不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

ヨツバ王国の一行

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――先代国王の葬式と新国王の即位式が行われてから翌日、王都で滞在していたヨツバ王国の一行はティナを残して国へ引き返す馬車に乗り込む。見送りにはナオの姿もあり、護衛のためにヴァルキュリア騎士団の女騎士達と緑影の部隊も同行する準備を整えていた。


「では世話になったな女王よ。王国へ戻り次第にすぐにティナを迎えに向かわせるからな」
「デブリ国王、どうかマリア殿の件を頼む。あの方は王国に必要な人材なんだ……」
「うむ、すぐにカレハと話し合い、彼女を解放するように説得して見せよう。その間はティナの事を頼む」
「ティナ、お姉ちゃんがいなくても泣いては駄目ですわよ」
「ティナ!!お兄ちゃんも悲しいけど頑張るぞ!!」
「わわっ……もう、平気だってばぁっ」


ティナとの別れを悲しむようにノルとアルンが抱き着くが、当のティナは困った風に二人を引き剥がす。彼女だけはしばらくの間は王都へ留まり、デブリ国王が王都へ帰還してカレハの暴走を止めるまでの間は王国へ滞在している方が安全だと悟って次期国王となる予定のティナだけを置いていく。

護衛を務めるのは王国に滞在していた緑影の精鋭部隊、更には王国四騎士と剣聖であり、氷雨の冒険者でもあるシュンも参加していた。ティナの目付け役であるリンダも王国へは残らずに3人の護衛を務めるため、必然的にティナの護衛は彼女と仲が良く、実力もあるエリナに決まる。


「エリナ、ティナ様の事を頼みましたよ」
「うぃっす!!任せてください!!」
「アイン、ミノ、貴方達も頑張りなさい」
「キュロロッ!!」
「ブモォッ!!」


リンダに声を掛けられた一人と二体は元気よく返事を行い、最後にリンダはティナを抱き寄せてしばしの別れの挨拶を行う。


「ティナ様、すぐに戻ってまいりますのでご安心ください……何かあったらすぐに連絡してください」
「うん……リンダも気を付けてね」


別れを終えるとユニコーンが引く馬車の中に王族たちは乗り込み、リンダを戦闘に王国四騎士のアカイとジダン、さらに今回は自主的に護衛を申し込んだシュンも馬に乗り込む。その際にシュンはリンダの横に並び、他の人間に聞かれないように囁く。


「おい……師匠の件は本当に何も聞いていないのか?」
「何度も言ったでしょう……我々はハヤテ殿の動向を掴んでおりません。闘技祭が中断された頃からあの方と連絡は途絶えてます」
「そうかよ……くそ、何処行ったんだよ師匠」


リンダの返答を聞いてシュンは悪態を吐き、完全に行方を眩ませたハヤテの事を考えて苛立ちを隠せない。シュンも冒険都市でハヤテと別れてから姿を見ておらず、どうして何も言わずに自分の元へ消え去ったのか理解できない。



――剣聖であるハヤテは「ミドリ家」の森人族であり、ハヅキ家と双璧を成す程に優秀な人材を生み出すヨツバ王国の貴族の血筋である。ハヅキ家が「緑影」を任されているのに対してミドリ家は「将軍」などの人材を多く産出し、ハヅキ家が影で国を支える存在ならばミドリ家は表の世界で国を導く存在だった。



ミドリ家のハヤテは現当主の実の妹に当たり、実年齢が200才を超えている。彼女がシュンを弟子にしたのは100才ぐらいの頃からだが、既に彼女はミドリ家の中でも最強の剣士として称えられていた。そんな彼女がどうして人間の国へ赴き、マリアに従っていたかというとハヅキ家の当主であったハヅキが関わっている。

娘二人を追放したとはいえ、ハヅキはアイラとマリアの存在を気遣い、ミドリ家のハヤテに依頼して二人の様子を伺うように指示を出す。なのでハヤテは表向きはマリアに従いながらも実際の所はハヅキ家に彼女達の身辺近況を報告していた。シュンがマリアの元へ訪れたのもハヤテからの指示を受けたからであり、冒険者稼業を行いながらも二人はヨツバ王国と繋がりを持っていた。

