不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

準備開始

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――玉座の間を後にすると、レナ達は真っ先に石像が保管されている広間へ向かう。広間に辿り着いた頃には落ち着いたティナとエリナの姿があり、二人はレナ達の再開を喜び合う。


「レナた~ん!!皆~!!会いたかったよ~!!」
「おっと、ダインガード!!」
「え、ちょっ……ぎゃああっ!?」
「ああ、ティナ様!?力を抑えてくださいっす!!」


真っ先に抱き着こうとしてきたティナに対して咄嗟にレナはダインを盾にすると、彼女の巨人族並みの腕力で抱きしめられたダインの悲鳴が響き渡る。慌ててエリナがティナを引き剥がすと、ダインは跪いて恨めしそうにレナを睨みつけた。


「お、お前な……僕を盾に使うなよ!?死ぬところだっただろ!!」
「でも、可愛い女の子に抱きしめられて嬉しかったでしょ?」
「その代わりに死ぬところだったよ!!そりゃ、ちょっと胸の感触は嬉しかったけど……」
「そう、ならもう一度抱きしめられなさいよ」
「え、ちょっ!?」


ダインの発言にシズネは額に青筋を浮かべてティナの元へ追いやろうとする間、レナは落ち着いたティナの頭を撫で回す。


「よしよし、寂しかったんだな。ごめんね、もう少し早く来られたら良かったけど……」
「えへへ……来てくれただけでも嬉しいよ~」
「兄貴が来てくれて本当に心強いっす!!それで石像を解く方法は見つかりました?」
「残念だけどまだ見つかってないよ。でも、メドゥーサが石化した石像に関してはメドゥーサを倒したときに解放されている事を考えても、石化の魔眼の所持者を倒せば石化は解除されると思う」
「という事はレナの叔母を倒さなければならないのか……複雑だな」
「まあ、叔母と言っても別に仲がいいわけじゃないしね……ちょっと、やりにくい相手ではあるけど」


石像にされた人間達を見ながらレナは自分の右手の「風の聖痕」に視線を向け、祖母であるハヅキから聖痕を託された時、彼女にキラウを救う様に頼まれた事を思い出す。ハヅキは最後まで3人の娘を愛し、凶悪犯罪者に堕ちたキラウでさえも見捨てなかったが、流石に今回の件は庇い切れない。

キラウのせいでティナは大切か家族は石像にされ、更に大勢の罪なき兵士も巻き込まれている。しかも石像にされた人間を元に戻す手段を見つけない以上はバルトロス王国はヨツバ王国の王族の拘束の疑惑を証明できず、近いうちにヨツバ王国と本格的な戦争が始まってしまう。


(御婆様はキラウを助けて欲しいと願うかもしれないけど……石像を解除するにはキラウを殺すか、あるいは捕まえて強制的に解除させるしかない。だけど、そんな事を出来るのか?)


レナはキラウを拘束するだけでも難しいのに彼女の意思で石像を解除させるという無理難題に思い悩み、良案は一向に思いつかない。こればかりはアイリスに相談するわけにもいかず、一先ずはキラウの事は後回しにしてヨツバ王国との戦争回避のためにティナの聞こえないようにエリナに話かける。


「二人に聞きたいことがあるんだけど、もしもティナだけがヨツバ王国へ戻って事情を説明すればヨツバ王国との戦争は回避出来ると思う?」
「いや……難しいと思いますよ。カレハ様はティナ様の事を嫌ってますし、それにティナ様は昔から人を疑わない性格ですから、王国の人間に騙されているだ、とか思われて話を聞こうとしないでしょうね」
「そうか……なら、もしもヨツバ王国が戦争を仕掛けるとしたらどれくらいの猶予があると思う?」
「ん~……戦争の準備だけでも一か月は掛かりますし、それに王国に戦争を仕掛ける事に反対する森人族も多いとおもいますね。何しろバルトロス王国とヨツバ王国は何百年も同盟を築いてますから、そう簡単に攻め込む事は出来ないと思います。まあ、あたしの予想ではだいたい早くても二か月ぐらいですかね?遅ければ半年ぐらいはかかると思いますけど……」


