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都市崩壊編
英雄を超えた存在
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――槍騎士ミドル、バルトロス王国の大将軍にして他国では最強の将と恐れられる騎士である。戦場に赴けば必ず最高の結果をもたらし、先王の時代から使える忠義の厚い将軍だと世間一般では伝わっていた。しかし、彼が真に忠義を誓う相手は国王ではなく、彼の妻の王妃である事を知る人物は少ない。
ミドルは10代の頃から魔物との戦闘を繰り広げ、20代の頃には既に若手の将軍の中でも特に目立ち、年長の将軍からも期待されていた。実際に彼はこの頃から戦場では負けを知らず、必ず戦に赴けば勝利を導く。しかし、そんな輝かしいミドルの人生が狂い始めたのは彼が「大将軍」の位を授かり、先王が死去した頃からだった。
生前の先王に歴代の男性の将軍の中では最少年で大将軍の位を与えられたミドルだが、大将軍となった事で彼は王都の警備を任せられる。これまでは国境付近の守備を任されていたのだが、大将軍は常に国王の傍に控えてなければならないという決まりが存在した。そして先王の唐突な死去が訪れ、新たに国王に即位した現在の王の傍には今の王妃も控えていた。
実は既に王妃はミドルと何度か接触しており、二人は恋人のように密会を行う。初めて女性に心を奪われたミドルは相手が自分の使えるべき主人の妻であると知っても抗えず、いつしか彼の心は全て王妃に掌握されてしまう。
決してミドルは現在の国王に不満があるわけではなく、王妃を独り占めしたいと思った事もない。王妃の本性を知りながらも彼女に忠誠を誓うのはミドルが王妃の事を愛しているからであり、彼女の命令ならばどのような事も従った。例えそれが十数年来の付き合いの将軍の暗殺や、将軍に推薦してくれた恩師の大臣であろうとミドルは躊躇いもなく命を奪う。
愛する人間のためとはいえ、何の躊躇もなく友人や恩人を殺すミドルは他人から見れば常軌を逸しているが、彼自身は自分が狂っている事は理解している。それでも構わずに王妃の命令に従うのはミドルにとっては彼女の願いを叶える事だけが唯一の幸福だった。
今回の事件の発端は1時間前に遡り、王妃はミドルに対して命令を下す。その内容は冒険都市に襲撃を仕掛ける「地竜」の後始末である。
『ミドル、貴方の力ではマリアには遠く及ばない。でも、もしも地竜の力を自分の物にしたら……どうなるのかしら?』
『地竜の……力ですか?』
闘技場内にて王妃と謁見したミドルは唐突な彼女の言葉に戸惑い、一体どのような手段で自分が地竜などという竜種の力を得られるのかと困惑したが、そんなミドルに王妃は優しく囁く。
『大丈夫、貴方なら出来るわ……いつも通りに私の命令だけに従いなさい』
『……はい、王妃様』
王妃の言葉に逆らうという選択肢はミドルには存在せず、彼女の指示を受けたミドルは即座に闘技場を抜け出して冒険都市に向かう。途中、王妃と協力関係を結んでいる「緑影」の森人族から「身隠しのマント」を受け取り、ミドルは街中に出現した地竜とレナを筆頭に激戦を繰り広げる氷雨の冒険者との戦闘を一部始終確認した。
『……流石だね』
地竜との戦闘で臆さずに戦うレナを見てミドルは素直に感心し、他の剣聖や王国四騎士の面々も見事な立ち回りで地竜との戦闘を有利に進める姿にミドルは確信を抱く。彼等を排除しなければ王妃に安寧の時は訪れず、本当の意味で王国を支配は出来ないことを。
『あの方は、僕が守る』
そして地竜との戦闘も終盤に入り、戦列に参戦したマリアとハヅキの力を借りたレナ達は遂に地竜の全身を凍り付かせ、絶命にまで追い込む。しかし、肝心の地竜の核は健在であり、完全に力を失う前にミドルは核の回収を試みた。
『これで僕は……「英雄」を超えた存在に成り得る』
ミドルのレベルは既に70を超えているが、いくら外見が若々しくともミドルの全盛期は20代後半であり、それ以降はレベルも上がらずに能力も落ち始めていた。だが、もしも何らかの方法で強制的にレベルを上昇させた場合、彼は真の「全盛期」の力を得られる。
この世界では一般の間ではどのような職業でもレベルが70を迎えれば「英雄」と呼ばれる。理由は名前の通りに歴史上に名前を刻んだ英雄達と同程度の能力を身に付けた事を意味しており、そんな英雄の領域に達していたミドルが地竜の経験値を凝縮させた核を破壊した場合はどうなるのか、その結果はミドルもすぐに己の身の変化で気付く。
(凄い……!!これほどの力がまだ眠っていたのか!?)
ステータス画面を開くまでもなく、ミドルは自身のレベルが急上昇を引き起こし、加速度的に肉体が強化されるのを実感した。恐らくはレベルは「80」を迎えようとしているのは間違いなく、歴史上の英雄の中でもここまでのレベルまで高めた人間は一握りしか存在しない。それもこの世界の住民ではなく、異世界から世界を救うために呼び出された「勇者」しか存在しないだろう。
(ああ、これで……これで僕は王妃様の願いを叶えらえるんだ!!)
