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外伝 ~ヨツバ王国編~
赤獣
『お察しの通り、カレハは南聖将と取引を持ち掛けたんです。領地内に存在する他の将軍の兵士を引き上げさせ、更に領地内で得られる税の一部をレイビに渡す事を約束して自分に忠誠を誓わせたんです』
『やっぱりそういう話か、だけどそんな事をすれば南方の領地の警備が低下するんじゃないの?』
『その辺もカレハちゃんと考えてますよ。兵士の数が増やせないのであれば使役する魔獣の質を高くすればいい……そのためにキラウに協力させて変異体を生み出したんです』
『……なるほど、やっと話が繋がった』
変異体が出現した理由とはカレハと南聖将が手を組み、野生の魔物に吸血鬼の血液を与える事で変異体を生み出して能力を強化させ、契約獣として従えさせるために実験を行っているのだ。しかも自分の領地内ではなく、敢えて他の将軍の領地内で実験を行っている部分が質が悪い。
『北聖将の領地内で実験を行っているのは南聖将が北聖将を嫌っているからです。北聖将は最も国王に信頼されていたので優遇されていたのに対し、度々問題行動を起こすレイビは国王からも煙たがられてました。なので南聖将は嫌がらせも兼ねて北聖将の領地で実験を行ったんです』
『くそ野郎だな』
『まあ、六聖将の中で最も禄でもない奴であるのは間違いありませんが……実験自体は順調に進んでいます。北聖将の兵士に被害は生まれていますが、色々と実験を重ねた結果、コボルト種の魔獣が吸血鬼の血液に適合しやすい事が判明しました』
『そのコボルトを配下に加えて戦力を強化させようというわけか……なんて奴だ』
吸血鬼の血液は全ての魔物を凶暴化させて強化させるわけではなく、適合が失敗すれば魔物は死んでしまうらしい。実験の結果によるとコボルト以外の魔物の場合は殆どが変異体に変化せずに死亡したらしいが、コボルトだけは適合率が非常に高く、殆どの個体が吸血鬼の能力を身に着けたという。
『実験の結果、変異体のコボルトは他の生物の血液を吸収する事でその魔物の性質をも受け継ぐ事が出来るようです』
変異体のコボルトは吸血鬼のように他の生物の血を吸うだけではなく、吸収した魔物の性質も受け継ぐらしく、例えばオークやブタンのような力の強い魔物の場合は筋力が強化される。他にもゴブリンのような魔物の場合は知能が高くなり、赤毛熊のような猛獣の場合は獰猛性が高くなるという。
『カレハは変異体の名前を「赤獣」と名付け、現在では100体近くのコボルトの変異体が森の中に存在します。近々、変異体を回収させるために南聖将が訪れて捕獲作戦を実行させるつもりです。表向きは北聖将の協力のために赴き、裏では折角育ち切った変異体が殺される前に捕獲して戦力に加えさせるつもりですよ』
『あんなのが100体もいるのかこの森……最悪だな』
変異体と化したコボルトの戦闘力は決して侮れず、通常種のコボルトはせいぜいオークよりも厄介な相手だが、変異体に化したコボルトの戦闘力は赤毛熊にも匹敵するだろう。単純に考えれば赤毛熊級の力を持つ魔物が100体も加われば南聖将の部隊も強化され、もう他の将軍の兵士の協力は得られずとも領地内の守備は行えるだろう。
『でも、強力な魔物を複数体も操るのは魔物使いに大きな負担になるんじゃないの?』
『そこがこの実験の最大の成果なんです。変異体は確かに強力な魔物ですが、元を正せば吸血鬼の能力によって強化されただけの魔物に変わりはありません。つまり、変異体であろうと身体に掛かる負荷は通常種のコボルトを使役するのと全く同じなんです。コボルト程度の魔物なら南聖将の配下の兵士でも10体だろうと簡単に操る事が出来ますからね。きっとこれからも実験を繰り返してより強力な変異体を生み出そうとしますよ』
『マジかよ……』
自国の兵士を犠牲に晒しながらも実験を繰り返し、より強力な魔物を生み出して戦力の強化を計るカレハとレイビのやり方は最低最悪の行為である事は間違いない。しかし、実験の結果だけを考えれば戦力の強化という点では十分な成果を示していた。
