不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
231 / 2,090
闘技祭 決戦編

ゴウライの謎

しおりを挟む
「あっ……レナさん」
「ん、ジャンヌさん?」
「ジャンヌで構いませんよ」


浴室に向かう途中、レナは通路でジャンヌと出会う。彼女は仕事上がりなのか身に付けている革鎧には血の跡が付いていた。


「仕事上がり?」
「ええ、依頼を引き受けて少し遠くの街に向かったのですが、帰りの馬車が途中で壊れて大会まで間に合わなくなる所でした」
「よく帰ってこれたね」
「途中、通りすがりの商団の方に頼んでここまで運んできてもらいました。レナさんは鍛錬を終えた後ですか?」
「まあね。明日に備えて今日は早めに切り上げたよ」
「いよいよ明日ですね……お互いに頑張りましょう」


レナの言葉にジャンヌは表情を引き締め、明日の闘技祭を意識して緊張感を抱く。泣いても笑っても明日から闘技祭が開催され、まずは予選を勝ち抜かなければならない。


「試合の参加者は100名を超えるそうです。明日の予選がどのように行われるのかは分かりませんが、出来ればレナさんとは本選で戦いたいです」
「そうだね。そういえばロウガさんはどうしてる?最近は姿が見えないけど……」
「ロウガ様は……すいません、私も分かりません」


ロウガの名前が出た途端にジャンヌは悲しげな表情を浮かべ、彼女もロウガの動向は知らないという。ロウガは過去に二度もレナの命を狙った事をマリアに知られ、彼女に激しく叱責された。ロウガは必死に剣鬼の存在の危険性を伝えたが、マリアは彼の言葉を聞き入れず、レナに近づかないように命じる。

ジンから受けた傷が癒えたロウガは姿を消してしまい、ハンゾウとカゲマルが調査を行おうとしたが、彼の消息は未だに掴めていない。ロウガを慕っていた冒険者達は悲しみ、特に親交があったジャンヌも落ち込む。しかし、ロウガは自分が使える主人の甥を殺そうとした事実は間違いなく、本来ならば冒険者を解雇されてもおかしくはない。


「あの……レナ様はロウガ様の事を恨んでいますか?」
「まあ、好きになりそうはないね。全然関りのない人に殺されそうになったのは初めてだよ」


レナもロウガに良い印象は抱いておらず、自分が「剣鬼」だからという理由で殺害しようとするロウガに対しては色々と思う所はある。しかし、アイリスから歴代の剣鬼が犯した様々な悪行は耳にしており、ロウガが自分の事を警戒する事は仕方ないと反面に納得はしている。


「そういえばゴウライ……さんは何処にいるの?ここに来てから一度も姿を見てないけど」
「ゴウライ様は基本的にギルドに留まる事はありません。戻ってきても新しい仕事を引き受けて遠征したり、暇さえあれば修行しています。今頃は山籠もりでもしているのではないでしょうか?」
「そうなのか……」


シズネの親の仇であり、最強の剣聖と言われているゴウライとはレナは闘技場で顔を合わせた時から見かけておらず、ジャンヌによるとゴウライは滅多に冒険者ギルドに戻らないという。それで冒険者として成り立つのかと疑問を抱くが、明日までには戻ってくる予定らしい。


「そういえば前から気になっていたんだけどさ、ゴウライさんの中身はどんな感じなの?」
「中身、ですか?」
「外に出るときも全身を甲冑で覆い隠しているからどんな顔か気になってさ、どういう人なの?」
「す、すいません……私も見た事がないんです」
「そうなの?一緒のギルドの冒険者仲間なのに?」
「はい。恐らく、私以外の人も見た事はないと思います。ゴウライ様があの甲冑を外した姿を見た事がありません」
「いや、でも食事とか風呂に入る時はどうするの?」
「それが誰もゴウライ様が食事をしている姿を見た事がありません。実は私はゴウライ様の共として一緒に仕事を引き受けて半日ほど行動を共にした事もありますが、その時も顔を確認できませんでした」
「え?じゃあ、本当に誰も見た事ないの?」


ジャンヌの言葉にレナは驚き、ますますゴウライの中身が気になってしまう。アイリスに尋ねれば答えてくれるだろうが、ここまでくると自分の目でゴウライの顔を拝見したくなり、もしも本人に遭遇したら顔を見せてくれないのか尋ねる事に決めた。


「それはそうとレナ様は何処へ向かわれるのですか?」
「風呂に入りに行こうと思ったんだけど……」
「あ、それは止めておいた方が良いかもしれません。さっき、清掃中の看板が立てかけられていたので……」
「え?そうなの?」


浴室が清掃中ならば当然派は入る事は出来ず、仕方なくレナは引き返そうかと考えた時、ジャンヌがある事を思いついたように話しかける。


「あ……でもマリア様が使っているギルドマスター専用の風呂場なら使えるかもしれませんよ。普段はマリア様以外の人が扱うのは禁止されていますが、レナ様ならば入っても問題ないと思います」
「あ、あそこか……前に一度は行った事があるけど、広すぎて落ち着かなかったんだよね」


ギルドの地下に存在するマリア専用の浴室を思い出し、レナも一度だけ入った事があるため、場所は知っている。ジャンヌに礼を告げ、ギルドの地下へ向かう。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。