不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

風の剣聖、襲来

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「ぬうっ!?この風は臭いは……いかん!!」
「不味いっす!!全員、身体を伏せてください!!」
「何だと!?」


ギンタロウとエリナがいち早く自分達に襲い掛かる強風の正体に気付き、全員に危険を知らせる。咄嗟に反応した者達は身体を伏せるが、反応に遅れた者達は吹き荒れる風に襲われた。


「う、うわぁあああっ!?」
「ダイン!!掴まれ!!」
「くっ……コトミン!!」
「はうっ!?」
「ぷるるんっ!?」


吹き飛ばされそうになったダインをゴンゾウが掴み、レナはコトミンとスラミンを抱えて地面に伏せる。他の者達も地面に伏せた人間はどうにか吹き飛ばされる事は回避したが、反応が遅れた者は身体が浮き上がり、樹肉の大樹の元まで飛ばされてしまう。


「な、何だこの風は……!?」
「せ、精霊魔法です!!これほどの力、風の精霊でしか生み出せません!!」
「精霊という事なら……俺がなんとかする!!」


エリナの言葉を聞いてレナは右腕を掲げると、風の聖痕の力を利用して吹き溢れる強風を消散させようとした。聖痕によって周囲に滞空していた風の精霊を呼び集める事で突風を拡散させ、徐々に風の力を弱める事に成功すると、レナは右腕を振り払う動作を行って完全に消し去る。


「消えろ!!」
「あいてっ!?」
「あ、すまない……」


レナの言葉に従うかの様に全員に襲いかかっていた強風が完全に消え去ると、どうにか吹き飛ばされずに済んだダインが地面に落下して顔面から衝突してしまう。腕を掴んでいたゴンゾウが謝罪を行ってダインを抱き起すと、他の者達も安心したように起き上がる。


「ふうっ……助かったぜ」
「レナ君のお陰だね!!でも、何で急にこんなに強い風が……」
「油断するな!!何処かに俺たちを襲った精霊魔法の使い手が隠れているはずだ!!」
「何だと!?」


ギンタロウの警告に全員が戦闘体勢に入ると、周囲を警戒するが特に人影は見当たらない。この場に存在する殆どの冒険者は感知系のスキルを所有しているが、それらを駆使しても付近には怪しい気配は感じない。だが、何処かに隠れてレナ達に攻撃を仕掛けた者が近くに存在する事は間違いなく、決して油断は出来ない。

周囲の様子を伺いながらレナは気配感知と魔力感知のスキルを発動させるが特に反応はなく、念のために心眼のスキルを発動させて辺りの様子を観察するが、特に何も怪しい点は見つからない。しかし、大人数を吹き飛ばしかねないほどの出力の風の精霊魔法を繰り出した人物が隠れている事は間違いなく、レナはどうにか敵の位置を探るために方法を探す。


(風の聖痕を利用して精霊の力で探す事は出来ないのか?)


聖痕の力に頼る事になるが、周囲に滞空する風の精霊の力を借りてレナは隠れている人物を探し出そうと集中すると、精霊がレナの元に集まって異変を伝える。


(……風の流れが妙な場所がある。まるで、そこにだけ障害物があるかのように風が避けている)


風の精霊の力を借りてレナは周囲の風の流れを読み、ある一か所だけ風が避けて通る場所を認知すると、そこに視線を向ける。視界には何も映らないが確かに何者かが隠れている事は間違いなく、レナは退魔刀を引き抜いてその場所に向けて駆け出す。


「そこか!!」
「っ……!!」
「な、何だ!?」


金属音が草原中に響き渡り、レナが振り下ろした刃が空中で火花を散ると、緑色のマントで全身を覆い隠した人物が現れる。以前にティナの暗殺を試みた暗殺者達が装着していた「身隠しのマント」を身に着けて現れた人物が姿を現すと、氷雨の冒険者が真っ先に反応した。


「お前は……ハヤテか!?」
「は、ハヤテさん!?どうしてここに!?」
「ハヤテさんだ!!ハヤテさんが来てくれたぞ!?」
「…………」


ハヤテを見た瞬間に氷雨の冒険者の大半は歓声を上げ、彼女が助けに来てくれたと判断した。ハヤテは元々は氷雨の冒険者として所属し、長年の間をマリアに仕えていたので他の冒険者からの人望も厚いが、彼女の姿を見たロウガは険しい表情を浮かべながら剣を構える。