この方法でカレハは北聖将だけではなく、南聖将を完全に手中に収め、更に魔獣部隊を強化に成功した。仮に国王が戻って来たとしても南聖将はカレハを支持する可能性が高まり、南聖将を寝返らせるのは不可能と言えるだろう。
『その赤獣を上手い具合に全滅させる方法ないの?死骸に毒を仕込むとか……』
『無理でしょうね。半ば吸血鬼かした魔物というのは非常に厄介で、毒に対する耐性を身に付けます。レナさん達が助けた兵士の人達も既に死骸に毒を塗るなどの方法は試しましたが失敗に終わっています』
『という事は俺達に打つ手はなしか……』
『諦めるしかありませんね。放置すれば厄介な敵になる事は間違いありませんけど、現状ではレナさん達に打てる手はありません。ここは作戦通りに東聖将の元へ向かった方が無難です』
アイリスと交信を終えたレナはだいたいの事情を把握すると、これからの事を考える。この状況で兵士達にアイリスから教わった情報を流すのはあまりにも不自然なので話す事も出来ないが、それでも兵士達にレナは忠告を行う。
「あの……皆さんはもう引き返した方がいいと思います。他にも変異体が居るかもしれませんし、何時までも戻らないと他の兵士に怪しまれると思いますし」
「あ、ああ……だが、君達はどうするつもりだ?」
「私達はこれから……」
「待て、迂闊に情報を話す奴がいるか」
エリナが馬鹿正直に自分達がこれから東聖将の元へ向かおうとしている事を話しかけると、カゲマルが即座に口を塞ぐ。その態度を見た兵士達はお互いの顔を見て頷き合い、立ち上がった。
「我々はここで他の仲間と合流する。魔物に関しては君たちの事は他の者には報告しない。探索中に魔物に襲われ、撤退を余儀なくされたとだけ報告しておこう。それで構わないか?」
「はい、くれぐれも俺たちの事は内緒にしてください」
「分かった。だが、これだけは言わせてくれ……カレハ様が国王の代行を務める事に不満を抱く者は決して少なくはない。我々以外にも必ず国王様の帰還を心待ちしている者もいるはずだ。それだけは忘れないでくれ」
最年長の兵士の事にレナは頷き、握手を行うと兵士達は一先ず先に他の仲間と合流するために洞窟を離れた。その様子をカゲマルは見送った後、レナに問い質す。
「彼等を信じてこのまま行かせるのか?もしも彼等が嘘を吐いてこちらの事を報告したらどうする?」
「そんな事なんてしないよ。少なくともあの人達が嘘を吐いてはいない」
「何故、言い切れるのでござるか?」
「カゲマルもハンゾウも黙って行かせたからだよ。2人は嘘を見抜く能力も覚えているんでしょ?」
「……知っていたのか」
スキルの中には相対する人間が嘘を吐いているのかを見抜く能力もいくつか存在し、忍者であるカゲマルとハンゾウも心の内を読むというわけではないが、それに近い能力を持っている。その二人が黙って見送った時点で兵士達が本心で話していた事は間違いないと判断したレナは彼等を行かせた。カゲマルとハンゾウは顔を見合わせ、レナに尋ねる。
「マリア殿から拙者たちの能力の事を聞いていたのでござるか?」
「いや、叔母様は何も言っていないよ」
「何?ならばどうして我々の能力を知っていた?」
「直感だよ……そう、ただの直感」
2人の言葉にレナは意味深な表情を浮かべて笑顔を浮かべると、その顔を見てカゲマルとハンゾウは一瞬だけ焦った表情を浮かべ、レナの笑顔がマリアと重なった。
(まさかこいつ……本当にただの直感で俺達の能力を見抜いたというのか?いや、有り得ん……)
(この心の奥底が見えないような笑顔、まるでマリア殿を相手にしているようでござる……)
レナの表情を見たカゲマルとハンゾウは自分達が思った以上にレナは凄い人物なのではないかと思い込むが、実際のレナの胸中は穏やかではなく、アイリスの助言を思い出す。
『もしも兵士達を見送る時にカゲマルが何かを言い出したら適当に答えてください。理由は何でもいいですから、ともかく笑顔を浮かべながら答えれば問題ないですよ』
『そうなの?』
『だけど、今度からはちゃんと考えてから行動して下さいよ。レナさんの不用意な行動のせいで全ての計画が台無しになる可能性もあったんですから。今度から私に相談する時はもっと早くして下さいね』
『分かった……これからはちゃんと気を付けるよ』
