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外伝 ~ヨツバ王国編~
屋敷への侵入者
「ふうっ……流石に疲れて来たな」
「兄貴、大丈夫っすか?」
「平気だよ。これだけの人数を治した事がないからちょっときついのは本当だけど……」
「これを飲め、魔力草の丸薬だ。噛まないで飲み込む方が回復効果が高い」
「お、ありがとう」
カゲマルから渡された丸薬を飲み込んだレナは額の汗を拭い、治療を必要とする人間は未だに多く、このままでは魔力が尽きてしまう。この場にコトミンやティナが存在すれば楽に慣れたのだが、生憎と二人ともバルトロス王国の王城に居る。
「ふうっ……結構治療したけど、まだ居るのか」
「拙者が確認した限りでは屋敷の外には200人程度の負傷者が集まっていたでござる。このままではこちらの薬の方が付き添うでござる」
「申し訳ありません……薬草は有り余っているのですが、この街には薬師や回復魔導士の職業の人間が非常に少なく、回復薬の生産もあまり行っていません。これだけの人数の怪我人が出てくるなど予想もしていなかったので……」
治療の最中にレナ達の会話を聞いたリョウコが申し訳なさそうに答えるが、まさかこのような事態に陥るなど想定出来るはずがない。アトラス大森林ではバルトロス王国の領地よりも大量の薬草の栽培に成功しているが、生憎とそれを薬品に作り替えるだけの技術を持つ者は少ない。
この街の兵士達は狩猟を頻繁に行うので魔物との戦闘で負傷する事態も少なくはないのだが、基本的には薬草は煎じて飲むだけでも回復効果があるため、わざわざ回復薬のような薬剤にまで調合する機会が少ない。仮に薬を必要とする事態に陥っても薬草を薬剤に調合出来る技術を持つ者は多くなく、普段から貯蔵していた薬剤も数は限られていた。
「かか、もうそーこのくすりないっ!!」
「拙者たちが所有する薬も尽きたでござる……」
「そうですか……薬草はまだ残っているのですね?ではそれを磨り潰して水を入れた鍋に混ぜた後、熱してください。色合いが緑から黄緑に変化した所で火を止め、一度冷やしてから飲ませてください」
「うぃっす!!」
リョウコの指示を受けたエリナ達は急いで薬草をすり鉢で粉状になるまで磨り潰し、台所だけでは量が足りないので庭で焚火を行って鍋を沸かす。回復薬の作り方はもっと複雑なのだが、今は質よりも量を重視して簡易な手順で回復薬の原料の「回復液」の生産を急ぐ。
レナの方も治療が可能な負傷者のみに回復魔法を施し、魔力が尽きる前に一人でも多くの人間を救うために励む。だが、どれだけ治療しようと負傷者は後を絶たず、このままではレナの魔力が先に尽きるのは間違いなかった。
「くっ……眩暈がしてきた」
「無理をしないで下さい!!水を飲んでしばらくの間は休んで下さい!!」
「す、すいません……」
完全に魔力が尽きる前にレナはリョウコから休憩を言い渡され、まだ治療を待つ人間は残っているが、ここでレナが倒れると大きな支障が生まれる。リョウコの指示に従ってレナは井戸がある方向に向けて歩み、その途中で立ち眩みを覚えて危うく転びかける。
「うわっと……あれ?」
「……気を付けろ」
「あ、どうも……」
前のめりに倒れる寸前でカゲマルがレナの服を掴み、どうにか転倒を阻止した。レナは何とか立ち上がった時、懐から何かを落す。
「あ、これは……」
懐に入っていたのはマリアが残した「転移魔法陣」の魔法が付与された「水晶札」である事に気付き、拾い上げたレナは水晶札を使えばバルトロス王国の王城に帰還し、他の仲間達を呼び出せる事を思い出す。当初の作戦ではヨツバ王国に侵入後、東聖将のギンタロウの協力を得てからバルトロス王国に帰還し、剣聖を筆頭とした仲間達を呼び出す手筈だった。
