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外伝 ~ヨツバ王国編~

旧都へ ※12月発売の不遇職3巻の報告もあります。

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「この旧都、北聖将の領地の丁度北の方角に存在するのか……」
「そうっすね。だけど、この旧都は立ち入り禁止区域ですから近寄らないように気を付けないといけません」
「え?立ち入り禁止?」
「実は数年ぐらい前から旧都には成体のユニコーンが住み着いたんです。そのせいで森人族でも近寄れない聖域になってるんです」
「ユニコーンの成体!?それ、マジか!?」


ユニコーンの成体、分かりやすく言えば大人の年齢を迎えたユニコーンが生息しているという話にダインは驚愕し、一体何がそれほど驚く事なのかとレナが顔を向けるとエリナが代わりに答えてくれた。


「基本的に成体になったユニコーンは人里を離れて外的が少ない地方に移り住むんです。ユニコーンの子供ならヨツバ王国も飼育してますけど、ユニコーンが成体になると人知れずに姿を消します。だけど、この旧都には1体のユニコーンの成馬が住み着いて今では誰も近寄れないっす」
「どうして?」
「成体のユニコーンは竜種にも負けず劣らずの戦闘力を誇るからです。この旧都に住み着いたユニコーンは元々はヨツバ王国で暮らしていたミルという薬師が育てていたユニコーンです。私も会ったことはあるんですけど、デブリ国王と同世代の御婆さんでした」
「そのミルという人が育てていたユニコーンがどうして旧都に住み着いたの?」
「理由は分かりません。だけど、急にユニコーンが現れて旧都を選挙したんです。本来は人が住んでいた場所にユニコーンは住処を作らないんですけど、ミルさんが育てていたユニコーンは旧都を占拠したせいであたしたちも立ち入る事が出来なくなって本当に困ってるんです」
「ミル……?」


レナは何処かで聞き覚えのある名前だと気づき、自分が何時その名前を耳にしたのかと考えていると、シズネが疑問を抱く。


「ちょっと待ちなさい、どうして旧都に現れたそのユニコーンとやらがミルという人が育てていた森人族だと分かったの?」
「ミルさんが育てていたユニコーンは額の一本角が普通のユニコーンよりも短いんです。子供の頃に人間の冒険者に捕まって無理やりに角を削り取られていたところをミルさんが救ってそれ以来育てているそうです。ユニコーンの一本角は生命力の源ですからね……冒険者の人にはよく狙われるそうです」
「うっ!?」


エリナの言葉にダインは冷や汗を流して顔を逸らし、その反応から察するにダインもユニコーンの角がどれほど貴重な素材なのか知っていたらしい。だが、今は人が住んでいないとはいえ、昔は都だった場所を1体のユニコーンが支配しているという話にレナはアイリスと交信してユニコーンの生体を尋ねる。


『ユニコーンはそんなに凄いの?』
『凄い存在ですよ。魔獣の中でも頭が良くて性格が温厚、外見も美しいし額の角から削り取った素材が魔道具や薬品の最高の材料にもなりますからね。だからヨツバ王国はユニコーンという存在を大事に扱っているからこそ、旧都を支配したユニコーンの成馬に関しても手出ししないんです』
『なるほど……』


ユニコーンは魔獣の中でもサイクロプスと同様に温厚な生物らしく、子供の時点で並大抵の魔獣を寄せ付けない強さを誇り、更に額の角はあらゆる分野の素材となるために重宝されるらしい。また、ヨツバ王国ではユニコーンを保護対象として認識している節があるため、旧都を支配したユニコーンに関しては放置しているという。


『というかレナさん、ミルという人物の事を覚えてないんですか?ほら、深淵の森で暮らしていた洞窟を思い出して下さい。あそこは元々はミルが作り出した住居ですよ』
『あ、思い出した!!ミルといえばウルの飼い主だった人か!?』


アイリスの言葉にレナはミルという人物の事を思い出し、深淵の森でミノタウロスに両親を殺されたウルを拾い上げ、レナが出会う前にウルと共に暮らしていた森人族の老婆だと知る。レナが屋敷を抜け出す前に死亡しているので顔を合わせた事はなかったが、彼女が残した住居を利用してレナは何年も深淵の森の中で暮らす事が出来た。


