不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

狩猟の場

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――東壁街から出発してから30分が経過すると、レナ達は見晴らしの良い場所へと到着する。アトラス大森林は全体が樹海に覆われているはずだが、ギンタロウ達が連れて来た場所は何故か樹木が殆ど存在せず、草原のように平らな土地が広がっていた。

草原には複数の大樹が存在し、その大樹の周囲十数メートルには何故か草木が生えておらず、かわりに大量の果物が転がっていた。その果物に釣られて大樹の周囲には様々な魔物が立ち寄り、果物を得るためにお互いに争う光景が広がっていた。


「ギイイッ!!」
「プギィッ!!」
「ガアアッ!!」


ゴブリンが掴み取った果物を奪おうとオークが追いかけ回し、その背後をコボルト(通常種)が追いかけ回す。何とも変わった異様な光景にレナ達は呆気に取られていると、ギンタロウが説明する。


「どうだ、驚いたか?アトラス大森林にこのような場所がある事は知らなかっただろう?ここは我々が狩猟場としている「魔の草原」だ!!」
「魔の草原……」
「何故、この場所だけ樹木の数が少ない?それにあの魔物達はどうしてあの果物を奪い合っている?」


ロウガは大樹の周辺で争い合う魔物の中には本来は木の実などを食さない肉食獣も混じっている事に違和感を抱くと、ギンタロウは説明を続ける。


「実は今から数十年ほど前、この地域に隕石が落ちた!!その結果、森に生えていた樹木は吹き飛んでしまい、今では殆ど普通の樹木が生えなくなった!!」
「隕石が落ちた……確かによくよく観察すると、この草原は凹んだ場所にありますね」


ギンタロウの説明を受けてジャンヌは草原が広がる地域が他の場所と比べても凹んだ一に存在する事に気付き、数十年前まではこの地域も樹海に覆われていたらしい。


「だが、隕石が落ちた後に奇妙な果物を生み出す大樹が生えるようになったのだ!!この大樹はどうやら周囲の植物が育たない程に地面の栄養を吸収し尽くし、そのせいで生命力に満ち溢れているアトラス大森林の中でこの地域だけが草原のように変化してしまった!!しかもこの地に生えてきた大樹は厄介な果物を実らせるようになった!!」
「あの魔物共が争って奪い合っている果物の事か。あれはなんだ?見た事もない形をしているが……」
「ちょっと待って、もしかしてあれって……」


レナは遠視と観察眼の能力を発動させて大樹の周辺に転がっている果物を確認すると、その外見が非常に歪でとても植物から実った物だとは思えなかった。


「あれ……どう見ても肉の塊にしか見えないんですけど」
「肉!?果物じゃないの!?」
「うむ、あの大樹の木の実は何故か外見が肉の塊のような形をしている!!しかもどうやら魔物を引き寄せる香りを発しているのか、この地域には常日頃から大量の魔物が住み着くようになった!!俺達はあの果物を「樹肉」と呼んでいる」


この魔の草原を通りかかろうとした魔物達は「樹肉」に引き寄せられるらしく、そのせいでこの地域だけは普段から大量の魔物が住み着くようになり、狩猟の場としては最適の地であるという。


「ちなみにこの樹肉は外見はあれだが、味は非常に美味しくて栄養価も高い!!だが、我々のような人種の場合は食べ過ぎるとすぐに太ってしまうから週に一度ぐらいしか食えないがな!!はっはっはっ!!」
「あんなに大量の魔物がたかっているのに果物はなくならないんですか?」
「なくならないな!!あの大樹は日に100以上の果物を生み出すからな!!だが、魔物共はそれ以上の数が集まるからああして奪い合うのだ!!本来は群れて行動するはずのゴブリンやコボルトでさえも同士討ちを行うぐらいに危険な果物なのだ!!」
「確かに……コボルトはともかく、ゴブリン同士が争う光景は滅多に見ないな」


