不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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放浪編

狂気

――全ての話を聞き終えたレナは何とも言えない表情を浮かべ、目の前で項垂れているダルンに視線を向ける。ダルンも自分の行為が正しい事ではない事は理解しているが、それでも男爵を止める事は出来ず、彼の共犯者として生きてきた事は認めた。


「俺だって分かってたよ。こんな事を何時までも続けられるはずがないって事は……けど、どうしようもなかったんだよ!!」
「……あんたの話を聞いても同情なんかしない。あんたらのせいで罪もない子供達がどれほど苦しめられたと思ってる?」
「ああ、そうだよな。でも、俺にどうしろって言うんだ……」


ダルンは頭を抱えながらこれまでの自分の行動を思い返し、悲痛な表情を浮かべながら跪く。そんなダルンの姿を見てもレナは同情はせず、まずは地下に捕まっている子供達を助ける方法を考える。


「ダルン、あんたが本当に後悔しているなら男爵の行動を皆に明かせ。傭兵ギルドに戻って子供が捕まっている事を伝えろ」
「無理だ……傭兵ギルドの奴等だって俺の様に男爵に協力して子供を誘拐した奴等も居るんだ。今更子供の誘拐を件を話したところで他の奴等に止められるだけだ」
「そう……なら、ここで寝てろ」
「えっ……!?」


罪悪感を覚えながらも男爵を裏切る事が出来ないダルンに対してレナは容赦なく右腕を振りかざし、刀の柄の部分でダルンの頭部を強打する。強烈な一撃を受けたダルンは意識を失い、そのまま部屋の隅に運ばれて壁に背を預けた状態で寝かせると、レナは床板を外して階段の様子を伺う。

幸いにも男爵はまだ階段を登ってくる様子はなく、他の人間に気付かれる前にレナは急いで階段を下りて地下牢の扉の前に立つ。部屋の様子を確認すると男爵が椅子に座った状態で動かない事に気付き、不審に思ったレナは耳を研ぎ澄ませると寝息が聞こえてきた。


「ううん……ヌシカ、ソウマ……私を一人に、しないでくれ」


寝言で死んでしまった妻と息子の名前らしき単語を呟く男爵にレナは眉をしかめ、扉を開いて部屋の中に入り込む。地下牢というよりは拷問部屋という表現が正しく、捕まえた子供達を確認すると身体の一部が失っている物が多く、恐らくはガブの息子の「食事」のために剥ぎ取られたのだろう。

檻の中の子供達は薬でも仕込まれたのか全員が瞼は開いているが眠っているように反応はなく、部屋の中に入ってきたレナを見ても何も行動を起こさない。そして部屋の隅に鎖で拘束されているガブの息子にレナは視線を向けると、相手はレナの存在に気付いたように身体を呻き声を上げる。


「ううっ……ああっ!!」
「君が……ソウマか」


ガブの寝言から息子の名前を知ったレナは檻に近付くと、ソウマは檻越しにレナに視線を向けて口を開く。何かを伝えるように口を動かしているようにも見えるが、単純にレナを餌と判断して食べようともがいているようにも見えた。


「言葉は通じる?」
「アアッ……アガッ」
「そうか……待ってて、今楽にしてあげるから」


檻の鍵を掌で触れただけで解除すると、鎖で拘束されているソウマの元へ近づき、レナは握りしめた反鏡剣を構える。魔法を跳ね返す素材で構成されている反鏡剣ならば死霊人形の胸元に埋め込まれているはずの「死霊石」を破壊する際に有効のため、苦しむ暇もなく生の苦しみから解放させるためにレナは剣を振り下ろした。


「ごめんねっ……」
「ガアッ――」


剣を振り下ろす前に一言だけ謝罪の言葉を告げると、一瞬だけソウマが反応を示したように見えたが、振り下ろした刃はソウマの胸元を切り裂く。刃に固い物が触れた感触が広がり、直後に硝子が砕けたような音が鳴り響く。やがてソウマの肉体から刃が引き抜かれると、電池が切れた人形のようにソウマの身体は地面に横たわったまま動かなくなった。


「……くそっ」


手元に残った生々しい感触にレナは頭を抑え、何度か味わった事がある人を切る感覚に耐え切れず、その場に座り込む。自分の行為が間違いではないと思いながらもレナはソウマの死体に視線を向けられず、黙って檻を抜け出す。


「ソウマ……パパだぞ」


檻の中で息子が現世から解放された事も気付かずにガブは椅子の上で眠り、その目元には涙を流していた。生前の息子との思い出を夢見ているらしく、その顔を見てレナは彼が目を覚ましたときに息子の遺体を見てどう思うのかを考えるだけでやるせない気持ちを抱く。


(死体を埋葬しないと……いや、その前に子供達を救わないと)


ガブが目を覚ます前にレナは檻に捕まった子供達を助け出すために檻の鍵を開き、子供たちの拘束を解除する。その後に全員を安全な場所に移すと、今度は人を屋敷に呼び寄せて子供達の救助を行う――




――結果として全てが終わったのは数時間後の出来事であり、屋敷には傭兵ギルドに所属する大勢の職員が押し寄せ、ダルンの供述で男爵に協力していた傭兵達は逮捕された。また、生き残った子供達は無事に親元に返されたが、既に殺された子供の親は嘆き悲しみ、傭兵に連行されていくガブに罵声を浴びせた。


「この人殺し!!どうして私の息子を……!!」
「信じていたのに……!!」
「嘘だろ男爵様!!なあ、俺のヤンを返してくれ!!」
「…………」
「ほら、早く来い!!」


男爵は傭兵に囲まれた状態で屋敷から抜け出し、人々の罵声を耳にしながらも心ここにあらずのような態度で黙って馬車に乗り込む。そんな彼の態度に街の住民達はより一層に怒りを覚え、昨日までは彼の事を尊敬していた人々も困惑する。


「こんなの嘘だ!!男爵が誘拐犯だなんて……」
「ねえ、嘘だって言ってよ!!男爵!!」
「うるさい!!そこを退け、この男はギルドへ連れて行くんだ……!!」


群がってくる人々を振り払い、傭兵ギルドの職員は男爵を連れてギルドへ向かう。その様子を遠目でレナ達は確認し、今夜は別の宿で泊まる事にした。


「……行こうか」
「ああ……大丈夫かレナ?」
「顔色が悪い……無理しない方がいい」
「大丈夫だって……」


男爵の屋敷に泊まる事は出来なくなったレナ達は今夜宿泊できる宿を探すために街道を歩くが、足元がふらつくレナをゴンゾウとコトミンが支え、一刻も早くレナを休ませるために宿を探す――
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