不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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剣鬼 闘技祭準備編

レミアの苦悩

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「え?あの……」
「申し訳ありませんが、ここから先は王国軍人の仕事です。冒険者の皆様にご迷惑を掛けて申し訳ありませんが、この場は私に任せて下さい」
「ちょっと待ってよ」


レナは倒れているジンと少年に近づいたレミアの前に移動し、ここでレミアに従えば折角の好機を逃す事になる。苦労して王妃の側近を捕まえたにも関わらず、ここでレミアに二人を連れていかれるとこれまでの苦労が無駄になってしまう。しかし、彼女を止める理由を考えなければならない。


「……退いて下さい。そこの二人は私が連行します」
「そっちの男に関してはどうでもいい。だけど、この子は駄目だ」
「何故でしょうか?この方の話を聞く限り、そちらの少年も囚人に協力していたと聞いています。共犯者である可能性が高い以上、見過ごすわけにはいきません」
「レナ君、どうかしたの?」
「どうして邪魔するんだよ。そんな奴等、さっさと引き渡して帰ろうぜ?」


他の人間もレナの行動に疑問を抱き、この状況下でレナがレミアの行動を邪魔する意図は誰にも伝わらない。どうすればいいのかレナは悩んでいると、不意に背後から物音が響く。


「……うがぁっ!!」
「何だとっ!?」
「くそ、まだ動けるのか!!」


レナが振り返ると血塗れの状態のジンが起き上がろうとしており、全身から流血しながらも歯を食いしばりながら全員を睨みつけ、アンデッドのように顎を開いて噛みつこうとした。


「がああっ!!」
「ちっ……」
「危ない!!」


咄嗟にレナは剣を引き抜こうとした時、背後からレミアが動き出し、彼女は右手を空手の「貫手」のように伸ばすと、ジンの胸元に目掛けて突き刺す。


「刺突!!」
「ぐはぁっ……!?」


彼女の右腕に光り輝き、本来ならば武器専用の戦技を発動させ、ジンの胸元を貫く。直後にジンの肉体に「光の槍」のような衝撃波が伝わる。


「なにっ!?」
「これは……!?」


その光景を見た全員が驚愕し、レミアはジンに顔を向けると、既に白目を向いて完全に気絶しており、彼女はジンの肉体を地面に横たわらせる。その際にレナは彼女の右腕に視線を向け、間違いなく右腕全体が輝いていた。


(まさか……あれは魔鎧術!?)


レミアが使用した能力には見覚えがあり、レナは大迷宮で出会った「ホネミン」を思い出す。彼女は魔鎧術と呼ばれる能力を生み出し、魔力を実体化させて身体に纏わりつかせて皮膚の代わりに利用していた。どうしてレミアがホネミンの魔鎧術を覚えているのかレナは動揺を隠せないが、即座に思い出す。


(そういえばホネミンはレイナと知り合いだった……じゃあ、まさかレイナも魔鎧術を扱えた!?)


レイナとホネミン、つまり初代アイラ・ハヅキは同世代の歴史上の英雄である。二人には交友関係がある事をレナは本人かた伝えられており、実際にレイナも死霊人形と化した時に闇属性の魔力を実体化させて戦っていたように見えた。


(魔鎧術を使って右腕に魔力で構成した「槍」を作り出して戦技を使ったのか……そんな方法もあるなんて思いつかなかった)


基本的に「刺突」の戦技は剣や槍などの武器で扱えるのだが、素手では使用する事は出来ない。しかし、レミアの場合は魔鎧術を利用して武器の形状をした魔力の鎧を生み出し、ジンが気絶する程の衝撃を与えたのだろう。


(俺の魔鎧術は身体を纏わせて防ぐ程度しかできのに……この人は武器と防具を同時に使い分けている。それに弱っていたとはいえ、この男を一撃で倒すなんて……これがアイリスの言っていた腐敗竜を単独で撃破できる大将軍か)


レミアは横たわらせたジンの様子を確認し、まだ生きている事を確認すると無言で少年に視線を向け、レナに告げる。


「この二人は私が連れて行きます。よろしいですね?」
「……分かりました」
「結構です。それと間もなく兵士がここに訪れる予定です。ここに残られていると面倒な事態に陥るかもしれませんよ?」


暗にこの場から立ち去るように指示してくるレミアに対し、レナ達は顔を見合わせ、最初に怪我人を背負っているシュンとジャンヌが立ち去る。


「俺等はこいつらをギルドに連れて行く。たく、弱い癖に面倒掛けやがって……」
「シュンさん!!二人も立派に戦ったんです!!そんな言い方は……」
「あっ……ぼ、僕も行きます!!」


ガロの身を案じたミナも二人の後に続き、残されたのはレナとゴンゾウとダインの3人だけとなる。レナとしては出来れば少年だけは取り返したかったが、ここでレミアの不満を買う訳にもいかず、渋々と引き下がった。


「失礼します」
「あ、おいレナ!?」
「…………?」


速足で立ち去るレナに慌ててダインが後に続き、ゴンゾウも不思議そうにレナとレミアを交互に見つめるが、すぐに後を追いかける。残されたレミアは倒れている二人に視線を向け、大きなため息を吐き出す。


「今回の事態は……あの方の命令ですか」


レミアは街の被害に視線を向け、数十人の兵士と住民の死体が街道に横たわっている事に気付き、血が滲む程に拳を握りしめながら彼女は兵士が訪れるまで待機した。
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