種族統合 ～宝玉編～

剣乱武闘 覇者編

キマイラ討伐戦

「さてと……まずは小手調べに、乱刃‼」


ドォオオオンッ‼


右手をキマイラに向け、三日月状の嵐の刃を放つ。そのまま無数の岩石を斬り裂きながらキマイラに向い、竜の頭の部分に衝突る。


ズバァアアンッ‼


キマイラの頭部に乱刃が消散し、普通の生物ならば真っ二つにされてもおかしくない威力のはずだが、竜の頭は少し怯んだ程度でその頑丈な鱗には傷一つ付いていない。


――グガァアアアアアッ‼


竜の頭が激怒したようにレノがいる方向に視線を向け、やはりこの程度の攻撃では通用しない事は予測していたが、それどころか相手の逆鱗に触れたらしい。キマイラの竜頭が大きく口を開き、口元を輝かせた途端に火炎を吐きだす。その量は尋常ではなく、岩石を溶解させながらレノのいる場所にまで放出される。


ゴォオオオオッ‼


「あぶねっ‼」


ダァンッ‼


レノは上空に跳躍し、そのまま瞬脚で空中を疾走する。この試合場は上空をプロテクトドームで覆われているため、あまり高度には逃げられないが炎を避ける事は出来た。



――ウオォオオオオンッ‼



上空に逃げたレノに対し、獅子の頭が咆哮を上げるがその隙にキマイラに接近する影があり、


「おいおい……炎は俺の専売特許だぜ‼」


ドガァアアンッ‼


キマイラの胴体に「漆黒の炎」が爆散し、そのまま纏わりつく。キマイラは悲鳴を上げて地面に倒れ込み、攻撃を仕掛けたエンはそのまま右手に火球を生み出し、追撃を仕掛ける。


「シャバは楽しいな‼　こんな生物と戦えるなんてよぉっ‼」


そのままエンは右手の火球を差し出し、昨日にジャンヌを打ち倒した技を発動させようとした時、キマイラの竜頭が口を開き、ほぼ同時に火炎を吐きだす。


「絶炎‼」


ドゴォオオオオオンッ……‼


エンの漆黒の炎とキマイラの火炎が衝突し、凄まじい爆炎が舞い上がる。流石に危険と判断したのかエンも後方に下がり、その間にキマイラは銅体の炎を振り払うために地面を転がる。



――シャァアアアアッ……‼



キマイラの尻尾の蛇が鳴き声を上げ、胴体に張り付いていた漆黒の炎が消え去る。派手に燃えたようだが体毛が少し焦げた程度で致命傷ではなく、エンは舌打ちする。どうやら火力が足りないらしく、そのままエンは試合場の岩石に身を隠す。


「うおぉおおおおおおっ‼」


エンに意識を集中させていたキマイラの後方から、雄叫びを上げながら金棒を握りしめたゴンゾウが駆け寄る。彼は金棒を握りしめ、勢いよくキマイラの前脚に叩き付ける。



ドゴォオオオンッ‼



ゴンゾウの渾身の一撃が命中するが、顔を顰めたのは彼の方であり、武器を握りしめた腕が痺れる。まるで木の棒で鋼鉄製の柱を叩き付けたような感覚であり、致命傷は与えられない。


メェエエエッ……‼


「うおおっ⁉」


ブォンッ‼


キマイラが前脚を振り払い、ゴンゾウは必死に躱す。真面に喰らえばひとたまりもなく、彼はそのまま金棒を手に後退し、キマイラと向かい合う。


「楽しませてくれる」


ドォンッ‼


その間にもホムラが薙刀を片手に跳躍し、キマイラの獅子の頭に向けて刃を突き立てようとすると、尻尾の蛇が高速に動いて彼女の横から牙を向けてくる。


シャアァアアアアアッ‼


「ちっ‼」


ガキィイインッ‼


空中で巨大な蛇に襲われ、薙刀で牙を防いだがそのまま勢いよく吹き飛ばされ、地面に派手に土煙をあげるほどに衝突する。彼女は顔を顰めながら起き上がり、すぐに薙刀の異変に気が付く。


