222 / 2,090
剣鬼 闘技祭準備編
王妃の命令
しおりを挟む
――時刻は夜を迎え、シズネは冒険都市に存在する古城に存在した。彼女の目の前には玉座に堂々と座る王妃サクラと数人の側近が存在し、その中にはジンの手助けを行っていた少年も立っていた。彼とジンはレミアに連れていかれたと聞いていたのだが、王妃の命令で解放されたらしい。
「こうしてお互いに顔を合わせるのは久しぶりね、シズネ」
「……ええっ」
「私の元に来たという事は覚悟を決めたのかしら?」
王妃はワイングラスを片手に笑みを浮かべ、傍に立っていた青年が即座に酒を注ぐ。その態度にシズネは眉を顰めるが、王妃は気にした風もなく味わう。
「この国で最も売れている葡萄酒よ安物だけど、味は悪くないわ。貴方もどう?」
「結構よ……酒はあまり好きじゃないわ」
「そういう所はまだ子供ね。遠慮せずに飲みなさい」
「どうぞ」
側近の中の一人が既に酒が注がれたワイングラスを乗せた盆を差し出す。王妃の側近の中で唯一の女性であり、年齢はシズネと大差はない。彼女は知らない事だがレナを追跡していた刺客であり、普段の彼女は王妃の身の回りの世話を行っている。
「酒はどんな時でも美味しい物よ……例え、他人を犠牲にする選択をした時でもね」
「……どういう意味かしら?」
意味深に語り掛ける王妃にシズネは疑問を抱くが、彼女の質問には答えずに王妃はグラスの中身を飲み干し、シズネにも葡萄酒を味わうように促す。
「飲みなさい。別に変な物は入れてないわよ」
「グラスに毒でも塗ってあるんじゃないんでしょうね」
「王妃様に対して口が過ぎますよ……殺されたいのですか?」
王妃の傍に立っていた青年がシズネを睨みつけるが、そんな彼の反応に対してシズネは正面から睨み返し、冷たい瞳を向ける。
「殺すという言葉を気軽に口にするものではないわ。特に自分よりも格上の相手にはね」
「何だと……」
「止めなさい」
シズネの言葉に青年は腰の剣に手を伸ばすが、王妃がそれを制止する。その様子を確認しながらもシズネはワイングラスに視線を向け、一気に飲み干す。
「……毒は入っていないようね」
「当たり前じゃない。私が貴女を殺すはずがないでしょう?」
「それはどうかしら……」
飲み干したワイングラスを少女に返すと、シズネは周囲から感じ取れる気配を確認する。王妃の側近以外にも数人の気配を感じ取り、返答次第では王妃は自分を始末する準備を整えている事に気付く。
(思っていたよりも警戒されているわね……レナと会った事が知られたのかしら)
決して緊張を悟られないようにシズネは表情を引き締め、何時でも戦闘態勢に入れるように気を配りながら王妃にこの場所へ招かれた理由を問い質す。
「それで……今回は私に何の用かしら?」
「仕事をして欲しいの。ある人間を殺して欲しいの」
「……そう」
事前に予想していたとはいえ、殺人の依頼をされたシズネは無意識に拳を握りしめる。そんな彼女の態度に王妃は笑みを浮かべ、彼女の緊張を解すように明るく話しかける。
「心配しなくていいわ。別に貴方が嫌なら断ってもいいわよ。その代わり、例の約束は……」
「問題ないわ。誰を殺せばいいの?」
約束の話を持ち出されたシズネは唇を噛みしめ、王妃に話の内容を聞く。その反応を見て王妃は首を傾げ、随分とあっさりと承諾した事に違和感を抱く。
「随分と素直ね……何かあったのかしら?」
「別に人殺しの依頼なんて珍しくもないわよ。私が剣聖に至るまで何人の悪党を手にかけたと思っているの?」
「……それもそうね」
傭兵であるシズネは冒険者では受けられない裏稼業の仕事も引き受けており、彼女は何人もの人間を切り伏せている。しかし、彼女が殺害した人間は全員が賞金首であり、数多くの人々を苦しめた悪党だけである。そもそも傭兵稼業自体が危険な職業なので人の命を奪う事自体は珍しくはない。
「それで……誰を殺せばいいの?」
「大丈夫よ。貴方の腕なら容易い相手よ」
「まさか……私の相棒を殺せというの?」
シズネの脳裏にレナの姿が思い浮かび、王妃にとってレナの存在は邪魔でしかないはずだが、彼女は微笑みながら否定する。
「いいえ、違うわ。でも惜しいわね」
「……どういう事よ?」
「彼の命はまだ必要はない。もっと重要なのは……彼の母親よ」
「まさか……!?」
「アイラを殺しなさい。それが私が貴女に与える最後の任務になるわ」
