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エルフ王国 決戦編

世界樹の崩壊

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『一体何が起きて……うわぁっ!?』


更に傾きが増した事でルノは立つ事さえできず、壁際の方に倒れ込む。意識しなければ氷塊で生み出した氷は浮上する事は出来ないのため、ルノは他の昆虫種の死骸と共に壁際に叩きつけられてしまう。どうにか起き上がったルノは転移結晶の台座が設置されている通路の方に移動しようとした時、他に2つの下の階層に続く通路から轟音が響き渡る。


『何だ!?』


氷壁で阻まれた通路の方角から爆発音が響き、ルノは視線を向けると氷の壁を隔てた通路の先で爆炎が生じている事を知る。ここでルノは世界樹内で魔王軍が設置したという爆発物の事を思い出し、どうやら世界樹内のあちこちで爆発が起きている事に気付く。

先ほどから床が傾いているのはどうやら世界樹その物が爆発によって崩れかけようとしているらしく、徐々に振動と爆音が高まり、広間の内部も爆炎による影響で熱が高まっていた。このままでは不味いと判断したルノは氷鎧を操作して急いで転移結晶の台座の元へ向かう。


『皆さん、大丈夫ですか!?』
「おお、英雄殿か……お主も無事だったか」
『国王……さん?』


転移結晶が設置されている広間に駆けつけると、既に全員が転移を果たしていたのか国王と数名の兵士以外に人影は見当たらず、ルノは壁際に倒れ込んでいる彼等の元へ駆けつける。


『大丈夫ですか?』
「うむ、儂等は何ともない。だが、この状態では転移結晶を発動する事が出来ん……英雄殿、お主だけでも逃げるのだ」
『そういう訳にはいきませんよ。皆で脱出しましょう』
「しかし、脱出と言っても我々には手段が……」
『平気です。これだけの人数なら何とかなりますから……氷塊!!』


氷鎧を解除したルノは全員が抜け出すための乗り物を生み出すため、広間内に氷の大型飛行機を生み出す。唐突に出現した謎の乗り物に国王たちは驚くが、今は説明している暇はないのでルノは彼等に早く乗るように促す。


「さあ、これに乗ってください!!この中に居れば安全ですから!!」
「こ、これに乗るのか?本当に英雄殿は変わった乗り物を生み出せるのう……」
「いいから早く!!」
「ぬおおっ!?」
「こ、国王様!?」


時間がないのでルノは国王の身体を持ち上げると飛行機の中に移動させ、慌てて他の兵士達も後を追う。世界樹の傾きも徐々に90度に近付き、完全に倒れる前にルノは国王たちを避難させると、氷飛行機を出発させようとした。


「じゃあ、このまま樹皮を突破して進みますよ!!いいですね?」
「う、うむ……構わん、やってくれ」


脱出のためには樹皮を突破する必要があるため、ルノは氷飛行機を移動させる前に右手を構えて魔法を放つ準備を行う。


「黒炎槍!!」
「ぬおおっ!?」


ルノの掌から黒炎の巨大な槍が放出され、樹皮に衝突して焼き尽くす。火炎の槍は外部まで貫通し、大きな風穴を生み出す。十分に氷飛行機が移動できる程の大穴だと判断すると、ルノは風穴に向けて出発しようとしたが、不意にある事を思い出す。


「あっ……そうだ」
「ど、どうした?」
「いや、あれも持っていこうかと思って……」
「あれだと……ま、まさか!?そんな事が出来るのか!?」


国王はルノの言葉に驚愕し、他の兵士達も動揺を隠せない。しかし、氷飛行機を拡張すればルノが告げたある物も運び出す事も出来なくはなく、この国に残された秘宝であるが故に運び出せるのならば運び出しておきたい代物だった――




――数十秒後、氷飛行機が世界樹から抜け出すと、周囲には大量の昆虫種が混乱したように世界樹の周囲に飛び回っていた。世界樹の至る箇所で起きた爆発によって徐々に炎に飲み込まれ、世界樹から零れ落ちる火の粉によって他の木々にも燃え移り、既に世界中の周辺では火事が起きていた。

昆虫種は世界樹を中心に巣を形成していたために自分達の住処にも火が回り、生き残った巨大昆虫は必死に逃げようとするが、何か見えない糸のような物に操られているように一定の距離から離れる事が出来ない。やがて世界樹が完全に崩壊し、ゆっくりと巨大な樹木が崩れ落ちて地面に衝突し、湖の中に沈んでいく。


「ああっ……世界樹が、我がエルフ王国を1000年以上も支えてきた神樹が……」
「我々はこれからどうやって生きて行けばいいのだ……」
「くそっ……魔王軍め!!」
「…………」


世界樹が崩れ落ちる様子を氷飛行機の窓から様子を確認していた森人族達は嘆き悲しみ、そんな彼等にルノは一瞥し、崩れ去る世界樹に視線を向ける。エルフ王国の人間にとっては世界樹は何よりも大事な存在であるらしく、しかも王都は世界樹によって踏みつぶされてしまう。

生き残った森人族の殆どは白原に避難させる事には成功したが、今後の彼等の事を考えるとエルフ王国はもう国としては成り立たないだろう。だが、彼等に希望が残されているとしたら氷飛行機に運び込んだ「転移結晶」であり、この巨大な水晶があればエルフ王国は立て直せる可能性は残されていた――
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