不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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放浪編

女囚館へ潜入

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「ん?おい、ちょっち待ちな。あんた誰だい?見ない顔だね」
「っ……!?」


気づかれずに通り過ぎようとしたレナだが、獣人族の女性の囚人が気付き、鼻を引くつかせて眉をしかめる。


「あんた……新入りかい?だけど、何だいその服は?ちゃんと洗ってんのかい?」
「確かに少し臭うわね……それに妙にボロボロじゃない?」


忍び込む前に一応は洗ったつもりだったが、元々は廃棄場に存在した囚人服の異臭を感じ取り、囚人達がレナの元に集まる。無暗に声をあげないように気を付けながらレナはどうやって彼女達から離れる手段を考えると、一人の女性が建物を奥を指差す。


「そんな恰好じゃ客寄せなんて出来ないでしょ?さっさと更衣室で着替えてきなさいよ」
「えっ……?」
「ねえ、この子もしかして更衣室の居場所を知らないんじゃないの?誰か案内してあげなさいよ」
「仕方ないわね……ほら、付いてきなさい」


レナが何か行動を移す前に女性の囚人の一人が面倒そうな表情を浮かべて建物の中に案内する。案内役を買って出たのは小柄な猫型の獣人族であり、年齢もレナと大差はないだろうが偉そうな態度で案内を行う。


「ほら、こっちよ。早く付いてきなさい!!」
「あ、はい……」
「……変な奴ね」


少女に促されるままにレナは後に続き、建物の中に入る事に成功した。建物の中は内部はまるでキャバクラ等の店を意識したように内部構造が改造されており、元々は体育館だとは想像できない程に見事に男性向けの仕上がりになっていた。


「ここは……」
「何を驚いているのよ?まさか中を見るのは初めてなはずがないでしょ?あたしたちはここで男どもを接客して金を稼ぐのよ」


建物の中には監獄とは思えない程に豪華な装飾が施され、建物の端の方にはバーまで存在して棚に並べられた酒瓶が大量に存在した。しかも天井には光石と呼ばれる魔石が取り付けられたシャンデリアまで掲げられており、他にも女性兵士が警備員のように壁際に待機していたり、綺麗な魚が泳ぐ水槽やピアノまで設置されていた。


(ここ、本当に監獄なのか……中と外じゃ偉く違うんだな)


自分が監獄に存在する事を忘れてしまう程に場違いな雰囲気を放つ風景にレナは圧倒され、そんなレナの反応を訝しみながら少女は二階に続く階段を指差す。


「ほら、着替えは上の階で行うのよ。さっさと付いてきなさい」
「あの……」
「いいから早く来なさいよ。もうすぐ開店するんだからそんな汚い恰好でうろつかれたこっちが迷惑なのよ」


少女はレナの腕を引いて階段を上り、二階へ到着すると通路を移動して「更衣室」という表札が取り付けられた扉を指差す。


「ほら、ここでさっさと着替えなさい。衣装もあるから男受けが良さそうなのに着替えたらさっさと降りてきなさいよ」
「あ、はい……」
「……まあ、最初は誰もが不安を感じるのは仕方ないわ。だけどね、ここで暮らすことを決めたのなら覚悟を決めなさい!!」
「はうっ!?」


去り際にレナの尻を勢いよく叩くと少女は笑い声をあげて立ち去り、叩かれた尻を撫でながらもレナは更衣室の中を覗く。幸いにも他に人の姿は見えず、仕方なく他の人間に怪しまれないように着替えを行う事にした。


「うわ、衣装ってこれの事かな……全部露出が多いな。というか、何で水着や体操服まで並んでるんだ」


更衣室の入口から向かい側の壁には無数の衣装が吊るされている事を確認したレナは比較的に露出が少なく、目立たない服装を探すが見つからない。元々は男性を誘惑するために用意された衣装ばかりなのでまともな服は殆ど存在せず、胸元の部分が大きく開いたドレスを掲げてレナは頭を抑える。


(駄目だ、流石にこんな物に着替えたら一発で正体がばれる……他の人間に見つからないうちに抜け出すしかないか)


着替えを諦めてレナは目的地であるパールの部屋を目指すため、更衣室を抜け出して今度は温水プールと繋がっている通路を移動する。建物内でも巡回を行う兵士も存在するため、彼女達に気づかれないようにレナは「隠密」と「無音歩行」のスキルを駆使して慎重に移動を行う。


(兵士は……不味いな、獣人族か)


温室プールに繋がる扉の警備を行っているのは獣人族の兵士だと知ったレナは柱の陰に隠れて臭いで気づかれないように注意を配り、他にプールに忍び込む方法を探す。


(窓から外に出て壁伝いに忍び込むか)


兵士が出入口を見張っている扉から忍び込む事は難しく、レナは近くの窓を開いて外に身を乗り出すと、最初に敷地内に侵入したときのように氷塊の魔法で足場を作り出す。


(気づかれないようにそっと移動しないと……)


足場代わりの氷の円盤を操作してレナは空中を移動すると、温水プールを外側から覗き込む。時間帯的に誰も使用していないのか人の姿は確認できず、窓の鍵を「形状高速変化」の能力を利用して解除するとレナは室内に潜り込む事に成功した。
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