不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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剣鬼 闘技祭準備編

シズネの決意

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――レナ達が市場を離れたころ、シズネは1人で人気の無い路地を歩いていた。レナにはギルドに戻ると報告していたが、彼女は無意識に人目のつかない場所に移動していた。


「……何をしているのよ私は」


自分が見知らぬ場所に存在する事に気付き、シズネは溜息を吐き出す。すぐに戻ろうかと考えたが、彼女は思い直したように座り込む。


「あの子達と関わり過ぎたわね」


シズネの脳裏にはレナ達の顔を思い浮かべ、彼女は鞘から剣を引き抜き、刃に移る自分の顔を見る。我ながらに酷い表情をしており、レミアと出会った事で彼女は自分の立場を思い出してしまう。


「駄目よ、情に流されたら……あの男を倒す、それが私の唯一つの望みなのに……どうして貴方達は消えてくれないの?」


闘技祭に参加し、衆目の前でゴウライを打ち倒して父親の無念を晴らす。それが彼女がこの街に訪れた目的である。そのためならばどんな手段を用いてでも目的を果たすという強い意思を抱いていた。しかし、彼女が瞼を閉じれば思い浮かぶのは仲間達と共に過ごしたこの数か月の日々ばかりであり、あまりにも居心地の良い環境に彼女は目的を忘れてしまいそうになる。


「レナ……私は貴方の事を……」


無意識に彼女は自分が好意を抱く少年の名前を呟き、胸元を抑える。このような感情など初めてであり、一体いつから彼に惹かれていたのかもシズネは思い出せない。大迷宮で彼に命を救われたときか、もしかしたら最初にレナが闘技場で戦う姿を見た時から彼女の心は奪われていたのかも知れない。


「でも、このままだと……」


シズネの考える「予定通り」に進めば彼女はいずれレナにとって許されない行為をしなければならない。しかし、ここで引き返す事は出来ず、彼女がレナに近付いたのは全ては自分の計画を果たすためである。


「どうすればいいのよ!!」



苛立ちを隠せずにシズネは建物の壁に拳に血が滲む程に強く叩きつけ、痛みで一瞬だけ顔を顰めるが、この程度の痛みなど彼女は慣れている。腕利きの傭兵として彼女は様々な危険を乗り越えており、時には殺人にも手を染めた。母親と共に父親が亡くなった途端に家から追放された後、彼女は母親が死んだ後に1人で途方に暮れていた。このままでは自分が死んでしまうと分かりながらもボロ小屋の中で1人で引き籠り、帰ってこないはずの母親を待ち続けた。




――しかし、そんな彼女の元に訪れたのは母親ではない女性が訪れた。その顔には見覚えがあり、シズネが貴族として生活していた時に訪れたパーティで何度も見たことがある顔だった。




『貴女に好機を与えましょう。一人で生き残る力と、復讐の機会を与えます』
『えっ……?』




小屋に訪れた女性はシズネに「雪月花」を手渡し、更に数年は遊んで暮らせるだけの資金と、傭兵ギルドへの加入手続きまで行う。幼少の頃のシズネは自分の前に現れた女性に質問する。



『どうして……私のためにここまでしてくれるんですか?』
『貴女の瞳に輝きを見たからよ。昔の私の様に……強い輝きを見たの』



女性の言っている言葉の意味は分からなかったが、シズネは彼女の伸ばした手を取り、母親との思いでがある小屋を立ち去り、傭兵ギルドへと加入した。幼いとはいえ、父親仕込みの剣術と女性から渡された雪月花の魔剣の力を駆使し、数年後には他国にまで響き渡る程の名声を得た。



『貴女は私の元へ戻ってくるわ。でも、それまでは自由に過ごしなさい』



最後に女性は別れの言葉を告げると、シズネの前から立ち去る。この時の彼女の言葉の意味は分からなかったが、数か月前にシズネは王都へと訪れ、女性と再会した。


『久しぶりね。随分と立派になったわ……それなら貴女に与えた恩を返して貰いましょうか』
『返す……どういう事ですか?』
『貴女にも利益がある話よ。貴方の父親を殺したあの男への復讐を果たせる機会を与えましょう』
『っ……!?』


再会した女性の言葉にシズネは最初は動揺したが、相手には大きな恩があり、しかも憎き父親の仇を討つ機会を与えるという彼女の言葉に彼女は即座に承諾する。


『私は何をすればいいんですか?』
『そう難しい事じゃないわ。ある少年の事を探ってほしいの、もしも私の予測が正しければ……いえ、何でもないわ。ともかく、私の頼みを聞いてくれれば貴女に闘技祭で彼を打ち倒す機会を与えましょう』
『闘技祭?』
『冒険都市で行われる武芸大会の事よ。今は規模は小さいけど、きっと近いうちに世界中が注目する大会になるわ』
『世界中が……』
『只の敵討ちでは意味がないわ。貴女の父親の無念は大衆の面前であの男を倒す事で果たされるの。理解できたのなら頼み事の内容を伝えるわ。貴女のやるべきことは――』




――女性の言葉を思い返し、シズネは今度は壁に額を押し付け、歯を食いしばる。彼女の言葉を最初に聞いた時には意味が分からなかったが、レナに関わるうちにその目的の意図に気付き、そして彼が王族である事から確信へと至る。女性の目的はレナの正体を掴む事、シズネはそのための間者として送り込まれたのだ。


「どうしてこんな事に……誰!?」


壁から離れたシズネは違和感を感じ取り、咄嗟に雪月花に手を伸ばす。気配はしないが、何故だか人の視線を感じたシズネは剣を引き抜こうとすると、彼女の目の前でまるでカメレオンの擬態のように隠れていた人物が姿を現す。


「シズネ様、お迎えに上がりました」
「貴方は……」


姿を現したのは仮面を被った長身の男性であり、声音から10代後半だと分かるが、仮面の隙間から見える赤色の瞳は不気味に光り輝いていた。


「王妃様がお呼びです。すぐに参りましょう」


その言葉にシズネは目を見開き、同時に彼女は今日はレナの元へ戻れない事を悟った――
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