不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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最終章 前編 〈王都編〉

剣王と呼ばれた男

――無事にカイと出会えたレナは彼の家に運び込まれ、即座に怪我の治療と魔力の回復を行う。カイが商品用として保管していた魔力回復薬である程度の魔力を回復させると、意識を失わないように敢えて放置していた怪我の治療も行う。処置が遅いと回復薬でも効果が薄くなるため、治療の後に薬草の粉末を擦り合わせた状態で包帯を行う。


「ほら、これでもう大丈夫でしょう。それにしても無理をなさる……意識を失わないように怪我を放置するとは」
「いてて……ありがとうございます」
「さあ、まずは食事にしましょう。魔力回復薬では体力までは回復出来ませんからね……どうぞ召し上がって下さい」
「いただきます」


カイが包帯を巻き終えるとレナは感謝の言葉を告げて机に乗った料理を味わう。カイの手料理は非常に上手く、半日以上も食事をしていなかったレナは有難く食事を味わう。


「味はどうですか?今日は新鮮なオークの肉が手に入れたので入れてみましたが……」
「凄く美味しいです……あの、本当にありがとうございます」
「ははは、遠慮なさらずにどんどん食べてください。一人暮らしが長いので料理にはそれなりに自信がありますよ」


空になった皿にカイは新しいスープを注ぎ込み、パンと果物を差し出す。レナはカイに感謝しながら食事を味わうと、不意に視界に壁に立てかけられた「大剣」を目にする。大きさはレナの退魔刀と同程度ぐらいだが、こちらは随分と寂れており、ミスリルで構成された大剣だった。

以前に訪れたときは気付かなかったが、大剣は何故か刃が折れた状態で壁に飾られていた。相当に年季が感じさせる代物なのでカイが冒険者時代に使用していた物だろう。レナに視線に気づいたカイは恥ずかしそうに大剣に視線を向けて説明する。


「ああ、これが気になりますか?こいつは私が冒険者だった時に使用していた剣でしてね……元々は巨人族用の武器だったんですが、友人の小髭族に頼み込んで貰ったんですよ」
「へえ……カイさんも大剣を扱っていたんですか?」
「ええ、若い頃の私は腕力だけが取り柄だったので普通の剣じゃ物足りなく感じて大剣を使うようになりました。そのせいで若手の頃は大剣小僧などという不名誉な仇名まで名付けられましたが……」
「あははっ……」


この世界では人間が大剣を扱う事は少なく、レナやバルのような大剣使いの剣士は非常に少ない。理由としては大剣は普通の長剣よりも重く、しかも扱いこなすのが難しい。レナの場合は赤毛熊との戦闘で自然と大剣を扱うようになり、バルの場合は巨人族の血が流れているので大剣の方が扱いやすかった。

しかし、カイのように普通の人間が大剣を扱う者など滅多に存在せず、そもそも大剣は巨人族の武器という認識が強い。正確には彼等のサイズに合わせた剣が人間基準では「大剣」に見えるため、巨人族は別に自分達が大剣を扱うという認識は薄い。


「私が大剣を使っていたのは単純に他の人間の冒険者に自分の力自慢を見せつけるためでした。ですが、使い続けている内に何時の間にか大剣以外の武器では性に合わず、結局は引退するまでこの大剣で戦い続けましたよ」
「名前はあるんですか?」
「私にこれを譲ってくれた鍛冶師によると「刀牙」と呼んでいました。私のように世間知らずで無礼なガキには相応しい大剣だと言われましたよ」
「カイさんにそんな事を……」
「まあ、若い頃の私は本当に世間知らずで無鉄砲でしたからね。そのせいで何処の冒険者集団にも馴染めず、結局は一人で活動していました」


刀牙に手を伸ばしたカイは昔の事を思い出す様に感慨深い表情を浮かべ、その顔は不思議と寂しさを感じさせる一方で何処となく嬉しそうな表情だった。色々と思い出のある品物らしく、彼は老眼鏡を取り付けて刀牙を見つめた。折れた刃には無数の傷跡が存在し、若かりし頃のカイがどれほど無茶な戦闘を繰り返してきた事が伺えた。


