不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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最終章 前編 〈王都編〉

ミドルの不調

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「がああっ!?」
「バルちゃん!?」
「……ほう、確実に仕留めたと思ったんですが」


大剣を破壊されたバルは右目から夥しい血を流しながら跪き、腹部にも大きな傷を負う。彼女が生きている事にミドルは驚いた表情を浮かべ、自分の槍の刃先を確認する。バルの血を吸収するように刃に垂れていた血液が消え去り、それを見たアイラは闘拳を振りかざしてミドルに向かう。


「離れなさい!!」
「おっと」
「だ、駄目だアイラさん……!?」


右拳を放ってきたアイラに対してミドルは後ろに下がって回避すると、槍を回転させてアイラの身体に放つ。だが、迫りくる真紅の槍にアイラは跳躍してバク転の要領で回避すると、そのまま空中から蹴りを放つ。


「輪脚!!」
「ぐっ!?」


空中からの変則の回し蹴りにミドルは腕を構て防ぐと、後方に数メートルほど吹き飛ばされる。予想外の衝撃に腕が震え、ミドルは驚いた表情を浮かべた。


「これは驚いた……怒りで昔の感覚を思い出したんですか?だが、この程度の攻撃では……ぐうっ!?」
「……貴方、気づいていないの?バルちゃんの攻撃は当たっていたのよ」


ミドルは左肩に痛みを覚え、顔を向けるとそこにはバルが振り下ろした大剣の刃の一部が突き刺さっている事に気付き、そこを狙ってアイラは蹴りを叩きつけた事を知る。どうやら感覚が掴めていないのはミドルの方らしく、未だに竜種の経験石を破壊した事で急成長を果たした肉体能力に感覚が追い付いていない。

肩に突き刺さった刃物を無造作に掴むとミドルは地面に放り投げ、傷口に視線を向けて溜息を吐く。レベルが上昇した事で肉体の自然回復力も強まっており、流石に再生能力とまではいかないが1時間も経過すれば完治するだろう。ミドルは膝を付いたバルとそれを守るように構えるアイラに視線を向け、口元に笑みを浮かべる。


「なるほど、確かにこれは錆びついた刃ではない。今の貴方達は十分に人を殺す事が出来る刃を持っている……だが、竜には届かない」


傷口から流れる血をすくい取り、槍の刃に垂らすミドルにバルとアイラは背筋が震え、ここまで不気味な気迫を放つ相手は初めてだった。バルは右目を完全に塞がれた事を確信し、もう回復薬の類では完治は出来ないだろう。仮に回復魔法を施しても完全に潰れた眼球を完全に再生するのは難しく、右目の視力が戻る事はないだろう。


(くそっ……攻撃に集中し過ぎて周りが見えなくなるのがあたしの弱点だね。でも、どうしてこいつはあたしを仕留めそこなった?)


攻撃に集中する事でかつて自分の全盛期の力を取り戻したバルの一撃をミドルは正面から打ち破ったが、捨て身の攻撃を行った事で防御を完全に捨てていた自分をミドルが討ち取れなかった事にバルは疑問を抱く。その疑問はアイラも抱いており、あの時は本当にバルが殺されたと思った。


(バルちゃんの性格を逆手にとって反撃カウンターで仕留めるつもりだと思っていたけど……寸前で殺す事を躊躇した?いえ、確かに今の攻撃はバルちゃんの命を狙っていた……なのにどうして殺しきれなかったの?)


バルが生きていた事は喜ばしい事だが、それ以上にミドルがバルを仕留めきれなかった事が信じられず、アイラはミドルの様子を伺う。冷静に彼の表情を確認すると、全身の汗が蒸気のように蒸発している事に気付く。ミドルは自分の身体の異変に気付いていたのか、顔を抑えながら膝を付く。


「ぐうっ、またか……!?」
「何だ……?」
「まさか……もしかして成長痛?」


ミドルの肉体の異変の正体に気付いたアイラは目を見開き、ミドルは自分の身体が炎を纏ったように熱い感覚に襲われて苦しむように膝を付く。その様子を見てアイラはミドルの異変が「成長痛」と呼ばれる現象だと確信した。




