種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

岩石弾

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ヒナはゴンゾウが片手で掲げる岩石に掌を起き、決して彼に火傷を負わさない様に気を付けながら意識を集中させる。


「魔装」


ボウッ……!!


彼女の右手から「蒼炎」が発現し、徐々にゴンゾウが握りしめている岩石に炎が走る。だが、彼が握りしめている掌の部分だけは避け、岩石全体に炎が纏う。


「投げ込んでゴンちゃん!!」
「おうっ!!」


ブオッ……!!


ゴンゾウは炎の塊と化した岩石を勢いよく振りかぶり、前方に存在する泉に向けて投擲を行う。


「ふんぬっ!!」


ドヒュンッ!!


蒼炎を纏った岩石弾が泉に目掛けて投擲され、大きく弧を描きながらやがて失速し、見事に泉の中央部に目掛けて落下する。



――ドォオオオオンッ!!



「「うわぁあああああっ!?」」


泉の中の水が全て吹き飛んだのではないかという勢いで激しい水柱が出現し、周囲一帯に雨のように水が降りかかる。冒険者の三人組は慌てて頭を伏せるが、ヒナとゴンゾウだけは目元を覆って降りかかる水を防ぎながら様子を確認する。


ブワァアアアッ……!!


大部分の水が飛び散ったが、それでも水晶の蔓は蠢いており、先ほどの岩石弾では倒しきれなかったらしい。ヒナはゴンゾウの肩を借り、泉の様子を観察する。


「……あれが本体か」


ゴンゾウの上から確認する限り、泉には少量の水と無数の水人華が残っており、その中心部には水晶の蔓の大本だと思われる物体を確認する。予想に反して泉に潜んでいたのは植物型の魔物ではなく、以外な存在が待ち受けていた。


「スライム……?」


泉の底に生息していたのは3メートル級のアメーバ状の生物であり、以前にも何度か見かけており、間違いなくスライムだと思われるが、


ブワァアアアッ……!!


相手は自身の肉体を変形させて無数の水晶のように輝く触手に変化させており、周囲一帯に蠢かせる。明らかに知性の類は感じ取れないが、不用意に近づくことは出来ない。ヒナはもう少し接近して調べようとした時、上空から何かが落下してくる。


ドサッ……


「チチチチッ……!」


スライムの傍に小鳥を思わせる魔物(チュンという名前の無害性の魔物)が墜落し、どうやら先ほどの激しい水飛沫に巻き添えを喰らって上空から落ちてきたようだが、


ガシィッ!!


「チュチュッ……!?」


触手の1つがその小鳥を掴み取り、一瞬にしてスライムの本体にまで引き寄せられると、


ドプンッ……!


スライムの肉体に触れた瞬間に小鳥はまるで液体の中に沈み込むように吸収され、しばらくの間は液体状の肉体の中でもがき苦しむが、数秒も経たないうちに小鳥の肉体に変化が訪れる。どんどんと身体が溶け始め、やがては骨まで完全に消え去り、相変わらずスライム種は凄まじい溶解性の液体で形成されている事が分かる。


「……水中に潜むスライムか」
「ブルースライムだ……だが、あんなに大きいのは、俺も初めて見た」
「知ってるの?」
「昔、俺がいた集落にも潜んでいた……だが、あれほど大きいのはいなかった」


ゴンゾウは人差し指と親指で摘む動作を行い、恐らくは彼の集落に生息していたブルースライムというのはせいぜい10センチほどの大きさだったのだろう。だが、目の前のスライムは明らかに3メートルを越えており、これもこの島ならではの魔物の進化なのかもしれない。

しかし、この場所に到達したのは水人華の道標を辿ったからであり、何者かに誘導されてのは間違いない。つまり、このスライムも普通に考えてその何者かの手によって準備された魔物の可能性もある。


「さてと……明らかに火属性が弱点っぽいな」
「ど、どうすんですかヒナさん!?あんなの、どうしようも……」
「姿が見えている分、どうにか出来るよ」


またもや騒ぎ出そうとした冒険者たちを無視し、ヒナは先ほどの投擲した岩石を思い出す。まさかあれほどの大きさの物体を魔装が出来るなどヒナ自身も予想外だったが、使いようによっては十分に役立つ。


「お、良い所に棒を発見」
「そんなものどうするんですか!?」


足元に先ほどの水飛沫の際に巻き込まれたのか、1メートルほどの長さの枝が堕ちているのを確認し、彼女はそれを拾い上げると、


「魔装(アーツ)」


ボウッ……!!