『ミルはヨツバ王国でも有名な薬師だったんですよ。家系は貴族ではありませんけど、腕がいい事から国王に取り立てられてずっと王国に仕えてました。だけど、旅に出る事が好きで若い頃から色々な地方を訪れては国を留守にする事も多かったようです。あ、ちなみに氷雨のギルドに一時期だけ所属していた事もありましたよ』
『叔母様とも知り合いだったわけか……でも、どうして深淵の森で暮らしてたの?』
『あの森の奥には聖遺物が眠る遺跡があるのはレナさんも知っているでしょう?ミルは偶然にもその場所を知って、遺跡を調べるために深淵の森で暮らしていたんです。まあ、結果的にその願いを果たす前に死んじゃったんですけど……』


ウルの最初の飼い主であったミルは既に故人のため、レナも顔を合わせたことはない。彼女の遺品のいくつかはレナが受け継ぎ、特にミルが暮していた洞窟は屋敷を抜け出したばかりの頃のレナにとっては森の中で唯一安全に寝泊まり出来る場所として世話になっていた。

ミルは死亡した事を知っているのはレナだけであり、他の人間は彼女の死を確かめたわけではない。しかし、何年も消息を絶っているので彼女が既に死亡している事を疑う者も多い。アイリスとの交信を遮断するとレナは改めて地図上の旧都を確認して考え込む。


「……地図を見る限り、かなり大きな都だよね。ここなら潜伏出来る場所も多そうだけど」
「いや、駄目ですよ!!いくら兄貴の頼みでもその場所だけは立ち寄る事は出来ないっす!!ユニコーンがいくら温厚な性格の持ち主だと言っても自分の縄張りを侵す存在は容赦なく襲い掛かりますからね!?」
「そんなに恐ろしい存在なのか?俺は実物が見た事がないから何とも言えないが……一体どの程度の強さなんだ?」


レナの呟きを聞いたエリナの慌てぶりを見てゴンゾウは不思議に思い、この場に存在する面子でも相手に出来ない程の魔獣なのかと疑問を抱くが、代わりにシズネが答えてくれた。


「ユニコーンは非常に恐ろしい生物よ。昔、私が所属していた傭兵団が獣人国の商人の護衛を引き受けた時、ある盗賊の集団に襲われたわ。その時、偶然にも川辺で水浴びをしていたユニコーンが居て私達と盗賊の戦闘に巻き込まれたの。その結果……私と他数名の傭兵仲間を残して他の人間は惨殺されたわ」
「惨殺!?」
「ユニコーンはどのような理由であれ、自分に襲いかかる生物には容赦しないわ。私はどうにか雪月花の魔剣のお陰で生き延びる事は出来たけど、他に生き残った人間は身体の一部を失くすほどの大怪我を負っていたわね……体感的にユニコーンはあの牙竜にも匹敵する戦闘力を誇るわ」
「……怖い」
「で、でも普段は優しいんだよ~?」


シズネの経験談を聞いて全員がユニコーンという存在に恐怖を抱くと、慌ててティナがフォローを行う。だが、魔剣を手にしたシズネでさえも生き延びる事が精いっぱいだったという情報を聞く限り、ユニコーンは竜種に近い戦闘力を持つ事が判明した。

地図を確認する限り、北聖将の領地に乗り込む前にレナ達は旧都を大きく迂回する必要がある。どうにか旧都を潜り抜ける事が出来れば大幅な時間の節約は出来そうだが、竜種級の戦闘力を誇る魔獣の縄張りを迂闊に踏み入れるような真似はしたくない。


(ユニコーン、か……)


だが、レナは自分と出会う前にウルを拾い上げて育てていたミルが飼育していたというユニコーンの成馬に対して興味を抱き、黙って地図上の旧都を見つめる。





※不遇職3巻の発売に関しての報告

3巻の発売に伴い、WEB版で公開されている3巻部分の話が非公開になります。また、書籍化に際して一部の話しを修正・加筆しています。


レナ「ここから本格的に旧帝国との対立が始まるんだよな……」
アイリス「レナさんの能力も強化され、遂に不遇職の本領を発揮ですね」
マリア「私もここから本格的に出番があるわよ」
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