種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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最終章 ヤマタノオロチ編

黒幕との邂逅

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――ベータによるヤマタノオロチの報告から半日後、レノ達は聖導教会の協力を得て長老会の残党が隠れ住む廃村に辿り着く。既に王国の腕利きの猛者たちが総動員し、更にはセンリやテンといった聖導教会側からも援軍が到着しており、廃村に辿り着く頃には伝説獣が相手であろうと討伐出来る戦力を誇っていた。


「ここが……例の廃村なのか」
「何処か見覚えがあるな……」


廃村に到着し、レノ達は残党狩りを開始する。とはいえ、緑影達は既に森の方に避難を行っているのか人一人見つからず、ハニーベアーによって滅ぼされた寂れた村の風景だけが広がっていた。


「そう言えばここでゴンちゃんと再会したんだっけ?」
「そうだったな。あの時はレノが生きていた事が嬉しかった」
「しっかし、わざわざ勇者を王国の税の取り立てのために送り込むとは……呆れたね」
「それを言われると辛いですが……彼等も王国に所属する以上は仕事を全うして貰わなければこちらも困りますので……」


召喚された勇者達の多くは好き勝手に行動を行い、王国の経営を傾かせる程の豪遊を行う者も少なくなかった。そのため、彼等にはそれ相応の仕事を与えており、実際に魔物の討伐には大きく貢献してくれた。

だが、その勇者達もゲームの感覚で動いていたからこそ、こちらの世界の住民と大きな溝が出来てしまう。無論、全ての責任が勇者達にあるわけではないのだが、それでも彼等の中に本気で世界を救う事を考える者が多ければ今のような事態には陥らなかっただろう。

リノンの脳裏に最速の勇者を名乗るシゲルが思い浮かび、彼とは共に幾度も死線を潜り抜けた仲であり、結果的に裏切ったとはいえ、彼を恨む事も嫌悪する事もは出来ない。彼も被害者の1人なのだ。


「勇者か……そういえば例の「作戦」には美香さんも必要になると思うけど」
「うっ……わ、分かっている。だが、レノの方もいいのか?場合によっては君の配下のハイ・ゴブリン達も危険な目に合わせるかも知れないが……」
「カイ達なら大丈夫だよ。ロプスもいるし、ミノっちもわざわざ呼び寄せるんだから。それにバル達も来てくれるって言うし」



――ヤマタノオロチの討伐作戦にはこれまでにレノが関わってきた人物達の力が必要であり、既に魔導大国や和国にも連絡を送り、他の六種族にも救援を求めている。ライオネルは既に賛同し、レフィーアもハヤテとフウカの協力を約束し、獣人族側も聖導教会に預けた例の武器の提供を約束してくれた。



「意外なのはケンキの奴も参加する事かな……案外、あっさりと従ってくれたね」
「奴とは心行くまで戦いあった……あいつが味方なら心強い」
「僕としては世界を滅亡に追い込もうとした組織に加担していた彼を信用できないが……今回の作戦に必要というのなら仕方がない」


今回の作戦には放浪島で働いているケンキも賛同し、彼は自由になる事を引き換えにヤマタノオロチの討伐に参加する事を近い、更に言えば今回の作戦のために美香やリオといった腕利きの魔術師も参加している。それほどまでに今度の戦いは最大規模の戦闘が予想され、何としても敗北は許されない。


「ホムラは何処に居るのかね……あいつが見つからないと、何も始まらないのに」
「ホムラさんを参加させるのは危険過ぎませんか?しかも、あの魔槍を貸し与えるなんて……」
「でも、ホムラ以外に扱える人材なんて思いつかないし、戦力的にも絶対必要不可欠なんだよな……」


今現在は何処に旅をしているのか分からないホムラの捜索も行われており、ヤマタノオロチとの決戦には彼女の力が必要不可欠であり、交易都市のホノカも飛行船の修復を急いでいる。


「すんすん……人の臭いがします!!」
「本当かポチ子?」
「……あっちの方から」


ポチ子が犬のように鼻を引くつかせながら前方を指差し、コトミも猫耳を想像させる癖っ毛を動かし、全員が身構える。


「あれは……緑影でござる」
「堂々と姿を現すとは言い度胸だね。やる気なのかい?」


建物の影から次々と漆黒の装束を纏った集団が現れ、テンは大剣を握りしめて笑みを浮かべ、センリも戦闘態勢に入り、杖を構えようとした時、一人の人物が前に出てくる。それは元森人族代表の「レイラ」であり、以前に出会った時よりも随分と年老いたように感じられ、彼女はレノ達を見て深いため息を吐き出す。


「……お前たちを待っていた」
「……どういう事ですか?また、何か策略を仕掛けようとしているのですか?」
「レイラ様……いえ、今はレイアと呼ばせて貰います。どうしてこのような凶行を行ったのですか!!」
「センリ、か?久しぶりだな……」


聖導教会のセンリとレイラは知り合いだったのか、彼女は年老いた姿のセンリを見て自嘲気味の笑みを浮かべ、その場に座り込む。そんな彼女の姿に動揺が走り、誇り高いエルフが人前でそのような態度を取る事が信じられなかった。


「お主と先代の巫女姫様とは色々と遭ったが、今では懐かしい思い出よのう……しかし、儂等も随分と置いてしまったな」
「私の記憶の限りではレイラ様はあまり変わらないように思えますが……」
「ふふっ……そうか、そうじゃな……長く生きすぎたせいで、時間が経つのにが早く感じられる。お前とミキが聖天魔導士の座を賭けて争っていた時期が懐かしい」
「悪いが世間話を聞きに来たわけじゃないんだよ!!あんた等の親玉を出しな!!」


テンが2人の会話を遮り、今回の目的は全ての元凶である黒幕の捕獲であり、レイラはそんな彼女の言葉に黙り込み、


「あの方は奥に居る……だが、会う事を許したのはレノ、お主だけじゃ」
「どういう意味?」
「そのままの意味じゃ……奥に進め、あの方がお前の事を心待ちにしている」
「レノ、駄目だ。1人で行ったら何をされるか……」
「言っておくが、我等はその気になればお前等の追跡など逃れる事はいつでも出来た。お前たちの影も相当に優秀なようだが、我々の隠密能力を舐めるな」
「なんと……気付かれていたでござるか」
「……ポンコツ忍者」
「あうっ……」


口調が変化し、レイラはアルトの傍に控えるカゲマルを睨み付ける。どうやら長老会も王国が自分達の拠点を発見した情報を掴んでいたようであり、それでも逃げずにこの場所に踏みとどまったのはレイラを従える黒幕の意志らしい。


「言っておくが、我々はこの状況下でも逃げ切れる自信はある。それでも我等がここに残ったのはあの御方の意志だからだ。さあ、レノよ……あの御方が舞っている。早く行くがいい」
「仕方ないな……皆、ここで待ってて」
「危険過ぎる!!こいつらは信用できない!!」
「大丈夫だよ。いざとなったらこいつがある」


レノはレイラ達に見えない位置で「転紙」を取り出し、いざという時は転移魔法で逃げる事を約束し、アルト達は渋々と認めると、彼1人だけが廃村の奥に進む。


「レノよ……レイアの事は、すまなかった」
「……え?」


レイラの横を通り過ぎる際、レイラが呟くように謝罪したが、その言葉の意味が理解できず、レノは構わずに進み続けた。
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