不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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最終章 前編 〈王都編〉

真の剣鬼へ

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カイをベッドに寝かせた後、レナは「一刀両断」の戦技の秘密を聞く。この戦技は別に剣鬼だけが覚えらえる戦技ではなく、熟練の剣士ならば習得は難しいが覚えられる戦技だという。だが、大抵の人間はこの戦技を覚えるまでには至らず、今の時代では存在すらも忘れられた剣技だとカイは語る。


「この一刀両断と呼ばれる剣技は昔は一流の剣士ならば誰もが覚える戦技でした……全ての雑念を振り払い、剣を振るう人間のみに覚える事が出来た剣技です。だが、今の時代ではこの剣技を扱える剣士の数も減り、もう私の知る人間の中で一刀両断を扱える人間は生きていません」
「そうなんですか?」
「今の時代は表向きは「平和」ですからね。数十年前までは各国で幾度も戦場が起こり、その度に大勢の剣士が募っていました。しかし、今の時代は国同士の諍いもなくなって戦う必要がなくなった……剣士の戦いの場がなくなったことで剣を磨く必要もなくなったのかもしれません」


今の時代に一刀両断の戦技を扱いこなせる剣士は限りなく少なく、その事に少し寂しそうにカイは窓の外の景色を見つめながら話を続ける。


「平和である事は素晴らしい事、それは分かっているのですが……もう私の知る時代は終わりを迎えた。そう考えると無性にやるせないですね」
「カイさん……」
「さて、長話はここまでにしましょう。レナさん、貴方には待っている人がいるはずです。竜種の経験石を持って帰った方がいいのでは?」


カイはレナに金庫の鍵を渡すと、竜種の経験石を持って帰るように促す。だが、差し出された鍵に対してレナは黙って見つめるだけで受け取ろうとせず、そんな彼の態度にカイは不思議そうな表情を浮かべると、レナは意を決したようにカイに頼む。


「カイさん、もう少しだけここに居ていいですか?」



――カイの許可を得た後、家の庭に移動したレナは反鏡剣を握り締め、無心に剣を振り下ろす。先ほどのカイの剣技を思い返しながら剣を振り続けるが、思うように上手くいかない。


(一刀両断……剣士が一人前になった時に覚える剣技か)


ミドルを倒すため、レナは今以上に強くならなければいけない。だが、竜種の経験石を破壊してレベルを上昇させるだけでは意味はなく、自分自身の力量も磨かなければミドルには勝てない。


(今のカイさんよりも俺の方が体格も筋肉もレベルも上のはず……なのにあの剣技には勝てる気がしない)


一刀両断の戦技を発動したカイの一撃を思い返し、自分の扱う「鬼刃」よりも威力も精度も優れていると考えたレナは大剣に視線を向け、自分に足りないものを考える。カイの助言では「雑念を振り払い、無心となって全力で剣を振り下ろす」ことこそが一刀両断の戦技に辿り着けるらしいが、それだけの手順で習得できる戦技ならば幼少の頃にアイリスがその存在を教えないはずがない。

レナの扱う「撃剣」は全身の筋肉を利用して振り回す剣技が「一刀両断」の極意と似通っているが、それでも今まで覚えなかった事からまだ何かが足りず、一体自分が何を欠けているのか考えながらレナは剣を振り下ろす。


「違う、こうじゃない……駄目だ!!」


だが、素振りが100回を迎えても一向に手応えを感じられず、溜息を吐きながらレナは大剣を地面に下ろす。無心となって剣を振れと言われたのに考え事ばかりしている自分自身に呆れるが、不意に庭の隅に置かれている切り株と斧を見つけた。


「あれ、カイさん薪割りもしてたのか……へえ、懐かしいな」


斧を拾い上げながらレナは深淵の森の屋敷で暮らしていた時のことを思い出し、アリアに頼み込んで自分が薪割りをしていた事を思い出す。アイリスからの助言で剣士の剣技である「兜割り」を習得するには薪割りが効果的だと聞いていたため、子供の頃に毎日のように夢中に薪割りを行っていた事を思い返す。


