不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

潜入のメンバー

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「二人を連れて行くのは難しそうだな……仕方ない、なら今回は俺とシズネとダインとハンゾウとカゲマルで行くか」
「ちょっと待ってよ!!僕も無理だって!?」
「レナ、乗り気じゃない人間を連れて行くのは賛成出来ないわ」
「大丈夫だよ、基本的にダインはいつもこんな感じだから」
「……それもそうね」
「納得しちゃったよ!!おい、僕の意思は尊重されないのか!?」


レナの言葉にあっさりと引き下がるシズネにダインは食って掛かるが、戦力的に考えても影魔法を扱えるダインは同行させておきたく、回復役のコトミンと戦闘面で活躍するゴンゾウが抜けた穴を塞ぐにはどうしてもダインの力が必要だった。


「ダイン、本当に行きたくないなら仕方ないけど、このままだと戦争が始まるよ?そうなったら王国の何処に逃げても安全とは言えないと思うけど……」
「うっ……それを言われると困るけどさ……」
「他国に逃げるという手もあるけど、そうなると生活が大変よ。傭兵として色々な土地を渡り歩いてきたけど、人間が住みやすい国はこのバルトロス王国だけね」
「ううっ!?」


傭兵としてシズネは世界中を行き渡り、獣人国や巨人国にも訪れた事がある。彼女の経験上、人間に最も優しい国は人間の王族が支配しているバルトロス王国だけであり、他国では人間の扱いは酷いというわけではないが優遇されているとも言えなかった。

ダインとしても王国がヨツバ王国にに滅ぼされれば行き場を失い、大切な人間も失ってしまうかもしれない。それに自分が行かずともレナ達が向かうのは確定しているため、溜息を吐きながら友人を失わないために同行する覚悟を決める。


「はあっ……分かったよ。だけど、危険な目に遭いそうになったらすぐに引き返す!!これだけは約束しろよ!?」
「うん、分かった。じゃあ、どうやって侵入しようかだけどさ……」
「おい、人の話を聞いてんの!?軽く流すなよ!?」
「静かにしなさい。真面目な話をしているのよ?」


騒がしいダインを一蹴し、レナ達はどのような手段でヨツバ王国に向かうのかを話し合おうとすると、エリナが割って入る。


「あの……それならあたしが道案内しましょうか?兄貴たちを安全に他の森人族に見つからないように国内まで案内する事が出来ると思いますけど」
「え?本当に?」
「待て、その前にお前に聞きたいことがある……お前達以外に1人だけ無事だった森人族がいるはずだ。奴は何処に居る?」


エリナの申し出に対してレナが答える前にカゲマルが口を挟み、たった一人だけ石化から逃れられたラナの居場所を尋ねる。確かにこの場に彼女が居ない事はレナも不思議に思っていたのでエリナに顔を向けると、少し言いにくそうにエリナは答えた。


「あ~……ラナさんはここには居ないっす。ちょっと城を離れて王国内に滞在している緑影を全員呼び出しています」
「緑影を?」
「緑影の長であるハヅキ様が亡くなった事で現在の緑影は指導者を失い、混乱状態に陥っています。大半の緑影は国外で情報収集を行っているので、ラナさんはその人たちを集めています」
「どうして?消えたキラウの行方を追うために人手を集めているの?」
「それもありますけど、緑影の分断化を恐れているんです。緑影は只の隠密集団ではなく、時には暗殺稼業なども行う怖い人達だって事は兄貴も知ってますよね?ラナさんはともかく、国内に潜む緑影に王国のカレハ様が命令を下してティナ様に害を為そう可能性もあるらしくて、命令を受ける前に緑影を呼び集めて味方にしようとしてるんですよ」
「なるほど……そういう事か」


現在のラナは王国内に滞在している緑影を味方にするために行動しているらしく、現在は王城を離れているらしい。緑影が味方になれば心強いが、もしも敵に回られると厄介な相手のため、カレハが手を打つ前にラナは緑影の面子を集める事が出来ればいいのだが、油断は出来ない。