「そうだ、これを使えばコトミンやティナも……」
「待て、それを使うつもりか?」
水晶札を取り上げたレナはこれを使えば本職の回復魔導士であるティナやコトミンを呼び寄せる事が出来ると考えたが、カゲマルがレナの肩に手を置いて反対する。
「その水晶札は東聖将の協力を得てから使う予定のはずだった。だが、今の状況でそれを使う事は許さんぞ」
「でも……」
「冷静になれ、俺たちの目的は何だ?この街の住民を救うためにここへやって来たのか?違うだろう、俺たちの目的はマリア様の救出、そしてキラウの捕縛のために危険を犯してこの街まで辿り着いたんだぞ」
カゲマルはレナが水晶札を取り上げ、この場で使用する事を許可出来なかった。東聖将であるギンタロウは現在の状況ではレナ達に協力出来ない事を告げた以上、ここで一度しか扱う事が出来ない水晶札を使用して他の仲間達を呼び出す行為は賛成出来なかった。
確かにこの状況でバルトロス王国の王城に帰還すれば城内で待機しているはずのティナやコトミン、その他にも王国に在中しているはずの薬師や回復魔導士の職業の人間を呼び出してこの街の住民の治療に当たらせれば多くの民衆の命は救われるだろう。
しかし、民衆を救ったところでレナ達の状況が一変するわけではなく、東聖将のギンタロウに協力を得られたわけでもないのに仲間を呼び寄せれば今度はレナ達が危険に晒される。もしもギンタロウがレナ達を受け入れない、あるいは受けられない状況に陥った場合はレナ達はこの地を去らねばならず、そうなると何処にも安全な場所など存在しない。
「東聖将の協力が得られるまではこの水晶札の使用は出来ん。その事を忘れるな、もしもお前が独断でこの水晶札を使おうとすればいくらマリア様の甥であろうと俺は全力で阻止するぞ」
「……分かってる」
カゲマルの言葉を受けてレナは一旦冷静になり、感情に任せて水晶札を使用すれば取り返しのつかない事態になる事を理解する。数多くの負傷者を見て冷静さを保てなくなったが、ここに来た目的を思い返し、水晶札を使うときは慎重に判断しなければならなかった。
「人助けをすることを悪いとは言わん。だが、目的を忘れるな」
「ああ……ごめん」
「……理解すればいい、水を飲め」
カゲマルは竹製の水筒を渡すと、レナは有難く受け取ろうとした時、屋敷内に悲鳴が響き渡る。
「わぁああああっ!!かかぁあああっ!!」
「いや、止めて!!その子を離しなさいっ!?」
「何だっ!?」
「ちっ……賊かっ!!」
屋敷の内部からリョウコとヨウコの悲鳴が上がり、即座にレナ達は屋敷の中に乗り込むと、そこには異様な光景が広がっていた。
「くっ……ヨウコちゃんを離せっ!!」
「うわぁああんっ!!エリナぁっ……!!」
「ガアアッ!!」
――屋敷の広間ではクロスボウを構えるエリナと頭から血を流したリョウコが膝を付き、二人の対面にはヨウコを抱えたコボルトの変異体が存在した。前に森の中で遭遇したコボルトと同種である事は間違いなく、目元を充血させたコボルトはヨウコを片腕で抱えながら唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「こ、コボルトがどうしてここに……!?」
「く、くそっ……ヨウコ様を離せっ!!」
「待って、迂闊に近寄らないで!!下手に攻撃すればヨウコに危険が……!!」
「し、しかし……!!」
コボルトはヨウコを人質にしているために迂闊に攻撃出来ず、特に砲撃魔法や精霊魔法の類ではヨウコにも被害が及ぶ可能性が高い。エリナのクロスボウに関しても普通に射抜くだけではコボルトを仕留めきるとは限らず、だからといって魔法の力で威力を強めるとヨウコの身も危険に晒してしまう。
