不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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最終章 前編 〈王都編〉

最悪の登場

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「ふんっ!!その程度の腕であたしらを捕まえようなんて100年早いんだよ!!とっとと失せな!!」
「ぐうっ……化物が」
「あら、か弱い一般人に失礼な人ね」
「何処がか弱いんだ……はぐっ!?」


余計な一言を告げた暗殺者の一人にアイラは容赦なく蹴りを叩き込み、その間にバルは消えてしまった護衛の人間の居場所を問い質す。


「おい、あいつらは何処だい?さっさと答えな!!」
「はっ……一緒に居た奴等ならもうあの世行きだ」
「じゃあ、てめえ等も送り込んでやるよ!!」
「バルちゃん、待って!!」


予想はしていたが護衛の人間達も消されたらしく、怒りの表情を抱いたバルは片腕で暗殺者を持ち上げると殴りつけようとしたが、それをアイラが引き留める。こんな奴等に同情するのかとバルはアイラに告げようとしたが、彼女は首を振ってバルの行動を止めた。


「駄目よ、そんな人たちでも命は命……見逃してあげて」
「ちっ……姉さんは優しすぎますよ」
「ぐっ……貴様等の負けだ」
「ああ?この状況で何を言ってんだい、本当に殺されたいのかい?」


首元を掴まれながらも挑発的な言葉を口にした暗殺者にバルは睨みつけると、背後から物音が聞こえた。二人は振り返ると、そこには気絶していたと思われた別の暗殺者が立ち上がり、右手に筒のような道具を所有していた。それを見て二人は目を見開き、バルは抱えていた暗殺者を放り投げてもう一人の行動を止めようとしたが、道具を構えた暗殺者の方が先に筒に魔力を込める。


「がああっ!!」
「しまった!?」
「っ……!?」


筒型の魔道具に送り込まれた魔力が魔弾と化して発射され、上空に花火のように飛び散る。その光景を見てバルとアイラは暗殺者が他の仲間にこの場所を知らせた事を悟り、急いでその場を離れるために駆け出す。


「くそ、仲間に知らせやがったか……この野郎!!」
「うげっ!?」
「バルちゃん、急いで隠れ家へ向かわないと……!!」


照明弾を打ち上げた男をバルは蹴り飛ばすと、アイラは隠れ家へ向けて急いで向かう。もたもたとしていれば街中から王国兵や黒影(王国の暗殺部隊)が訪れるのは確実なため、二人は急いで身を隠すために隠れ家へ向かう。

革命団の隠れ家は複数存在し、その内の最も近い隠れ家に向けてバルとアイラは向かうが、照明弾を打ち出してから10秒も経過しない内に屋根を移動して接近する影を発見し、バルはアイラに注意した。


「ちっ……もう来やがった。アイラさん!!」
「ええ、気づいているわ……この感じ、まるで火竜に追いかけられた時と同じ感覚だわ」


屋根を移動して自分達を追尾する存在に気付いたバルとアイラは何としても逃げ切ろうとしたが、相手の方が圧倒的に距離が早く、逆に追い抜かれて行く手を阻まれてしまう。前方に現れた人影の正体を見てバルは冷や汗を流しながら収納石のブレスレットから大剣を取り出し、アイラも同様に自分の闘拳を身に着ける。

二人の前に現れた長身の男は真紅の槍を抱えながら二人と向き合い、顔を確認すると少し驚いた表情を浮かべるが、すぐに口元に笑みを浮かべて向かい合う。その男の姿を見るだけでバルとアイラは竜種と遭遇したような緊張感を抱き、無意識に身体が震えてしまう。


「これはこれは……お久しぶりですね。バル将軍、そしてアイラ様……」
「ミドル……まさかあんたが出てくるとはね」
「……最悪ね」




――大将軍の筆頭を務め、王国最強の槍騎士であるミドルの登場にバルとアイラは無意識に武器を構えるが、ミドルは二人以外に誰か存在しないのかを確かめるように首を見渡し、残念そうな表情を浮かべた。




