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外伝 ~ヨツバ王国編~
ギンタロウの判断
「――まずは最初に礼を言わせてくれ、怪我人の治療と俺の娘の命を救ってくれた事を感謝する!!ありがとう!!」
「ちょ、顔を上げてください!?」
屋敷の広間にてギンタロウは額を畳の上に擦り付ける勢いで頭を下げた。慌ててレナが顔を上げさせると、ギンタロウは珍しく気落ちしたような態度で本題に入る。
「だが、娘の命の恩人である君等には悪いが、早急にここから去った方が良い。恐らくだが、ここは戦場となるだろう」
「え!?どういう事っすか叔父さん!?」
「うむ……これは先ほど報告が届いたのだが、北方の領地の兵士がこの東壁街(この街の名前)に接近している事が判明した。恐らくだが数日中にはここへ辿り着くだろう」
「軍隊が動いたというのか?」
ギンタロウの言葉にレナ達は動揺を隠せず、南聖将が仕掛けてきたばかりだというのに今度は北聖将の軍が東壁街に接近しているとなれば嫌な予感しかせず、ギンタロウは恐らくはカレハの差し金だと判断していた。
「恐らく、北聖将を動かしたのはカレハ王女だろう。武力を傘に俺を東聖将の座から降ろすか、あるいは恭順を求めるつもりだろうな……南聖将の奴ならばともかく、北聖将が相手となるとこちらも覚悟を決めなければならん。だが、君達はエリナを除けばこの国の人間ではない。すぐにこの街を立ち去ると良い」
「ふむ……面倒な事態になってきたな」
「確か北聖将の兵力は1万を超えたよね?それに南聖将のフェンリルも同行していたとしたら……」
「かなり不味い状況でござるな……」
北聖将の軍隊が動いているという報告にレナ達もお互いの顔を見合わせ、どうするべきか思い悩む。本来の予定ではギンタロウの協力を得てヨツバ王国とバルトロス王国の戦争が始まる前にマリアを吸収してキラウを捕縛する予定だったが、この状況ではそれも難しい。
ギンタロウとしても自分の娘の恩人の安全を祈っての忠告のため、彼の言葉に決して悪意はない。だが、実際問題にここで退き返したとしても状況が好転するわけではなく、ここまで国内に入り込む事が出来たにも関わらずにバルトロス王国へ戻る事など出来るはずもなかった。
「ギンタロウさん、俺達がここに残るのは迷惑ですか?」
「そんな事はないが……下手をしたらここは戦地になるからな。もしも君達が残るようならば命の保証は出来ない。それに君達の力を知った者達が共に戦うように言ってくるだろう。特にあの魔獣達の力は侮れんからな」
庭の方に視線を向けるとウル達が怪我人の家族である子供達と共に微笑ましく遊ぶ光景が広がり、ほのぼのとした風景ではあるが白狼種、サイクロプス、ユニコーンの持つ戦闘力を考えると北聖将と相対するような状況に陥った場合は兵士達の中から魔獣達を共に戦わせるように進言する者も現れるのは明白だった。
「俺としても大切な姪とその友人である君達を戦には巻き込むような事態は避けたい。ここから去るというのならば護衛を与えよう。出来れば今日の夜か明日の朝には発った方が良い。それ以上に時間を掛けると北方から接近する軍隊と鉢合わせする可能性もあるからな」
「叔父さん……どうにか話し合いで止められないんですか?」
「俺もそうしたいところだが、北聖将は非常に頭の固い男だからな。あいつは上からの命令ならば何を犠牲にしても果たす性格の男だ。融通が利かないという点ではクレナイ殿と一緒だがな……」
ギンタロウは北聖将のハシラの性格を知り尽くしているため、話し合いでどうにかなる相手ではない事は知っていた。だからこそレナ達に早急に立ち去るように忠告するが、レナ達は自分達が立ち去った後にこの東壁街がどうなるのかを尋ねる。
「もしも北聖将が動いた場合、この東壁街はどうなるんですか?」
