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最終章 前編 〈王都編〉
王妃の秘密
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――革命団の団長であるコタロウは旧帝国に拾われた戦災孤児だった。彼は小髭族と人間の混血児だが、血筋は小髭族の方が強かったらしく、その上で人間のような顔立ちをしていた事で最初は人間の子供と間違われて拾われたという。
コタロウを拾い上げた旧帝国は彼を戦士として育て上げ、旧帝国の資金稼ぎのために傭兵稼業を行わせた。過激な戦に身を投じながらも給金の半分以上を旧帝国に捧げながらもコタロウは実戦を積み、着実に成長していく。そんな彼の前に当時の旧帝国の支配者である「アルマ」という女性が現れた。
『コタロウ、お前に任務を与える。この娘を使い物にするまで育てろ』
唐突に現れた旧帝国のトップの言葉にコタロウは動揺を隠せず、彼女は自分とよく似た少女を連れて来た。外見は非常にアルマと似ている事からコタロウは少女が彼女の娘だと確信し、どうして傭兵である自分にアルマが自分の娘の世話を任せたのかは意味が分からなかった。
だが、主人の命令に逆らえずにコタロウは彼女の世話役を務める一方、自分と同じく旧帝国に拾われた人間の中にアルマが訪れて子供を預けたという話を聞く。その話をしてくれたのは旧帝国の中では唯一良好な関係を結んでいた魔物使いの老人の言葉だった。
『コタロウよ、アルマ様はどうやら旧帝国の後継者を定めようとしておられるようだ。我々に預けた子供達の中で最も成長が早い人間を次の後継者へと考えているらしい』
『という事は貴方も……?』
『いや、儂は小汚い緑色のガキを押し付けられた。ゴブリンのように醜い奴だがな』
魔物使いの老人はアルマの子供を任せられなかったが、代わりに変わった能力を持つ魔人族を預けられたらしく、渋々と面倒を見ていた。コタロウは自分に預けられた少女がもしかしたら旧帝国の後継者となり得るかもしれないという話に驚きを隠せない。
しかし、残念ながらコタロウは早々に自分の預かった少女が「不遇職」である事を見抜き、アルマが傭兵である自分に預けた理由は最も死にやすい環境下で育つからだと気づいた。流石に自分の娘に直接手を掛けるのは罪悪感を抱くのか、アルマは部下に任せる事で彼女が偶然にも死亡する事を望んでいるようだった。
実際に傭兵稼業を行っているコタロウは常に戦場に赴き、少女も生きるためには彼の後に続くしかなかった。普通ならば不遇職でしかも年端の行かない少女が傭兵と共に戦場で生き残るなど無理難題に思われるが、少女はなんと3年以上もコタロウと共に戦場を生き延びる。
少女は確かに恵まれた職業ではなかったが、彼女には生き残るという事に強い執着心を持ち、どれほどの危険な状況でも生き延びるための最善の手段を取り続けた。何時しかコタロウの方が少女の行動に従う事が多くなり、少女は傭兵達に交じって戦術家として味方を勝利に導いた。
『コタロウ、貴方が私の世話役で本当に良かったわ』
『そうか……』
『でも、まだ足りない……これじゃあ、駄目なのよ。私の野望には届かない』
何時の間にかコタロウは少女の配下のように彼女に従い、戦場を他の傭兵仲間と共に生き延びる。そして少女の提案で傭兵団を結成する。名前は「赤の剣」という小さな子供が考えたような名前だったが、少女の士気の元で傭兵団は徐々に拡大化し、遂には莫大な報奨金を国から与えられる立場にまで上り詰める。
この時点で少女を半ば見捨てていた旧帝国の人間達も彼女の認識を見直し、不遇職という立場でありながら他者を圧倒する知能を持つ彼女に期待を抱く人間も出始めた。しかし、旧帝国の支配者であるアルマは既に他の子供に次の後継者を定め、少女の存在が後々に旧帝国の障害になると判断したアルマはコタロウに命令を下す。
『コタロウ、イレアビトを殺しなさい。これは命令よ』
『なっ……!?』
『逆らえばお前の命はない』
アルマからの呼び出しを受けたコタロウは病でも患ったのかベッドの上で横たわる彼女からイレアビトの暗殺を命令される。自分が育てた少女の暗殺を受けたコタロウは苦悩し、どうしてもイレアビトに対する同情心を捨てきれなかったコタロウは彼女に逃げるように告げた。
『イレアビト、お前はアルマ様に狙われている。すぐに逃げるんだ!!』
『そう、やっとあの女も私の事を見てくれたのね。でも、もう遅いわ』
『い、イレアビト?』
『安心しなさいコタロウ、貴方は何も考えなくていいの……今まで通りに私に従いなさい』
暗殺命令を受けた日にコタロウはイレアビトに逃げるように忠告したが、彼女は特に驚いた様子もなく実の母親からの暗殺命令を受けたにも関わらずに面白そうな表情を浮かべてコタロウの元から立ち去る――