兵士達が去る前にアイリスから助言を受けていたレナはこれで良かったのかと不安を抱くが、カゲマルもハンゾウも兵士を見送る事に文句を言わないので安心し、とりあえずは移動を再開する事にした――
『やっぱりそういう話か、だけどそんな事をすれば南方の領地の警備が低下するんじゃないの?』
『その辺もカレハちゃんと考えてますよ。兵士の数が増やせないのであれば使役する魔獣の質を高くすればいい……そのためにキラウに協力させて変異体を生み出したんです』
『……なるほど、やっと話が繋がった』
変異体が出現した理由とはカレハと南聖将が手を組み、野生の魔物に吸血鬼の血液を与える事で変異体を生み出して能力を強化させ、契約獣として従えさせるために実験を行っているのだ。しかも自分の領地内ではなく、敢えて他の将軍の領地内で実験を行っている部分が質が悪い。
『北聖将の領地内で実験を行っているのは南聖将が北聖将を嫌っているからです。北聖将は最も国王に信頼されていたので優遇されていたのに対し、度々問題行動を起こすレイビは国王からも煙たがられてました。なので南聖将は嫌がらせも兼ねて北聖将の領地で実験を行ったんです』
『くそ野郎だな』
『まあ、六聖将の中で最も禄でもない奴であるのは間違いありませんが……実験自体は順調に進んでいます。北聖将の兵士に被害は生まれていますが、色々と実験を重ねた結果、コボルト種の魔獣が吸血鬼の血液に適合しやすい事が判明しました』
『そのコボルトを配下に加えて戦力を強化させようというわけか……なんて奴だ』
吸血鬼の血液は全ての魔物を凶暴化させて強化させるわけではなく、適合が失敗すれば魔物は死んでしまうらしい。実験の結果によるとコボルト以外の魔物の場合は殆どが変異体に変化せずに死亡したらしいが、コボルトだけは適合率が非常に高く、殆どの個体が吸血鬼の能力を身に着けたという。
『実験の結果、変異体のコボルトは他の生物の血液を吸収する事でその魔物の性質をも受け継ぐ事が出来るようです』
変異体のコボルトは吸血鬼のように他の生物の血を吸うだけではなく、吸収した魔物の性質も受け継ぐらしく、例えばオークやブタンのような力の強い魔物の場合は筋力が強化される。他にもゴブリンのような魔物の場合は知能が高くなり、赤毛熊のような猛獣の場合は獰猛性が高くなるという。
『カレハは変異体の名前を「赤獣」と名付け、現在では100体近くのコボルトの変異体が森の中に存在します。近々、変異体を回収させるために南聖将が訪れて捕獲作戦を実行させるつもりです。表向きは北聖将の協力のために赴き、裏では折角育ち切った変異体が殺される前に捕獲して戦力に加えさせるつもりですよ』
『あんなのが100体もいるのかこの森……最悪だな』
変異体と化したコボルトの戦闘力は決して侮れず、通常種のコボルトはせいぜいオークよりも厄介な相手だが、変異体に化したコボルトの戦闘力は赤毛熊にも匹敵するだろう。単純に考えれば赤毛熊級の力を持つ魔物が100体も加われば南聖将の部隊も強化され、もう他の将軍の兵士の協力は得られずとも領地内の守備は行えるだろう。
『でも、強力な魔物を複数体も操るのは魔物使いに大きな負担になるんじゃないの?』
『そこがこの実験の最大の成果なんです。変異体は確かに強力な魔物ですが、元を正せば吸血鬼の能力によって強化されただけの魔物に変わりはありません。つまり、変異体であろうと身体に掛かる負荷は通常種のコボルトを使役するのと全く同じなんです。コボルト程度の魔物なら南聖将の配下の兵士でも10体だろうと簡単に操る事が出来ますからね。きっとこれからも実験を繰り返してより強力な変異体を生み出そうとしますよ』
『マジかよ……』
自国の兵士を犠牲に晒しながらも実験を繰り返し、より強力な魔物を生み出して戦力の強化を計るカレハとレイビのやり方は最低最悪の行為である事は間違いない。しかし、実験の結果だけを考えれば戦力の強化という点では十分な成果を示していた。
この方法でカレハは北聖将だけではなく、南聖将を完全に手中に収め、更に魔獣部隊を強化に成功した。仮に国王が戻って来たとしても南聖将はカレハを支持する可能性が高まり、南聖将を寝返らせるのは不可能と言えるだろう。
『その赤獣を上手い具合に全滅させる方法ないの?死骸に毒を仕込むとか……』
