文字の大きさ
大
中
小
451 / 2,093
放浪編
居合の弱点
「これは……!?」
「き、消えた!?」
「違う、あっちにいるぞ!!」
縮地を発動したレナは転移魔法のように一瞬で違う場所へ移動し、傍目から見たら瞬間移動のように姿を消したようにしか見えない。だが、剣聖の領域に足を踏み入れている看守長は冷静にレナの姿を捉え、縮地の移動先を予測して迎撃の態勢へ入る。
(無駄だ……縮地は万能じゃない)
高速移動が行える縮地をレナが覚えていた事に驚きはしたが、看守長は焦る様子も見せずに刀の柄に手を伸ばし、瞼を閉じて「心眼」を発動させる。生物の力を感じ取る事で相手の位置を捉える心眼ならば縮地を発動させた状態のレナの位置も捉える事が可能であり、刀の間合いに入った瞬間に切り伏せる自信があった。
縮地の最大の弱点は移動の最中は使用者の意識が存在せず、別の地点に移動する際の軌道を先読みして攻撃を行えば回避する事は出来ず、不用意に看守長の刀の間合いに移動しようとした瞬間に切り裂かれるだろう。居合の戦技は「疾風剣」と「抜刀」さらに技能の「迎撃」を組み合わせた高度な複合戦技であり、剣聖の領域に到達した人間でも扱える者は少ない。
最速の剣技という点では居合に勝る戦技は存在せず、その居合をさらに独自に工夫を加えて風の斬撃を生み出すのが剣聖のハヤテである。だが、看守長の場合は彼女とは違い、純粋に剣技だけを磨いて居合を生み出す。
(僕の秘剣「弐連斬」を味わせてあげよう)
本来は一太刀しか生み出す事しか出来ない居合の戦技だが、看守長は長年の修練によって一度の攻撃で二つの太刀を浴びせる事が出来る「弐連斬」と呼ばれる複合戦技を生み出す。居合の戦技に更に「連撃」の戦技を加えた看守長だけが扱える秘剣だが、その戦技を見た人間はかつて一人もいない。生み出したのは良いのだが実際に扱う場面がなく、そもそも看守長に奥の手を使わせる程の強者がここ数十年の間に遭遇しなかった。
(さあ、来い……!!)
心眼でレナの位置を正確に読み取り、攪乱させるつもりなのかあちこちを縮地で移動しながら徐々に接近するレナに対して看守長は笑みを浮かべ、刀の間合いに入る瞬間を待ちわびる。
「行くぞ!!」
レナの声が看守長の耳元に届き、わざわざ攻撃を仕掛ける前に合図を与えるように大声を上げたレナに看守長は呆れるが、刀の間合いに近づいてくる気配を感じ取って戦技を発動させようとした。
「弐連――」
「土塊!!」
だが、レナが看守長の刀の間合いに入る寸前、唐突に看守長の右足の地面が盛り上がり、体勢を大きく崩してしまう。その結果、看守長が降りぬいた刃は接近するレナの頭上を通り過ぎてしまい、虚しく空を切る。
「何っ!?」
「その技は……弱点を知っている!!」
まさか足元の地面が盛り上がるとは予測できなかった看守長は目を見開くと、何時の間にか靴を脱いで裸足の状態で自分の傍に接近しているレナに気づき、咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが複合戦技を発動した直後の肉体の硬直によって身体が動かずにまともに攻撃を受けてしまう。
「加速剣撃、旋風!!」
「ぐはぁっ!?」
「看守長!?」
看守長の胴体にレナの振りぬいた反鏡剣の刃が放たれ、鮮血が迸らせながら看守長は膝を着く。その際にレナの右足に魔力の光が滲んでいる事に気付き、どうして自分の居合が敗れたのかを悟って呆然とした表情を浮かべる。
「まさか……足で、魔法を……!?」
「……正解」
