不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
561 / 2,090
最終章 王国編

オウネン・シャドウ

しおりを挟む
「どうしたダイン!?早く来い!!」
「いや……僕はここに残るよ」
「えっ?」


何時までも階段を降りようとしないダインにゴンゾウとレナは振り返ると、これまでに見た事もないほどの真剣な表情でダインは杖を握り締め、通路の先に現れた老人を睨みつける。右手に包帯を巻いた老人はダインの存在に気付くと、醜悪な笑みを浮かべて歩み寄る。


「やれやれ……妙に懐かしい気配を感じて来れば、まさかここでお主と出会うとはな。この公爵家の恥さらしが」
「はっ……まだ生きてたのかよ、耄碌爺!!」


遂に姿を現した「オウネン・シャドウ」に対してダインは黒杖を構え、両腕を震わせながら睨みつける。そんなダインの様子を見てオウネンは面白そうに笑いかけた。


「ほほう、随分と生意気な口を利くようになったではないか……昔は儂に見捨てられることをあれほど怖がっていた子供とは思えんのう」
「誰と勘違いしてんだよ……あんたが僕と顔を合わせた事なんて滅多になかっただろうが!!」
「ん?そうだったか……いかんな、最近は物忘れが激しくてのう。もうそろそろこの身体も替え時か……」
「……何だって?」


オウネンの言葉にダインは疑問を抱くが、オウネンはそんな彼に対して掌を構えると、ダインの背中に刻んだ「怨痕」を浮かび上がらせる。


「だが、その前にまずはお前から始末しよう。何を死に現れたのかは知らんが、例え追放されようとお主の命は儂の者だと知れ」
「ぐああっ!?」
「ダイン!!」


ダインの背中の「髑髏」の紋様が光り輝いた瞬間、肉体に激痛が走り、まるで心臓を握り締められたような苦痛に襲われた。そんなダインを見てゴンゾウとレナが階段を登ろうとした時、ダインは右手を向けて二人を制止した。


「駄目だ……早く、行け!!ここは僕に任せるんだ……!!」
「だが……」
「いいから行け!!」
「くっ……!!」
「ほっほっほっ……美しい友情じゃな」


苦痛の表情を浮かべながらも先に進むように促すダインにレナとゴンゾウは歯を食いしばり、階段を下りる。その様子を見てオウネンは楽し気に両手を叩くが、そんな彼に対してダインは気合の雄たけびを上げて影魔法を発動させる。


「うおおおおおっ!!」
「……何じゃと?」


ダインの肉体に影が纏わりつき、目元を怪しく光り輝かせていた髑髏の紋様を飲み込む。すると一気に身体が楽になったダインは地面に膝を付き、黒杖を掴んでオウネンに引きつった笑みを浮かべた。


「はっ……どうだ。あんたの呪いなんかに僕が何時までも支配されていると思ったのか?」
「貴様……なるほど、確かに腕を上げたのう」


自分の刻んだ「怨痕」を封じ込めたダインにオウネンはつまらなそうな表情を浮かべながらも素直にダインの成長を認め、仕方がないとばかりに先ほどレナ達に吹き飛ばされて気絶している兵士達に視線を向けると、笑みを浮かべて松葉杖を兵士達に突きつける。


「影魔法で儂の怨痕を抑え込んだか……だが、お主一人でこいつらの相手は出来るか?」
「な、止めろ!?」
「うっ……があああっ!?」
「ぐああっ!?」
「ぎゃああっ!?」


松葉杖を突かれた箇所から「髑髏」の紋様が浮き上がり、身体に激痛が走った兵士達は悲鳴をあげて意識を取り戻す。その様子を見てダインは止めようとしたが、まだ先ほどの背中の影響が残っており、足がもつれてしまう。その間にオウネンは次々と兵士達に「怨痕」を刻み込み、やがて十数人の兵士に紋様が浮かぶ。

兵士達は最初は苦し身悶えていたが、時間が経過するごとに目から光が失われ、やがて立ち上がる。その様子を見てダインは彼等がオウネンの「傀儡」になり下がった事を理解すると、急いで反撃の準備を行う。


