不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
248 / 2,090
闘技祭 決戦編

予選開始前

しおりを挟む
「君の事は色々な人から話を聞いているよ」
「そうなんですか。良い噂だと良いんですけど……」
「はははっ」


晴れやかな笑顔を浮かべながらミドルはレナの掌を握りしめ、その握力の強さにレナは眉を顰める。やがて手を離すとミドルは真剣な表情を浮かべ、レナに宣言した。


「僕は王国の盾だ。だから王国の敵となる人間には容赦しないよ」
「それは……王妃様に言うべき言葉では?」
「……あの御方は素晴らしい方だよ。王国の事を誰よりも想っている」


レナの言葉にミドルは顔を顰め、その態度から彼が王妃側の人間である事が判明する。レナの周囲に存在した人間も雰囲気が変わった事に気付き、警戒心を露わにする。


「おい、用事が済んだのなら部屋にでも戻れよ」
「そういうわけにはいかないね。君達の行為に他の人間から苦情が来てるんだよ。すぐに机と椅子を撤収し、個室に待機して欲しいな」
「なら、最初からそう言えばいいじゃない。回りくどいやり方をするのね」
「……忠告はしたよ」


ミドルはシズネの言葉に苦笑すると、その場を立ち去る。レナは自分の掌に視線を向け、握りしめられた跡が残っており、あのまま掌を握りしめられていたら指の骨が折れていただろう。


『あの男、相当な強者だぞ。外見は平凡を装っているがな』
「厄介な奴に目を付けられたな坊主」
「今更だよ……いてて」
「だ、大丈夫?」


掌を抑えたレナにミナが心配そうに声を掛け、シズネは立ち去っていくミドルを睨みつける。一見は平凡な男性にしか見えないが、大将軍に相応しい力量を持っているのは間違いない。


「……ああいうタイプは苦手だわ。何を考えているのか分からないもの」
「そうだね」


シズネの言葉に同意しながらレナは回復魔法を施して右手を治そうとした時、階段から試合の係員と思われる兵士達が姿を現した。


「お待たせしました。間もなく予選開始20分前になります。選手の皆様は試合場へ移動してください」


その言葉を聞いた通路側の選手達は全員が表情を引き締め、レナは右手を治療しながらも全員に視線を向けて頷く。予選がどのような形式で行われるのかは不明だが、この中の全員が無事に突破する事を祈り、係員の元へ集う。


「試合場までは我々がご案内します。準備が整い次第、兵士に声を掛けて下さい」
「おい、予選はどうやって行われるんだ?」
「私達は試合場まで案内する役目しか命じられていません。予選の内容は試合場にて説明されます」
「ちっ」


シュンの質問に対して兵士は淡々と説明を返し、試合場まで付いてくるように促す。ここで彼等を脅しても意味はなく、レナ達は係員の指示に従って試合場まで移動を行う――





――同時刻、新闘技場の観客席には既に大勢の観衆が集まっており、観客席の最前列には各国の重要人物が集まっていた。人魚族と小髭族を除く王族が集まっており、バルトロス王国、ヨツバ王国、ビスト王国(獣人族の国家)、巨人国の4つの大国の代表が並んでいた。


「いや、本当に久しぶりだなバルトロス13世よ!!以前と会ったときより大分老けたのではないか?」
「はははっ……それはお互い様だろう。ビスト国王よ」


レナの父親であり、バルトロス王国の国王であるバルトロス13世の隣には獅子型の獣人族の男性が存在した。年代は50代程だが、その肉体は筋骨隆々であり、歴戦の戦士のような威厳を纏っていた。その隣にはティナの父親であり、氷雨のギルドと協力関係を結んだヨツバ王国の国王のデブリも存在する。


「ビストよ。お主は相変わらずだな……外見は変わっても中身は子供の頃から変わらんのう」
「がはははっ!!貴様から見れば誰もが子供に見えるだろう森人族の王よ!!そういうお主は儂の子供の頃から全く姿が変わらんな!!なあ、巨人の王よ!!」


デブリの隣には座っていても身長が4メートルを超える巨人族の老人が存在し、髪の毛は白髪が目立つが顎に生やしている髭は黒く、小髭族のように顎を覆い尽くす程に伸ばしている。この老人こそが巨人国の国王グガンであり、ビストに話しかけられた老人は一瞬だけ瞼を開き、すぐに閉じてしまう。


「ぬうっ?すまんがもう少し大きい声で喋ってくれんか。年齢を重ねると耳が遠くなってな……」
「おいおい、大丈夫か巨人の王よ。いい加減に子供に王位を譲って隠居したらどうだ?」
「かっかっかっ……まだまだ若い者には負けていられんわい」
「なんだ、ちゃんと聞こえているじゃないか。がははははっ!!」
「相変わらずだのうお主等は……あっはっはっはっ!!」
「…………」


呑気に笑い声をあげる3人の国王にデブリは溜息を吐き出し、彼はこれまでに歴代の各国の国王と顔合わせしているが、この3人程の問題児は知らない。


(全く……ビストとグガンはともかく、バルトロスよ。お主は自分の立場を理解しているのか?)


王妃がこの闘技場を利用して自分の子供を王位に継がせる目論見を抱いているのはデブリも承知済みであり、何も知らずに呑気に雑談を楽しむバルトロス13世の姿に頭を悩ませる。


(それにしても王妃の姿が見えない事が気になる……一体何を考えている?)


この場に集まっているのは各国の国王だけであり、王妃の姿は存在しない。予選が間もなく行われるにも関わらずに王妃が姿を見せない事にデブリは疑問を抱く。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。