しかし、何時の頃からかハヤテはイレアビトと関係を築き、闘技祭の直前でマリアの元を立ち去る。最初はシュンはハヤテが裏切ったふりをして実はマリアの指示でイレアビトの様子を伺うように潜入していたのではないかと考えたが、先日の城内で騒動が起きた時にハヤテはレナ達の前に現れたと聞いていたが、当の本人はレナ達に逃げられるとすぐに姿を眩ましてしまう。


『いや~あの人、本当に容赦ないですね。まさか一瞬の隙を突いて私の拘束から逃れるとは……無念です』
『ホネミン、動かないでよ。ご飯粒でくっつかないでしょ』
『いや、せめて接着剤的な奴でくっつけてくれませんかね』


牢屋の中で頭蓋骨を真っ二つに切り裂かれたホネミンを抱えたレナから事情を聞き、シュンはどう見てもアンデッドのスケルトンにしか見えない存在が生きているのか気になったが、少なくともハヤテと最後に接触した彼女の話によるとハヤテは牢屋を抜け出して逃げだした事を知る。

イレアビトは捕まり、王国がバルトロス王族の元へ戻ったにも関わらずに姿を見せないハヤテに対してシュンはまさか本当にイレアビトに従っていたのかと考えたが、昨日のイレアビトの「死体」が発見されてその考えを改める。



――まだ公表はされていないが即位式の後にイレアビトが捕まっている牢内には彼女の側近を含めた城内で騒動を引き起こした人物達が死体で発見され、見張りを行っていた兵士達も皆殺しされていた。イレアビトも例外ではなく、彼女は一番奥の牢屋の中で胸元を鋭い刃物で貫かれ、心臓を破壊された状態で死亡していた。

死体現場にはすぐに鑑定士の職業の人間が送り込まれて調査を行い、結果的には殺された死体が間違いなくイレアビト本人である事が判明する。イレアビトが自分の死体を偽装させて逃げ出したのではないかと考えたが、死体を鑑定した結果は本物のイレアビトである事に間違いなく、彼女を慕っていた側近の子供達も含めて全員が「斬殺」されていた。

現場には剣聖であるシュンも立ち寄り、傷口を調べてすぐに犯人の心当たりが思い浮かび、彼は自分の師匠がイレアビトを殺した事を悟る。しかし、どうしてこの状況でイレアビトをハヤテが殺したのかが分からず、ヨツバ王国やマリアを裏切り、更には協力関係を築いていたイレアビトさえも殺害して姿を消した事に疑問を抱く。


(師匠……あんた、何を考えてるんだ)


ヨツバ王国へ向けて馬車が動き出し、その後を馬に乗ったシュン達が追う。これからデブリ国王は国へ帰還した後、自分が健在である事を配下や民衆に知らしめ、自分が不在の間にヨツバ王国を乗っ取ろうとしているカレハを取り抑える覚悟を抱いていた。イレアビトと明確に協力関係を結んでいたカレハを許す事は出来ず、戻り次第に国王は彼女を呼び出して尋問を行う予定を立てていた。

もしもヨツバ王国のカレハが国王が健在である事を知り、国へ辿り着く前に刺客を送り込んだ場合に備え、今回の護衛はハヅキ家の「緑影」や「「王国四騎士」に「剣聖」であるシュンも同行している。これだけの面子ならば千を超える兵士を送り込もうと確実に撃退出来る戦力は整えている。


(まあ……まずは国へ帰ってから考えるか。そういえば国へ戻るなんて何十年ぶりだ?20年ぐらいか?)


今更ながらにシュンは自分がマリアの元へ訪れてから国へ引き返していない事を思い出し、故郷の光景を想像させながら馬を歩かせると、先頭を移動していた王国四騎士のアカイが立ち止まる。
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