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最終章 前編 〈王都編〉
ヴァルキュリア騎士団の副団長
「兄貴、不味いっす……王国の騎士が入ってきました」
「えっ?」
レナはエリナの声に後ろを振り返ると、店の入り口に見覚えのある黒髪の女騎士の姿が存在し、彼女の足元には小柄な獣人族の女騎士も立っていた。2人の騎士は酒場の中に入ると真っ先にカウンターに向かい、レナは自分達の正体がばれたのかと考えたが、黒髪の女騎士はレナ達を素通りしてカウンターに戻って来た店主に話しかける。
「店主、酒をくれ。この子にはミルクだ」
「おいおい、誰かと思えばあんたか……どういう風の吹き回しだ。まだ勤務中だろ?」
「わうっ……リノンさん、仕事中にお酒を飲むんですか?」
「酒でも飲まないとやってられるかっ!!ほら、ワン子も遠慮せずに座るんだ。もうこんな仕事なんて懲り懲りだ!!」
「あ、えっと……店主、悪いけど俺達は帰るわ!!」
「勘定はツケにしてくれ!!」
2人の騎士が現れると話をしていた冒険者2人組は慌てて立ち去り、彼等の席に騎士達は座り込む。まさか隣の席に座り込まれると思わなかったレナは動揺するが、怪しまれないように顔を逸らす。
どちらの騎士もレナは顔に見覚えがあり、何度か顔を合わせた事もある。2人はナオが団長を務める「ヴァルキュリア騎士団」の隊員である「リノン」と「ポチ子」で間違いなく、前者は副団長、後者は隊員見習いの騎士で間違いなかった。恰好から判断するに勤務中のようだがリノンは苛立ちながら酒を飲む。
「くそっ!!どうして姫様があんな事に……あの御方が国王様を暗殺するはずがない!!なのにどうして誰も信じてくれないんだ……!!」
「くぅんっ……ナオ様は本当に処刑されるんですか?」
「そんな事はさせない!!もしも処刑なんてしようとしたら私があの王妃を……!!」
「まあ、落ち着け。少しは声を抑えろよ」
酒瓶ごと飲み干したリノンに対して店主は宥めるが、彼女達の話を聞いてレナ達は顔を見合わせ、どうやら2人ともナオが処刑される事に大きな不満を抱いているらしい。それにどちらも王国に所属する軍人なので先ほどの2人組の話が事実なのか確かめられるかもしれない。
レナは一升瓶を飲んでも酔う様子すら見せないリノンに対して顔を向け、彼女に話しかけたいが店主に聞かれると不味いと判断し、助けを求めるようにエリナとミナに顔を向ける。2人はレナの考えを察すると、店主に自分達の注意を引く。
「あの、すいません。あたし、実はこの王都に来たばかりなんですけど何が起きてるんですか?やたらと兵士の人達を街中で見かけるんですけど……」
「そ、そうだね。僕も気になってたんだ!!おじさん、何か知ってる?」
「ん?そうか、あんたらは他所から来たのか?実はな……」
店主が二人の質問に答えている間、レナはさり気無くリノンの方に近寄り、彼女の脇腹を肘でつつく。最初はリノンは不審そうな表情を浮かべてレナに振り返ると、その顔をよく観察して首を傾げ、やがて正体に気付いたのか驚いた表情を浮かべる。
「貴方は……!?」
「しっ……話を聞かれたら不味い、静かに話してくれ」
「あ、ああ……」
「わう?すんすん……この臭い、お姫様と似てます」
リノンはレナの正体に気づいて危うく大声を上げそうになったが、慌てて口を抑える。その一方で隣のポチ子は嗅覚でナオと似たような臭いをしている事に気付き、不思議そうな表情を浮かべた。店主がまだエリナ達に気を取られている間、レナとリノンは距離を縮めて小声で話し合う。
「リノンさん、でいいんだよね?俺の正体は分かる?」
「は、はい……どうして貴方がここに?」
「口調は気にしなくていい、それよりも情報が欲しいから場所を変えたい、いいよね?」
「わ、分かり……いや、分かった」
ナオからレナの素性を聞いていたのかリノンは敬語を使おうとしたが、目立つことを避けたいレナは彼女に場所を移動するように促す。リノンは承諾すると周囲に視線を向け、二階の方に存在するテーブル席に目を付けた。
「店主、悪いが場所を移動するぞ。どうやらこの人……いや、こいつと私は同郷なんだ。ゆっくりと話したい、二階のテーブル席を使わせてもらうぞ」
「ん?それは構わないが……」
「わう?リノンさんの故郷は黒髪の人しかいないんじゃ……うぷっ!?」
「ぽ、ポチ子も来い。君達も一緒にどうだ?」
「あ、はい」
「問題ないっす」
多少不自然ではあったがリノンは店主に頼んで二階の席に全員を呼び寄せて場所を移動すると、円卓に全員が座り込む。周囲には幸いにも客は少なく、聴覚の鋭い森人族や獣人族の姿もないので小声で話し合えば他の人間に聞かれる事が無い事を確認すると、リノンは改めてレナと話す。
