不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

月光樹

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――兵士達と思わぬ邂逅を果たしてから半日が経過した頃、レナ達は北聖将と東聖将の領地の境目へと辿り着く。将軍同士の領地を区別するため、森の中には「月光樹」と呼ばれる特殊な樹木が植え付けられていた。月光樹は夜間の間にだけ葉が月の光を想像させる光を放ち、レナ達が辿り着いた時には深夜を迎えていたので月光樹の葉は光り輝いていた。


「へえっ……これが月光樹か、何だか神秘的な光景だな」
「遂にここまで辿り着けましたね!!ここから先は叔父さんの領地だからもう安全ですよ……と、言いたい所ですけど、予想通りこの場所にも見張りがいますね」
「巧妙に隠れているでござるが、相当数の兵士が潜伏しているでござるな」
「光り輝く樹木に近付く存在が居れば簡単に見分けられるからな。見張りが多いのも必然だろう」


月光樹によって遮られた東聖将の領地を視界に捉えたにも関わらず、北聖将が派遣したと思われる見張りの兵士が大勢配置されているらしく、夜間の間に潜り抜ける事は難しそうだった。赤獣の件で兵士達は常に団体行動を行うように心がけているらしく、相当な数の兵士が月光樹の周辺に配置されているので忍び込むのは難しい。

レナ達は遠目から月光樹の様子を確認し、警備が薄くなるまで待機する事にした。ここまで来た以上は誰にも見つからずに東聖将の領地へ忍び込むため、好機を待つ。見張りはカゲマルに任せると、レナ達は大樹の枝の上で休憩を行う。


「ふうっ……流石に疲れたな、もう王都を離れてからどれくらいの日数が経過したんだろう?」
「今日で12日目ですよ。思ったよりも速いペースで来れましたね」
「あともうひと踏ん張りでござる」
「水を飲むか?」
「何で皆はそんなに元気なの……」


レナは大樹の枝の上に座り込んで身体を休ませる中、他の者達は特に何事もないように過ごす。レナも体力には自信があったが、やはり人目を避けて行動をし続ける行為は思う以上に精神的にも肉体的にも負荷が大きく、身体に疲労が蓄積していた。


(カゲマルとハンゾウはこういう潜伏行動は慣れてそうだけど、エリナも産まれた時から森の中で生活している事に慣れているせいか俺と違って全然疲れていなさそうだな……この調子で戦闘になったら戦えるかな?)


極力目立たずに行動するためにウルやアインなどの魔獣に乗り込んで移動する行為は避けているため、基本的に森の中を移動する時は徒歩である事が多い。レナも数年は深淵の森で暮らしていたが、あの時はウルが大きくなった頃から背中に乗って移動する機会が多くなり、そもそも深淵の森とアトラス大森林では地形も樹木の大きさも全く異なる。

アトラス大森林をレナは密林ジャングルのような場所だと思い込んでいたが、実際の所は自分が小人になったのではないかと錯覚するほどに巨大な樹木によって構成された樹海だった。行く手を阻むように存在する無数の大樹を潜り抜けながら移動しなければならず、しかも隠れられる場所が多いので常に兵士と遭遇する事を警戒して移動しなければならない。


(この森の中に普通の人間が入り込んだら生きて出られないという噂もあながち間違っていないな……深淵の森と段違いだ)


森の中には魔獣も多く、出来る限り戦闘を避けてきたレナ達もここまで辿り着くのに数十回と魔獣と交戦した。中には魔獣だけではなく、食虫植物も存在し、枝に絡みついた蔓だと思い込んでいた植物が襲い掛かった時はレナも焦った。


(でも、あと少しで安全な場所へ辿り着ける。そうすれば水晶札を使って王国に戻って皆を連れ出す事が出来る。あと少しだ……)


カゲマルから受け取った水晶札を眺め、これを使用すればレナは瞬時に王城へ転移して仲間と合流し、空間魔法を駆使してアトラス大森林に呼び出す事も出来る。もう少しで仲間と合流出来ると考えればこの程度の苦は問題なく、レナはアイリスと交信を行う。


