不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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剣鬼 闘技祭準備編

作戦通り(byアイリス)

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レナが既に王妃から疎まれた存在だと知った以上、彼がバルトロス王国に戻り、国王になる可能性は皆無に等しい。しかし、それでもハヅキ家の血筋であることに変わりはなく、国王は話を切り替える。


「では、レナ殿はハヅキ家に戻られるという事でよろしいかな?それならば今すぐにアイラを呼び寄せ、儂から話を伝えるが……」
「いえ、このまま俺は叔母のマリアと共に冒険都市に留まりたいと思います。叔母もそれを望んでいますので……」
「何と……」


マリアの名前を出した瞬間、国王の表情が引きつり、今のレナの発言だけで彼もマリアもハヅキ家に戻る気はない事を暗に示していた。ここで国王が引き留める前にレナは隣に座るナオの肩を掴む。


「ちなみに叔母は俺の姉であるナオ王女と親密な仲です。もしも彼女が王位に就いた時、叔母も力を貸す事を約束した間柄なんです」
「え、あっ……そ、その通りです」
「ほうっ……マリア殿はそれほどナオ王女と親密な関係なのか」


唐突に話を振られてナオは戸惑うが、マリアが彼女を王位に告げるように協力する約束を結んでいるのは事実であり、レナの言葉に国王は考え込む。レナという存在を利用してバルトロス王国を弱みを握ろうと考えていたが、予想外にもナオとマリアの関係を知り、どのように対応するべきか考える。


(どうする?このレナという男、思ったよりも頭が切れるかも知れん。それにナオ王女の背後に氷雨のギルドマスターが控えているとしたら迂闊に対応できん……ここは彼女に協力し、貸しを作っておくべきか?)


ヨツバ王国としてはバルトロス王国の王位継承者が誰でも良いのだが、もしもナオに協力し、彼女が国王の座に継ぐ事が出来れば当然だが彼女はヨツバ王国に無碍な扱いは出来ない。ナオを裏から支援しているマリアと繋がりを持つ事も出来ると考えれば悪くはないが、もしも国王がナオ以外の人物に王位を継承させる場合は不味い自体に陥る。


(あの王はあくまでも王妃の傀儡……しかも本人は気付いてすらいない。愚かな男よ……実の息子を見捨て、先王の娘をぞんざいに扱ったのが仇となったか)


バルトロス王国の国王が王妃の操り人形と化している事はデブリ国王も知っており、彼の事を蔑むのと同時に不憫にも思う。国王の目の前にいるのはバルトロス国王の養子と実子であり、どちらも父親の意向に反して行動をしている。自分の子供達から愛されていると自覚しているデブリ国王にとっては自分の子供達に密かに追い詰められようとしているバルトロス国王を哀れにすら思う。


(娘の恩人の頼みでもある。ここは引き受けるべきか……しかし、そうすれば完全にあの王妃を敵に回してしまうな)


ヨツバ王国がバルトロス王国の後継ぎに関われば当然だが王国を裏で牛耳っている王妃の勢力が黙ってはいない。ここでナオに協力する事を約束するとヨツバ王国は実質的に王妃と本格的に敵対する事を意味する。


(ここで王女と協力し、氷雨のマリアの繋がりを手に入れ、あの王妃と戦うべきか……それとも敢えて断り、今まで通りの関係を保つか……)


ナオが王位継承権を得られればヨツバ王国にも大きな利益が生まれるが、仮に失敗してナオが王位を引き継げなかった場合、バルトロス王国との関係が不和になる。将来の事を考えて危険を犯してナオの後押しをするか、あるいは断ってバルトロス王国との関係を保つかを選択を迫られる。


「お父さん、大丈夫?怖い顔になっているけど……」
「お、おおっ……大丈夫じゃよ」
「ティナ、父上は大事な話をしているんだ。兄さんの隣に座りなさい」


黙り込んだデブリ国王にティナが心配そうに声を掛けると、慌てて兄が彼女を引き寄せる。国王はティナの言葉を耳にし、この愛する娘をレナが命を救ってくれた事を思い出す。


(この少年にティナは命を救われたと言っていたな。ライコフの件もある……やれやれ、損得だけを真っ先に考えるのは儂の悪い癖じゃな)


悩んでいた国王だったが、ティナの言葉を聞いて覚悟を固め、レナが支持するナオに協力をする事で彼への恩を報いる事を決めた。


「良かろう。ではヨツバ王国はナオ王女を支援する事をここに宣言しよう」
『えっ!?』
「父上!!本気ですか!?」
「本気ですのっ!?」
「え、えっ?」


デブリ国王の発言に室内の誰もが驚き、一番驚いたのはナオ本人であり、まさかレナの話をしておきながら自分の事を支援すると言い出したデブリ国王に動揺を隠せない。しかし、レナだけは特に取り乱す様子も見せず、冷静に国王を見つめていた。


(よく分かんないけど、本当にアイリスの言葉通りになったな)



――この場所に訪れる前、レナはアイリスに相談を行う。自分がどのように行動すればいいのかを事前にアイリスに問い質すと、彼女は王妃とマリアの名前を出すように助言する。


『国王は必ずレナさんを利用しようとします。ですからもしも王国に戻るか、ハヅキ家に戻るかを選ぶように迫るはずです』
『その時はどう答えればいいの?』
『王国に戻る話を切り出されたときは王妃の事を、ハヅキ家に戻る話の時はマリアの名前を出してください。そうすれば問題ありませんから』
『分かった』


アイリスとの会話を思い返し、レナは彼女の言葉通りの展開になった事に感心し、自分には常に心強い味方がいる事を再認識する。
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