「この刀牙が折れたのは塔の大迷宮に挑んた時に折れました。若い頃の私は本気で第五階層に乗り込み、竜種の王である白竜を打ち倒すために挑みました。まあ、結果は途中で力尽きて敗れたのですが……」
「そこでホネミン……いや、アイラと出会ったんですか?」
「はい。彼女がまだ生きていた時は驚きましたよ。ですが、相変わらずのようで安心しました」
「あはは……」


ホネミンが無事だと知ったカイは嬉し気な表情を浮かべるが、現在の彼女は王妃の元で捕まっている可能性が高く、無用な心配をさせないためにレナは口にしない。食事を終えたレナは刀牙に視線を向け、カイが所有している竜種の経験石をどのように入手したのかを質問する。


「カイさんは昔、冒険者だったんですよね。という事はあの経験石は……」
「ええ、あの竜種の経験石は私が大迷宮に挑む前に入手しました……相手は火竜です」
「火竜……」


レナはまだ目にしたことはないが、火竜という存在は竜種の間では知名度が高く、場合によっては土竜よりも恐ろしい存在として語られている。火山のマグマにも匹敵する炎の吐息を放ち、鋭い爪と牙で獲物を蹂躙する凶悪な竜種であるとバルから教わった事を思い出す。

だが、その火竜は現在は絶滅の危機に陥っており、すくなくともバルトロス王国内の領地には生息しないという。未だに生き残っている火竜は獣人国の北部に存在する火山地帯にしか存在せず、火竜を打ち倒したというカイも他国に赴いた時に討伐したらしい。


「……今から数十年前、私が獣人国と巨人国の境目に存在する山岳地帯に訪れたときに火竜と遭遇しました。当時の私はある冒険者集団に所属していたのですが、私を除いて他の仲間は死亡しました……全て私のせいです」
「えっ!?」
「当時の私はミノタウロス、サイクロプス、ヴァンパイアという魔人族を立て続けに討ち取った事で周囲の冒険者から「剣王」と恐れられました。そんな私に憧れて数人の剣士が集まり、何時の間にか冒険者集団を組んでいました。ですが、ここで私は過ちを犯しました……人類史上初の剣士による竜種の討伐を果たそうと」
「剣士だけの討伐?」


カイの話では過去に人間によって倒された竜種は全て魔術師の手で殺されており、剣士の職業の人間が竜種を討伐した事例はなかったという。当時のカイは剣王の称号に溺れて自分と仲間達ならば本気で竜種を倒せると思い込んでいた。周囲の反対を押し切り、仲間を引き連れた彼は獣人国と巨人国の境目に現れた火竜の討伐に向かう。



――その結果、火竜を討ち取るまでに連れて来た仲間達は全員死亡し、ただ一人だけ生きのこったカイは獣人国と巨人国から派遣された軍隊に救助される。火竜の討伐は成功したが、そのために仲間を失い、周囲からの信望も地に落ちた。



皮肉にも数十年後の現在では「破壊剣聖」の称号を得たゴウライが「単独」で牙竜の討伐を果たしており、奇しくもカイの悲願である剣士による竜種の討伐は他の人間が果たしてしまった。カイの手元に残ったのは仲間を犠牲にして得た「火竜殺し」の異名と、火竜の死骸から取り出した火竜の経験石だけだった。

一人だけ生き残ったカイは死に場所を求めるように彷徨い、やがて塔の大迷宮に辿り着いたという。仲間を失ったカイはせめて自分も最強の竜種に挑み、塔の何処かに存在するという聖剣を見つけ出した後、仲間の後を追うように死にたいと考えていたが、結局はどちらの願いも果たせずに片足を失って冒険者を引退せざるを得なかった。



※今回は10時に投稿できずに申し訳ありません。なので今回は2話投稿です(;´・ω・)
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