『アイリス……アイリス?』
『……あ、ごめんなさい。どうかしました?』


アイリスと交信を行うと珍しい事に彼女からの返事が遅れ、少し不思議に思ったレナは何事か起きたのか尋ねた。


『どうかしたの?何か、いつもより交信が遅かった気がしたけど』
『いえ、何故かレナさんの魂の波長を掴みにくくて交信するのに手間取りました』
『手間取った?まだ風の聖痕が俺の身体に馴染み切っていなかったの?』
『そういう訳じゃないんですけど……う~ん、おかしいですね。別にホネミンさんの時のように異世界の魂を持つ人間が近くにいるわけでもないのに』


交信が上手く繋がらなかった事にアイリスも疑問を抱き、理由を調べるためかしばらくは黙り込むと、やがて納得したように彼女の声があがる。


『あ、理由が分かりました。レナさん、もしかして月光樹の近くに居ます?夜になると葉が青白く光る樹です』
『うん、200メートルぐらい離れた場所に居るけど』
『なるほど、だからですか。どうやら月光樹のせいでレナさんとの交信が妨害されてますね』
『妨害?』


一体どういうことなのかとレナが尋ねると、アイリスは理由を答える前に月光樹の起源から説明を始めた。


『月光樹と呼ばれる樹木は元々はこの世界には存在しなかったんです。だけど、遥か昔にエルフ王国……あ、ヨツバ王国の前に存在した国家の名前です。そのエルフ王国が最初に召喚した勇者が作り出した植物なんですよ』
『植物を作り出す?』
『勇者しか習得する事が出来ない「樹木医」と呼ばれる職業が存在するんです。元々、アトラス大森林は深淵の森のように普通の森だったんですけど、この樹木医の勇者が召喚された事で木々が急速に成長し、今では世界一を誇る樹海へと成長したんです』


あまり聞き慣れない職業かもしれないが「樹木医」というのは地球にも存在し、植物専門の医者のような物かとレナは解釈する。アイリスによるとアトラス大森林に生えている樹木がここまで成長した要因はこの勇者の仕業らしく、元々は深淵の森のように魔物が巣食うだけの普通の森だったという。


『この樹木医の勇者は森人族が安全に暮らせる国を作り出すためにまずは森の中の植物を育成して樹海を構成し、森人族達が住みやすい環境を整えたんです。その際に樹海に生息する魔物に森人族が襲われないように彼は色々な植物を作り出しました。樹液が様々な薬の素材にもなる「世界樹」魔物だけが嫌う香りを発する「香樹」魔石のように強い魔力を帯びる木の実を生み出す「魔光樹」レナさんが何度か遭遇した事もある「樹精霊ドライアド」も元々はこの人が作り出したんですよ』
『樹精霊も!?』


外見は人間にそっくりな姿をした植物の魔物である樹精霊も元々は過去に召喚された勇者が作り出した存在という事にレナは驚くが、アイリスはさらに説明を続けた。


『この勇者が作り出した植物の中には「月光樹」も含まれます。実はこの植物、元々は勇者が地球から持ち込んだ植物を利用して作り出されたんです。召喚される前は家庭菜園を行うために所持していたようですが、この世界に召喚された時に一緒に持ち込んでいたんです』
『へえ、そうなんだ』
『問題なのはその種を植えた結果、環境が異なるせいか全く予期せぬ植物に育ってしまったんです。しかも通常なら有り得ない程の速度で成長する癖に数百年以上の時を経ても未だに朽ちる様子もない樹木に育ち切ったのが「月光樹」なんですよ』
『つまり、あの樹木は元々は地球産の植物だったのか……』


レナは月光樹が地球の植物がこの世界の環境に適合して成長した植物だと知り、驚きを隠せない。夜の間だけ葉が美しく光り輝く樹木などレナは見た事もなく、元々は何の植物の種だったのか気になった。



※ちょこっとおまけ


カタナヅキ「兄夫婦がインフルエンザにかかり、母も風邪になりました。皆さんも体調管理には気をつけてください。私はもう手遅れですが……(; ゚Д゚)ガハアッ!?」
アイリス「あんたのもただの風邪でしょうがっ!!( ・`д・´)」
レナ「もしも投稿が途絶えたら作者がウイルスに屈したと思ってください(´ω`)」
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