――成長痛とは短期間の間にレベルを上昇しすぎる事で引き起こす肉体の過剰反応を示し、主に新人の冒険者が陥りやすい現象である。この世界ではレベルが上昇すると肉体面や精神面にも大きな影響が伝わり、例えば年齢が幼い人間が必要以上にレベルを上昇させると身体が適応出来ずに肉体が拒否反応を示してしまう。

成長痛の症状は「激痛」「高熱」などの肉体疲労を引き起こし、特に身体が未成熟な人間が引き起こしやすい。場合によっては肉体の限界以上にレベルを上げ過ぎた事で死亡する例もあった。地竜の経験石を破壊した事でミドルの肉体にも成長痛が起きているらしく、彼は燃え上がるような身体の感覚に呻き声をあげる。



「はあっ……はっ、この程度の痛み……!!」
「バルちゃん!!今の内に逃げましょう!!」
「え、でもこいつは……」
「いいから早く!!」


ミドルが動けない内にアイラはバルに肩を貸して走り出し、その後姿にミドルは手を伸ばすが、成長痛の影響で身体が思うように動かせない。地竜の討伐から何日も経過しているが、急激なレベルの上昇に肉体がまだ追い付いていなかった。


「くっ……がああっ!!」


だが、王妃からの命令を果たすためにミドルは傷口に手を突っ込み、傷口を押し広げて血を流す。そうする事で肉体の激痛を別の痛みで紛らわせ、更に血液を流した事で肉体の発熱を抑える。


「逃がすか……ぐううっ!?」


無理やりに肉体の機能を奮い立たせると、ミドルはロンギヌスの刃先を自分の傷口に押し付け、血液を吸い取らせるように体内の魔力を吸収させる。そうする事で体内で暴走していた魔力を抑え込み、ミドルは立ち上がって二人の後を追う――




――その頃、革命団の隠れ家では会議室に集まっていた幹部たちが解散して作戦決行日までにそれぞれの準備を整えるために動く。レナはハンゾウと共に部屋の外へ出ると、彼女に頼んで皆を呼び出す事が出来る場所を尋ねる。


「ハンゾウ、この隠れ家の中で大人数の人間が寛げる場所はない?出来れば他の人間が使っていない広間とかがいいんだけど……」
「広間でござるか?それなら下の階に冒険者が使用する仮設の訓練場が存在するでござるが……」
「なら、そこに行こう。あ、でもウルはどうしよう……」


いい加減に空間魔法を解除して身体を休めたいと考え、レナは深淵の森の屋敷で待機している仲間達を隠れ家へ移動させるための良い場所がないかをハンゾウに尋ねた時、会議室を出ようとした二人の前に慌てた様子の男性が駆けつけてきた。


「だ、団長!!ここに居ますか!?」
「うわ、何だ!?」
「何事でござる?」
「どうした?何かあったのかい?」


二人の間をくぐり抜けて会議室に入り込んだ男は部屋の中に存在したコタロウを見ると、彼の元に駆けつけて焦った表情で報告を行う。


「た、大変です!!先ほど、街中で王国軍の照明弾が撃ち込まれました!!恐らく、位置的に考えて先ほど買い出しに向かった奴等が……」
「何だって!?」
「買い出し……!?」


男性の言葉にコタロウは目を見開き、会議室から抜け出そうとしていた幹部たちも立ち止まる。買い出しに向かった革命団の人間が王国兵に見つかったかもしれないという報告に会議室に緊張が走り、コタロウは冷や汗を流しながら詳しい報告を兵士から尋ねた。


「一体どういう事だ?何が起きた?」
「わ、我々も調査中なのでそこまでは分かりませんが……地上で見張りをしていた部隊によると5分程前に街中で照明弾が撃ち込まれ、街を巡回している王国兵が忙しなく動いているようです!!位置的にこの隠れ家からそれほど離れていないようです」
「なんて事だ……!!」


コタロウは報告を聞いて机を拳に叩きつけ、高確率で買い出しに出かけた革命団の団員達が発見されたと判断し、すぐに彼等の救助を行うべく幹部と話し合う。




※新作「付与魔術師、最強を目指す」も投降しました。
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