予想外の言葉にシズネは目を見開き、動揺を隠せない。しかし、王妃はそんな彼女の反応を楽しむように新しく注がれた葡萄酒を味わう。
「こうしてお互いに顔を合わせるのは久しぶりね、シズネ」
「……ええっ」
「私の元に来たという事は覚悟を決めたのかしら?」
王妃はワイングラスを片手に笑みを浮かべ、傍に立っていた青年が即座に酒を注ぐ。その態度にシズネは眉を顰めるが、王妃は気にした風もなく味わう。
「この国で最も売れている葡萄酒よ安物だけど、味は悪くないわ。貴方もどう?」
「結構よ……酒はあまり好きじゃないわ」
「そういう所はまだ子供ね。遠慮せずに飲みなさい」
「どうぞ」
側近の中の一人が既に酒が注がれたワイングラスを乗せた盆を差し出す。王妃の側近の中で唯一の女性であり、年齢はシズネと大差はない。彼女は知らない事だがレナを追跡していた刺客であり、普段の彼女は王妃の身の回りの世話を行っている。
「酒はどんな時でも美味しい物よ……例え、他人を犠牲にする選択をした時でもね」
「……どういう意味かしら?」
意味深に語り掛ける王妃にシズネは疑問を抱くが、彼女の質問には答えずに王妃はグラスの中身を飲み干し、シズネにも葡萄酒を味わうように促す。
「飲みなさい。別に変な物は入れてないわよ」
「グラスに毒でも塗ってあるんじゃないんでしょうね」
「王妃様に対して口が過ぎますよ……殺されたいのですか?」
王妃の傍に立っていた青年がシズネを睨みつけるが、そんな彼の反応に対してシズネは正面から睨み返し、冷たい瞳を向ける。
「殺すという言葉を気軽に口にするものではないわ。特に自分よりも格上の相手にはね」
「何だと……」
「止めなさい」
シズネの言葉に青年は腰の剣に手を伸ばすが、王妃がそれを制止する。その様子を確認しながらもシズネはワイングラスに視線を向け、一気に飲み干す。
「……毒は入っていないようね」
「当たり前じゃない。私が貴女を殺すはずがないでしょう?」
「それはどうかしら……」
飲み干したワイングラスを少女に返すと、シズネは周囲から感じ取れる気配を確認する。王妃の側近以外にも数人の気配を感じ取り、返答次第では王妃は自分を始末する準備を整えている事に気付く。
(思っていたよりも警戒されているわね……レナと会った事が知られたのかしら)
決して緊張を悟られないようにシズネは表情を引き締め、何時でも戦闘態勢に入れるように気を配りながら王妃にこの場所へ招かれた理由を問い質す。
「それで……今回は私に何の用かしら?」
「仕事をして欲しいの。ある人間を殺して欲しいの」
「……そう」
事前に予想していたとはいえ、殺人の依頼をされたシズネは無意識に拳を握りしめる。そんな彼女の態度に王妃は笑みを浮かべ、彼女の緊張を解すように明るく話しかける。
「心配しなくていいわ。別に貴方が嫌なら断ってもいいわよ。その代わり、例の約束は……」
「問題ないわ。誰を殺せばいいの?」
約束の話を持ち出されたシズネは唇を噛みしめ、王妃に話の内容を聞く。その反応を見て王妃は首を傾げ、随分とあっさりと承諾した事に違和感を抱く。
「随分と素直ね……何かあったのかしら?」
「別に人殺しの依頼なんて珍しくもないわよ。私が剣聖に至るまで何人の悪党を手にかけたと思っているの?」
「……それもそうね」
傭兵であるシズネは冒険者では受けられない裏稼業の仕事も引き受けており、彼女は何人もの人間を切り伏せている。しかし、彼女が殺害した人間は全員が賞金首であり、数多くの人々を苦しめた悪党だけである。そもそも傭兵稼業自体が危険な職業なので人の命を奪う事自体は珍しくはない。
「それで……誰を殺せばいいの?」
「大丈夫よ。貴方の腕なら容易い相手よ」
「まさか……私の相棒を殺せというの?」
シズネの脳裏にレナの姿が思い浮かび、王妃にとってレナの存在は邪魔でしかないはずだが、彼女は微笑みながら否定する。
「いいえ、違うわ。でも惜しいわね」
「……どういう事よ?」
「彼の命はまだ必要はない。もっと重要なのは……彼の母親よ」
「まさか……!?」
「アイラを殺しなさい。それが私が貴女に与える最後の任務になるわ」
予想外の言葉にシズネは目を見開き、動揺を隠せない。しかし、王妃はそんな彼女の反応を楽しむように新しく注がれた葡萄酒を味わう。
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。