不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

ユニコーンの子供

「先に進もう……カゲマルの言う通りだ」
「わ、分かりました……兄貴がそう言うなら」
「正しい判断だ。では、奴等に気付かれないように進むぞ」


レナの言葉にエリナも仕方がなく従い、休憩を中止してレナ達は先に進もうとした。だが、移動を始める前にウルは鼻を引くつかせ、何かに気付いたのか後方を確認した。


「ウォンッ!!」
「ウル?どうした?何か見つけたのか……何だ!?」
「強い気配を感じるでござる!!」
「キュロロッ……!!」


後方から接近する気配を感じ取ったレナ達は戦闘体勢に入ると、木々を揺らしながら姿を現したのは全身に傷を負った白馬だった。その姿を見てレナ達は最初、自分達が遭遇したユニコーンが現れたのかと思ったが、体格差が大きく違い、まだ子供のユニコーンだった。


「ヒィンッ……」
「こ、子供のユニコーン?どうしてこんな所に……」
「深手を負っているでござるな……魔獣に襲われたのでござるか?」
「おい、大丈夫かお前?」
「迂闊に近づくな、怪我を負っていようとそいつも魔獣だぞ!!」


負傷したユニコーンの元にレナが近づこうとするとカゲマルが注意するが、既にユニコーンは疲労困憊の状態で歩く事もままならず、その場にへたり込む。その光景を確認したレナとウルとアインはすぐに駆け寄り、心配そうにユニコーンの子供を抱き上げた。


「酷い怪我だ……大分弱っているな」
「兄貴!!このユニコーンはヨツバ王国の飼育しているユニコーンじゃないですよ!!まだこんなに小さいし、きっと生まれたばかりの赤子です!!」
「赤子?という事はこいつの親ってまさか……」


この状況で生まれたばかりのユニコーンが現れた事にレナはある予想が頭に浮かび、真偽を確かめるためにハンゾウとカゲマルに周囲を捜索するように指示を出す。


「ハンゾウ、カゲさん!!周囲を調べて欲しい!!俺はこいつを治療する!!」
「承知!!」
「……分かった」


ハンゾウは即座に従い、カゲマルはユニコーンを助けるというレナの言葉に眉を顰めるがすぐにハンゾウの後を追う。周囲の捜索は二人に任せた後、レナはウルが顔を舐めても反応を示さないユニコーンの子供に視線を向ける。


「クゥ~ンッ……」
「ヒヒィッ……」
「キュロロッ……」


ウルとアインがユニコーンを励ます様に身体を摩るが、ユニコーンは徐々に意識が弱まり、反応を示さない。既に感覚もなくなっているのか非常に不味い状態に陥っていた。レナはすぐに空間魔法を発動させて異空間に収納しておいた薬草と回復薬を口に流し込む。


「ほら、これを飲め……大丈夫だ、必ず助けるからな」
「ヒヒンッ……」
「兄貴、傷口の方は樹精霊の粘液を塗って止血しました!!これで出血は防げますよ!!」
「そんな物まで持っていたのか……前にホネミンが粘液まみれにされた時に使われた奴だな」


エリナは壺から樹液を想像させる粘液を取り出し、既にユニコーンの傷口に塗り込んで塞いでいた。どうやらヨツバ王国の間で使用される薬品らしく、粘液が傷口を塞ぐ事で出血を抑える効果があるらしい。その間にレナも回復魔法をユニコーンに施し、治療に専念する――




――それから数分後、ハンゾウとカゲマルが戻った時にはどうにかユニコーンの容体も回復し、傷の治療は完了した。ユニコーンは意識を失ってしまったが特に問題はなく、アインが両肩に担いで運び出す事になった。そして戻って来たハンゾウ達に案内され、レナ達は二人が発見したユニコーンの成馬の「死体」を発見した。


「ここでござる……既に拙者たちが訪れたときには事切れていたでござる」
「そんな……」
「酷い……」
「恐らく、片足が食いちぎられた後も走り続けたようだな」
「クゥ~ンッ……」
「キュロロッ……」