「さあ、行くがいい。儂の下僕達よ」
「うううっ……があああっ!!」
「ぎひひひっ!!」
「うぎゃぎゃぎゃっ!!」
「この……くそ爺がっ!!」


まるでアンデッドのように理性を失った兵士達は奇声を上げながらダインの元へ向かい、武器を掲げて飛び掛かる。先ほどよりも動きが早く、咄嗟にダインは黒杖を地面に差して最初の時のように彼等を転ばせるために影を操作する。


「この……シャドウ・スリップ!!」
「ききぃっ!!」
「うききっ!!」


だが、猿のような声を上げて兵士達は足元に伸びてきた影を空中に跳躍して回避すると、そのまま壁や天井にまで跳躍してダインの周囲を飛び回る。身体能力も強化されているらしく、兵士達はダインを取り囲ように移動を行う。その様子を見てオウネンは愉快な笑い声を上げながらダインに忠告を行う。


「ほれほれ、どうしたのじゃ?お主も儂の魔法の恐ろしさを知っておるだろう?そいつらは儂の秘術によって肉体が限界を迎えるまで動き続けるぞ。そいつらの命を救いたければ早く先ほどのようにお主の魔法で髑髏を封じ込めぬと、いずれ死ぬぞ?」
「この野郎……うわっ!?」
「がああっ!!」


鼻血を噴き出しながら剣を振り下ろしてきた兵士に対してダインは慌てて後ろに飛んで回避すると、壁際に追い詰められてしまう。強制的に肉体の限界まで身体能力を強化された兵士達がダインに向けて同時に剣を突き刺す。


『ぎひぃっ!!』
「このっ……僕を舐めるな!!」
「ほうっ!?」


だが、ダインは咄嗟に杖を字面に突き刺して棒高跳びの要領で兵士達の頭上を飛び越えると、魔術師とは思えぬ身軽さにオウネンは驚いた声を上げ、その間にも体制を整えたダインは兵士に影魔法を放つ。


「シャドウ・バイト!!」
「があっ……!?」


兵士の一人に影から作り出した頭部だけの狼を放つと、兵士は腕に噛みつかれた瞬間に悲鳴をあげ、力が抜けたように膝を崩す。こちらの魔法は相手に噛みつかせる事で能力を一時的に低下させる魔法なのだが、どうやら怨痕で操られている人間が相手でも効果があるらしく、続けてダインは黒杖に取り付けられた魔水晶を利用して一気に兵士達に攻撃を仕掛ける。


「連続、シャドウ・バイト!!」
「があっ!?」
「あぐぅっ!?」
「ぎゃあっ!?」
「何と……」


怨痕を封じ込めて正気に取り戻す事は出来ないが、それでも一時的に兵士達の動作を封じる事は出来るらしく、狼の頭に噛みつかれた兵士達は体勢を崩す。その光景にオウネンは意外そうな表情を浮かべ、一方でダインは息を荒げながら自慢げにオウネンに振り返った。


「ど、どうだ……これが僕の影魔法は!!」
「ぬうっ……なるほど、確かに昔とは違うようじゃな。だが、その程度の力で儂に勝てると思うのか?」
「うるさい!!もうお前の味方はいないんだぞ!!負け惜しみなんか聞くか!!」


オウネンの周囲に兵士が居なくなったことで強気になったダインは彼の元へ駆けつけ、黒杖で叩きつけようとした。そんなダインに対してオウネンは松葉杖を地面に捨て、仕方がないとばかりに左腕を伸ばす。


「小僧が……調子に乗るな!!」
「うわっ!?」


伸ばされたオウネンの左腕から闇属性の魔力が放出され、やがて魔力が巨大な「腕」の形に変形するとダインの肉体を掴む。巨人族の腕よりも大きな魔力の腕に抑えつけられたダインは苦痛の表情を浮かべ、オウネンの使用した魔法の正体を見抜く。


(こ、この魔法……レナとホネミンが使う魔鎧術とそっくりだ!?)


魔力を実体化させて武器や鎧に変化させる「魔鎧術」をどうやらオウネンも使用できるらしく、本来は非力な老人だが魔鎧術を応用して作り出した「黒腕」は巨人族のような圧倒的な握力でダインの肉体を苦しめる。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。