『無理でしょうね。半ば吸血鬼かした魔物というのは非常に厄介で、毒に対する耐性を身に付けます。レナさん達が助けた兵士の人達も既に死骸に毒を塗るなどの方法は試しましたが失敗に終わっています』
『という事は俺達に打つ手はなしか……』
『諦めるしかありませんね。放置すれば厄介な敵になる事は間違いありませんけど、現状ではレナさん達に打てる手はありません。ここは作戦通りに東聖将の元へ向かった方が無難です』
アイリスと交信を終えたレナはだいたいの事情を把握すると、これからの事を考える。この状況で兵士達にアイリスから教わった情報を流すのはあまりにも不自然なので話す事も出来ないが、それでも兵士達にレナは忠告を行う。
「あの……皆さんはもう引き返した方がいいと思います。他にも変異体が居るかもしれませんし、何時までも戻らないと他の兵士に怪しまれると思いますし」
「あ、ああ……だが、君達はどうするつもりだ?」
「私達はこれから……」
「待て、迂闊に情報を話す奴がいるか」
エリナが馬鹿正直に自分達がこれから東聖将の元へ向かおうとしている事を話しかけると、カゲマルが即座に口を塞ぐ。その態度を見た兵士達はお互いの顔を見て頷き合い、立ち上がった。
「我々はここで他の仲間と合流する。魔物に関しては君たちの事は他の者には報告しない。探索中に魔物に襲われ、撤退を余儀なくされたとだけ報告しておこう。それで構わないか?」
「はい、くれぐれも俺たちの事は内緒にしてください」
「分かった。だが、これだけは言わせてくれ……カレハ様が国王の代行を務める事に不満を抱く者は決して少なくはない。我々以外にも必ず国王様の帰還を心待ちしている者もいるはずだ。それだけは忘れないでくれ」
最年長の兵士の事にレナは頷き、握手を行うと兵士達は一先ず先に他の仲間と合流するために洞窟を離れた。その様子をカゲマルは見送った後、レナに問い質す。
「彼等を信じてこのまま行かせるのか?もしも彼等が嘘を吐いてこちらの事を報告したらどうする?」
「そんな事なんてしないよ。少なくともあの人達が嘘を吐いてはいない」
「何故、言い切れるのでござるか?」
「カゲマルもハンゾウも黙って行かせたからだよ。2人は嘘を見抜く能力も覚えているんでしょ?」
「……知っていたのか」
スキルの中には相対する人間が嘘を吐いているのかを見抜く能力もいくつか存在し、忍者であるカゲマルとハンゾウも心の内を読むというわけではないが、それに近い能力を持っている。その二人が黙って見送った時点で兵士達が本心で話していた事は間違いないと判断したレナは彼等を行かせた。カゲマルとハンゾウは顔を見合わせ、レナに尋ねる。
「マリア殿から拙者たちの能力の事を聞いていたのでござるか?」
「いや、叔母様は何も言っていないよ」
「何?ならばどうして我々の能力を知っていた?」
「直感だよ……そう、ただの直感」
2人の言葉にレナは意味深な表情を浮かべて笑顔を浮かべると、その顔を見てカゲマルとハンゾウは一瞬だけ焦った表情を浮かべ、レナの笑顔がマリアと重なった。
(まさかこいつ……本当にただの直感で俺達の能力を見抜いたというのか?いや、有り得ん……)
(この心の奥底が見えないような笑顔、まるでマリア殿を相手にしているようでござる……)
レナの表情を見たカゲマルとハンゾウは自分達が思った以上にレナは凄い人物なのではないかと思い込むが、実際のレナの胸中は穏やかではなく、アイリスの助言を思い出す。
『もしも兵士達を見送る時にカゲマルが何かを言い出したら適当に答えてください。理由は何でもいいですから、ともかく笑顔を浮かべながら答えれば問題ないですよ』
『そうなの?』
『だけど、今度からはちゃんと考えてから行動して下さいよ。レナさんの不用意な行動のせいで全ての計画が台無しになる可能性もあったんですから。今度から私に相談する時はもっと早くして下さいね』
『分かった……これからはちゃんと気を付けるよ』
兵士達が去る前にアイリスから助言を受けていたレナはこれで良かったのかと不安を抱くが、カゲマルもハンゾウも兵士を見送る事に文句を言わないので安心し、とりあえずは移動を再開する事にした――
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