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剣鬼 闘技祭準備編
閑話 〈鬼人のジン〉
――冒険都市の中に存在する古城、以前にレナが聖剣を盗み出したカーネが管理していた城は現在は改装が施され、そこに王国の一行は宿泊していた。カーネがいなくなった後に王妃の指示によって建物の改装のために数百人の小髭族と巨人族が動員され、見事な城へと変貌していた。
城内には既に兵士も配備されており、その数は1000人を超える。使用人や闘技祭の観覧のために訪れた客人を含めれば更に倍近くの人間が集まっている。その城の最上階に存在する玉座の間にて「王妃サクラ」は自分の配下の報告を受けていた。
「……失敗した?アマネが?」
「はい。彼女から直々に報告を受けています」
堂々と玉座に座り込んだ王妃の目の前には年若いが凛々しい顔立ちの青年が存在し、王妃の前で跪いていた。本来、いくら王妃であろうと国王だけが座ることを許される玉座に座している場面を見れば、王国の騎士ならば注意を行うのが当たり前である。しかし、彼は王妃の護衛を務める護衛隊長であり、傀儡と化した国王ではなく、彼女に忠誠を誓っている。
「アマネが失敗したのは……いつ以来かしら?」
「今回が初めてです。未来視で予測して罠を張っていたにも関わらず、失敗した事を恥じていました」
「そう……アマネに伝えなさい。今回の失態は貴女のせいではなく、敵の力量を見誤った私の責任だと」
「……よろしいのですか?」
「ええ、少し相手を舐めていたようね」
アマネとはレナに襲撃を仕掛けた王妃の護衛騎士の一人であり、彼女が幼少の頃から育てた騎士達の中では唯一の女性である。アマネは子供の頃から未来視の能力を習得していた事から王妃に目を付けられ、彼女に引き取られて育てられた元奴隷の少女である。
王妃の護衛を任された騎士達は全員が10代で統一されている。アマネを覗く全員が王国の有力貴族の跡取り、あるいは血筋を受け継ぐ者達であり、彼女は人質の役割も兼ねて自分の傍に仕えさせていた。貴族たちは自分達の大切な跡取りを彼女に抑えられているため彼女に逆らう事も出来ない。
しかし、王妃の真の目的は彼等を人質として自分の傍に控えさせるだけではなく、自分に忠誠を誓わせ、この王国の全ての実権を握った際に彼等を実家に戻して家系を継がせる予定を立てていた。彼等だけはただの使い捨ての道具ではなく、王妃にとって最も大切な「手駒」だった。
「アマネの様子は?」
「未来視の影響で大分精神を消耗しています。怪我は治療しましたが、しばらくの間は動けないでしょう」
「未来を見えた分だけ寿命を縮める……便利だけど厄介な能力ね」
「彼女自身は王妃様の役に立てて本望でしょう」
王妃の言葉に青年は笑顔を浮かべ、その顔を見て王妃も笑みを返す。彼は王妃の護衛騎士の中でも忠誠心が高く、命令を下せば国王であろうと迷わずに殺害するだろう。しかし、今の時期に国王を殺す事は不味く、まだ成人年齢を迎えていない王妃の息子では王位に就く事は出来ない。
「ナオの様子は?」
「王女は新しく作り出したワルキューレ騎士団と合流しました。数は少数ですが、実力は確かです」
「ワルキューレね……相変わらず目障りな小娘ね」
王国の第一王女であるナオは王妃にとっては最も目障りな存在であり、彼女を殺すために王妃は何度も暗殺者を送り込んでいる。しかし、先王の血を濃く継いでいるのか、王妃が送り込んだ暗殺者は全員が返り討ちになっている。だからこそ死霊使いの「キラウ」を利用し、腐敗竜を差し向けたのだが、まさか聖剣を引っ張り出して逆に腐敗竜を討伐するとは王妃にも予想出来なかった。
「例の聖剣の情報は?」
「本物のカラドボルグの所在は分かりました。予想通り、マリアが厳重に保管しています」
「そう。やはり、あの女が持っていたのね」
「それともう一つだけ……こちらは未確定の情報ですが、マリアの元に二つ目の聖剣が送り届けられた可能性があります」