ジュワァアアアッ……‼


「……溶解性の毒か」


薙刀の刃が解けている事に気が付き、彼女は惜しみも無く放り投げる。刃に着いた毒液が地面に触れると煙を上げ、肌に触れていたら無事では済まなかっただろう。


「撃雷‼」


ズドォオオオンッ‼


ホムラが武器を捨てた直後、レノがキマイラの前脚に拳を叩き付け、ゆっくりと巨体が倒れこむ。


ズズゥンッ……‼


予想外の威力にキマイラは倒れ込み、レノは拳の感触に眉を顰める。想像以上の硬度であり、やはり伝説獣並みの戦闘力を誇り、簡単に勝てそうな相手ではない。



――グォオオオオオッ‼



三つの首が同時に咆哮を上げ、周囲に向けて大きく血を開き、竜は火炎を吐きだし、獅子と山羊は咆哮を轟かせる。レノ達はその場を四散し、キマイラから距離を取る。


「しぶといな……こうなったら……⁉」


右手を握りしめ、右腕の解放術式を発動させようとした時、不意に後方から気配を感じ取って振り返ると、


「絶火‼」


ドォオオオンッ‼


漆黒の炎が自分に向かってくるのを確認し、レノは寸前で横に躱す。漆黒の炎は槍のようにレノの傍にあった岩石を貫通し、攻撃を仕掛けてきたエンは笑みを浮かべる。


「試合中だぜ？　油断してんじゃねえよ。王子様」
「エンか……レミアはどうしてる？」
「憑依中はお姫様は寝てるぜ。それにしても話には聞いていたが……これがお姫様の想い人か」
「どうも」


エンは掌に火球を形成しながらレノと向い合い、会話の最中にもキマイラはホムラとゴンゾウと激しい戦闘を繰り広げる。


「金剛撃‼」



ズドォオオオオンッ‼



ゴンゾウの回転を加えた金棒がキマイラの前脚に的中し、流石に今度は巨体も揺れ動き、ホムラはその隙を逃さずに掌に火炎の槍を形成し、先ほどの尻尾の蛇に向けて放つ。


「火炎槍」


ドスゥウウウッ‼


容赦なく、蛇の頭部に火炎の槍を突き刺し、そのまま燃やし尽くす。



――ギィヤァアアアアッ⁉



キマイラの三つ首から悲鳴が上がり、尻尾を爆散させてホムラは一旦離れると、キマイラは無我夢中に暴れ回る。それだけで周囲の岩石が砕け散り、地割れが生じる。


「あっちも楽しそうだな……うおっ⁉」
「雷槍」


ズドォオオンッ‼


雷の槍を形成したレノがエンに向けて突き刺し、彼は慌てて回避する。そのままレノは王国仕込みの槍術をで突き刺す。


「おらおらぁっ‼」
「あんた、俺がお姫様の身体に憑依しているのに、容赦ないなおい⁉」
「大丈夫‼　ちょっとちくっとするだけだから‼」
「そんな注射器するときの子供を誤魔化すような言い方で誤魔化されるか‼」


エンは火球を変形させ、そのまま紅蓮の槍を形成する。２人は槍を構え合い、火炎と電撃が衝突して火花が散る。


「ふんっ‼」
「うおっと‼当たるかよ‼」


レノの連続突きをエンは回避し、魔術師のような格好だが相当な反射神経であり、彼も槍を突き刺す。その速度は並ではなく、レノも慌てて回避する。


「雷の槍ってのは面白い発想だな‼　だが、これは防ぎきれるか⁉」


紅蓮の槍を振るいながら、エンは掌をレノに向け、火球を発現させようとした時、


「ぜつえっ――‼」
「よっと」


バキィッ‼


レノは即座に右足でエンの掌を蹴り上げ、上空に漆黒の炎が放出される。エンは彼の行動に目を見開き、その隙にレノは右手の雷槍を腕に纏わせ、


「雷撃」
「くっ⁉」


バチィイイイッ‼


そのまま体内に電流を送り込むために拳を突きだすが、エンは後ろに倒れこんで回避する。


ズドォオオオンッ‼


レノの雷撃が外部に放出され、そのまま光線のように上空の結界に衝突する。避けられたことに驚く一方、すぐに追撃を行おうとするとレノに対し、エンは地面に向けて掌を押し付け、


「あばよっ‼」


ドォオオオオンッ‼


「うなっ……⁉」


まるでロケット噴射のように両手から炎を吹き出して後方に吹き飛び、そのまま離れて岩石の影に姿を消す。エンの予想外の行動にレノが呆気にとられる一方、キマイラの方にも異変が起きていた。



――グォアアアアッ……‼



キマイラの咆哮が響き渡り、振り返るとそこには尻尾を失った巨獣が目を血走りながら起き上がり、翼を大きく羽ばたかせて飛翔していた。