不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
602 / 2,090
外伝 ~ヨツバ王国編~

潜入作戦

しおりを挟む
「そもそもカレハという人は幽閉されたんでしょ?幾ら他の王族が居ないからって、そんな人に本当に将軍が従うの?」
「多分、従わざるを得ないでしょうね……いくら追放されたとはいえ、現状残っている王族はカレハ様だけですから大半の将軍は従うと思います。それだけヨツバ王国にとって王族の方々は絶対的な存在です」
「でも、こっちにもティナが居るじゃん。ティナが戦争なんて止めて~みたいな事を言えば従わないの?」


ティナは正式な王位継承権を持つのに対し、カレハは最近まで幽閉されていた王族である。普通に考えれば臣下ならばティナに従うはずだが、重要なのはヨツバ王国に存在するのがカレハだけという点らしい。


「確かにティナ様が呼びかければ味方してくれる人も居ると思います。だけど、今のティナ様はバルトロス王国に保護されているのが問題です。きっと、国に戻ったとしてもバルトロス王国の人間に誑かされたとか勘違いされますよ」
「それは確かにあるかも……」
「え?何か言った?」


ティナは自分の話題をするレナ達に振り返り、胸元にスラミンを抱えながら不思議そうに尋ねる。純粋で良い子なのは分かるが、逆に言えば人を疑わずに騙されやすい性格のため、もしもティナがヨツバ王国に戻って戦争を止めるように宣言してもバルトロス王国が彼女を利用して何か策略を立てているのではないかと疑われてしまう。

だが、現状ではカレハに対抗出来る存在は同じ王族であるティナしか存在せず、デブリ国王達を元に戻す方法以外にカレハの暴走を止めるにはティナの力が必要不可欠となる。ヨツバ王国に逃げ込んだキラウを捕まえ、石化を解除させるためにはヨツバ王国に乗り込むしかない。


「仕方ない……俺達もヨツバ王国に向かおう」
「え、本気っすか!?いくら兄貴でも殺されちゃいますよ!?」
「そうね……戦争の準備をしている国に向かう以上、相応の覚悟と準備が必要になるわ」
「でも、このまま放置は出来ない。放っておいたら戦争が始まってバルトロス王国が滅びるかもしれない。それに叔母様も救わないといけないから俺はヨツバ王国に向かうよ」
「その話、俺も混ぜて貰おうか」
「拙者もでござる!!」
「うわぁっ!?何処から現れたお前等!?」


レナの発言に天井から二人の男女の声が響き渡り、全員が驚いて振り返るとそこには天井に重力を無視して仁王立ちするカゲマルとハンゾウの姿が存在した。二人は地面に着地すると、カゲマルは腕を組みながらレナと向かい合う。


「我が主の救出とあらば我等も力を貸そう。忍の力、今のお前達が最も欲しているのではないか?」
「拙者もマリア殿を救いたいでござる!!」
「それはまあ、頼もしいけど……危険だよ?」
「仮に止められた所で我等は二人だけでも向かうつもりだ」
「大した忠誠心ね……レナ、この二人を連れて行きましょう。情報収集を行える人材は貴重よ」
「分かった。なら、よろしくね。カゲちゃんとハンちゃん」
「その呼び名は止めろ……カゲマルと呼んでくれ」


カゲマルとハンゾウもマリアの救出のために準備は整えていたらしく、既にヨツバ王国に向かう計画を立てていた。だが、今回の潜入作戦はかなりの危険を伴い、更に目立たないように行動しなければならないため少数精鋭で挑まなければならない。


「じゃあ、ヨツバ王国に向かう方法を考えよう。そもそもヨツバ王国ってここからどれくらいの距離があるの?」
「そうっすね、あたし達は移動の際はユニコーンの幼種を利用して一週間ぐらいで移動しますけど、人間の方が飼育されている馬だと移動だけで半月は掛かりますね。さらに樹海を抜けて移動するとなると普通の乗り物は扱えないのでもっと時間が掛かります」
「樹海?」
「ヨツバ王国はアトラス大森林と呼ばれる樹海の中に存在するのよ。普通の人間なら立ち寄る事も禁じられている危険な場所よ」
「え~?そんな事ないよ~!!自然豊かで綺麗な場所だよ?」
「魔獣が大量に生息する森を安全な場所とは言えないわよ……」


シズネによるとヨツバ王国はアトラス大森林と呼ばれる世界最大の樹海の中に存在する国家らしく、森人族以外の種族が住むには不便な土地とされ、レナが育った深淵の森よりも危険な場所らしい。百種類を超える魔獣が生息し、あまりにも広大なため、普通の人間なら迷い込むと死ぬまで出られる事はない危険な樹海として知られていた。

そのような危険な場所にどうして森人族は国家を築いたかというと、彼等は自然を愛する種族のため、どんなに危険地帯であろうと森人族は森の中にしか永住しない。また、逆に言えば危険地帯であるが故に他国からの侵略の際も樹海に生息している魔獣達のお陰でヨツバ王国は守られているといっても過言ではなく、実際に1000年以上の間、ヨツバ王国は他国から領地を奪われたことはない。


「ヨツバ王国はアトラス大森林の奥地に存在し、主要都市は5つに分かれていて、東西南北に4つ、中心地に王都が有ります。カレハ様は間違いなく王都に戻られたでしょうね」
「という事はそこにマリア様が居るという事か?」
「その可能性は高いっす。だけど、王都の警備は尋常じゃないですよ。何しろ1万の軍勢を率いる守備将と防護将が待機してますからね」
「さっき言っていたクレナイとツバサという人か……」
「レナたん、人じゃなくて森人族だよ~」
「真面目な話をしている時に揚げ足を取るんじゃないよ……ほら、スラミン没収するぞ」
「あ、やぁんっ……そ、そっちはスラミンじゃないよ」
「ぷるぷるっ」


話しに割り込んできたティナに対してレナは彼女が乳房に挟んでいたスラミンを取り上げる際に胸に触れ、セクハラは止めなさいという風にスラミンが呆れたような表情を浮かべる。そんな二人のやり取りを見てコトミンも自分に構とばかりにレナの身体に抱き着き、ゴンゾウとダインも会話に加わる。


「あのさ……レナ、なんかさっきからヨツバ王国に忍び込む話になってるんだけどさ、もしかして僕達もその中に入ってるの?」
「え?一緒に行ってくれるんでしょ?」
「やだよ!!何で戦争をおっぱじめようとしている国になんて忍び込まないといけないんだよ!?」
「レナ、今回ばかりは無理強いは駄目よ。潜入を目的としている以上、隠密能力に優れた人材でなければならない。でないと他の人間にも迷惑が掛かるわ」
「えっ!?」


シズネの言葉にダインは驚愕の表情を浮かべ、意外な人物が助け舟を出した事に動揺する。だが、そんなシズネに対してレナは平然と言い返す。


「あ、ダインは隠密のスキルを習得してるよ?」
「そうなの?なら、問題ないわね」
「いや、あるよ!?僕の意思は!?」


あっさりと同行を認めたシズネに対してダインが文句を申し付けるが、そんな彼等のやり取りを見つめながらゴンゾウが申し訳なさそうに答える。


「すまない……俺は隠れるのは苦手だ。狩猟を行うときもこの図体だから身体も気配も殺しきれずに臆病な魔物にはよく逃げられていた」
「私も隠れるのは苦手……水中なら別だけど」


ゴンゾウとコトミンは生憎と隠密のスキルは習得しておらず、どちらも目立つ外見をしているので潜入には不向きだった。残念だが二人はヨツバ王国に同行させる事は難しい。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。