――この数日後、病を患っていたアルマが死亡したという報告が旧帝国内に駆け巡る。アルマの死体を調べた結果、彼女の病の正体は毎日の食事に入れられていた微量の毒が肉体に蓄積し、死亡したという。この毒を仕込んだ人物を取り調べようとしたが、彼女の食事を用意していた給仕全員が既に行方不明になっていた。
アルマは個人的にコタロウに暗殺命令を下していたので他の人間は彼女がイレアビトを殺そうとしていた事実は知らず、残された子供達の中で最も優れているイレアビトが後継者に選ばれた。そして彼女は生き残った他の兄妹を処刑し、旧帝国の頂点の座に就く。
『馬鹿な人ね、私を殺そうとしなければもっと生き永らえたでしょうに』
『イレアビト、お前まさか……!?』
『ええ、私があの女を殺したのよ』
旧帝国の支配者となった日、酒に酔っていたイレアビトは自分の世話役であるコタロウにだけはアルマの死の真相を語る。彼女は1年前からアルマの食事を用意する人間達に接触し、微量の毒物を仕込む。この毒は何度も食事を繰り返さねば身体に影響はなく、事情を知らない人間から見ればアルマは唐突に病に侵されたようにしか見えない。
毎日の食事に毒を仕込まれたアルマは肉体に蓄積した毒物が身体の状態を悪化させ、最終的には死に至る。この計画のためにイレアビトは傭兵団を結成して資金を内密に稼ぎ、給仕係を買収した。当然だがアルマの食事を行う前に毒見薬や給仕の見張りを行わせる配下が居たが、既にその配下もイレアビトが支配下だった。
『あの人は私の事を監視していたようだけど、事実は違う。私があの人を管理していたのよ』
『イレアビト……お前は母親を殺したんだぞ!?』
『そうね、でもあの人が私の事を殺そうとしてきたのよ。お互いの命を狙うなんて私達は似た者親子だったのかもしれないわ』
『…………』
アルマは娘を殺す事に対して罪悪感を抱き、自分の手を下さずに配下に預けて育てさせるという最低限の配慮を行っていた。だが、イレアビトの場合は長期的な計画を立て、確実にアルマを殺すのと同時に自分が旧帝国の支配者になるために母親を殺した。二人の違いがあるとすれば「罪悪感」の有無だけでコタロウは初めてイレアビトに恐怖を抱く。
二人の関係はコタロウは知らないが少なくとも不遇職であるイレアビトを殺さずに面倒を見てきたアルマには僅かながらの親心はあったのだろう。だが、イレアビトの場合は自分の障害となる彼女を殺す事に躊躇はせず、後悔もしていない。アルマ以上のイレアビトの「狂気」を感じ取ったコタロウはこのまま彼女と行動するのは危険だと判断し、旧帝国を離れた――
――年月は流れ、旧帝国の財と人脈を用いてイレアビトは国王の王妃の座に就き、そして用済みとなった旧帝国を腐敗竜を操るキラウを利用して壊滅させた。この事実を知ったコタロウは自分がイレアビトを放置した事で今度は王国が危機に陥る事を知り、何としてもイレアビトを止めるために彼は革命団を結成したという。
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だが、主人の命令に逆らえずにコタロウは彼女の世話役を務める一方、自分と同じく旧帝国に拾われた人間の中にアルマが訪れて子供を預けたという話を聞く。その話をしてくれたのは旧帝国の中では唯一良好な関係を結んでいた魔物使いの老人の言葉だった。
『コタロウよ、アルマ様はどうやら旧帝国の後継者を定めようとしておられるようだ。我々に預けた子供達の中で最も成長が早い人間を次の後継者へと考えているらしい』
『という事は貴方も……?』
『いや、儂は小汚い緑色のガキを押し付けられた。ゴブリンのように醜い奴だがな』
魔物使いの老人はアルマの子供を任せられなかったが、代わりに変わった能力を持つ魔人族を預けられたらしく、渋々と面倒を見ていた。コタロウは自分に預けられた少女がもしかしたら旧帝国の後継者となり得るかもしれないという話に驚きを隠せない。
しかし、残念ながらコタロウは早々に自分の預かった少女が「不遇職」である事を見抜き、アルマが傭兵である自分に預けた理由は最も死にやすい環境下で育つからだと気づいた。流石に自分の娘に直接手を掛けるのは罪悪感を抱くのか、アルマは部下に任せる事で彼女が偶然にも死亡する事を望んでいるようだった。
実際に傭兵稼業を行っているコタロウは常に戦場に赴き、少女も生きるためには彼の後に続くしかなかった。普通ならば不遇職でしかも年端の行かない少女が傭兵と共に戦場で生き残るなど無理難題に思われるが、少女はなんと3年以上もコタロウと共に戦場を生き延びる。