レナが縮地を発動させて看守長の周囲を動き回っていたのは相手を攪乱させるためだけではなく、両足の靴と靴下を脱ぎ捨てるために激しく動いていた。素足の状態ならば足の裏から地面に魔法を発動させる事も容易く、攻撃する瞬間に初級魔法の「土塊」を発動させて看守長の足元の地面を操作して体勢を崩す事に成功した。
「馬鹿な……こんな、単純な手に命を懸けたのか……!?」
「本当はちょっと冷っとしたけど、前に似たようなことがあってね。成功するとは信じていたよ」
ほんの少しでもタイミングを誤ればレナが看守長の攻撃によって切り伏せられていただろうが、かつて剣聖のハヤテと対峙したときにもレナは同じ方法で相手の「居合」の戦技を打ち破っており、今回も成功する自信はあった。最悪の場合、相打ちにでも持ち込めば回復魔法を行える自分が有利だと判断して攻撃を仕掛けた。
それでも危険な賭けであったことは間違いなく、頭上に看守長の刀の刃が横切った瞬間は肝を冷やし、咄嗟に手加減する事を忘れて本気で看守長を切りつけてしまった。幸いにも吸血鬼である看守長は人間よりも頑丈な肉体を持っているので致命傷には至らず、胴体に大きな傷跡が生まれた程度で命に別状はない。
「信じられない……この僕が、こんな子供に……」
「まあ、言いたい事は分からないでもないけど、こっちも相当の修羅場をくぐってるんだよ……あんたは強者であっても勝てない敵じゃない」
これまでに多くの武人と戦ってきたレナにとっては看守長は決して勝てない相手ではなく、上手く隙を突いて勝利した。しかし、今回のような手が通じるのは一度限りであり、魔法の力を使わなければ看守長の「居合」を正面から打ち破る事はレナには出来なかっただろう。
「き、消えた!?」
「違う、あっちにいるぞ!!」
縮地を発動したレナは転移魔法のように一瞬で違う場所へ移動し、傍目から見たら瞬間移動のように姿を消したようにしか見えない。だが、剣聖の領域に足を踏み入れている看守長は冷静にレナの姿を捉え、縮地の移動先を予測して迎撃の態勢へ入る。
(無駄だ……縮地は万能じゃない)
高速移動が行える縮地をレナが覚えていた事に驚きはしたが、看守長は焦る様子も見せずに刀の柄に手を伸ばし、瞼を閉じて「心眼」を発動させる。生物の力を感じ取る事で相手の位置を捉える心眼ならば縮地を発動させた状態のレナの位置も捉える事が可能であり、刀の間合いに入った瞬間に切り伏せる自信があった。
縮地の最大の弱点は移動の最中は使用者の意識が存在せず、別の地点に移動する際の軌道を先読みして攻撃を行えば回避する事は出来ず、不用意に看守長の刀の間合いに移動しようとした瞬間に切り裂かれるだろう。居合の戦技は「疾風剣」と「抜刀」さらに技能の「迎撃」を組み合わせた高度な複合戦技であり、剣聖の領域に到達した人間でも扱える者は少ない。
最速の剣技という点では居合に勝る戦技は存在せず、その居合をさらに独自に工夫を加えて風の斬撃を生み出すのが剣聖のハヤテである。だが、看守長の場合は彼女とは違い、純粋に剣技だけを磨いて居合を生み出す。
(僕の秘剣「弐連斬」を味わせてあげよう)
本来は一太刀しか生み出す事しか出来ない居合の戦技だが、看守長は長年の修練によって一度の攻撃で二つの太刀を浴びせる事が出来る「弐連斬」と呼ばれる複合戦技を生み出す。居合の戦技に更に「連撃」の戦技を加えた看守長だけが扱える秘剣だが、その戦技を見た人間はかつて一人もいない。生み出したのは良いのだが実際に扱う場面がなく、そもそも看守長に奥の手を使わせる程の強者がここ数十年の間に遭遇しなかった。
(さあ、来い……!!)
