不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

南聖将の目的

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『南聖将の目的は東聖将の命だけではなく、この領地その物を狙っています』
『え?何で?南方の領地を守るだけで精いっぱいの癖に?』
『お忘れですか?現在の南聖将は赤獣を利用して軍隊の強化を行っています。もう他の将軍から兵士を借りる必要もないし、この際に邪魔な東聖将とその家族を殺すつもりなんですよ』
『なんて奴だ……カレハは南聖将の行動を傍観する気か?』
『いえ、カレハも南聖将がここまで早く行動するのは予想外だったようですね。南聖将が勝手に赤獣を利用して東聖将の領地に攻め込んだ事も知りません』


カレハも南聖将の行動の速さは予想外だったらしく、彼女としても六聖将同士が争うのは不本意な状況だという。バルトロス王国との戦争に備えて準備を進めているにも関わらず、国内で将軍同士が争うような事態が勃発したら戦争所ではない。


『南聖将のレイビは赤獣を手にした事で自分の力が増長したと思い込んでいるんですよ。実際に戦力という点では確かに赤獣化した魔物達は強力ですけど』
『ろくでもない奴だな……それで今まで助けてくれた東聖将さんの所の兵士を人質にして街にまで襲撃を仕掛けるなんて屑だな』
『まあ、性格は最悪なのは事実ですが、作戦自体はよく考えられています。街の中に魔物が襲撃したとしてもアトラス大森林ではそれほど珍しい話ではありませんし、倒した赤獣の死体を証拠にして南聖将が仕掛けてきたことをカレハに糾弾しても聞き入れてくれないでしょう。レイビはあくまでもカレハ側の将軍ですから』
『八方塞がりか……』


現時点の王国の代表がレイビの味方をしているという点が厄介でどれだけの証拠を揃えようとカレハがレイビを庇えば問題は出来ない。しかも証拠になりそうな物も魔物の死骸だけではそもそも証拠に成り得るかと言われれば疑問である。


『仮に赤獣の死体を王都に送り込んでレイビの仕業だと宣言しても信じてくれる人は少ないでしょうね。赤獣と化した死体は目元が充血して瞳が赤くなるという共通点がありますが、それだけでは証拠としては厳しいです。あくまもで魔物の亜種が集団で襲いかかってきたと言えば誤魔化されます』
『そうなの?でも、レイビが赤獣を操っている証拠があれば他の人も信じてくれるかな?』
『どうでしょうね、その方法なら他に信じてくれる人も出てくるかもしれませんけど、500人の兵士の人質を取られているのはこちらの方です。もしもレイビの配下を捕まえて無実を証明しても難しいと思いますよ』
『厄介な相手だな……』


レイビが調子に乗って東聖将の領地に襲撃を仕掛けられるのは「赤獣」を利用して魔物使いの能力で安全な場所から攻撃を仕掛けられるためだとも言えた。魔物使いは使役化した魔獣の行動を読み取る事が出来るため、距離が離れすぎなければ魔物を操作して再びギンタロウやその家族を狙う可能性もある。

今回の襲撃はどうにか被害を抑える事は出来たが、再び襲撃を受けた場合は被害を出さずに守り切れる保証はない。レイビが赤獣を量産し、大量の魔物をここに送り込んできた場合は対処も難しい。


『でも、ご安心ください。しばらくの間はレイビは街に襲撃を仕掛ける事はないですよ』
『え?何で?』
『魔物を赤獣化させて強化させる方法にもデメリットが存在するんですよ。吸血鬼の血液に馴染まなければ魔物は死亡してしまいます。実際に赤獣化の成功確率が高いコボルトですらも成功率は50%程度ですから』
『そうなのか……他の魔物の成功確率は?』
『20~30%程度ですかね。主に肉食獣系の魔物の方が成功率が高いです。ちなみに一番成功確率が低いのは一角兎のような草食獣の魔物です』
『そうだったのか……』
『それに吸血鬼の血液を提供しているのはキラウを支配下に収めたカレハです。カレハが送り込む血液の分だけし方赤獣は作れないんですよ。仮に血液が適合するまでは時間も掛かりますし、魔物を捕獲して血液を注入する作業だって危険ですから』