「十中八九は取り囲まれるだろう。そしてこれを機に南聖将のレイビの奴も動くのは間違いない。そうなった場合、兵力差は最低でも4倍は存在する事になるな」
「4倍……」
「しかも南聖将の場合は魔獣も操るからな、いくらこの街の地形が外部からの侵攻に対して守備に優れているとはいえ、籠城戦でもされたら先にこちらの兵糧が尽きてしまうのは間違いない。何しろここには兵士以外に多くの民衆が存在するからな」
「兵糧はどれくらい持つんすか?」
「一か月……切り詰めれば一か月半程度だろうな」
東壁街は周囲を岩山に取り囲まれている天然の要害のため、兵糧に余裕があれば籠城で北聖将と南聖将の軍隊の侵攻を防ぐ事も難しくはない。だが、兵糧に関しては備蓄は少なく、そもそも他の軍隊が侵攻してくる事など想定すらしていなかった。
「他の将軍に救援を求める事は出来ないのか?カレハに不満を持つ将軍はいないのか?」
「難しいな……西聖将の奴は何を考えているかよく分からない男だから救援を求めるのは出来ん。かといって守備将も護衛将もカレハ王女の傍で控えているからそもそも救援を求める事すら不可能だからな」
「じゃあ、誰の助けも得られないという事でござるか?」
「うむ……そういう事だ」
ギンタロウは深くため息を吐き出し、カレハに不満を持つ者も少なくはないと思われるが、流石にこの状況下でギンタロウのために動く者は少ないだろう。
基本的に六聖将同士は普段からあまり接触せず、自分達の領地を守る事に専念している。特に西聖将に関しては特別な立場である事から王族の命令であろうと拒否する権限を持ち、逆にそれが幸いしてカレハも西聖将に関しては命令を出来ないので西聖将が動く事はないのが救いだった。
「さあ、状況は理解しただろう?君達も早々に立去ると良い……持て成しをすると言っておきながらこのような結果になって本当にすまない」
「叔父さん……あ、兄貴、どうにか出来ないんですか?」
「う~んっ……」
エリナに話を吹っ掛けられたレナは思い悩み、正直に言って今更王国へ引き返すという選択肢はない。だが、東聖将の領地を離れたとしても潜入生活に戻るだけで安全な場所は確保も難しいだろう。
出来ればこの地に留まり、北聖将の軍隊を撃破する方法があればよいのだが、兵力差が4倍もある軍隊を相手にどのような手段を用いれば撃退出来るのかと言われれば名案は思い付かない。ここはアイリスに頼って彼女から良案を授かるかと考えた時、カゲマルがレナの肩を掴む。
「おい、お前の空間魔法はどの程度の時間を維持する事が出来る?」
「え?」
「急にどうしたのでござるか兄者?」
唐突なカゲマルの言葉にレナは驚き、ハンゾウも不思議がるとカゲマルはもう一度尋ねた。
「いいから質問に答えろ。お前の空間魔法を維持できる時間はどの程度だ?」
「……多分、1日ぐらいならなんとかなるけど」
「では魔力回復薬などで魔力を定期的に回復させた場合はどうなる?」
「その方法だと……多分、2日ぐらいはいけるかな?」
「2日か……時間が少ないが、致し方あるまい」
「兄者?一体何をする気でござるか?」
レナの返答を聞いたカゲマルは水晶札を取り出すと、レナに差しだす。この状況でどうして水晶札を渡したのか疑問を抱きながらもレナは受け取ると、カゲマルはギンタロウに振り返る。
「ギンタロウ殿、兵力差は4倍といったな。その予想は確実なのか?」
「あ、ああっ……物見の報告によると北聖将の軍隊だけでも1万と2千は存在するらしいからな」
「そうか……その程度の数ならば問題はないな」
「兄者?問題ないとはどういう意味でござる?」
ギンタロウの言葉を聞いてもカゲマルは余裕の表情を浮かべ、レナ達は彼が何を以て4倍の兵力差が存在する北聖将の軍隊を恐れないのか不思議に思うと、カゲマルは途轍もない作戦を発表した。
「いいか、俺たちが最初にする事は――」
――彼の話を全て聞き入れたレナ達は驚愕を隠せず、とんでもない作戦を考えたカゲマルに呆れにも近い感情を抱くが、確かに彼の作戦通りに事が運べば4倍の兵力差を覆す可能性も存在した。
