不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
487 / 2,090
放浪編

エリナ、王国四騎士の意地

しおりを挟む
「そうだな、気のせいか……おい、迂闊に近づくな。この獣は油断出来ん、確実にここで仕留めろ」
「分かりました。では……蛇竜の毒を使用しますか?」
「それは……」


部下の言葉に隊長格の女は顔をしかめ、緑影の扱う毒物の中でも最も危険な毒が収められた小壺を部下の一人が取り出す。蛇竜とはこの世界では竜種の一体として指定されている「バジリスク」を指しており、森人族の間では「蛇竜」という異名で恐れられた存在である。

バジリスクの毒物は致死性が100%を誇り、毒物に対抗する「毒耐性」のスキルの持ち主でも助からない。暗殺の際には最も気を付けなけばならない毒物のため、隊長は部下の提案を却下した。


「駄目だ。その毒は危険すぎる……下手に扱えば我々も無事では済まない」
「ではどうしますか?」
「その白狼種の始末は後回しだ。まずは姫様を保護しろ……それが我々の任務だ」


緑影の隊長は部下を静止してウルの毛皮で安らかに眠っているティナの元へ近づき、彼女が暴れないように特別製の縄を取り出して身体を縛り付けようとした。だが、ティナの傍に近付こうとした瞬間、屋敷の外に広がる森の中から1本の矢が放たれる。


「隊長、危ない!?」
「くっ!?」


部下の言葉を耳にして咄嗟に隊長は腕を掲げて矢を受けようとしたが、腕に装着していた鋼鉄製の籠手を貫通して矢が左腕に突き刺さる。隊長は激痛で声を上げそうになったが、痛みに耐える訓練も受けているので必死に声を抑える。


「隊長!!大丈夫ですか!?」
「騒ぐなっ……毒は塗られていない、それよりも射手を探せ……!!」
「一体何処から……!?」


部下達が慌てて隊長を守るために武器を構え、屋敷の外に広がる森から射抜かれた事は間違いないのだが射手の姿を確認出来ない。しかも相手は「気配感知」のスキルで感知できる範囲外から攻撃した事から相当に離れた位置から攻撃を仕掛けたとしか考えられなかった。

籠手に突き刺さった矢を引き抜く事を諦めた隊長は部下に身を守られながら森の様子を伺い、敵の位置を探る。狩人の職業である隊長は「鷹の目」と呼ばれる特殊な視覚系のスキルを覚えており、これは「観察眼」「遠視」を極限にまで高める能力で樹木の間を潜り抜けて移動する存在を見つける。


「見つけた!!二時の方向、100メートル先に存在する茂みに隠れているぞ!!」
「二時の方向……!?」


隊長の言葉に部下達は弓矢を構えて森に視線を向けると、屋敷と森の間に鉄柵が阻まれているので分かりにくいが確かに茂美の中からボーガンを構える腕が飛び出しており、再び矢が射抜かれた。


「ぐあっ!?」
「シゲチ!?くそっ!!」
「早く撃て!!次のが来る前に殺せ!!」


部下の一人が右肩を射抜かれて倒れ込み、それを見た隊長は部下達に攻撃を指示する。だが、屋敷と森の間には鉄柵が存在し、更に相手は100メートルも離れた位置から狙撃しているため、緑影達が狙いを定めて矢を射抜こうとしても鉄柵に弾かれるか樹木に邪魔されて狙撃手には届かない。

一方で茂みに隠れている狙撃手は次の矢を装填すると今度は狙いを隊長を庇うように立っていた男の膝を狙う。狙撃手の撃ち込んだ矢は樹木を潜り抜け、鉄柵の隙間を見事に潜り抜けて標的の膝を射抜く。


「があっ!?」
「ダレン!!おのれ、エリナ!!」
「馬鹿者!!隊列を乱すな!?」


狙撃手の正体はエリナである事は間違いなく、彼女以外にここまで正確な射撃を行える人物がこの森の中に存在するはずがない。仲間が二人も倒れた事で怒りを抱いた部下の一人が鉄柵を飛び越えようと跳躍した瞬間、空中で浮かんだ男の右足に次の矢が貫通した。


「ぎゃあっ!?」
「何だと……!?」


空中で体勢を崩した男はそのまま地面に衝突し、その様子を見た隊長は動揺を隠せない。これ程までに狙撃には悪条件の環境で正確に相手を殺さずに戦闘不能に追い込む箇所を撃つエリナの技量に驚きを隠せず、腐っても相手が王国四騎士に認定された強敵であることを再認識する。

既にまともに動けるのは自分一人となった隊長は歯を食いしばり、次の狙撃を警戒して剣を構える。冷静に対処出来れば遠距離からの狙撃であろうと対応出来る自信はあるため、隊長はエリナの攻撃を待つ。


(さあ、どうする……お前の弱点は連射が出来ない事は知っている)


エリナは腕力が弱いのでボーガンの類しか扱えず、しかも遠距離からの狙撃は集中力を使うので矢を撃った後に次の矢を射抜くまで多少の時間は掛かる事はこれまでの攻撃で隊長も見抜いていた。なので最初の矢を防ぐことが出来れば反撃の機会も出来る。


(……失敗したなエリナ、お前は私を最初に狙った時に殺しておくべきだった)


隊長は人殺しを躊躇して自分を殺さなかったエリナを内心で嘲笑い、状況的に不利なのは負傷した自分達ではなく、人を殺す覚悟もないエリナであると確信していた。何故ならばこの場に集まった緑影は任務を果たすために命を落とす覚悟を決めており、自分達がどうなろうと任務を果たす覚悟があった。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。