赤獣が無制限に生み出されるわけではないと知ってレナは安心したが、それでも事態がこちら側に不味い事に変わりはなく、仕方なくアイリスと交信を斬って赤獣を操作していた魔物使いの追跡を断念した。


「ううっ……かかぁっ」
「もう大丈夫ですよ……ほら、泣き止みなさい。貴方もギンタロウの子供ならばこの程度の事で怯えては駄目です」
「うんっ……」
「さあ、魔獣さん達にもお礼を言いなさい」


リョウコはヨウコを抱えながらウル達の元へ近づくと、ヨウコは涙を拭いながら自分を救い出してくれたウル達に礼を告げた。


「ありがとう、いぬさん、あおい人さん、うまさん」
「ウォンッ」
「キュロッ?」
「ヒヒンッ……」


礼を言われたユニコはヨウコを慰めるように舌を伸ばし、涙を拭い取る。もしもウル達が存在しなければヨウコは連れ去られていた可能性も高く、そうなった場合は事態はより最悪になっていただろう。


「ヨウコちゃんは怪我してませんか?」
「大丈夫です。さあ、ヨウコ……今度は屋敷の中で大人しく眠っていなさい。今日は外に出ては駄目よ」
「うん……」


ヨウコを宥め乍らリョウコは屋敷の奥へ姿を消し、残されたレナ達は彼女が無事であった事に安堵する。そして怪我人の治療を再開しようとした時、玄関の方からギンタロウと他の兵士達の声が響き渡った。


「今戻ったぞ!!全員無事か!?」
「おお、ギンタロウ様だ!!」
「将軍が来てくれたぞ!!もう安全だ!!」
「良かった……」


ギンタロウが姿を現した事で怪我人たちも安心した表情を浮かべ、そんな彼等の反応を見てギンタロウは不思議そうな表情を浮かべると、庭に倒れている赤獣化したコボルトの死体を見て表情を険しくさせた。


「こいつは……リョウコ、ヨウコは無事か!?」
「貴方!!無事だったのですね!!」


真っ先に家族の名前を呼んだギンタロウは屋敷の中に駆け上がると、リョウコが涙を流しながら駆けつけ、抱きしめあう。リョウコが無事で会った事にギンタロウは安堵すると、ヨウコの姿が見えない事に気付く。


「ヨウコはどうした!?屋敷に居るのか!?」
「ええ、大丈夫ですよ……ですが、今はゆっくり休ませてください」
「……そうか、分かった!!」


リョウコの表情から色々と察したギンタロウはヨウコに会わず、屋敷の中で横たわっている大量の怪我人と治療を行っているレナ達の姿を見てだいたいの状況を把握した。


「お前達、今すぐに宿舎に保管している予備の回復薬と薬草を運び出してこい!!それと屋敷の周囲の警備も固めろ!!巡回の兵士の数を増員し、街に侵入した魔物共を全て駆逐しろ!!」
『はっ!!』
「俺はしばらくはこの屋敷に留まる!!何か起きたらすぐに俺を呼べ!!どんなに些細な事でも気になる事があれば報告は欠かせずに行うんだぞ!!」



将軍らしく配下に適切な指示を与えたギンタロウは中庭に移動すると鉞を地面に突き立て、腕を組んだ状態で制止する。緊急事態が起きるまではここに待機して屋敷の警護を行うらしく、兵士達は早急に指示通りに行動を開始する。




――それから数時間後、街中を兵士達が探索した結果、街中に侵入した魔物は全て駆逐された事が報告された。安全を確保した事をギンタロウは民衆に大々的に宣言すると、怪我人を一時的に自分の屋敷に預かり、治療を負えるまで保護する事を決めた。そしてレナ達はその日の晩にギンタロウ達に呼び出され、今後はどうするべきか話し合う事になった。
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