


「後で相談しておくか……その前にペット共の飯を用意しないと」
「ううんっ……く、苦しい」
「ぷるぷるっ」
「こらスラミン！！眠っている人の頭の上で遊ぶんじゃないの！！」


壁を背にして眠っているダインの上でスラミンが楽しそうに彼の頭の上で身体をくねらせ、それを見たレナが注意を行うと彼は即座にダインから降りる。レナも相当な時間を眠っていたようだが、ダインはまだ目覚める様子はなく、自分が掛けられていた毛布をダインに被せる。


「ふうっ……しまった、食材がもうないな。買い込んでおいたのもなくなってるし……」


大迷宮や旅で移動していた際に空間魔法で収納していた食材が枯渇している事に気付き、レナは外の光景を見てまだ日が落ちていない事を確認すると、食事を用意するために買い出しに向かう事にした。


「皆の分も用意しないとな。えっと、スラミン達は果物の果汁、ゴンちゃんとウルとミナは肉、シズネとコトミンは魚、ダインは野菜がないと怒るからな。ハンゾウはお米が好きだったな……」


買物の用意を行いながらレナは立ち上がり、身体の骨を鳴らす。慣れない机の上で眠ったせいで首が少し寝違えたが、用意を済ませると久しぶりに都市に訪れようとした時、家の外から騒がしい声が聞こえてきた。


『レナ！！レナはいるか！？』
「え？この声って……」
「ウォンッ！！」


玄関口の方から聞こえてきた女性の声にレナは慌てて外に出ると、そこには白馬に跨った自分の義理の姉であり、従姉のナオが立っていた。彼女にしては珍しくいつもの騎士の制服姿ではなく、まるで貴族の令嬢のようなドレスを着飾っていた。


「ナオ！？」
「ああ、良かった！！無事だったのか……いや、そんな事を言っている場合じゃない！！すぐにここから移動するぞ！！」
「ちょっと、何の騒ぎよ？」
「どうしたの！？」
「客か？」


レナの姿を見たナオは安堵の息を吐いて彼の元に駆け付け、騒ぎを聞きつけたシズネ達も駆けつける。彼等を見たナオは驚いた表情を浮かべるが、すぐに気を取り直してレナの肩を掴み、周囲の様子を伺う。


「レナ、よく聞くんだ……お前の存在がどうやらハヅキ家に気付かれたらしい」
「ハヅキ家って……俺のお母さんの家？」
「そうだ。ヨツバ王国の中でも王族に次いで権力を持っているハヅキ家の当主がこの都市に訪れている……つまり、お前の祖母が来ているんだ」
「お祖母ちゃん？」


ハヅキ家の当主はアイラとマリアの母親である「アイラ（この場合は母親の名前）」であり、マリアの話では彼女の夫が死亡した事で二人は家を出たのだが、どうして今更彼女がこの都市に訪れたのかレナは疑問を抱く。


「どうしてハヅキ家がここに……」
「ハヅキ家は代々王族の護衛部隊の指導を任されている。そして当主であるアイラ……いや、紛らわしいな、ともかくハヅキ殿は闘技祭のために訪れた国王とその子供達の護衛のために同行している」
「貴族が部隊の指導をしているのか？」
「人間の貴族と違ってエルフ王国の貴族は武術を習得させる事を義務付けられている。そしてハヅキ家の当主であるハヅキ殿も現役の剣士として王族の護衛部隊の指揮も任されている。そして問題なのは既に王国の一行がこの都市に到着したらしい」
「待ちなさい。その前に貴女は一体何者なの？レナの事を知っているようだけど……」
「……そうだったな、まずは自己紹介から行おう。私の名前はナオ・バルトロス、バルトロス王国の第一王女だ」
「え、えええええっ！？」
「王国の……第一王女？」
「そういえば前に見かけたような……」


ナオの言葉に全員が驚きを隠せず、レナも彼女の存在を教える事を忘れていた事を思い出し、どのように説明するのか頭を悩ませた。