「兄貴、大丈夫っすか?」
「平気だよ。これだけの人数を治した事がないからちょっときついのは本当だけど……」
「これを飲め、魔力草の丸薬だ。噛まないで飲み込む方が回復効果が高い」
「お、ありがとう」
カゲマルから渡された丸薬を飲み込んだレナは額の汗を拭い、治療を必要とする人間は未だに多く、このままでは魔力が尽きてしまう。この場にコトミンやティナが存在すれば楽に慣れたのだが、生憎と二人ともバルトロス王国の王城に居る。
「ふうっ……結構治療したけど、まだ居るのか」
「拙者が確認した限りでは屋敷の外には200人程度の負傷者が集まっていたでござる。このままではこちらの薬の方が付き添うでござる」
「申し訳ありません……薬草は有り余っているのですが、この街には薬師や回復魔導士の職業の人間が非常に少なく、回復薬の生産もあまり行っていません。これだけの人数の怪我人が出てくるなど予想もしていなかったので……」
治療の最中にレナ達の会話を聞いたリョウコが申し訳なさそうに答えるが、まさかこのような事態に陥るなど想定出来るはずがない。アトラス大森林ではバルトロス王国の領地よりも大量の薬草の栽培に成功しているが、生憎とそれを薬品に作り替えるだけの技術を持つ者は少ない。
この街の兵士達は狩猟を頻繁に行うので魔物との戦闘で負傷する事態も少なくはないのだが、基本的には薬草は煎じて飲むだけでも回復効果があるため、わざわざ回復薬のような薬剤にまで調合する機会が少ない。仮に薬を必要とする事態に陥っても薬草を薬剤に調合出来る技術を持つ者は多くなく、普段から貯蔵していた薬剤も数は限られていた。
「かか、もうそーこのくすりないっ!!」
「拙者たちが所有する薬も尽きたでござる……」
「そうですか……薬草はまだ残っているのですね?ではそれを磨り潰して水を入れた鍋に混ぜた後、熱してください。色合いが緑から黄緑に変化した所で火を止め、一度冷やしてから飲ませてください」
「うぃっす!!」
リョウコの指示を受けたエリナ達は急いで薬草をすり鉢で粉状になるまで磨り潰し、台所だけでは量が足りないので庭で焚火を行って鍋を沸かす。回復薬の作り方はもっと複雑なのだが、今は質よりも量を重視して簡易な手順で回復薬の原料の「回復液」の生産を急ぐ。
レナの方も治療が可能な負傷者のみに回復魔法を施し、魔力が尽きる前に一人でも多くの人間を救うために励む。だが、どれだけ治療しようと負傷者は後を絶たず、このままではレナの魔力が先に尽きるのは間違いなかった。
「くっ……眩暈がしてきた」
「無理をしないで下さい!!水を飲んでしばらくの間は休んで下さい!!」
「す、すいません……」
完全に魔力が尽きる前にレナはリョウコから休憩を言い渡され、まだ治療を待つ人間は残っているが、ここでレナが倒れると大きな支障が生まれる。リョウコの指示に従ってレナは井戸がある方向に向けて歩み、その途中で立ち眩みを覚えて危うく転びかける。
「うわっと……あれ?」
「……気を付けろ」
「あ、どうも……」
前のめりに倒れる寸前でカゲマルがレナの服を掴み、どうにか転倒を阻止した。レナは何とか立ち上がった時、懐から何かを落す。
「あ、これは……」
懐に入っていたのはマリアが残した「転移魔法陣」の魔法が付与された「水晶札」である事に気付き、拾い上げたレナは水晶札を使えばバルトロス王国の王城に帰還し、他の仲間達を呼び出せる事を思い出す。当初の作戦ではヨツバ王国に侵入後、東聖将のギンタロウの協力を得てからバルトロス王国に帰還し、剣聖を筆頭とした仲間達を呼び出す手筈だった。
「そうだ、これを使えばコトミンやティナも……」
「待て、それを使うつもりか?」
