種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市崩壊編

都市の被害

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――闘人都市が「ロスト・ナンバーズ」の襲撃によって崩壊し、数日の時が過ぎた。都市の被害は凄まじく、闘技場の上空から発生した隕石群によって建物の殆どが半壊し、完全に復興するには数年の時が必要だった。


だが、意外な事に人的被害に関しては予想外に少なく、隕石による死傷者は数百名、怪我人を含めれば数千人を軽く超すが、それでもこの都市の人口(約10万人)を考えれば抑えた方であり、これは剣乱武闘によって腕利きの冒険者が世界中から集まっていたのかが大きい。

彼らの多くは大会に出場を逃したが、それでも間近で大会を観戦するために都市に宿泊し、今回の事態に巻き込まれた形となる。しかし、彼らの多くは民衆の避難誘導を率先して行い、被害は最小限に抑えられた。


その一方で剣乱武闘に出場した参加者たちの殆どがロスト・ナンバーズに操られ、街中で暴走してしまい、むしろ隕石による被害者よりも彼らの手に掛かって怪我を負った者の方が多い。その数は数千人ほどであり、隕石による被害者も含めると1万人近くの被災者が生まれる。


影の聖痕によってリーリスに操られていた彼等は、ロスト・ナンバーズが完全退去後から1時間ほどの時が経過したところで正気を取り戻し、現在も取り調べを受けている。最も、彼らも何が起きたのか理解できず、自分が暴走していた記憶は全て失っていた。



――一番の問題は巨人族代表のダンゾウと獣人族代表の獣王がロスト・ナンバーズの手により、重傷を負った事であり、どちらも致命傷を負っていたが、何とか聖導教会の治療によって一命は取り留めた。



看護を行ったセンリ曰く、2人とも肉体的にも大きな損傷を受けたようだが、むしろ精神的な疲労が大きいらしい。比較的に無事だった彼らの護衛者の何が起きたのか事情を尋ねてみたが、どうやらゴーテンと名乗る男が使用した「武器」が原因だと思われる。

彼等の話から察するに巨人族だけを標的とした武器であり、何度もそれを受けたダンゾウは肉体よりも精神面に影響が出たらしく、今後目覚めるかどうかは分からない。そのため、巨人族代表は一時的に空席となる。

ダンゾウに2人の子息がいる事は一般的には知られておらず、彼が目覚めるまでは巨人族代表は不在であり、代理も立てられない。各種族の代表という地位は非常に特別な物であり、本来ならば他の誰かが代行できる権利ではない。人魚族のアクアに関しては彼女が後の王位継承者と確定し、彼女の母親である「女王(人魚族の代表が男だった場合は魚人王と呼ばれ、人魚族の男性は基本的に魚人と呼ばれる)」が重病で出場できなかったからこそ、特別に許されたのだ。



――しかし、今回の一件で損傷が深かったのは彼等だけではなく、巨大隕石を破壊した「レノ」も影響を受けていた。コトミ達が彼の元に辿り着いた時、既に魔力枯渇の状態に陥っており、未だに意識を取り戻さない。



枯葉の森に送り込まれたラビットやゴンゾウ達は、レノの転移魔方陣を使用できないので闘人都市に戻ることが出来ず、事情を察したセンリがわざわざ聖導教会の転移魔方陣から枯葉の森に訪れ、全員を引き連れて闘人都市に送り返してくれた。

都市の殆どが半壊した中、バル達が経営する黒猫酒場は比較的に無事であり、屋根の部分に少しだけ隕石の欠片がめり込んでいたが、数日中に修復は可能との事。

だが、都市がこのような事態ではしばらくの間は店も経営できず、バルたちは久々に本業に戻る事を決意する(バルトロス王国からこれまでに多額の給付金を頂いているはずだが)。



――とはいえ、現在の黒猫酒場には毎日のようにレノの安否を心配して訪れる者が絶えず、テンペスト騎士団からはジャンヌやゴンゾウ、ポチ子やリノン、意外にもアルトが訪れ、枯葉の森からはカイが代表として、聖導教会からは当然ながらにヨウカとセンリ、ワルキューレ騎士団からはテンとコトミ、交易都市からは直接は訪れないがホノカから大量の見舞い品が送り込まれ、アイリィとフレイ(遂でにウル)に至っては酒場に住み付き、バルたちに高い家賃を払いながら生活している。