少女は確かに恵まれた職業ではなかったが、彼女には生き残るという事に強い執着心を持ち、どれほどの危険な状況でも生き延びるための最善の手段を取り続けた。何時しかコタロウの方が少女の行動に従う事が多くなり、少女は傭兵達に交じって戦術家として味方を勝利に導いた。
『コタロウ、貴方が私の世話役で本当に良かったわ』
『そうか……』
『でも、まだ足りない……これじゃあ、駄目なのよ。私の野望には届かない』
何時の間にかコタロウは少女の配下のように彼女に従い、戦場を他の傭兵仲間と共に生き延びる。そして少女の提案で傭兵団を結成する。名前は「赤の剣」という小さな子供が考えたような名前だったが、少女の士気の元で傭兵団は徐々に拡大化し、遂には莫大な報奨金を国から与えられる立場にまで上り詰める。
この時点で少女を半ば見捨てていた旧帝国の人間達も彼女の認識を見直し、不遇職という立場でありながら他者を圧倒する知能を持つ彼女に期待を抱く人間も出始めた。しかし、旧帝国の支配者であるアルマは既に他の子供に次の後継者を定め、少女の存在が後々に旧帝国の障害になると判断したアルマはコタロウに命令を下す。
『コタロウ、イレアビトを殺しなさい。これは命令よ』
『なっ……!?』
『逆らえばお前の命はない』
アルマからの呼び出しを受けたコタロウは病でも患ったのかベッドの上で横たわる彼女からイレアビトの暗殺を命令される。自分が育てた少女の暗殺を受けたコタロウは苦悩し、どうしてもイレアビトに対する同情心を捨てきれなかったコタロウは彼女に逃げるように告げた。
『イレアビト、お前はアルマ様に狙われている。すぐに逃げるんだ!!』
『そう、やっとあの女も私の事を見てくれたのね。でも、もう遅いわ』
『い、イレアビト?』
『安心しなさいコタロウ、貴方は何も考えなくていいの……今まで通りに私に従いなさい』
暗殺命令を受けた日にコタロウはイレアビトに逃げるように忠告したが、彼女は特に驚いた様子もなく実の母親からの暗殺命令を受けたにも関わらずに面白そうな表情を浮かべてコタロウの元から立ち去る――
――この数日後、病を患っていたアルマが死亡したという報告が旧帝国内に駆け巡る。アルマの死体を調べた結果、彼女の病の正体は毎日の食事に入れられていた微量の毒が肉体に蓄積し、死亡したという。この毒を仕込んだ人物を取り調べようとしたが、彼女の食事を用意していた給仕全員が既に行方不明になっていた。
アルマは個人的にコタロウに暗殺命令を下していたので他の人間は彼女がイレアビトを殺そうとしていた事実は知らず、残された子供達の中で最も優れているイレアビトが後継者に選ばれた。そして彼女は生き残った他の兄妹を処刑し、旧帝国の頂点の座に就く。
『馬鹿な人ね、私を殺そうとしなければもっと生き永らえたでしょうに』
『イレアビト、お前まさか……!?』
『ええ、私があの女を殺したのよ』
旧帝国の支配者となった日、酒に酔っていたイレアビトは自分の世話役であるコタロウにだけはアルマの死の真相を語る。彼女は1年前からアルマの食事を用意する人間達に接触し、微量の毒物を仕込む。この毒は何度も食事を繰り返さねば身体に影響はなく、事情を知らない人間から見ればアルマは唐突に病に侵されたようにしか見えない。
毎日の食事に毒を仕込まれたアルマは肉体に蓄積した毒物が身体の状態を悪化させ、最終的には死に至る。この計画のためにイレアビトは傭兵団を結成して資金を内密に稼ぎ、給仕係を買収した。当然だがアルマの食事を行う前に毒見薬や給仕の見張りを行わせる配下が居たが、既にその配下もイレアビトが支配下だった。
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『イレアビト……お前は母親を殺したんだぞ!?』
『そうね、でもあの人が私の事を殺そうとしてきたのよ。お互いの命を狙うなんて私達は似た者親子だったのかもしれないわ』
『…………』
アルマは娘を殺す事に対して罪悪感を抱き、自分の手を下さずに配下に預けて育てさせるという最低限の配慮を行っていた。だが、イレアビトの場合は長期的な計画を立て、確実にアルマを殺すのと同時に自分が旧帝国の支配者になるために母親を殺した。二人の違いがあるとすれば「罪悪感」の有無だけでコタロウは初めてイレアビトに恐怖を抱く。
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――年月は流れ、旧帝国の財と人脈を用いてイレアビトは国王の王妃の座に就き、そして用済みとなった旧帝国を腐敗竜を操るキラウを利用して壊滅させた。この事実を知ったコタロウは自分がイレアビトを放置した事で今度は王国が危機に陥る事を知り、何としてもイレアビトを止めるために彼は革命団を結成したという。
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