水晶札を取り上げたレナはこれを使えば本職の回復魔導士であるティナやコトミンを呼び寄せる事が出来ると考えたが、カゲマルがレナの肩に手を置いて反対する。
「その水晶札は東聖将の協力を得てから使う予定のはずだった。だが、今の状況でそれを使う事は許さんぞ」
「でも……」
「冷静になれ、俺たちの目的は何だ?この街の住民を救うためにここへやって来たのか?違うだろう、俺たちの目的はマリア様の救出、そしてキラウの捕縛のために危険を犯してこの街まで辿り着いたんだぞ」
カゲマルはレナが水晶札を取り上げ、この場で使用する事を許可出来なかった。東聖将であるギンタロウは現在の状況ではレナ達に協力出来ない事を告げた以上、ここで一度しか扱う事が出来ない水晶札を使用して他の仲間達を呼び出す行為は賛成出来なかった。
確かにこの状況でバルトロス王国の王城に帰還すれば城内で待機しているはずのティナやコトミン、その他にも王国に在中しているはずの薬師や回復魔導士の職業の人間を呼び出してこの街の住民の治療に当たらせれば多くの民衆の命は救われるだろう。
しかし、民衆を救ったところでレナ達の状況が一変するわけではなく、東聖将のギンタロウに協力を得られたわけでもないのに仲間を呼び寄せれば今度はレナ達が危険に晒される。もしもギンタロウがレナ達を受け入れない、あるいは受けられない状況に陥った場合はレナ達はこの地を去らねばならず、そうなると何処にも安全な場所など存在しない。
「東聖将の協力が得られるまではこの水晶札の使用は出来ん。その事を忘れるな、もしもお前が独断でこの水晶札を使おうとすればいくらマリア様の甥であろうと俺は全力で阻止するぞ」
「……分かってる」
カゲマルの言葉を受けてレナは一旦冷静になり、感情に任せて水晶札を使用すれば取り返しのつかない事態になる事を理解する。数多くの負傷者を見て冷静さを保てなくなったが、ここに来た目的を思い返し、水晶札を使うときは慎重に判断しなければならなかった。
「人助けをすることを悪いとは言わん。だが、目的を忘れるな」
「ああ……ごめん」
「……理解すればいい、水を飲め」
カゲマルは竹製の水筒を渡すと、レナは有難く受け取ろうとした時、屋敷内に悲鳴が響き渡る。
「わぁああああっ!!かかぁあああっ!!」
「いや、止めて!!その子を離しなさいっ!?」
「何だっ!?」
「ちっ……賊かっ!!」
屋敷の内部からリョウコとヨウコの悲鳴が上がり、即座にレナ達は屋敷の中に乗り込むと、そこには異様な光景が広がっていた。
「くっ……ヨウコちゃんを離せっ!!」
「うわぁああんっ!!エリナぁっ……!!」
「ガアアッ!!」
――屋敷の広間ではクロスボウを構えるエリナと頭から血を流したリョウコが膝を付き、二人の対面にはヨウコを抱えたコボルトの変異体が存在した。前に森の中で遭遇したコボルトと同種である事は間違いなく、目元を充血させたコボルトはヨウコを片腕で抱えながら唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「こ、コボルトがどうしてここに……!?」
「く、くそっ……ヨウコ様を離せっ!!」
「待って、迂闊に近寄らないで!!下手に攻撃すればヨウコに危険が……!!」
「し、しかし……!!」
コボルトはヨウコを人質にしているために迂闊に攻撃出来ず、特に砲撃魔法や精霊魔法の類ではヨウコにも被害が及ぶ可能性が高い。エリナのクロスボウに関しても普通に射抜くだけではコボルトを仕留めきるとは限らず、だからといって魔法の力で威力を強めるとヨウコの身も危険に晒してしまう。
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