不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

旧都

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「東聖将を務めるギンタロウさんは実はあたしの叔父さんなんです。昔から色々と面倒を見てくれる優しい人っす!!」
「叔父と言う事はエリナは東聖将の姪だったの!?あれ、でもそれならなんでティナもおじさんと呼んでるんだ?」
「えっとね、エリナちゃんが私の護衛になった頃からギンタロウおじさんの所へ遊びに行く事が多くなったんだよ。だから私もおじさんとは仲良しなの~」
「ならば、そのギンタロウという人物は王女の味方をしてくれるのか?」
「叔父さんなら絶対にティナ様の味方をしてくれると思いますよ?実の孫の様に可愛がってますし、国王様から信頼されている森人族ですから……」
「なら方針は決まったわね。まずはそのギンタロウという人に協力を求めましょう。その人が東聖将という事はヨツバ王国の東側を統治しているのね?」
「ええ、まあ……でも、叔父さんに会いに行くには北聖将のハシラさんが守護している領地を抜けないといけませんけど……この地図を見て下さい」


バルトロス王国の南側にヨツバ王国が拠点とするアトラス大森林が存在するため、必然的に王都や東聖将の領地に侵入するためには最初に北聖将が統治している領地を抜けなければならない。恐らくはヨツバ王国側もバルトロス王国の先制攻撃を警戒して防備を固めていると考えられるため、東聖将の領地にまで忍び込むのも苦労するだろう。

エリナは収納石のブレスレットから地図を取り出し、アトラス大森林内に存在するヨツバ王国の領地が記された地図を地面に敷く。王都を中心に東西南北に領地が分割され、その内の一つである北聖将の領地をエリナは指し示す。


「まず、私達はこの北聖将のハシラさんが収めている領地を抜ける必要があります。大きく迂回すればハシラさんの領地に入らずに叔父さんの守護する領地に移動する事も出来ますけど、それだと時間が掛かり過ぎます」
「こうしてみると本当に樹海の中に国が存在するのね……この王都に世界樹が存在するの?」
「はい。世界最大の規模を誇る神樹が生えています。最も今の世界樹は今から数百年前に伝説の救世主と呼ばれた「ルノ」という異世界人が再生させた二代目の世界樹なんですけど……」
「ん?ルノ……?」


レナはルノという言葉に不思議に思い、自分の従弟と同じ名前である事を知るが、単なる偶然かと思ってあまり気にせずに侵入経路を話し合う。


「ギンタロウ叔父さんに協力を求めるとしたらどうしてもハシラさんの守護する領地を抜けないといけません。それに樹海の中を移動する場合、森人族なら木々を飛びぬけて普通の馬よりも移動する事が出来ますけど、兄貴たちの場合は……」
「忍を舐めるな。我等とて普段から樹木の上を飛び回る事は慣れている」
「訓練で山中に何日も過ごす事もあったので問題ないでござる」
「俺もウルもずっと森の中で暮らしていたから平気だと思うけど……」
「いや、本当に何なんだよお前等……どんな人生歩んでるんだよ」


樹海を移動する点において一番気掛かりなのは森の中を移動し続ける事であり、障害物が平地よりも圧倒的に多い樹海を移動する行為は必然的に体力の消耗が激しいはずだが、エリナやティナのような森人族は産まれた時から樹海の中で育ち、暗殺者であると同時に特殊な訓練を受けた忍者のカゲマルとハンゾウも森の中で過ごす訓練を受けており、レナも深淵の森で長年の間暮らしていたので樹海を抜ける事に関しては問題はないと思われた。

問題なのは北聖将の領地に突入すれば見張りの森人族や関所が存在するという点であり、森の中には人間よりも感覚に優れ、特殊な訓練を受けてきた森人族の兵士が各所に配置されているはずだった。彼等の目を盗んでレナ達が東聖将の領地まで抜け出す事は非常に難しく、エリナは難しい表情を浮かべる。