しかし、圧倒的な力を身に宿しながらもミドルが願う事は王妃の幸せのみであり、その行為は最早「愛」というよりも「狂信者」という言葉が相応しいだろう――
ミドルは10代の頃から魔物との戦闘を繰り広げ、20代の頃には既に若手の将軍の中でも特に目立ち、年長の将軍からも期待されていた。実際に彼はこの頃から戦場では負けを知らず、必ず戦に赴けば勝利を導く。しかし、そんな輝かしいミドルの人生が狂い始めたのは彼が「大将軍」の位を授かり、先王が死去した頃からだった。
生前の先王に歴代の男性の将軍の中では最少年で大将軍の位を与えられたミドルだが、大将軍となった事で彼は王都の警備を任せられる。これまでは国境付近の守備を任されていたのだが、大将軍は常に国王の傍に控えてなければならないという決まりが存在した。そして先王の唐突な死去が訪れ、新たに国王に即位した現在の王の傍には今の王妃も控えていた。
実は既に王妃はミドルと何度か接触しており、二人は恋人のように密会を行う。初めて女性に心を奪われたミドルは相手が自分の使えるべき主人の妻であると知っても抗えず、いつしか彼の心は全て王妃に掌握されてしまう。
決してミドルは現在の国王に不満があるわけではなく、王妃を独り占めしたいと思った事もない。王妃の本性を知りながらも彼女に忠誠を誓うのはミドルが王妃の事を愛しているからであり、彼女の命令ならばどのような事も従った。例えそれが十数年来の付き合いの将軍の暗殺や、将軍に推薦してくれた恩師の大臣であろうとミドルは躊躇いもなく命を奪う。
愛する人間のためとはいえ、何の躊躇もなく友人や恩人を殺すミドルは他人から見れば常軌を逸しているが、彼自身は自分が狂っている事は理解している。それでも構わずに王妃の命令に従うのはミドルにとっては彼女の願いを叶える事だけが唯一の幸福だった。
今回の事件の発端は1時間前に遡り、王妃はミドルに対して命令を下す。その内容は冒険都市に襲撃を仕掛ける「地竜」の後始末である。
『ミドル、貴方の力ではマリアには遠く及ばない。でも、もしも地竜の力を自分の物にしたら……どうなるのかしら?』
『地竜の……力ですか?』
闘技場内にて王妃と謁見したミドルは唐突な彼女の言葉に戸惑い、一体どのような手段で自分が地竜などという竜種の力を得られるのかと困惑したが、そんなミドルに王妃は優しく囁く。
『大丈夫、貴方なら出来るわ……いつも通りに私の命令だけに従いなさい』
『……はい、王妃様』
王妃の言葉に逆らうという選択肢はミドルには存在せず、彼女の指示を受けたミドルは即座に闘技場を抜け出して冒険都市に向かう。途中、王妃と協力関係を結んでいる「緑影」の森人族から「身隠しのマント」を受け取り、ミドルは街中に出現した地竜とレナを筆頭に激戦を繰り広げる氷雨の冒険者との戦闘を一部始終確認した。
『……流石だね』
地竜との戦闘で臆さずに戦うレナを見てミドルは素直に感心し、他の剣聖や王国四騎士の面々も見事な立ち回りで地竜との戦闘を有利に進める姿にミドルは確信を抱く。彼等を排除しなければ王妃に安寧の時は訪れず、本当の意味で王国を支配は出来ないことを。
『あの方は、僕が守る』
そして地竜との戦闘も終盤に入り、戦列に参戦したマリアとハヅキの力を借りたレナ達は遂に地竜の全身を凍り付かせ、絶命にまで追い込む。しかし、肝心の地竜の核は健在であり、完全に力を失う前にミドルは核の回収を試みた。
『これで僕は……「英雄」を超えた存在に成り得る』
ミドルのレベルは既に70を超えているが、いくら外見が若々しくともミドルの全盛期は20代後半であり、それ以降はレベルも上がらずに能力も落ち始めていた。だが、もしも何らかの方法で強制的にレベルを上昇させた場合、彼は真の「全盛期」の力を得られる。
この世界では一般の間ではどのような職業でもレベルが70を迎えれば「英雄」と呼ばれる。理由は名前の通りに歴史上に名前を刻んだ英雄達と同程度の能力を身に付けた事を意味しており、そんな英雄の領域に達していたミドルが地竜の経験値を凝縮させた核を破壊した場合はどうなるのか、その結果はミドルもすぐに己の身の変化で気付く。
(凄い……!!これほどの力がまだ眠っていたのか!?)
ステータス画面を開くまでもなく、ミドルは自身のレベルが急上昇を引き起こし、加速度的に肉体が強化されるのを実感した。恐らくはレベルは「80」を迎えようとしているのは間違いなく、歴史上の英雄の中でもここまでのレベルまで高めた人間は一握りしか存在しない。それもこの世界の住民ではなく、異世界から世界を救うために呼び出された「勇者」しか存在しないだろう。
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