心眼でレナの位置を正確に読み取り、攪乱させるつもりなのかあちこちを縮地で移動しながら徐々に接近するレナに対して看守長は笑みを浮かべ、刀の間合いに入る瞬間を待ちわびる。
「行くぞ!!」
レナの声が看守長の耳元に届き、わざわざ攻撃を仕掛ける前に合図を与えるように大声を上げたレナに看守長は呆れるが、刀の間合いに近づいてくる気配を感じ取って戦技を発動させようとした。
「弐連――」
「土塊!!」
だが、レナが看守長の刀の間合いに入る寸前、唐突に看守長の右足の地面が盛り上がり、体勢を大きく崩してしまう。その結果、看守長が降りぬいた刃は接近するレナの頭上を通り過ぎてしまい、虚しく空を切る。
「何っ!?」
「その技は……弱点を知っている!!」
まさか足元の地面が盛り上がるとは予測できなかった看守長は目を見開くと、何時の間にか靴を脱いで裸足の状態で自分の傍に接近しているレナに気づき、咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが複合戦技を発動した直後の肉体の硬直によって身体が動かずにまともに攻撃を受けてしまう。
「加速剣撃、旋風!!」
「ぐはぁっ!?」
「看守長!?」
看守長の胴体にレナの振りぬいた反鏡剣の刃が放たれ、鮮血が迸らせながら看守長は膝を着く。その際にレナの右足に魔力の光が滲んでいる事に気付き、どうして自分の居合が敗れたのかを悟って呆然とした表情を浮かべる。
「まさか……足で、魔法を……!?」
「……正解」
レナが縮地を発動させて看守長の周囲を動き回っていたのは相手を攪乱させるためだけではなく、両足の靴と靴下を脱ぎ捨てるために激しく動いていた。素足の状態ならば足の裏から地面に魔法を発動させる事も容易く、攻撃する瞬間に初級魔法の「土塊」を発動させて看守長の足元の地面を操作して体勢を崩す事に成功した。
「馬鹿な……こんな、単純な手に命を懸けたのか……!?」
「本当はちょっと冷っとしたけど、前に似たようなことがあってね。成功するとは信じていたよ」
ほんの少しでもタイミングを誤ればレナが看守長の攻撃によって切り伏せられていただろうが、かつて剣聖のハヤテと対峙したときにもレナは同じ方法で相手の「居合」の戦技を打ち破っており、今回も成功する自信はあった。最悪の場合、相打ちにでも持ち込めば回復魔法を行える自分が有利だと判断して攻撃を仕掛けた。
それでも危険な賭けであったことは間違いなく、頭上に看守長の刀の刃が横切った瞬間は肝を冷やし、咄嗟に手加減する事を忘れて本気で看守長を切りつけてしまった。幸いにも吸血鬼である看守長は人間よりも頑丈な肉体を持っているので致命傷には至らず、胴体に大きな傷跡が生まれた程度で命に別状はない。
「信じられない……この僕が、こんな子供に……」
「まあ、言いたい事は分からないでもないけど、こっちも相当の修羅場をくぐってるんだよ……あんたは強者であっても勝てない敵じゃない」
これまでに多くの武人と戦ってきたレナにとっては看守長は決して勝てない相手ではなく、上手く隙を突いて勝利した。しかし、今回のような手が通じるのは一度限りであり、魔法の力を使わなければ看守長の「居合」を正面から打ち破る事はレナには出来なかっただろう。
感想 5,097
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『ベルンハルト・フォン・バーデンは平穏に暮らしたい』
GamaFrog男爵家三男、ベルンハルト・フォン・バーデン。
家督継承権はなく、本来ならどこかの官職に就くか、他家へ仕えるか、婿入りするか――そんな将来が待っているはずだった。
しかしベルは少しだけ優秀すぎた。
小遣い稼ぎのつもりで始めた商売は成功し、気付けば父親より金を持ち、長男より領地経営に詳しく、次男より商売が上手くなっていた。
本人に出しゃばる気はない。
ただ普通に生きていただけだ。
それでも、優秀すぎる三男の存在は家族との距離を少しずつ広げていった。
家に居場所がなくなった。
だからベルは学園へ来た。
貴族だから一応入学した。
家にいるより気楽だったから。
静かに暮らしたかったから。
寄付金を積んで手に入れた広い寮部屋で、本を読み、昼寝をし、卒業後は適当な文官になって平穏に生きる
そのはずだった。
だが現実は違った。
男装令嬢に懐かれ。
王太子に目を付けられ。
商会には囲い込まれ。
気付けば平穏はどこへやら。
本人はただ平穏に暮らしたいだけ。
周囲はなぜか放っておいてくれない。
これは、面倒事を嫌う規格外の天才が、静かな人生を目指して失敗し続ける物語である。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
クラス全員で異世界召喚されたが、俺だけ教室に取り残されたのでとりあえず帰宅した
中山(ほ) クラス全員で異世界召喚されたが、先生と俺が残っていた。
魔法もチートスキルもステータス画面すら表示されない、ただの「残され損」
異世界に行けなかった俺を待っていたのは、世知辛い現実だった。
AI使用状況
GoogleのGeminiさん使ってます〜
誤字脱字チェックと調べ物お願いしてます
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。