不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

ユニコーンの名前

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――思いも寄らぬ形でユニコーンの子供を救ったレナ達は北聖将の守護する領地を進み、エリナの叔父である東聖将の元へ向かう。既に森の中に入ってから4日は経過し、今の所は順調にヨツバ王国の兵士にも遭遇せずに進んでいた。

森の中に存在した洞窟の中で一晩を明かしたレナは顔に冷たい物を押し付けられる感覚を覚え、驚いて目を覚ますとそこにはユニコーンの子供がレナの頬を舌で舐めていた。


「ヒヒンッ」
「うわっぷ……ちょ、くすぐったい。分かった、もう起きるから」
「兄貴、もう他の皆は起きてますよ」
「朝食の準備は出来ているでござる」


洞窟の中でユニコーンに起こされたレナは欠伸をしながら身体を起きあげると、既に朝食の準備を整えている他の仲間達の姿を見て自分が最後に起きた事に気付く。カゲマルとウル達の姿は見えないのはどうやら洞窟の外で見回りしているらしく、レナは自分にすり寄ってくるユニコーンの頭を撫でながらエリナとハンゾウの元へ向かう。


「ふぁあっ……外で眠る事は慣れているけど、流石に毎日歩き続けるのはきついな」
「もうちょっとの辛抱っす。この調子なら明日か明後日には叔父さんの領地まで辿り着けますから」
「ウルの嗅覚は本当に優れているでござるな。兵士の臭いを嗅ぎ取っては拙者たち知らせてくれるからお陰でここまで順調に進んでいるでござる」
「うちの子は出来る子なんだよ……うわ、飯を食ってるときにまでじゃれつくなよ」
「ヒヒィンッ」


ハンゾウから渡された魚の串焼きを食べようとしたレナに対してユニコーンの子供は甘えるように頭を押し付け、仕方なくレナはユニコーンの頭を撫でてやる。昔から魔獣に好かれやすい体質だが、まさかユニコーンにまで好かれるとは思わず、エリナは不思議そうな表情を浮かべる。


「それにしても本当に「ユニコ」の奴は兄貴に懐きますね。普通、ユニコーンは清らかな乙女にしか懐かないと言われる程に雄嫌いなんですけど、兄貴にだけはよく懐きますね」
「兄者に至っては近づきすらしないのにレナ殿にはよく懐いているでござる」
「俺の方が理由を知りたいよ……いてて、頭を擦りつけるな。額の角が刺さって痛いんだよっ」
「ヒヒンッ?」


レナが食事中にも構わずに角で背中をつついてくるユニコーンの「ユニコ」の頭を叩き、説教をする。ちなみに名前に関してはエリナが昔飼育していた相棒のユニコーンと同じ名前を名付け、今ではレナ達と共に行動していた。


「それにしてもユニコは本当にこのまま連れて行くの?」
「仕方ないっすよ。勝手に付いてきますし、それにユニコーンの子供は警戒心が薄くて他の生物に懐きやすいから面倒見てあげないとすぐに殺されちゃいますから」
「困った子供でござるな……とはいえ、折角救い出した命を放置するわけにもいかないでござる」
「ヒヒンッ♪」
「おっとと……お前の分の食事も用意してるっす」


エリナも調子を取り戻したのかいつも通りの口調に戻り、ユニコのために採取してきた野草を与える。ユニコーンは草食獣なので植物を与えれば問題なく、肉類は一切食べない。また、子供とはいえユニコーンの子供の力は侮れず、生まれたばかりでもオークやゴブリン程度の魔物ならば相手にならない程の戦力を誇る。

実際にこれまでの移動中にレナ達は何度か魔物と遭遇したが、ユニコは子供でありながら戦闘でも活躍し、夜間にレナ達が休息を取っている間に現れたコボルトの群れを蹴散らす程に強かった。成長すれば竜種級の力を誇るユニコーンの戦力は馬鹿に出来ず、思いもよらずにレナ達は強力な味方を仲間にした。