「ちょ、顔を上げてください!?」
屋敷の広間にてギンタロウは額を畳の上に擦り付ける勢いで頭を下げた。慌ててレナが顔を上げさせると、ギンタロウは珍しく気落ちしたような態度で本題に入る。
「だが、娘の命の恩人である君等には悪いが、早急にここから去った方が良い。恐らくだが、ここは戦場となるだろう」
「え!?どういう事っすか叔父さん!?」
「うむ……これは先ほど報告が届いたのだが、北方の領地の兵士がこの東壁街(この街の名前)に接近している事が判明した。恐らくだが数日中にはここへ辿り着くだろう」
「軍隊が動いたというのか?」
ギンタロウの言葉にレナ達は動揺を隠せず、南聖将が仕掛けてきたばかりだというのに今度は北聖将の軍が東壁街に接近しているとなれば嫌な予感しかせず、ギンタロウは恐らくはカレハの差し金だと判断していた。
「恐らく、北聖将を動かしたのはカレハ王女だろう。武力を傘に俺を東聖将の座から降ろすか、あるいは恭順を求めるつもりだろうな……南聖将の奴ならばともかく、北聖将が相手となるとこちらも覚悟を決めなければならん。だが、君達はエリナを除けばこの国の人間ではない。すぐにこの街を立ち去ると良い」
「ふむ……面倒な事態になってきたな」
「確か北聖将の兵力は1万を超えたよね?それに南聖将のフェンリルも同行していたとしたら……」
「かなり不味い状況でござるな……」
北聖将の軍隊が動いているという報告にレナ達もお互いの顔を見合わせ、どうするべきか思い悩む。本来の予定ではギンタロウの協力を得てヨツバ王国とバルトロス王国の戦争が始まる前にマリアを吸収してキラウを捕縛する予定だったが、この状況ではそれも難しい。
ギンタロウとしても自分の娘の恩人の安全を祈っての忠告のため、彼の言葉に決して悪意はない。だが、実際問題にここで退き返したとしても状況が好転するわけではなく、ここまで国内に入り込む事が出来たにも関わらずにバルトロス王国へ戻る事など出来るはずもなかった。
「ギンタロウさん、俺達がここに残るのは迷惑ですか?」
「そんな事はないが……下手をしたらここは戦地になるからな。もしも君達が残るようならば命の保証は出来ない。それに君達の力を知った者達が共に戦うように言ってくるだろう。特にあの魔獣達の力は侮れんからな」
庭の方に視線を向けるとウル達が怪我人の家族である子供達と共に微笑ましく遊ぶ光景が広がり、ほのぼのとした風景ではあるが白狼種、サイクロプス、ユニコーンの持つ戦闘力を考えると北聖将と相対するような状況に陥った場合は兵士達の中から魔獣達を共に戦わせるように進言する者も現れるのは明白だった。
「俺としても大切な姪とその友人である君達を戦には巻き込むような事態は避けたい。ここから去るというのならば護衛を与えよう。出来れば今日の夜か明日の朝には発った方が良い。それ以上に時間を掛けると北方から接近する軍隊と鉢合わせする可能性もあるからな」
「叔父さん……どうにか話し合いで止められないんですか?」
「俺もそうしたいところだが、北聖将は非常に頭の固い男だからな。あいつは上からの命令ならば何を犠牲にしても果たす性格の男だ。融通が利かないという点ではクレナイ殿と一緒だがな……」
ギンタロウは北聖将のハシラの性格を知り尽くしているため、話し合いでどうにかなる相手ではない事は知っていた。だからこそレナ達に早急に立ち去るように忠告するが、レナ達は自分達が立ち去った後にこの東壁街がどうなるのかを尋ねる。
「もしも北聖将が動いた場合、この東壁街はどうなるんですか?」
「十中八九は取り囲まれるだろう。そしてこれを機に南聖将のレイビの奴も動くのは間違いない。そうなった場合、兵力差は最低でも4倍は存在する事になるな」
「4倍……」