「北聖将のハシラさんは規律を重んじる性格の将軍なんです。だからもしもあたし達がティナ様を連れて戻ったとしても、きっと現在は王国を管理しているカレハ様に報告すると思います。いくらティナ様が王位継承者と言っても実質上は今の王国を支配しているのはカレハ様ですから」
「その人は味方に引き込めないの?」
「無理でしょうね……それにハシラさんは余所者を嫌います。ヨツバ王国には他種族の方も多いんですけど、外国から訪れた人達にはハシラさんはかなり警戒心を抱いています。実際に観光客がヨツバ王国を訪れる際にはハシラさんが直々に検査に赴き、怪しい点が一つでもあれば入国を拒否された事もあるっす」
「つまり、余所者嫌いの頑固おやじ……?」
「そういう認識で間違いないです。今のハシラさんはカレハ様に従う忠実な将軍でしょうね」


同じ王族とはいえ、ティナとカレハの現在の立ち位置は大きく異なり、ヨツバ王国を現在管理しているカレハに対してハシラは従うというのがエリナの見解だった。もしもデブリ国王が健在ならばともかく、ティナだけが戻ったところでハシラは彼女を保護するだろうが命令には従わないというのがエリナの予想だった。


「北聖将を味方にする事は難しいとなると、やっぱり監視の目を抜けて東聖将の所へ向かうしかないか……」
「だが、そんなに簡単に行くのか?そもそも北聖将の兵士はどの程度存在する?」
「位置的には最も外部からの侵入を受けやすい領地ですから兵士の数は多いですよ。1万人以上の兵士が滞在して各所に配備されてます」
「1万人か……対する俺達は4人、もしも戦闘に陥ったら逃げるしかないな」


東西南北の中で最も兵士を抱えているのは北聖将らしく、守備を任されている将軍のハシラも規律に厳しい男という事から説得も難しい。そうなるとレナ達は4人だけで北聖将の守護する領地を抜けなければならないが、現実的に考えてそんな事が可能なのか疑問である。


「他の手段で東聖将の領地まで移動する手段はないのかよ?一つぐらい抜け道があったりとか……」
「いや~……ないっすね。人魚族の侵入に備えて森中の川に関所を設けて兵士に見張らせるぐらいですから」
「人魚族は他の種族を襲ったりしない。私達は領地なんて必要ないし、綺麗な水辺にしか住まないのに?」
「それは分かってるんですけどね、ハシラさんは本当に慎重な性格の人なんでありとあらゆる外敵からの侵入対策を施しているんです。ここまでくると慎重というよりは心配性な性格なんじゃないかと思うぐらいですけど……」
「う~ん……そうなると俺がハングライダーで空から移動する手段も見つかりそうだな」


レナは地上が駄目ならば空の上から忍び込む事は出来ないのかと考えたが、エリナの話を聞く限りではそこまで外部からの侵入対策を施す男ならば地上だけではなく空中からの侵入も考えている可能性があり、そもそもハングライダーで移動している時点で目立ってしまう。

八方塞がりかと思われたが、地図を確認していたスラミンが何かに気付いたように反応を示し、自分を抱えていたコトミンから離れて地図上に降り立つとある部分を触手で示す。


「ぷるぷるっ?」
「どうしたスラミン……あれ、このマークはなに?」
「ああ……そこは旧都です。数百年前に昆虫種の大群によって滅ぼされたヨツバ王国が建国される前の時代の森人族の国の王都です。元々はここに一番最初の世界樹が存在したんですよ」


スラミンが示したのは北聖将の領地の手前に存在する大きな湖であり、その中心地には巨大な浮島が存在し、数百年前まではこの浮島の上に都が存在したという。魔物に滅ぼされる前は浮島の中心地に最初の世界樹が存在したらしく、現在は朽ち果てて折れたのか湖を両断するように巨大な樹木が未だに倒れているという。
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