「もう一つ……まだ隠し持っていたというの?」
「分かりません。しかし、この情報が正しければ3本の聖剣がマリアの手に渡りました」
「やはりあの女が私の障害となるのね」
冒険都市の影の支配者であるマリアは偽物の「カラドボルグ」をナオに渡し、本物のカラドボルグを安全な場所に保管させていた。また、彼女の配下のゴウライがデュランダルを所持しており、そして3つ目の聖剣が彼女の元に送り届けられたとしたら王妃にとっては大きな脅威となる。
「仕方ないわね。あの男を使うしかないようね」
「……本当にあの男を解放するですか?敵味方の区別もつかない野獣ですよ」
「だからこそいいのよ。大会前の良い余興になるわ」
「分かりました」
「今はどうしているの?」
「食事を行っています。調理した物は口にしないので、生の食材を与えていますが……このままでは城の食糧を食い尽くしてしまいます」
「それなら都合が良いじゃない。今夜、実行しなさい」
「仰せのままに」
――約一か月前、王妃は海獄島と呼ばれる囚人施設から「ジン」という名前の男を釈放させた。まだ若かりし頃のレナの母親のアイラとも邂逅した事がある男であり、その実力は剣聖を凌ぐ。しかし、収監されていた環境のせいなのか今現在では野生の猛獣のような性格に変貌してしまい、扱いに非常に困っていた。
だが、王国の第一王子であるレナの暗殺に失敗した王妃は次の計画のために隔離していたジンを街に解放させるように指示を出す。マリアがどのように動くのかを楽しみに思う一方、彼女はアマネを追い詰めたレナという存在に興味を抱く。
「それと……例の王子の事も調べておきなさい」
「王子?ああ、あの出来損ないの事ですか」
「その呼び方は止めろと言ったはずよ」
「こ、これは失礼しました」
王子という単語を聞いて青年は眉を顰めるが、王妃はそんな彼が無意識に呟いた言葉に睨みつけて黙らせる。王妃はレナとは直接的な面識はないが、それでも今の青年の言葉は許せなかった。
「……身体を洗うわ。すぐに準備をしなさい」
「はっ!!」
玉座から立ち上がり、王妃は青年に見られる事も構わずに服を脱ぎ始める。青年は彼女の脱ぎ捨てた衣服を拾い上げ、後に続いた――
城内には既に兵士も配備されており、その数は1000人を超える。使用人や闘技祭の観覧のために訪れた客人を含めれば更に倍近くの人間が集まっている。その城の最上階に存在する玉座の間にて「王妃サクラ」は自分の配下の報告を受けていた。
「……失敗した?アマネが?」
「はい。彼女から直々に報告を受けています」
堂々と玉座に座り込んだ王妃の目の前には年若いが凛々しい顔立ちの青年が存在し、王妃の前で跪いていた。本来、いくら王妃であろうと国王だけが座ることを許される玉座に座している場面を見れば、王国の騎士ならば注意を行うのが当たり前である。しかし、彼は王妃の護衛を務める護衛隊長であり、傀儡と化した国王ではなく、彼女に忠誠を誓っている。
「アマネが失敗したのは……いつ以来かしら?」
「今回が初めてです。未来視で予測して罠を張っていたにも関わらず、失敗した事を恥じていました」
「そう……アマネに伝えなさい。今回の失態は貴女のせいではなく、敵の力量を見誤った私の責任だと」
「……よろしいのですか?」
「ええ、少し相手を舐めていたようね」
アマネとはレナに襲撃を仕掛けた王妃の護衛騎士の一人であり、彼女が幼少の頃から育てた騎士達の中では唯一の女性である。アマネは子供の頃から未来視の能力を習得していた事から王妃に目を付けられ、彼女に引き取られて育てられた元奴隷の少女である。
王妃の護衛を任された騎士達は全員が10代で統一されている。アマネを覗く全員が王国の有力貴族の跡取り、あるいは血筋を受け継ぐ者達であり、彼女は人質の役割も兼ねて自分の傍に仕えさせていた。貴族たちは自分達の大切な跡取りを彼女に抑えられているため彼女に逆らう事も出来ない。