「ここなら安全です。さあ、どうして貴方がここにいるか話して下さい」
「その前に敬語は止めてよ。ナオならともかく、俺に敬語を使う必要なんてないでしょ?」
「いや、しかし王子様に対してそんな……」
「わうっ!?思い出しました!!この臭い、ナオ姫様の弟さん……むぐっ!?」
「ちょっと静かにして下さいね~」
レナの正体に気づいたポチ子が咄嗟に大声を上げそうになったが、隣のエリナが抱き寄せて口を塞ぐ。傍目から見たら小さな子供をあやしているようにしか見えないので怪しまれる事はなく、気を取り直してレナはリノンにここまでに至る経緯を話した。
「いいから普通に喋ってよ。そうでないと他の人間に怪しまれるかもしれないし、それに追放された俺はもう王子じゃないから」
「そ、そうか?分かった、なら普通に話させて貰いま……い、いや、話そう」
「じゃあ、早速だけど俺達は――」
リノン達にレナは自分達の身に起きた事、現在は王都に潜入している事、そして王妃に捕まったナオと他の仲間の救出のために動いている事を話す。自分達以外にも仲間が待機しており、革命団と呼ばれる組織の事を調査している事も伝える。
「……という事で俺達はナオと他の仲間を救うために訪れたんだ」
「なるほど……そういう事だったのか」
「お姫様を救ってくれるんですか!?それならポチ子も手伝いたいです!!」
「それは心強いけど……ナオに何が起きたのか知りたい。2人の知っている事を話してほしい」
「分かった。そういう事情なら私達の知っている情報を全て話そう」
――事の発端は冒険都市にて地竜が襲撃した日にまで遡り、ナオは王妃の策略によって国王の暗殺未遂の罪を被せられて拘束してしまう。彼女が国王のために注いだ酒の中に毒物が混じっていたらしく、それを飲んだ国王は現在も意識不明の状態で寝込んでしまい、起きる様子がないという。
当然だがナオは毒を仕掛けるような真似をするはずがなく、彼女は自分の無実を訴えたが兵士達はそれを聞き入れずにナオを拘束して王都へ送り込む。国王の容体が落ち着くまでは彼女は牢獄で拘束する予定だったのだが、最近になってナオを処刑する事が決定した。
当然だがナオを慕う人間は彼女の処刑に反対し、特にナオが率いるヴァルキュリア騎士団の隊員達も異議を唱えた。だが、国王が危篤状態に陥った事で実質的に王国の権力を掌握した王妃は聞き入れず、彼女の処刑を発表する。最初の頃はマリアの手回しでナオの派閥に所属していた貴族達も反対していたが、冒険都市でマリアが消息不明となった報告を聞いて後ろ盾がなくなったと判断したのか彼等は掌を返して王妃に寝返ってしまう。
現在のヴァルキュリア騎士団は解体され、隊員の殆どは他の部隊に異動となり、リノンとポチ子も街の警備部隊に編入される。現在は勤務の時間帯だが、敬愛する団長が処刑されるかもしれないのに仕事などやっていられず、酒場で不貞腐れようとしていた時にレナ達と遭遇した事になる。
「えっ?」
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どちらの騎士もレナは顔に見覚えがあり、何度か顔を合わせた事もある。2人はナオが団長を務める「ヴァルキュリア騎士団」の隊員である「リノン」と「ポチ子」で間違いなく、前者は副団長、後者は隊員見習いの騎士で間違いなかった。恰好から判断するに勤務中のようだがリノンは苛立ちながら酒を飲む。
「くそっ!!どうして姫様があんな事に……あの御方が国王様を暗殺するはずがない!!なのにどうして誰も信じてくれないんだ……!!」
「くぅんっ……ナオ様は本当に処刑されるんですか?」
「そんな事はさせない!!もしも処刑なんてしようとしたら私があの王妃を……!!」
「まあ、落ち着け。少しは声を抑えろよ」
酒瓶ごと飲み干したリノンに対して店主は宥めるが、彼女達の話を聞いてレナ達は顔を見合わせ、どうやら2人ともナオが処刑される事に大きな不満を抱いているらしい。それにどちらも王国に所属する軍人なので先ほどの2人組の話が事実なのか確かめられるかもしれない。
レナは一升瓶を飲んでも酔う様子すら見せないリノンに対して顔を向け、彼女に話しかけたいが店主に聞かれると不味いと判断し、助けを求めるようにエリナとミナに顔を向ける。2人はレナの考えを察すると、店主に自分達の注意を引く。
「あの、すいません。あたし、実はこの王都に来たばかりなんですけど何が起きてるんですか?やたらと兵士の人達を街中で見かけるんですけど……」