「貴方達がここに居るという事は……ご子息は同行していないんですか?」
「レナの事を言っているのかしら?残念だけど、あの子はもう親離れしているの。ここにはいないわ」
「それはどうですかね。貴方達を人質にすれば彼も出てこざるを得ないでしょう」
「はっ!!調子に乗るんじゃないよくそ野郎が!!あんたとは昔から相性が悪かったねっ!!」
「僕は貴方の事は気に入っていましたよ。粗暴で頑固者ですが、それでも部下には優しい人でしたから」
「うるさいよ!!さあ、来るなら来な!!」


ミドルに対して大剣を構ながらバルは虚勢を張るが、実際の所は以前と比べて異様な雰囲気を纏うミドルに違和感を抱いていた。バルの知るミドルは彼女が将軍時代の頃しか知らず、温厚でお人好しだの男だと思っていたが、今のミドルには他者を圧倒する気迫を纏っていた。

地竜の経験石をミドルが破壊した事実は公表されておらず、あくまでも地竜は冒険者と王国軍が倒したという噂しか流れていない。ミドルが経験石を破壊した場所にいた人間達の殆どは行方不明になっているのでバルもミドルの変化の理由は分からず、あまりにも変わり過ぎたミドルに戸惑いを隠せない。


「その槍……見覚えがあるわ。もしかしてそれは……ロンギヌス」
「ほう、やはり知っていましたか。その通りです、この槍は原初の魔王が生み出したと言われている聖剣さえも上回る力を持つ槍ですよ」
「ロンギヌスだって……嘘だろ?あんなの絵本の話に出てくる武器じゃなかったのかい」


ロンギヌスという名前を聞いてバルは動揺を示し、アイラも実物を目にするのは初めてなので冷や汗を流す。ロンギヌスの歴史は聖剣よりも古く、その力はこの世界に存在する槍の中でも最高峰を誇ると言われている。そんな代物を所有するミドルに二人は構えるが、ミドルは寂しそうな表情を浮かべて首を振る。


「ふむ……時の流れというのは残念ですね。最初に出会った時の貴方達は宝石のような輝きを誇っていた。だが、年齢を重ねて戦う事から離れた今の貴方達は錆びついた短剣にしか見えない」
「何だと……!?」
「……あまり人を舐めないで欲しいわね」
「いいえ、単純に事実を告げただけです。今の貴方達からは僕は恐怖を感じない……だから負ける道理がない」


真紅の槍を握り締めながらミドルは表情を一変させ、距離が開いているにも関わらずに槍を中断に構えた。それを見てバルとアイラは彼の「間合い」に入らないように下がり、お互いの武器を見て冷や汗を流す。武器の長さはミドルの方が長く、このまま踏み込んでも間合いの違いから先に二人が攻撃されてしまうだろう。

相手は大将軍の中でも古参ながらに最強の称号を誰にも譲らず、王妃の懐刀として彼女を支えてきた厄介な相手だった。そのため、出来れば交戦を避けて退散したい所だが、今のミドルがバルとアイラを見逃すはずがない。


(あたしが囮になってアイラさんを逃がす……なんて提案をしてもこの人は受け入れないだろうね。なら、ここはこのくそ野郎をぶっ飛ばして帰るしかないか)


バルはアイラに目配せを行い、攻撃を行うときは自分が先に仕掛ける事を伝える。アイラはバルの指示に従い、防御の体勢を解いてボクシングのフットワークのように小刻みに身体を動かす。それを見たバルは大剣を構えてミドルと向かい合う。


「……行くよ、細目野郎!!」
「遠慮なく」


咆哮を放ちながらバルはミドルに向けて突進し、その気迫にミドルは槍を構えると、戦技を発動させる準備を行う。やがて二人の「間合い」が接触すると、バルは全身全霊の一撃を放つ。


「撃剣!!」
「三段突き!!」


バルが自分が最も得意とする全身の筋肉を活用した一撃を放った瞬間、ミドルは残像さえも見えない速度で槍を突きだす。次の瞬間、街道に鮮血が舞い散る。
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