「しかも南聖将の場合は魔獣も操るからな、いくらこの街の地形が外部からの侵攻に対して守備に優れているとはいえ、籠城戦でもされたら先にこちらの兵糧が尽きてしまうのは間違いない。何しろここには兵士以外に多くの民衆が存在するからな」
「兵糧はどれくらい持つんすか?」
「一か月……切り詰めれば一か月半程度だろうな」
東壁街は周囲を岩山に取り囲まれている天然の要害のため、兵糧に余裕があれば籠城で北聖将と南聖将の軍隊の侵攻を防ぐ事も難しくはない。だが、兵糧に関しては備蓄は少なく、そもそも他の軍隊が侵攻してくる事など想定すらしていなかった。
「他の将軍に救援を求める事は出来ないのか?カレハに不満を持つ将軍はいないのか?」
「難しいな……西聖将の奴は何を考えているかよく分からない男だから救援を求めるのは出来ん。かといって守備将も護衛将もカレハ王女の傍で控えているからそもそも救援を求める事すら不可能だからな」
「じゃあ、誰の助けも得られないという事でござるか?」
「うむ……そういう事だ」
ギンタロウは深くため息を吐き出し、カレハに不満を持つ者も少なくはないと思われるが、流石にこの状況下でギンタロウのために動く者は少ないだろう。
基本的に六聖将同士は普段からあまり接触せず、自分達の領地を守る事に専念している。特に西聖将に関しては特別な立場である事から王族の命令であろうと拒否する権限を持ち、逆にそれが幸いしてカレハも西聖将に関しては命令を出来ないので西聖将が動く事はないのが救いだった。
「さあ、状況は理解しただろう?君達も早々に立去ると良い……持て成しをすると言っておきながらこのような結果になって本当にすまない」
「叔父さん……あ、兄貴、どうにか出来ないんですか?」
「う~んっ……」
エリナに話を吹っ掛けられたレナは思い悩み、正直に言って今更王国へ引き返すという選択肢はない。だが、東聖将の領地を離れたとしても潜入生活に戻るだけで安全な場所は確保も難しいだろう。
出来ればこの地に留まり、北聖将の軍隊を撃破する方法があればよいのだが、兵力差が4倍もある軍隊を相手にどのような手段を用いれば撃退出来るのかと言われれば名案は思い付かない。ここはアイリスに頼って彼女から良案を授かるかと考えた時、カゲマルがレナの肩を掴む。
「おい、お前の空間魔法はどの程度の時間を維持する事が出来る?」
「え?」
「急にどうしたのでござるか兄者?」
唐突なカゲマルの言葉にレナは驚き、ハンゾウも不思議がるとカゲマルはもう一度尋ねた。
「いいから質問に答えろ。お前の空間魔法を維持できる時間はどの程度だ?」
「……多分、1日ぐらいならなんとかなるけど」
「では魔力回復薬などで魔力を定期的に回復させた場合はどうなる?」
「その方法だと……多分、2日ぐらいはいけるかな?」
「2日か……時間が少ないが、致し方あるまい」
「兄者?一体何をする気でござるか?」
レナの返答を聞いたカゲマルは水晶札を取り出すと、レナに差しだす。この状況でどうして水晶札を渡したのか疑問を抱きながらもレナは受け取ると、カゲマルはギンタロウに振り返る。
「ギンタロウ殿、兵力差は4倍といったな。その予想は確実なのか?」
「あ、ああっ……物見の報告によると北聖将の軍隊だけでも1万と2千は存在するらしいからな」
「そうか……その程度の数ならば問題はないな」
「兄者?問題ないとはどういう意味でござる?」
ギンタロウの言葉を聞いてもカゲマルは余裕の表情を浮かべ、レナ達は彼が何を以て4倍の兵力差が存在する北聖将の軍隊を恐れないのか不思議に思うと、カゲマルは途轍もない作戦を発表した。
「いいか、俺たちが最初にする事は――」
――彼の話を全て聞き入れたレナ達は驚愕を隠せず、とんでもない作戦を考えたカゲマルに呆れにも近い感情を抱くが、確かに彼の作戦通りに事が運べば4倍の兵力差を覆す可能性も存在した。
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