「そ、そうだね。僕も気になってたんだ!!おじさん、何か知ってる?」
「ん?そうか、あんたらは他所から来たのか?実はな……」
店主が二人の質問に答えている間、レナはさり気無くリノンの方に近寄り、彼女の脇腹を肘でつつく。最初はリノンは不審そうな表情を浮かべてレナに振り返ると、その顔をよく観察して首を傾げ、やがて正体に気付いたのか驚いた表情を浮かべる。
「貴方は……!?」
「しっ……話を聞かれたら不味い、静かに話してくれ」
「あ、ああ……」
「わう?すんすん……この臭い、お姫様と似てます」
リノンはレナの正体に気づいて危うく大声を上げそうになったが、慌てて口を抑える。その一方で隣のポチ子は嗅覚でナオと似たような臭いをしている事に気付き、不思議そうな表情を浮かべた。店主がまだエリナ達に気を取られている間、レナとリノンは距離を縮めて小声で話し合う。
「リノンさん、でいいんだよね?俺の正体は分かる?」
「は、はい……どうして貴方がここに?」
「口調は気にしなくていい、それよりも情報が欲しいから場所を変えたい、いいよね?」
「わ、分かり……いや、分かった」
ナオからレナの素性を聞いていたのかリノンは敬語を使おうとしたが、目立つことを避けたいレナは彼女に場所を移動するように促す。リノンは承諾すると周囲に視線を向け、二階の方に存在するテーブル席に目を付けた。
「店主、悪いが場所を移動するぞ。どうやらこの人……いや、こいつと私は同郷なんだ。ゆっくりと話したい、二階のテーブル席を使わせてもらうぞ」
「ん?それは構わないが……」
「わう?リノンさんの故郷は黒髪の人しかいないんじゃ……うぷっ!?」
「ぽ、ポチ子も来い。君達も一緒にどうだ?」
「あ、はい」
「問題ないっす」
多少不自然ではあったがリノンは店主に頼んで二階の席に全員を呼び寄せて場所を移動すると、円卓に全員が座り込む。周囲には幸いにも客は少なく、聴覚の鋭い森人族や獣人族の姿もないので小声で話し合えば他の人間に聞かれる事が無い事を確認すると、リノンは改めてレナと話す。
「ここなら安全です。さあ、どうして貴方がここにいるか話して下さい」
「その前に敬語は止めてよ。ナオならともかく、俺に敬語を使う必要なんてないでしょ?」
「いや、しかし王子様に対してそんな……」
「わうっ!?思い出しました!!この臭い、ナオ姫様の弟さん……むぐっ!?」
「ちょっと静かにして下さいね~」
レナの正体に気づいたポチ子が咄嗟に大声を上げそうになったが、隣のエリナが抱き寄せて口を塞ぐ。傍目から見たら小さな子供をあやしているようにしか見えないので怪しまれる事はなく、気を取り直してレナはリノンにここまでに至る経緯を話した。
「いいから普通に喋ってよ。そうでないと他の人間に怪しまれるかもしれないし、それに追放された俺はもう王子じゃないから」
「そ、そうか?分かった、なら普通に話させて貰いま……い、いや、話そう」
「じゃあ、早速だけど俺達は――」
リノン達にレナは自分達の身に起きた事、現在は王都に潜入している事、そして王妃に捕まったナオと他の仲間の救出のために動いている事を話す。自分達以外にも仲間が待機しており、革命団と呼ばれる組織の事を調査している事も伝える。
「……という事で俺達はナオと他の仲間を救うために訪れたんだ」
「なるほど……そういう事だったのか」
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――事の発端は冒険都市にて地竜が襲撃した日にまで遡り、ナオは王妃の策略によって国王の暗殺未遂の罪を被せられて拘束してしまう。彼女が国王のために注いだ酒の中に毒物が混じっていたらしく、それを飲んだ国王は現在も意識不明の状態で寝込んでしまい、起きる様子がないという。
当然だがナオは毒を仕掛けるような真似をするはずがなく、彼女は自分の無実を訴えたが兵士達はそれを聞き入れずにナオを拘束して王都へ送り込む。国王の容体が落ち着くまでは彼女は牢獄で拘束する予定だったのだが、最近になってナオを処刑する事が決定した。
当然だがナオを慕う人間は彼女の処刑に反対し、特にナオが率いるヴァルキュリア騎士団の隊員達も異議を唱えた。だが、国王が危篤状態に陥った事で実質的に王国の権力を掌握した王妃は聞き入れず、彼女の処刑を発表する。最初の頃はマリアの手回しでナオの派閥に所属していた貴族達も反対していたが、冒険都市でマリアが消息不明となった報告を聞いて後ろ盾がなくなったと判断したのか彼等は掌を返して王妃に寝返ってしまう。
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