「ハヤテよ……今の風はお前の仕業か?」
「…………」
「え?ろ、ロウガさん?何を言ってるんですか?」
「ハヤテさんが俺達にそんな真似……」
「いいからお前等は下がれ!!」


ロウガの言葉にハヤテは黙って視線を向け、他の冒険者達は戸惑うが、ロウガは一括して全員を黙らせるとハヤテと向かい合う。彼女がマリアの元を離れ、王妃と協力関係にあったという事実を知る者はこの場には一部しか存在せず、ハヤテ自身もロウガの言葉に否定する事はなく首元に抱えたペンダントを口に押し当てて話しかける。


『ロウガ、お前を斬るつもりはない。とっとと消えろ』
「え、喋った!?あのハヤテさんが!?」
「口が利けないんじゃ……」
『誰が喋れないといった?私は生まれた時から小声なだけだ、いつもお前達に話しかけても聞こえなかっただけだ』


ハヤテが流暢に話し始めた事に一部の冒険者達は動揺を隠せず、彼女は普段から無口と思われているが、実際は声が小さいだけで人間の耳では彼女の小声は聞き取れないだけであった。だが、彼女が首からぶら下げている「拡音石」と呼ばれる魔石を使えば普通の人間でも聞き取れる程の声量で話す事が出来た。


「ハヤテよ、お前は何しに現れた?いや、その前に答えろ!!どうしてあの時、お前は我等の元を去って王妃に与した!!何故、マリア様を裏切った!?」
『……裏切ったというのは心外だ。私はそもそもマリアに忠誠を誓ったわけではないし、王妃に協力したつもりもない』
「何だと!?ど、どういう事だ!?」
「ハヤテさん……本当に私達を見捨てたの!?」


ガロとミナはハヤテの言葉を聞いて動揺を隠せず、他の冒険者達もハヤテを信用していただけに彼女がマリアの元を離れたという言葉に衝撃を受ける。だが、ハヤテ本人は彼等の反応を見ても表情一つ変えずに答えた。


『お前達と過ごした時間は悪くはなかった。マリアが優れた指導者である事も認める、だから一時の間とはいえマリアに仕えた事は否定しない。だが、私が忠誠を誓う相手は別にいる』
「何だと?それは一体誰だ!?まさか、王妃では……」
『ふざけるな、あの女は私の手で直に殺した。目的のためにあの御方と手を組んだが、お前達に敗れたあの女を生かす理由はない』
「王妃を殺しただって!?」
「じゃあ、まさか本当にハヤテさんが……!?」


王妃を殺害した事を堂々と宣言するハヤテにレナ達も驚き、同時に彼女が語る「あの御方」という存在が気になったレナは直接ハヤテに問い質す。


「ハヤテ……あんたの主人は誰だ?まさか、王妃なのか?」
『……そこまで答える義理はない』


レナの質問にハヤテは意味深な表情を浮かべて振り返り、腰に差した長刀の柄を握り締めると、全員に対して堂々と宣言した。


『世間話をするために私はここへ現れたわけではない、今からここでお前達全員を切り捨てる』
「ハヤテ……貴様、本気で我等と敵対する気か!!」
『何度も言わせるなくそ爺が……私はもう、お前達の仲間ではない。ヨツバ王国の騎士として王国の敵であるお前達を討つ』
「そんな……」
「嘘だと言ってくれよハヤテさん!!」


ハヤテの言葉に氷雨の冒険者は狼狽するが、そんな彼等に対してハヤテは自分の意思を示すため、自分と向き合うロウガに向けて刀を抜き放つ。


『ロウガ、お前とはそれなりに長い付き合いだったが……ここで死ね!!』
「ぐうっ!?」


鞘からハヤテが剣を引き抜いた瞬間、刀身に纏っていた風の魔力が斬撃へと変化すると、シュンが繰り出す「風の斬撃」よりも強力な一撃が放たれ、ロウガに襲い掛かる。
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