「……戻ったぞ、周囲に人影はない。出発するなら今の内だ」
「ウォンッ!!」
「キュロロッ」
「あ、お帰り……アインはご飯も見つけてきたのか?」


洞窟の中に偵察から戻って来たカゲマル達が現れると、レナはアインが大量の果物を抱えている事に気付き、どうやら野生で生えていた果物を採取してから戻って来たらしい。サイクロプスの好物は肉類ではなく果物のため、アインは果物を頬張りながら座り込む。


「ヒヒ~ンッ」
「オンッ……ペロペロッ」
「ウルがユニコを可愛がってる……新しい仲間が出来て嬉しがってるのかな?」
「別種の魔獣同士でここまで仲が良いのは珍しい事ですけどね」


ウルが戻ってくるとユニコは嬉しそうに近づき、まるで仲の良い兄弟同士のようにじゃれつく。ウルはユニコの顔を舐めやり、ユニコはウルの柔らかな毛皮に顔をすり寄せる。お互いに本当の両親を小さいとき(ユニコに至っては生まれたばかりの時)に失っている事から仲間意識を抱いている節があり、ウルはユニコを可愛がる。


「キュロロッ」
「ヒィンッ……ヒヒンッ」
「アインも嬉しそうだな。けど、ユニコは果物は食べないみたいだぞ?」


アインもユニコを気にかけて自分が抱える果物を差しだすが、いらないのかユニコは首を横に振って拒否を示し、仕方なくアインはハンゾウに差しだす。


「キュロッ……」
「せ、拙者にくれるのでござるか?有難いでござるが、拙者はもう朝食を済ませたばかりで……」
「戯れるのはそこまでにしろ。朝食が済み次第、すぐに出発するぞ。周辺に人の気配がないとはいえ、ここがまだ北聖将の領地であることを忘れるな」


気が抜きすぎている仲間達にカゲマルは厳しい言葉を掛けると、レナ達は早々に朝食を負えて移動を再開した。エリナの案内によるともう少しで北聖将の領地を抜けられるらしく、東聖将の領地に入れば一先ずは安全圏であるという。


「あと少しで叔父さんの領地に入れるっす。この調子なら明日の朝には辿り着けます」
「よし、頼んだぞウル。お前の嗅覚が頼りだ」
「ウォンッ!!」
「声を抑えろ……森人族は地獄耳だからな」


ウルが先導して森の中を進み、臭いを嗅ぎ分けながら周囲の警戒を怠らずにレナ達は東聖将の領地へ向かう。今の所は一度も兵士と遭遇していないとはいえ、油断は決して出来ず、東聖将の領地に入るまで警戒は緩めてはならない。

既にバルトロス王国の王都を出発してから日数が経過しており、カゲマルが変装して追い払ったヨツバ王国の使者は王都へと戻っているだろう。王都にてバルトロス王国にてヨツバ王国の国王が健在だと知ったカレハと家臣たちがどのような反応をするのか興味深い所ではあるが、今はレナ達も一刻も早く安全圏に移動する必要がある。


「スンスンッ……クゥンッ?」
「どうしたウル?何か気になるのか?」
「ウォンッ……」


移動の最中にウルは立ち止まり、不思議そうに首を傾げる。その動作に疑問を抱いたレナはウルに尋ねると、隣で歩いていたユニコとアインも立ち止まって何かに気付いたように周囲を見渡す。


「ヒヒンッ……」
「キュロロッ?」
「どうかしたのでござるか?急に立ち止まって……」
「何か気になるんですかね?」
「分からない……でも、この先に何か居るのか?」
「……だが、この先からは何も感じられないぞ」


魔獣達の反応から察するに進行方向の先に何かが存在するとは思われたが、カゲマルやハンゾウの感知系のスキルには反応せず、レナの魔力感知にも何も捉えられない。だが、魔獣達はここから先を通過する事を嫌がるように下がり、警戒心を露わにして唸り声を上げる。


「グルルルッ……!!」
「ウル、この先に何か居るんだな?」
「ウォンッ!!」


レナの言葉にウルは頷き、相棒の勘を信じたレナはこの先に待ち構える存在を見抜くため、掌を前に差しだして風の聖痕の力を発揮させた。
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