種族問わず大勢の者がレノの安否を心配する中、一方で城塞都市では世界会議が開催され、巨人族代表であるダンゾウ、獣人族代表である獣王、さらには今回の事件から出奔した魔人王と人魚族代表の代理として出場していたアクアを除いた2人だけという異例な状態で会議が行われていた。




――バルトロス王国の王城の会議室には重苦しい雰囲気が漂っており、人間代表である「バルトロス13世」森人族代表である「レフィーア」そして交易都市からは特別参加として「ホノカ」が座っており、全員が顔を顰めていた。




「……それで、今回の責任はどう取るつもりだ?」
「責任……?」
「剣乱武闘の不祥事だ!!厳重に警戒を敷いたと言っておきながら、あのような事態に陥るとは……」
「おいおい……あの大会は六種族の共同の下で行われたはずだろう?彼だけに責任を問うのは間違っているだろう?」
「っ……人間如きが……!!」


彼女は美しい顔立ちを怒りで歪ませ、ホノカを睨み付けるが、彼女は涼しい顔で机の上に置かれた紅茶のカップを啜る。交易都市が存在するアマラ砂漠は森人族にとっては決して手出し出来ない場所であり、世界で唯一エルフの影響力が及ばない場所だ。


「確かに僕は人間だ。君たちと比べたら短い時しか生きられない、魔法も使うのにも不便な存在だね。けど、決して「弱い」わけではない」
「ふんっ……」
「……森の王よ。今回の一件、そなた達にも非があるのはではないか?」
「……ムメイの事か」


忌々しげに唇を引き攣らせ、レフィーアは頭を抑える。深淵の森の族長であるムメイはレフィーアよりも驚くべきことに年上の存在であり、彼女が森人族代表になる前は彼女こそが代表に相応しいとさえ言われていた。

今尚、ムメイは世界各地のエルフ達に影響力があり、実際に森人族代表であるレフィーアが各地の森人族(エルフ)に彼女との関わりを禁じたにもかかわらず、大会に出場した青葉の森のエルフ等、未だに彼女を慕う者は多い。



――しかし、今回の闘人都市の一件で数多くのエルフ達にも被害が生まれ、ムメイは自分を慕う者を駒の類としか認識しておらず、レフィーアは彼女を完全に敵と判断した。



「ムメイの件に関しては我らで解決する……お前たちはロスト・ナンバーズの行方を追うなり、都市の復興を手伝えばいい……最低限の支援は行う」
「まあ……君にしては最大限の譲歩かな」
「貴様……あまり舐めた口を聞くなよ小娘」
「怖い怖い」


睨み付けるレフィーアにホノカは適当に返し、今度はバルトロス13世に顔を向けると、


「それで、負傷した2人は除き、魔人王とアクア君に関しては何処まで情報を掴んでいるだい?」
「……魔人族に関しては完全に消息を絶った。元々、彼等の国が何処にあるのかは分からない以上、どうしようも出来ん。人魚族に関しては使者を送っているが、未だに帰ってこない……」
「魔人族はともかく、人魚族がどうなったのかは知りたいな……あのアクア君が偽物なのか、それとも……」
「そんな事は二の次でいい事だろう……今はロスト・ナンバーズの動向を調べるべきじゃないのか」
「ふむっ……」


2つの種族が連絡を絶ったにも関わらず、ロスト・ナンバーズの方を気に掛けるレフィーアの発言に2人は眉を顰めるが、確かに彼女の言葉も一理ある。

今回の剣乱武闘は六種族の協力の下で最高警戒態勢で敷かれていたにも関わらず、闘人都市がほぼ崩壊する事態に陥ってしまった。今回の崩壊の要因は「スト・ナンバーズという存在を六種族が完全に把握していなかった事だろう。

実際、前々からロスト・ナンバーズ(センチュリオン)の情報はあったが、どうやら想像以上の規模の大組織である可能性が高い。そして、厄介なのは彼らが持つ不可解な能力の「聖痕」が何よりも問題であり、ダンゾウを倒したゴーテンにしろ、数百人規模の剣乱武闘の参加者を操った洗脳など、想像以上の特殊能力や武器を有しているのは間違いない。



――今回の議題はこれからの「ロスト・ナンバーズ」の対応と、そして「六種族」の協力関係の見直しだった。
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