不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
651 / 2,090
外伝 ~ヨツバ王国編~

一騎打ち

しおりを挟む
「おらぁあああっ!!シャドウ・バインド・スペシャル!!」
「金剛撃!!」
『ぎゃあああっ!?』


森中に轟音が鳴り響き、数十人の兵士が一度に蹴散らされ、何事かとハシラが視線を向けるとそこには影を生き物ように操る青年と巨人族の拳士が存在した。2人の他にも大剣を掲げた大柄な女性と人魚族の少女が存在し、倒れているジャンヌを抱き上げる姿をハシラは目撃する。


「ほら、起きる……これを飲めば大丈夫」
「ううっ……す、すいません」
「たく、3人だけで無茶するんじゃないよ。それにしてもこれだけの森人族を相手にするのなんて久しぶりだね……現役を引退した身とはいえ、これだけの人数を目にすると身体が震えるね」
「バル!!それに他の皆も追いついたのか!!」
「新手か……」


レナは姿を現したバルたちに喜び、ハシラは苦い表情を浮かべる。人数差は圧倒的に北聖将軍の方が多いが、レナ達も一人一人が常人離れした実力者揃いのため、このまま戦闘に入ればどちらも大きな被害は免れないだろう。特に剣聖の称号に至った剣士達を相手にするのは分が悪く、ハシラはレナと向かい合う。


(この少年……他の者と僅かにだが雰囲気が違う。見た所、まだ15、16程度の年齢だがこの少年が恐らく一番強いだろう)


先ほどの戦闘で垣間見せたレナの力を見てハシラは彼こそがこの場で最大の強敵だと判断し、会話の内容から察するにレナこそが統率者であると判断した。しかも風の聖痕の持ち主となると森人族の兵士の最大の強みである「精霊魔法」を無効化されるため、実質的にこちらの魔法は通用しない。


(仮にこの少年が本当にハヅキ家の人間だとしたら、あの紋様は間違いなく本物だ。となると風属性の魔法は受け付けないだろう……だが、聖痕の力を継承する者はハヅキ家の後継者のみ、どうしてこんな少年がその力を持っている?いや、今はそんな事はどうでもいい)


風の聖痕を所持している時点でレナは風属性の精霊魔法は受け付ける事はなく、仮にこの場の全員が精霊魔法を発動させた所でレナには通用しない。その事を理解したハシラは精霊魔法ではなく、自分の技量のみで倒すしかないと判断した。


「少年、名前は何という?」
「名前?レナ……レナ・バルトロスだよ」
「バルトロスだと……その名前を持つ者はバルトロス王家のみのはず。そうか、噂でハヅキ家の娘の一人がバルトロス王族と結婚したと聞いていたが、まさかその息子か?」
「そうだよ。そしてあんた等が拘束しているマリアの甥だ」
「拘束だと……何の話だ?」


レナの言葉にハシラは訝し気な表情を浮かべ、どうやらマリアがカレハに拘束されている事を知らない様子らしく、戯言だと判断したハシラは大弓を構えるとレナと向かい合う。


「お前達の目的は何だか知らんが、ギンタロウの手助けとして俺を捕まえに来たのだろう?」
「まあ、そんな所かな……」
「いいだろう、ならばここは一騎打ちで決着を付けようではないか。大将は誰だ?お前か?」
「将軍!!本気ですか!?」


ハシラの思いもがけない言葉に兵士達の方が驚愕し、ここで一騎打ちを提案されるとは思わなかったレナはどうするべきか考え、他の仲間達に視線を向けるとハシラの提案を受け入れるように促す。


「レナ、どうやらこいつは覚悟を決めたようだね。ここはあんたが決めな」
「そうね、もちろん私達はここで戦っても問題ないけど、大将同士の一騎打ちなら被害は少なくて済むわ」
「ぼ、僕としてはそろそろ引き返したいかな……」
「ダイン……さっきの威勢はどうした?」


一騎打ちの提案に対してバルとシズネはレナの判断を任せ、他の者達もそれに賛同し、レナは退魔刀を抱えて悩む。だが、考えてもこのまま数千人の兵士を相手に全員で戦うよりも自分一人がハシラと一騎打ちを仕掛ける方が被害が最小限に抑える事は間違いなく、ここは相手の提案を引き受けた。