握りしめている枝に「蒼炎」が纏い、確認してみとやはり枝自体が発火しているわけではない。彼女が扱う「蒼炎」はあくまでも高熱を発する「魔力体」であり、実際の炎のように燃焼しているわけではない。

枝全体を蒼炎で覆いながらヒナは堂々と泉に向けて歩み寄る。慌ててゴンゾウが引き留めようとするが、彼女は「大丈夫」と一言だけ告げ、


「さて……棒術は久しぶりだな」


幼少の頃に学園に通っていた際に体育の授業でクズキから教わった程度だが、剣術よりも此方の方が馴染む。


ヌプゥッ……!


「おっとと……」


大部分の水量を減らしたとはいえ、泉に足を踏み入れた瞬間にぬかるんだ地面に足元を取られ、身体がよろめく。その隙を逃さずにブルースライムが触手を彼女に向けて放出する。


ブワァアアアッ……!!


「ヒナ!!」
「ヒナさん!!」
「……ふにゃあっ……」
「「「ヒナの姉御ぉおおおっ!?」」」


体勢を崩した彼女に目掛けて触手が降り注ぎ、全員が悲鳴(1人は欠伸が混じっていたが)を挙げる中、


「ほりゃっ」


バシィッ!!


魔装を纏わせた棒を振り払い、周囲から襲い掛かる触手を軽く焼き払うと、ヒナは立ち上がり、


「瞬脚!!」


ズドォンッ!!


その場を嵐属性の魔力で大きく跳躍し、ヒナが空中に浮き上がると地上のブルースライムは四方から触手で襲い掛かる。


「ほっ!とっ!」


空中で何度も方向転換を行いながら、瞬脚を利用して移動を行い、触手を回避しながら右手に掴んでいる棒を握りしめ、


「ふんっ!!」


ドヒュンッ!!


空中で棒を投擲し、ブルースライムの本体に目掛けて真っ直ぐに放たれる。当然、すぐにも無数の触手がそれを止めようとするが、



ゴォオオオッ……!!



蒼炎は邪魔をする触手全てを焼き払い、真っ直ぐにブルースライムの本体目掛けて接近し、


ドォオオンッ!!


「おおっ!!」
「やった……!?」


ゴンゾウたちがいる位置からだと、ヒナが投擲した棒がブルースライムの身体に突き刺さる光景に見えて冒険者たちは歓喜の声を挙げるが、当のヒナだけは顔を顰める。


ブワァアアアッ……!!


「……そういえば液状生物だったか」


彼女の視界にはスライムの本体に大きな円形型の穴が開かれ、丁度ヒナが放った棒が穴の中に突き刺さる形になり、本体の直撃は避けていた。よくよく考えれば相手は液体の化け物であり、どんな形状にも変化出来る以上、そう簡単に勝たせてはくれない。


ゴォオオオオッ……!!


蒼炎で覆われていた棒から魔力が消え去り、魔装が解除される。その瞬間、円形型の穴を展開していていたスライムの肉体が元に戻り、ただの枝と変化した棒を消化させる。


ジュワァアアアッ……!!


「……溶解液か」


自分の武器がスライムの肉体に消化される光景を確認しながらも、ヒナは泉の傍の地面に降り立つ。唯一の武器が無くなり、ここからはどうするべきか悩み処でもある。


ズズズズッ……!!


ブルースライムはうねうねと蠢きながら泉の底を移動し、確実にヒナのいる方向に移動してくる。知性が感じられない生物だが、彼女の身体から放たれる生物としての熱でも感知しているのか、すぐにも十数本の触手を蠢かせながら接近してくる。


「うわっ……参ったねこりゃ……」


ヒナは右腕に魔鎧を纏わせながら、仕方なく身構える。
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