「懐かしいな……最初の頃は全然上手く割れなくてアリアから手解きを受けてたっけ」


子供の力では上手く薪が切れずにアリアからコツを教えて貰っていたが、年月が経つ内に筋肉も付き始め、斧を扱う方法も自然と身体で覚えていた。薪割りを手伝うようになってから半年後に「兜割り」の戦技を覚えたときは興奮して夜も眠れなかった事を思い出し、昔を思い出す様にレナは斧を持ち上げて切り株の横に落ちていた木材を拾い上げる。


「確かこうやって……ふんっ!!」


斧を振り下ろした瞬間、切り株の上に置いた薪を真っ二つに切り裂く。その光景を見てレナは笑みを浮かべ、不意にアリアから教わった事を思い出す。


『いいですか坊ちゃん?薪割りをするときのコツは何も考えずに全力で体重を乗せて斧を振り下ろしてください。そうすれば子供の坊ちゃんでも上手く切り分けられるはずです!!』
『え~……それだけ?』
『ほら、手伝いをすると言い始めたのは坊ちゃんですよ!!文句を言わずに言われた通りにしてください!!』


アリアから初めて薪割りを教わった時の事を思い出し、地面に横たわった薪を見てレナは自分が無意識に無心で斧を振り下ろした事に気づく。剣で素振りをしたときはどうしてもカイの「一刀両断」の戦技の事を考えてしまっていたが、薪を割る時は何も考えずに斧を振り下ろしていた。


「全力……か、分かったよアリア」


斧を見つめながらレナは新しい木材を拾い上げ、切り株の上に下ろす。その状態で斧を構えると、集中するために瞼を閉じて斧を握り締める力を強める。


(力を貸してくれ……アリア)


脳裏に一瞬だけアリアの顔が思い浮かび、次の瞬間にレナは自分の全身全霊の力を込めて斧を振り下ろす。その瞬間、切り裂かれた薪が派手に轢き飛び、切り株に斧の刃が深く突き刺さった。


「……駄目か」


だが、斧を振り下ろしたレナは自分の視界に何も表示されない事を確認して溜息を吐き出し、その場に座り込む。全力を出したつもりだが「一刀両断」の戦技の習得が出来なかった。もう諦めて帰るべきかと考えたが、最初に薪割りに成功したときのアリアの言葉を思い出す。


『やったよアリア!!今日は上手く割れたよ!!』
『おめでとうございます坊ちゃま!!でも、今日はこれでおしまいです。お風呂に入ってゆっくりと休んでくださいね』
『え~……まだ出来るよ?』
『駄目です!!坊ちゃまは魔術師なんだからのあまり身体を酷使するのは危険です!!ほら、一緒にお風呂に入ってあげますから戻りますよ』
『や、止めろぉっ』


薪を切った時にアリアから言われた言葉を思い出したレナは立ち上がり、自分がとんでもない思い違いをしていた事を思い出す。カイの助言では「無心となって全力で剣を振り下ろす」事が一刀両断の習得への道だと聞いていたが、レナはこの「全力」という意味を筋肉のみで振り絞ると勘違いしていた。


「そうだ……俺は魔術師なんだ」


どれだけ剣を振るおうと身体を鍛えようとレナの本質は「魔術師」である。その事実に気付いたレナは反鏡剣を握り締め、何もない空間に構えた。


「剣士じゃなく、魔術師としての全力……限界強化!!」


レナは自分の身体能力を支援魔法で限界まで強化させ、剣を上段に持ち上げると今度は紅色の魔力を手元に滲ませる。


「重撃剣……!!」


両手に重力の魔力を纏わせる事で腕力以上の大きな力を身に着けると、更にその状態から速度に特化した「疾風剣」そして全身の筋肉を利用する「撃剣」の技術を応用させ、自分が最も得意とする「兜割り」の戦技を発動させた。



「――うおおおおっ!!」



咆哮を放ちながらレナは何もない空間に向けて反鏡剣を振り下ろした瞬間、強烈な衝撃波が発生して地面が陥没し、大気が震えた。それは最早剣技とは掛け離れた技だったが、レナの視界には見事に新しい戦技の習得が成功した事を示す画面が表示された。



『複合戦技「一刀両断」を習得しました』
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