「分かった、俺たちが勝てばあんたを拘束する。それでいい?」
「……ならばこちらが勝てばお前達を拘束する。それでいいか?」


お互いの条件を付きつけるとレナとハシラは20メートル程離れた所で向かい合い、お互いの武器を構える。レナは退魔刀だけを両手に握りしめ、ハシラの方は赤色に塗りつけられた矢を番え、エリナに告げる。


「エリナ!!お前が決闘の合図を行え!!」
「は、はい!!それじゃあ……この矢が地面に落ちた時に決闘の開始の合図とさせていただきます!!」
「矢?」


エリナはクロスボウに矢を装填すると、上空へ向けて構える。どうやら空に打ち込んだ矢が地面に落ちた瞬間に決闘を始めるらしく、これが森人族の決闘の合図の通例らしい。


(なるほど……エリナの技量なら矢を撃ち込んでもすぐ傍の地面に落ちるように計算して撃ち込めるか、弓使いならではの決闘法だな。となると矢が落ちた瞬間が狙い目か……)


相手の動向を伺うだけではなく、いつ落ちてくるかも分からない矢に集中しなければならず、一瞬の油断も出来ない。だが、一騎打ちを引き受けた以上は引き下がる事は出来ず、レナは退魔刀を抱えてハシラと向かい合う。

他の仲間達もレナの様子を見つめ、万が一にも一騎打ちを邪魔されぬように他の兵士の様子を観察する。だが、兵士達も北聖将の勝利を信じているのか不審な動きを取る者は存在せず、緊張した面持ちで見つめていた。


「じゃあ、行きます!!」


エリナはクロスボウを上空に向けて構えると、矢を撃ち込む。矢は木々の枝を潜り抜けてそのまま見えなくなるが、レナとハシラはお互いの姿を捉えたまま感覚を研ぎ澄ませた。


(……視力に頼るな、聴覚で矢が落ちた音を捕えるんだ)


退魔刀を抱えたままレナは神経を聴覚に集中させ、瞼を閉じる。その行為にハシラは一瞬だけ目を見開くが、すぐに気を取り直して大弓を構える。相手がどのような方法を取ろうと自分がやる事は変わらず、確実に仕留めるためにハシラは矢を番える。


(心眼を習得しているか……だが、その程度のスキルならば恐れるに足らん)


五感を研ぎ澄まし、相手の姿を目で捕らえずに気配と動向で捕らえる心眼のスキルは確かに便利ではあるが決して万能とは言い切れず、いくら感覚を研ぎ澄まそうと人間の反射神経には限界が存在する事をハシラは知っていた。レベルを高めれば確かに身体能力は上昇するが、それでもハシラは自分の矢が確実にレナが動く前に仕留めると確信していた。

ハシラが弓を武器として使い始めてから既に100年以上の時を費やし、彼は他の者が剣や魔法を極める中、敢えて弓の技量だけを磨き上げていた。理由はハシラは森人族でありながら産まれた時から魔力が弱く、精霊魔法も碌に扱える事も出来なかった。だからこそ彼は他の森人族の戦士のように生きていく事は出来ないと判断し、自分の職業に適した武器のみを鍛える事に専念する。

エリナをハシラが弟子にしたのは自分程ではないが、彼女が筋力の問題で他の武器が扱えない事を察し、自分と同じように苦労する彼女を見捨てられずに弟子にした。結果としてはエリナは王国四騎士に選ばれる程の実力を身に着け、自分の指導法が間違っていなかった事を確信する。

ハシラは自分が六聖将の中でも肉体面で恵まれていない事は理解していた。それでも六聖将の名に恥じぬように鍛錬を続け、最終的には六聖将の中で最も兵士を抱える事を許される立場にまで昇格を果たす。自分をここまで取り立ててくれたヨツバ王族に大してハシラは絶対の忠誠を誓い、そして王族の敵が現れた時は自分が真っ先に打ち滅ぼすと決めていた。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。