不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
611 / 2,090
外伝 ~ヨツバ王国編~

旧都へ ※12月発売の不遇職3巻の報告もあります。

しおりを挟む
「この旧都、北聖将の領地の丁度北の方角に存在するのか……」
「そうっすね。だけど、この旧都は立ち入り禁止区域ですから近寄らないように気を付けないといけません」
「え?立ち入り禁止?」
「実は数年ぐらい前から旧都には成体のユニコーンが住み着いたんです。そのせいで森人族でも近寄れない聖域になってるんです」
「ユニコーンの成体!?それ、マジか!?」


ユニコーンの成体、分かりやすく言えば大人の年齢を迎えたユニコーンが生息しているという話にダインは驚愕し、一体何がそれほど驚く事なのかとレナが顔を向けるとエリナが代わりに答えてくれた。


「基本的に成体になったユニコーンは人里を離れて外的が少ない地方に移り住むんです。ユニコーンの子供ならヨツバ王国も飼育してますけど、ユニコーンが成体になると人知れずに姿を消します。だけど、この旧都には1体のユニコーンの成馬が住み着いて今では誰も近寄れないっす」
「どうして?」
「成体のユニコーンは竜種にも負けず劣らずの戦闘力を誇るからです。この旧都に住み着いたユニコーンは元々はヨツバ王国で暮らしていたミルという薬師が育てていたユニコーンです。私も会ったことはあるんですけど、デブリ国王と同世代の御婆さんでした」
「そのミルという人が育てていたユニコーンがどうして旧都に住み着いたの?」
「理由は分かりません。だけど、急にユニコーンが現れて旧都を選挙したんです。本来は人が住んでいた場所にユニコーンは住処を作らないんですけど、ミルさんが育てていたユニコーンは旧都を占拠したせいであたしたちも立ち入る事が出来なくなって本当に困ってるんです」
「ミル……?」


レナは何処かで聞き覚えのある名前だと気づき、自分が何時その名前を耳にしたのかと考えていると、シズネが疑問を抱く。


「ちょっと待ちなさい、どうして旧都に現れたそのユニコーンとやらがミルという人が育てていた森人族だと分かったの?」
「ミルさんが育てていたユニコーンは額の一本角が普通のユニコーンよりも短いんです。子供の頃に人間の冒険者に捕まって無理やりに角を削り取られていたところをミルさんが救ってそれ以来育てているそうです。ユニコーンの一本角は生命力の源ですからね……冒険者の人にはよく狙われるそうです」
「うっ!?」


エリナの言葉にダインは冷や汗を流して顔を逸らし、その反応から察するにダインもユニコーンの角がどれほど貴重な素材なのか知っていたらしい。だが、今は人が住んでいないとはいえ、昔は都だった場所を1体のユニコーンが支配しているという話にレナはアイリスと交信してユニコーンの生体を尋ねる。


『ユニコーンはそんなに凄いの?』
『凄い存在ですよ。魔獣の中でも頭が良くて性格が温厚、外見も美しいし額の角から削り取った素材が魔道具や薬品の最高の材料にもなりますからね。だからヨツバ王国はユニコーンという存在を大事に扱っているからこそ、旧都を支配したユニコーンの成馬に関しても手出ししないんです』
『なるほど……』


ユニコーンは魔獣の中でもサイクロプスと同様に温厚な生物らしく、子供の時点で並大抵の魔獣を寄せ付けない強さを誇り、更に額の角はあらゆる分野の素材となるために重宝されるらしい。また、ヨツバ王国ではユニコーンを保護対象として認識している節があるため、旧都を支配したユニコーンに関しては放置しているという。


『というかレナさん、ミルという人物の事を覚えてないんですか?ほら、深淵の森で暮らしていた洞窟を思い出して下さい。あそこは元々はミルが作り出した住居ですよ』
『あ、思い出した!!ミルといえばウルの飼い主だった人か!?』


アイリスの言葉にレナはミルという人物の事を思い出し、深淵の森でミノタウロスに両親を殺されたウルを拾い上げ、レナが出会う前にウルと共に暮らしていた森人族の老婆だと知る。レナが屋敷を抜け出す前に死亡しているので顔を合わせた事はなかったが、彼女が残した住居を利用してレナは何年も深淵の森の中で暮らす事が出来た。


