不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

勝負の結果

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――レナが風の聖痕を利用して他の冒険者集団の様子を確認を終えた時、馬の蹄の足音が鳴り響き、遠目で各冒険者集団の見張り役を行っていたギンタロウの配下の兵士達が駆けつけてきた。


「間もなく制限時間が終了を迎えます。素材は集め終わりましたか?」
「え、もう!?そんなに時間が経っていたのか……皆、素材は全部回収した?」
「大丈夫だ。ここに全部あるぞ」


兵士の言葉にレナは仲間達に振り返ると、既に回収した素材袋を渡す。兵士は大量に袋詰めされた素材を確認すると、太陽の位置を確認して時間帯を把握する狩猟勝負の終了の合図を行う。


「制限時間を迎えました。皆様をギンタロウ様の元まで案内します」
「残った魔物の死骸は放置で良いんですか?」
「大丈夫です。後処理は我々が行います」


冒険者達が倒した魔物の死骸に関してはギンタロウの兵士達が処理を行うために駆けつけ、必要な分の素材の回収後、火葬を行う。放置していると樹肉の大樹が死体から栄養分を全て吸収し尽くして腐敗化が進むため、死体は早めに火葬して残さないように注意する。

レナ達は兵士の案内されるがままに魔の草原の中央部へ向かうと、途中で他の冒険者達とも合流し、全員が疲労を隠しきれない程に消耗していた。たった1時間の間の出来事とはいえ、休憩も挟まずに魔物達と戦闘を続けるのは熟練の冒険者であろうと過酷な状況だった。


「あ、レナ君……そっちはどうだった?僕達の方はもうくたくただよ」
「お疲れ様、俺達の方も結構きつかったよ」


ロウガに協力していたミナはレナの顔を見ると疲れた表情を浮かべながらも話しかけ、相当に激しい戦闘を繰り広げ得ていたのか全身が返り血まみれだった。ミナ以外の冒険者達も同じく全員が魔物の血を大量に浴び、武器が刃毀れしている者も少なくはない。


「おい、ミナ……敵に話しかけんじゃねえよ。まだ勝負は終わってねえんだぞ」
「敵って……別に勝負しているからって敵対しているわけじゃないんだからさ、そんな言い方は酷いよ」
「そうだぞガロ、お前はそういう所がガキっぽいよな」
「うるせえっ!!ほら、さっさと行くぞ!!」
「落ち着くでござるん」
「全く、騒がしい奴等だ……」


騒ぎ立てるガロ達の姿を見て彼等を率いるロウガはため息を吐き出し、隣を歩くジャンヌの方に視線を向ける。


「……ジャンヌよ、大丈夫か?随分と疲れているように見えるが」
「い、いえ……問題ありません。大丈夫です」
「ジャンヌさん、無理しないでください!!」
「ほら、しっかり肩を掴んでください!!」


ジャンヌは二人の冒険者に両肩を支えられてどうにか歩ける状態に陥るまで疲弊しており、彼女の冒険者集団が討伐した魔物の殆どはジャンヌが一人で討伐を果たしていた。敵を倒すだけではなく、味方を守るために戦い続けたジャンヌはこの場の冒険者の中で最も疲労を蓄積していた。

体力に関しては回復薬や回復魔法の類ではある程度は回復する事は出来るが、完全に体力を取り戻す方法はない。それでも剣聖の中で最も若手で成長性が高いジャンヌの回復力ならばしばらく休憩すれば元に戻ると考えられた。彼女は協力してくれた仲間達の肩を借りながらもバルの方に話しかける。


「私よりも、バル様の方がお辛そうに見えますが……」
「その状態でよく人の心配が出来るね……あたしの場合は久々に張り切り過ぎて疲れただけさ。怪我だって大したことはないよ。それにあたしよりも先輩方が限界だよ」
「な、何を言うか……まだまだ若い者には負けんぞ」
「いや、流石に年齢には勝てんだろう……そろそろ我等も引退を考えるべきか」