しかし、王妃の真の目的は彼等を人質として自分の傍に控えさせるだけではなく、自分に忠誠を誓わせ、この王国の全ての実権を握った際に彼等を実家に戻して家系を継がせる予定を立てていた。彼等だけはただの使い捨ての道具ではなく、王妃にとって最も大切な「手駒」だった。
「アマネの様子は?」
「未来視の影響で大分精神を消耗しています。怪我は治療しましたが、しばらくの間は動けないでしょう」
「未来を見えた分だけ寿命を縮める……便利だけど厄介な能力ね」
「彼女自身は王妃様の役に立てて本望でしょう」
王妃の言葉に青年は笑顔を浮かべ、その顔を見て王妃も笑みを返す。彼は王妃の護衛騎士の中でも忠誠心が高く、命令を下せば国王であろうと迷わずに殺害するだろう。しかし、今の時期に国王を殺す事は不味く、まだ成人年齢を迎えていない王妃の息子では王位に就く事は出来ない。
「ナオの様子は?」
「王女は新しく作り出したワルキューレ騎士団と合流しました。数は少数ですが、実力は確かです」
「ワルキューレね……相変わらず目障りな小娘ね」
王国の第一王女であるナオは王妃にとっては最も目障りな存在であり、彼女を殺すために王妃は何度も暗殺者を送り込んでいる。しかし、先王の血を濃く継いでいるのか、王妃が送り込んだ暗殺者は全員が返り討ちになっている。だからこそ死霊使いの「キラウ」を利用し、腐敗竜を差し向けたのだが、まさか聖剣を引っ張り出して逆に腐敗竜を討伐するとは王妃にも予想出来なかった。
「例の聖剣の情報は?」
「本物のカラドボルグの所在は分かりました。予想通り、マリアが厳重に保管しています」
「そう。やはり、あの女が持っていたのね」
「それともう一つだけ……こちらは未確定の情報ですが、マリアの元に二つ目の聖剣が送り届けられた可能性があります」
「もう一つ……まだ隠し持っていたというの?」
「分かりません。しかし、この情報が正しければ3本の聖剣がマリアの手に渡りました」
「やはりあの女が私の障害となるのね」
冒険都市の影の支配者であるマリアは偽物の「カラドボルグ」をナオに渡し、本物のカラドボルグを安全な場所に保管させていた。また、彼女の配下のゴウライがデュランダルを所持しており、そして3つ目の聖剣が彼女の元に送り届けられたとしたら王妃にとっては大きな脅威となる。
「仕方ないわね。あの男を使うしかないようね」
「……本当にあの男を解放するですか?敵味方の区別もつかない野獣ですよ」
「だからこそいいのよ。大会前の良い余興になるわ」
「分かりました」
「今はどうしているの?」
「食事を行っています。調理した物は口にしないので、生の食材を与えていますが……このままでは城の食糧を食い尽くしてしまいます」
「それなら都合が良いじゃない。今夜、実行しなさい」
「仰せのままに」
――約一か月前、王妃は海獄島と呼ばれる囚人施設から「ジン」という名前の男を釈放させた。まだ若かりし頃のレナの母親のアイラとも邂逅した事がある男であり、その実力は剣聖を凌ぐ。しかし、収監されていた環境のせいなのか今現在では野生の猛獣のような性格に変貌してしまい、扱いに非常に困っていた。
だが、王国の第一王子であるレナの暗殺に失敗した王妃は次の計画のために隔離していたジンを街に解放させるように指示を出す。マリアがどのように動くのかを楽しみに思う一方、彼女はアマネを追い詰めたレナという存在に興味を抱く。
「それと……例の王子の事も調べておきなさい」
「王子?ああ、あの出来損ないの事ですか」
「その呼び方は止めろと言ったはずよ」
「こ、これは失礼しました」
王子という単語を聞いて青年は眉を顰めるが、王妃はそんな彼が無意識に呟いた言葉に睨みつけて黙らせる。王妃はレナとは直接的な面識はないが、それでも今の青年の言葉は許せなかった。
「……身体を洗うわ。すぐに準備をしなさい」
「はっ!!」
玉座から立ち上がり、王妃は青年に見られる事も構わずに服を脱ぎ始める。青年は彼女の脱ぎ捨てた衣服を拾い上げ、後に続いた――
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