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闘技祭 決戦編

兵士の不在

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「……よし、今のところは誰もいないよ」
「おかしいでござるな。巡回の兵士ぐらい居ると思ったのでござるが……」
「油断しない方が良い。もう既に俺達が王女誘拐の犯罪者として報告しているかもしれない。ここから先は普通の人にも気を付けよう」
「う、うん!!気を付けないとね!!」
「とりあえずはこそこそしないで堂々と歩いてみようか。この状態でも気付かれないのか確かめないといけない」


見目麗しい5人の乙女(?)に化けたレナ達は選手専用の控室の通路を移動する。本来、この場所は選手しか立ち入りを許可されていないので急いで移動する必要がある。最悪の場合は見つかったら兵士を倒さなければならず、職業の特徴として隠密行動が得意なハンゾウが先頭を移動する。


「レナ殿、必要と判断した時以外は「無音歩行」と「隠密」のスキルは解除しておいた方が良いでござる。捜索している兵士の中に暗殺者の職業の人間が居たらかえって怪しまれるでござる」
「なるほど……でも、ハンゾウのその語尾も直した方が良いよ。ござるなんて言う人は滅多にいないよ?」
「そ、そうでござったな。ではここから出来る限り今風の女子の話し方を心掛けるでござ……ります」
「あんまり変わってないぞ」
「……気を付ける」


レナ達は上の階に続く階段に辿り着くと、何故か見張りの兵士は見えなかった。この地下に訪れた時も何故か選手以外の人間の出入りを見張る兵士はおらず、何事もなく無事に通過出来た。


「おかしいな。どうして兵士がいないんだろう……例のマントで姿を隠しているのかな?」
「例のマント?何ですかそれ?」
「ああ、そういえばエリナに聞きたい事があったんだ。実はさ……」


この機会にレナはヨツバ王国に仕えるエリナに王妃に従っていた森人族の暗殺者集団が着用していた「擬態」のスキルが付与されていたマントの事を尋ねる。アイリスの説明では身に付けて激しく動かなければ擬態の能力を発揮して姿を隠蔽できる時間制限付きの魔道具だと聞いているが、念のためにエリナにも尋ねると彼女は不思議な表情を浮かべる。


「なるほど……そのマントを着ると透明になったように存在感が消えるんすね?確かに何処かで聞いた事があるような……」
「ねえねえ、それってもしかして御伽噺に出てくる身隠しのマントじゃないの?」
「ああ、それですね!!確かに昔、祖母ちゃんが御伽噺で教えてくれた身隠しのマントと特徴が一緒です!!」
「身隠しのマント?」


エリナが答える前にティナが心当たりを思い出したらしく、二人によるとヨツバ王国に伝わる御伽噺の中に「身隠しのマント」と呼ばれる魔道具が存在したという。


「身隠しのマントというのはまだバルトロス王国が建国される前、つまりバルトロス帝国時代に存在した魔王軍の幹部の一人が装備していたマントの事なんです。この幹部が装備していた「身隠しのマント」というのが身に付けると存在感を消して完全に姿を隠蔽する凄いマントなんです」
「え、それって透……」
「身隠しっす。決して透明ではないです」


レナが言葉を言い切る前にエリナが否定を行い、彼女達によるとレナを襲撃した森人族の集団が身に付けていたというマントは過去に存在した魔王軍の幹部が所有していたという「身隠しのマント」と全く同じ効果を持っていたらしい。それほど凄い魔道具をどのような手段で王妃の配下の暗殺者集団が身に付けていたのは気になるが、レナは重要なことを思い出す。


「……待てよ」
「どうしました?」
「いや、ここに見張りがいないのって……もしかして俺達が気付いていないだけで本当はそのマントで隠れているんじゃないのかなって……」
『っ!?』


レナの言葉に慌てて全員が周囲を見渡し、武器を構える。しかし、特に何も起きる気配はなく、ハンゾウが安心させるようにレナの言葉を否定する。


「それはないでござるよ。拙者は擬態の能力を見抜くスキルを所持しているでござる。レナ殿も「心眼」を利用すれば周りには誰も隠れていないのが分かるでござる」
「あ、そうか。心眼があったな……」


ハンゾウの言葉にレナは心眼を発動させるために瞼を閉じると、確かに他の人間の気配は感じられない。森の中で暮らしている時と比べてもレナの心眼の性能は成長しており、少なくとも周辺には敵は存在しない。しかし、逆にその事が不気味さを煽る。


「それなら何でこんな隠れやすい場所に兵士が配備されていないんだ?いくらなんでもおかしいよ」
「確かにその点は拙者も気になっていたでござる。しかし、先ほどから「観察眼」の能力を発動させて移動しているのでござるが、特に罠が仕掛けられている様子もないでござる」
「それっていい事じゃないんですか?」
「確かに俺達には都合が良い。でも、都合が良すぎるんだよ……何か嫌な予感がする」


兵士の追跡が途絶えた事にレナとハンゾウは違和感を感じ、より一層に警戒を強めて階段を移動した。
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