大樹の周辺にはゴブリンも多数存在し、基本的には力は弱いが知能は高いゴブリンは同種族で協力し合い、他の魔物から自分の身を守るために集団行動を取る事が多い。だが、樹肉に引き寄せられたゴブリン達は我先にと地面に落ちた樹肉を奪い合うように争い、例え同じゴブリンであろうが容赦なく叩きのめす。


「ギイイッ……!!」
「ギィアッ!!」
「ギギィッ!!」


樹肉に食らいつくゴブリンに対して3匹の別のゴブリンが足蹴を行い、それでも食らいついた樹肉を離そうとしないゴブリンの姿は異様だった。アトラス大森林の外の世界では絶対に有り得ない光景であり、魔物を引き寄せる性質を持つ樹肉の恐ろしさを思い知らされる。

草原に集まっている魔物はゴブリン、オーク、コボルト以外の種も多数存在し、中には赤毛熊の子供やブタンの姿も存在した。レナが確認する限りではどの魔物達もバルトロス王国地方の魔物よりも体格が大きく、深淵の森に住み着いていた魔物よりも厄介そうだった。


「ここに案内したという事はここで狩猟勝負をしろというのか?」
「そうとも!!都合が良い事にこの草原には樹肉の大樹が5つ存在する!!各代表の選手が1つの大樹を割り当てられる事が出来るな!!」
「なるほど、そういう事か……つまり、この大樹に集まって来た魔物達を最も多く倒した者が代表に選ばれるという事か。面白い、こういう趣向も悪くはないな」
「けど、魔物を倒した数で競い合うというのなら証明するにはどうするんだい?倒した魔物の素材を剥ぎ取るという話だけど、こんな数の魔物を倒すとなると殺した死体なんてすぐに他の魔物に食い荒らされるんじゃないのかい?」
「それはないな!!魔物どもは死体よりも先に樹肉を狙うはずだ!!実際にオークやブタンの肉を好むコボルトでさえも両者の死体を前にしても樹肉の方に食らいつくからな!!」
「信じられんな……肉食獣が死骸よりも果物を優先するとは」


ギンタロウの説明に魔物の生態を知り尽くしている冒険者ほど樹肉の異常性を思い知り、このような植物が存在する事自体が初めて知った。だが、今回の勝負の場としてはこれ以上に都合が良い場所はなく、要は各自が割り当てられた大樹に群がる魔物をより多く、より危険度の高い魔物を倒した者こそが統率者の資格を得られる。

見張り役としてギンタロウの配下のケンタウロス達の兵士も加わり、彼等は戦闘には参加しないが各陣営の倒した魔物の数や不正が行われていないのか観察するために同行する。場合によってはもしも選手の身に危険が陥った場合は助太刀に入るが、基本的には戦闘で彼等の力を当てにする事は出来ない。


「では勝負を始める前に30分の猶予を与える!!その後に君達を配置する樹肉の大樹を決めたいと思う!!」
「30分か……つまり、その間は魔の草原を調査と作戦会議を終えろという事だね」
「集合場所はここでいいんだな?では我々は先に行かせてもらうぞ」
「あ、待ってください!!私も行きます!!」
「魔の草原か……大層な名前だな」


早速レナを除いた代表者達は選手を引き連れて魔の草原に降り立ち、周辺の調査と大樹の観察を行う。だが、残されたレナだけは場所を移動する事もせず、何かを考えるように俯く。その様子を不思議に思ったコトミン達が声を掛けた。


「レナ?どうしたんだよ。他の奴等はもう行ったぞ?」
「追いかけなくていいのか?」
「兄貴、どうかしたんですか?」
「お腹空いた?」
「ぷるるんっ?」
「ちょっと待って……今、集中してるから」


心配そうにレナに仲間達が話しかけると、レナは瞼を閉じた状態で掌を伸ばし、風の聖痕を発動させて風の精霊を呼び集めた。
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