バルを筆頭に年配の冒険者達はトロールの大群との戦闘で激しく体力を消耗し、しかも素材を回収する暇もなく、勝負に参加した冒険者達の中で最も回収した素材が少ない。バル本人は統率者の座に興味がないので問題はないが、やはり強敵とはいえ、中堅の冒険者ならば討伐可能なトロールを十数体相手にした程度で体力の限界が訪れた事には少なからずショックを隠せなかった。


「嫌だね、10年前だったらあの程度の数のトロールなんてあたし一人でどうにか出来たのに……もうあたしも隠居しないと駄目かね」
「何言ってんの?俺の母さんも叔母様も今すぐに現役に復帰出来る程に力が有り余っているのに……」
「いや、あの二人と比べるのは勘弁してくれよ……あたしはこう見えても普通の人間なんだよ」


年齢的にはバルよりも年上のアイラとマリアは今現在でも現役を貫ける程の実力を保ち、マリアに至っては竜種を相手にしても勝利できる力を持つ。アイラの方も流石に全盛期程ではないが、それでも剣聖を誇れる程の力は維持しているだろう。その事をレナが指摘するとバルは罰が悪そうな表情を浮かべる。


「あれ?そういえばガンモの奴はどうしたんだい?まだ姿が見えないけど……」
「既に迎えの兵士は向かわせています。恐らくもう少しで合流出来ると思いますが……」
「おおっ!!やっと来たか冒険者達よ!!待ちくたびれてたぞ!!」


牙竜に所属するガンモの冒険者集団を除いた4つの冒険者集団の前にギンタロウが現れ、彼は既に全員を迎え入れるために準備を整えていたらしく、草原の上で長机と椅子を並べていた。ギンタロウは戻って来た冒険者達を笑顔で迎え入れると、全員を休ませるために机に座らせる。


「部下から報告は届いている!!全員無事で何よりだ!!まずは座って身体を休めてくれ、食事をすぐに用意させよう!!」
「へえ、これは有難いね……って、食事ってあの得体の知れない果実かい!?」
「はっはっはっ!!得体の知れないという点は否定出来んが、見た目はともかく味は美味しいんだぞ?」


ギンタロウの厚意に甘えてレナ達は机に座らせてもらうと、すぐに全員の前に樹肉の果実を乗せた皿が並べられる。外見は肉の塊のようにおどろおどろしいので全員の表情が引きつるが、ギンタロウは気にせずに皆の前で樹肉の食べ方を見せつけた。


「この果実はこう見えて実は硬い殻に覆われている。外見は肉の様だが、触ってみると硬い事が分かるだろう?」
「あ、本当だ。言われてみれば硬い気がする」
「ブヨブヨしているのかと思ってたのに……なんか変な感じだな」


レナは試しに果実に触れると確かにヤシの実のような硬い感触が広がり、外見は柔らかそうに見えるが実際には硬い殻で全身に覆われているらしい。魔物達は本物の肉の様に食らいついていたが、普通の人間が噛みつけば歯が無事では済まないだろう。


「この果実の最も美味しい食べ方は殻を割り、中身の果肉を軽く火で炙って食べる事だ!!」


ギンタロウは手刀を構えると樹肉に向けて振り下ろし、見事に頑丈な殻を真っ二つに切り裂く。果実が二つに割れた途端、赤色の果肉が露わになり、血液のように赤色の樹液が滲みだす。見ているだけで食欲が失せるが、ギンタロウは構わずに二つに切り分けた樹肉に松明の火を近づけて直に熱する。


「このように火で加熱させてだいたい色合いが変化した所が食べごろだ!!別にこのままでも食べられなくはないがな!!」
「おおっ……なんか、焼肉のような臭いがする」
「というか、本当にこれ植物なのかい?どう見ても肉にしか見えないけどね……」


焼く事で旨味が増すらしく、火で炙った果肉はまるで本物の肉のような香りを放ち、外見も変色してケバブを想像させる姿へと変わり果てる。十分に焼けたのかギンタロウは殻の中から果肉を素手で直に抉り取ると、美味しそうに口の中で頬張る。
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