レナ達の目の前には大樹の根本の部分で横たわる一本角が折れた状態のユニコーンの死骸が存在し、ここまで逃げてきたのか血の跡が点々と残っていた。左の後脚を無理やり食い千切られたような跡が存在し、ここまで三本脚だけで逃げ延びたらしい。

ユニコーンの死骸の傍の地面には湿っており、エリナが確認した所、どうやら自分が死ぬ前に最後の力を使い果たして子供を出産したらしい。恐らく傷跡の深さとユニコーンの成馬にここまで深手を負わせる相手は限られている事から十中八九はフェンリルとの戦闘に敗れたのだろう。


「こんな酷過ぎるっす……子供を産むためにここまで逃げて来たのに死んじゃうなんて」
「こいつは俺達を救ってくれたユニコーンで間違いないよね。じゃあ、あの時にフェンリルに敗れてここまで逃げてきたのか……」
「恐らくは、な」
「……拙者たちの命の恩人、いや恩馬でござる」


ハンゾウは黙って合唱を行い、エリナは涙を流し、レナも冥福を祈る。カゲマルも思う所はあるのか一度だけ目を伏せるが、すぐにこの場を離れるように指示を出す。


「行くぞ……俺達に時間はない。悪いが、埋葬する事は出来ない」
「そんな……」
「兄者の言う通りでござる。心苦しいでござるが、今は先に進まないといけないでござる」
「キュロロッ……」


先に進む事を提案するカゲマルとハンゾウにエリナは何か言いたげな表情を浮かべるが、二人の言葉は正論だった。レナはせめてユニコーンの開け開かれた瞼を閉じさせると、地面に生えていた花を見つけ、死骸の顔に乗せる。


「行こう……俺達に出来る事はこの子を連れて行く事だけだ」
「そう、ですね……行きましょう」
「ウォオオンッ!!」


エリナは最後にユニコーンに視線を向け、寂しそうな表情を浮かべるがレナの言う通りに従い、ウルは敬意を示す様にユニコーンの死骸に遠吠えを行う――





――しばらく時間が経過した後、レナ達は北聖将の領地へ遂に入り込み、慎重に最新の注意を払いながら進む。幸いというべきか、今の所は兵士の影すら見つかっておらず、順調に東聖将の領地へ向けて進んでいた。


「もう夜は明けたけど、今の所は順調に進んでるな……この調子で行けたらいいけど」
「油断は禁物だ……このまま上手く行くとは限らん」
「…………」
「エリナ殿、大丈夫でござるか?」
「ウォンッ……」


ユニコーンの死骸を発見してからエリナは一言も話さず、黙々と前に進んでいた。案内役である彼女がこの調子なのでハンゾウが心配そうに尋ねるが、エリナは気付いていないのか黙って歩く。そんな彼女の態度にカゲマルは疑問を抱き、エリナの肩を掴む。


「待て、その態度は一体何だ?どうしてお前はあのユニコーンにそこまで感情移入する。いくら奴が結果的に我等の命を救ったとしてもお前の反応は妙だぞ」
「……離してくださいよ、別に怒っているわけじゃないんですから」
「エリナ、黙っていても分からないよ。話したいことがあるなら話しなよ。そうすれば少しは楽になれると思うよ?」


カゲマルの言葉にエリナは冷たく返すが、レナが優しく問い質すと彼女は歩みを止め、ゆっくりと全員に振り返ると目元に涙を流しながら語り始める。


「あたしは10才になるまでは両親と一緒に暮らしていました。父さんは城勤めだったんですけど、武術も魔法も才能もなかったから兵士としてではなく馬の世話役として働かされていました。それで自分が職場に遊びに行ったときは城で飼育されているユニコーンに乗せてくれたりしました」
「じゃあ、エリナは子供の頃からユニコーンと接していたの?」
「ええ、両親が事故で亡くなって独り身になった私を不憫に思ったリンダさんが騎士として育ててくれたんですけど、騎士に昇格した時にユニコーンを与えられたんです。それが嬉しくて毎日馬に乗って走り回りしました……うちのユニコーンがあたしを庇って死ぬまでは……」


昔の事を思い出したエリナは歯を食いしばり、自分の判断ミスで最愛の相棒を死なせてしまった時の事を話す。
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