不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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剣鬼 闘技祭準備編

筋は通す

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「……どうして今更殺すのよ?アイラというのは国王の側室にしか過ぎないんでしょう」
「理由を答える必要はあるのかしら?貴女は命じられたことをすればいいだけよ」
「答えるつもりはないわけね……だけど残念ね、だいたいの予想は出来るわ」


王妃がアイラの命を狙う理由、それは彼女がシズネがレナ達の元を完全に離れさせようとしているのは少し考えただけでも分かる。今更アイラの命を狙う理由は王妃にはなく、彼女を殺せる機会は王都にアイラが滞在している頃から幾らでもあった。それにも関わらずに王妃がアイラを殺さなかったのは彼女にとっては脅威にもならない存在だったからとしか考えられない。

王都に滞在していたアイラとナオの双子の妹を預かっている貴族は王妃の配下の一人であり、彼女が命令を下せば3人を何時でも殺す事が出来る。しかし、敢えて王妃はシズネにアイラを殺させる事でレナとの関係を完全に引き裂く事を目論んでいた。

アイラを殺せばシズネは当然だがレナとの間に確執が生み出し、もう二度と今のような関係は取り戻せないだろう。しかし、ここで断れば王妃はシズネとの約束を放棄し、そうなれば彼女は父親の無念を晴らす事は出来ない。


「さあ、早く決めなさい。考える時間は与えたわ」
「……………」


王妃はグラスを青年に帰すと、シズネの返答を促す。彼女がどのような答えを返すのか興味を抱き、もしも断われば彼女はここでシズネを殺すつもりだった。


「一つ聞きたいことがあるわ」
「……何かしら?」


シズネは王妃を見つめ、憐れみのこもった視線を向ける。そんな彼女の反応に王妃は訝しむが、シズネは率直に尋ねる。


「貴女……今までに一度でも他の人間の事を愛した事はあるの?」
「……どうかしらね」


予想外の質問に王妃は戸惑うが、適当に返事を行う。シズネは彼女の返答を聞いて溜息を吐き出し、質問の答えを返す。


「筋は通すわ」
「……それはどういう意味かしら?」
「こういう意味よ」


シズネの言葉に王妃は眉を顰め、自分への恩義を果たすために引き受けたのかと考えたが、彼女は雪月花を腰から抜き取ると傍に立っていた少女に放り投げる。唐突に武器を投げ渡された少女は慌てて受け取るが、彼女の行動に全員が戸惑い、王妃さえも呆気にとられたように表情を緩める。


「それは……何の真似かしら?」
「貴女が渡してくれた魔剣は返す。約束なんてもうどうでもいいわ……私はもう表の世界で生きたいの」
「その言葉の意味を分かっているのかしら?」


王妃の言葉に彼女の側近が武器を取り出し、周囲に隠れていた兵士達も姿を現す。武器を失ったシズネに対して王妃は冷たく睨みつけ、それでも彼女の力を惜しんで好機を与えた。


「もう一度だけ言うわ。アイラを殺し、父親の無念を晴らしなさい。それ以外に貴女が生き残る道はないのよ」
「お断りよ。そもそも前々から言おうと思っていた事があるんだけど……」
「……何かしら?」
「私は……貴女の事が大っ嫌いなのよ!!」


シズネの怒声が響き渡り、彼女の言葉に全員が呆気に取られたが、やがて王妃を崇拝する側近達が怒気を滲ませる。


「貴様!!よくも王妃様にそんな口を!!」
「殺す!!」
「生きて帰れると思うなよ!!」
「哀れね……人形のように扱われて置きながらまだ王妃を崇拝するの?」


側近の騎士達に対してシズネは態度を崩さずに哀れむが、当の王妃は身体を小刻みに震わせ、やがて大声で笑い声をあげた。


「あっ……あははははははっ!!」
「さ、サクラ様!?」
「いいえ、別に怒ってはいないわ…私に対して堂々と嫌いなんて言葉を使う人間なんて本当に久しぶりだわ」
「ふざけないで頂戴。そもそも私が貴女に好意を抱くと思っているの?貴女のせいで父は死んだのよ!!」


王妃が着の身着のまま追い出されたシズネに「雪月花」を与え、傭兵ギルドに紹介したのは紛れもない事実である。しかし、元を正せば王妃が彼女の父親をゴウライと決闘させるように国王に願わなければ父親は死ぬこともなく、シズネと彼女の母親も今でも貴族として生きていられただろう。

それでもシズネが雪月花を返上したのは王妃のお陰で生き残れた恩義があるからであり、憎き相手とはいえ命を救われた恩義を果たすため、彼女から受け取った雪月花を返却する。これで彼女に対して筋を通したシズネは遠慮なく仲間の元に戻るため、王妃に決別の言葉を口にした。


「父の仇は私自身の手で晴らす!!もう貴女は必要ない!!」
「それはどうかしら?雪月花のない貴女にあの男を倒す事が出来ると思っているの?」
「やり遂げて見せる……それだけの話よ!!」
「そう……私は貴女の事を気に入っていたのに残念だわ。せめて華々しく散りなさい」
「王妃様、ここは私が……」
「構わないわ。やりなさい」


先程からシズネに対して敵意を隠さなかった青年が前に出ると、シズネは頬に汗を掻いて一歩後退る。しかし、そこには既にジンの援護を行っていた少年が先回りしており、退路を塞ぐ。
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