『ミルはヨツバ王国でも有名な薬師だったんですよ。家系は貴族ではありませんけど、腕がいい事から国王に取り立てられてずっと王国に仕えてました。だけど、旅に出る事が好きで若い頃から色々な地方を訪れては国を留守にする事も多かったようです。あ、ちなみに氷雨のギルドに一時期だけ所属していた事もありましたよ』
『叔母様とも知り合いだったわけか……でも、どうして深淵の森で暮らしてたの?』
『あの森の奥には聖遺物が眠る遺跡があるのはレナさんも知っているでしょう?ミルは偶然にもその場所を知って、遺跡を調べるために深淵の森で暮らしていたんです。まあ、結果的にその願いを果たす前に死んじゃったんですけど……』


ウルの最初の飼い主であったミルは既に故人のため、レナも顔を合わせたことはない。彼女の遺品のいくつかはレナが受け継ぎ、特にミルが暮していた洞窟は屋敷を抜け出したばかりの頃のレナにとっては森の中で唯一安全に寝泊まり出来る場所として世話になっていた。

ミルは死亡した事を知っているのはレナだけであり、他の人間は彼女の死を確かめたわけではない。しかし、何年も消息を絶っているので彼女が既に死亡している事を疑う者も多い。アイリスとの交信を遮断するとレナは改めて地図上の旧都を確認して考え込む。


「……地図を見る限り、かなり大きな都だよね。ここなら潜伏出来る場所も多そうだけど」
「いや、駄目ですよ!!いくら兄貴の頼みでもその場所だけは立ち寄る事は出来ないっす!!ユニコーンがいくら温厚な性格の持ち主だと言っても自分の縄張りを侵す存在は容赦なく襲い掛かりますからね!?」
「そんなに恐ろしい存在なのか?俺は実物が見た事がないから何とも言えないが……一体どの程度の強さなんだ?」


レナの呟きを聞いたエリナの慌てぶりを見てゴンゾウは不思議に思い、この場に存在する面子でも相手に出来ない程の魔獣なのかと疑問を抱くが、代わりにシズネが答えてくれた。


「ユニコーンは非常に恐ろしい生物よ。昔、私が所属していた傭兵団が獣人国の商人の護衛を引き受けた時、ある盗賊の集団に襲われたわ。その時、偶然にも川辺で水浴びをしていたユニコーンが居て私達と盗賊の戦闘に巻き込まれたの。その結果……私と他数名の傭兵仲間を残して他の人間は惨殺されたわ」
「惨殺!?」
「ユニコーンはどのような理由であれ、自分に襲いかかる生物には容赦しないわ。私はどうにか雪月花の魔剣のお陰で生き延びる事は出来たけど、他に生き残った人間は身体の一部を失くすほどの大怪我を負っていたわね……体感的にユニコーンはあの牙竜にも匹敵する戦闘力を誇るわ」
「……怖い」
「で、でも普段は優しいんだよ~?」


シズネの経験談を聞いて全員がユニコーンという存在に恐怖を抱くと、慌ててティナがフォローを行う。だが、魔剣を手にしたシズネでさえも生き延びる事が精いっぱいだったという情報を聞く限り、ユニコーンは竜種に近い戦闘力を持つ事が判明した。

地図を確認する限り、北聖将の領地に乗り込む前にレナ達は旧都を大きく迂回する必要がある。どうにか旧都を潜り抜ける事が出来れば大幅な時間の節約は出来そうだが、竜種級の戦闘力を誇る魔獣の縄張りを迂闊に踏み入れるような真似はしたくない。


(ユニコーン、か……)


だが、レナは自分と出会う前にウルを拾い上げて育てていたミルが飼育していたというユニコーンの成馬に対して興味を抱き、黙って地図上の旧都を見つめる。





※不遇職3巻の発売に関しての報告

3巻の発売に伴い、WEB版で公開されている3巻部分の話が非公開になります。また、書籍化に際して一部の話しを修正・加筆しています。


レナ「ここから本格的に旧帝国との対立が始まるんだよな……」
アイリス「レナさんの能力も強化され、遂に不遇職の本領を発揮ですね」
マリア「私もここから本格的に出番があるわよ」
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。