エリナの予測ではカレハが完全にヨツバ王国を掌握し切れたとは思えず、きっと彼女の方針に反対する森人族も多いという事から戦争を仕掛けるとしても二か月の猶予はあると推測した。王国四騎士であり、森人族の中では若手ではあるが数十年も国に仕えていたエリナの言葉は信憑性が高く、少なくとも今すぐに攻め込まれる可能性は潰えた。


「ならエリナの知っている限りのヨツバ王国の情報を教えて欲しい。軍隊がどれくらいの規模なのか、将軍が何人ぐらい居るのかとか、具体的な戦力を教えて欲しい」
「兄貴だから話しますけど、本当はこれ重要機密ですからね?ヨツバ王国の軍隊の数自体は4万人ぐらいです。将軍の数は6人、この6人は「六聖将」と呼ばれてるっす」
「六聖将?王国四騎士とは違うの?」
「王国四騎士はあくまでも騎士の中で優秀な騎士に対し、六聖将は国の守護を任せられる優秀な将です。この守護将は全員が年齢を100才を超え、数多くの実績がなければ与えられない将軍職っす。ちなみに現在の六聖将は100年以上前から人員が変化してませんよ」
「つまり、全員が100年以上も務めている将軍か……途方もない話だな」


人間の間隔では100年はとてつもない年月だが、森人族にとってはせいぜい20年程度の感覚らしく、レナの目の前にいる外見は少女にしか見えないエリナも実年齢は70才を超えているのだから驚きである。エリナによれば「六聖将」以外に将軍は存在せず、この6人が4万人の軍隊を管理しているという。


「ちなみに六聖将は階級が存在しませんけど、各々に名前が割り振られています。まず王都近辺の守護を任されている2人の六聖将は「守護将」と「防護将」他の4人は東西南北を守護する事から「北聖将」「南聖将」「西聖将」「東聖将」と別れています」
「六聖将の事なら私も一人だけ知っている人物が居るわ」


会話の途中でシズネが口を挟み、どうやら話を聞いていたらしく、複雑そうな表情を浮かべながらシズネは自分の知る六聖将の人物を語る。


「父に聞いた事があるわ。父が大将軍に就任したばかりのころ、ヨツバ王国との会談で訪れた六聖将の一人と戦った事があるとね」
「え?何でそんな事になったの?」
「父の話によると先々代の国王、つまりは貴方の叔父が自分の国を代表する将軍とヨツバ王国の将軍のどちらの武勇が優れているのかを競い合いたいと言い出したのが事の発端よ。デブリ国王は最初は渋ったそうだけど、六聖将の「クレナイ」と呼ばれる将が引き受けたわ」
「うげっ……く、クレナイ将軍に喧嘩を売ったんすか!?」
「わあっ!?ど、どうしたのエリナ?」
『ぷるるんっ?』


クレナイという名前を聞いた瞬間にエリナは声を抑えるのを辞めて大声を上げてしまい、レナが連れて来たスラミンとヒトミンと戯れていたティナが驚いた声を上げる。レナはエリナが取り乱す程に危険な相手なのかと不思議に思うと、シズネは少々言いにくそうに答えた。


「当時、大将軍を務めていたの私の父であるギラン、レミアの祖母であるイルミナ、そして貴方も良く知っているミドルよ。先々代の国王は最初はイルミナを代表に選ぼうとしたのだけど、私の父がどうしても六聖将の中でも最強と呼ばれるクレナイと戦いたいと申し出て結局は父が代表に選ばれたわ」
「ちなみにクレナイ将軍はあのアカイ将軍の父親っす……」
「えっ!?あの人の!?」


アカイの父親と聞いてレナは驚きを隠せず、息子が王国四騎士に選ばれ、父親は六聖将の中でも最強の座に就いている事からとんでもない家系だと知った。
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