本来ならば隠密能力に特化したラナも連れて行きたいところではあるが、そのような事情では呼び戻す事も出来ず、やはりレナ達はエリナの案内でヨツバ王国に侵入する事にした。しかし、そうなった場合はティナをどのように扱うかが問題だった。


「エリナが王国まで案内してくれるとしても、ティナの護衛はどうするの?流石に一人で残すわけには……」
「それなら大丈夫っすよ。アインとミノが居ますから」
「ああ、そうか。そういえばあいつらも無事だったのか」


魔人族であるアインとミノはヨツバ王国の一行が帰国する際、どちらも王国で治療を受けていた。魔人族である2体は普通の人間と身体の構造が異なるせいなのか回復魔法や回復薬では治療の効果が低く、未だに完治には至っていない。特に両腕を斬られたアインや右目を斬りつけられたウルの傷跡は残っており、完全に傷跡は塞がらない可能性が高かった。

それでも魔人族は普通の人間よりも自然治癒能力が高く、今では完全に元気を取り戻しているが、用心のためにしばらくの間は療養していた。本来ならばヨツバ王国の一行が帰国した後に迎えがくる予定だったが、現在は王城内で兵士達と共にリハビリがてらに訓練を行っている


「でも、いくらアインとミノが居るからってティナだけを残すのは不安だな……エリナもいなくなったら泣いちゃうんじゃない?」
「それはそうですけど、でもティナ様を連れて行くわけにはいきませんよ。カレハ様が何をするか分かりませんし……」
「え?何の話をしてるの?」
「ぷるるんっ」


自分の名前が出て来た事にスラミンの代わりにヒトミンと戯れていたティナが割り込むと、慌ててエリナは話を悟られないようにレナに話しかける。


「あ、そうだ!!兄貴、ウル君も連れてきました?ティナ様がずっと会いたがってましたよ?」
「ウル?あいつなら庭の方にいるよ。今頃、日向ぼっこしてるんじゃないかな?」
「本当に!?じゃあ、私も行ってくるね!!」
「ちょ、待ってくださいティナ様!!行くなら私も……」


ウルが来ているという話を聞いてティナは喜び勇んで庭の方に向かおうとすると、エリナが慌てて引き留めようと後を追う。この状況でティナを一人にする事は出来ず、仕方なくレナも止めようとした時、扉の外側からノックがなり、女性の声が響く。


『……ティナ様はいらっしゃいますか?』
「え?誰?私はここに……」
「ティナ様!?駄目っす!!」


扉の外側から聞こえてきた声にティナが返事を行った瞬間、扉が勢いよく開け開かれ、使用人の恰好をした森人族の女性が現れる。女性はティナの姿を確認すると懐から刃物を取り出し、二人の元へ向かう。


「王女様、御覚悟を!!」
「えっ……!?」
「危ないっ!!」


刃物を握り締めた森人族が駆け出した瞬間、咄嗟にエリナはティナを庇うために彼女に抱き着くが、その横を黒い影が通り抜けて使用人の前に出た。


「抜刀!!」
「ぐっ!?」


ハンゾウが二人の前に出ると腰に差していた短刀を引き抜き、森人族が握りしめていた短剣を弾き飛ばす。武器を失った女性は顔をしかめながらも袖から新しい短剣を取り出してティナの元に目掛けようとしたが、それよりも早くカゲマルが動いて女性の首筋に苦無を構える。


「動くな……抵抗すれば殺すぞ」
「くっ……構うな、殺れ!!」


女性は首筋に苦無を押し付けられながらも怒鳴りつけ、最初は自分を殺せと宣言したのかとカゲマルは思ったが、扉の方角から複数人の気配を感じ取り、広間の中に兵士や使用人を恰好をした森人族の集団が流れ込む。
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