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エルフの師弟

第27話 弟子の競い合い

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「でも、貴方が弟子を取っていたなんてね……面白い事を思いついたわ。私の弟子と貴方の弟子で勝負するのはどうかしら?」
「な、なんじゃと!?」
「ええっ!?あたしが勝負するんですか!?」
「俺も!?」


マリアの提案に全員が驚愕し、彼女は年老いたクロウと今更勝負の決着をつけるつもりはなかったが、お互いの弟子の優劣は気になった。


「どうかしら?貴方の弟子と私の弟子で私達の勝負に決着をつけるのも面白いそうじゃない?」
「何を勝手なことを……ナイはまだ収納魔法しか覚えておらん!!勝負にはならんぞ!!」
「そうなんすか?」
「そ、そうっす……」
「あ、真似しましたね」


エリナの問いかけにナイは彼女の口調が移った返事をしてしまい、まだナイが収納魔法しか覚えていないと聞いてマリアは意外そうな表情を浮かべる。


「貴方、クロウの弟子になってからどれくらい過ごしているの?」
「えっと、四年ぐらいですね」
「え~!?四年で魔法を一つしか教えてもらってないんですか?それはちょっとケチじゃないっすか?」
「やかましい!!むやみやたらに魔法を教えればいいというわけではない!!基礎をしっかりと身に着けてから魔法を覚えさせるのが儂のやり方だ!!」
「……古い魔術師の考え方ね」


クロウは時間をかけて魔法を扱うのに必要な技術を磨かせる方針であり、実際にナイは基礎に関しては熟練の魔術師にも劣らぬ技術力を身に着けていた。


「貴方の教育方針に文句をつけるつもりはないけれど、こんな危険な山の中で攻撃魔法を教えていないのはどうかと思うわね。もしもお弟子さんが一人の時に魔物に襲われたらどうするつもりなの?」
「ふん!!儂が何の対策もせずに弟子を育てていると思っているのか?万が一の場合に備えてこいつには魔除けのペンダントを……待て、ナイよ。魔除けのペンダントはどうした?」
「え?洞窟に置いてきたけど……」
「あ、阿保か!?あれほど外に出る時はペンダントを忘れるなと言っただろう?」
「いや、だって……あれ付けてると狩猟の時に苦労するから」


自分のペンダントを外して行動していたナイにクロウは叱りつけるが、ナイとしては魔除けのペンダントはもう必要ない物だと考えていた。黒射や石弾と言った攻撃手段を手に入れたナイは、もう一人でも魔物と戦える力を身に着けていた。それにナイには頼れる相棒が居た。


「それにいざという時はビャクが守ってくれるし……あれ?そういえばビャクは何処に行ったの?」
「ん?さっきまでいたはずだが……」
「もしかしてあそこで隠れているワンちゃんのことっすか?」


先ほどまでは自分達の傍にいたビャクが消えている事にナイとクロウは不思議がるが、エリナが山小屋を指差す。二人は視線を向けると建物の陰に隠れて様子を伺うビャクの姿があった。


「あれ!?ビャク、どうしたの?ほら、こっちにおいで!!」
「ク、クゥ~ンッ……」
「ふん、どうやらお前に怯えているようだな……マリア」
「あら、白狼種じゃない。まだ生き残りがいたのね」
「白狼種!?あたし初めて見ましたよ!!」


ナイが手招きしてもビャクは怯えた様子で近付こうとせず、その理由はマリアの発する魔力が原因だった。魔物は魔力に敏感のため、自分よりも強力な魔力を放つ存在は警戒する。いきなり現れたマリアの魔力にビャクは警戒して隠れてしまったらしい。

ちなみにナイとクロウの魔力にビャクが怯えないのは彼等が味方だからと認識しているからであり、あくまでも魔物が警戒心を抱くのは得体の知れない魔力に限られる。ナイが何度も招き寄せると恐る恐る近付いてきた。それを見てエリナは珍しそうに近寄る。


「可愛いワンちゃんですね。頭を撫でてもいいですか?」
「グルルルッ……」
「ビャク、落ち着いて。この人達は襲ったりしないから」
「クゥ~ンッ」


ナイが宥めるとビャクは大人しくなり、エリナに頭を撫でさせる。それを見てマリアはクロウに話しかけた。


「魔物を飼うなんて貴方の弟子も変わってるわね。魔物使いにでも育てるつもりかしら?」
「余計なお世話だ……用がないのならもう帰れ」
「いいえ、さっきの話が済んでいないわ。やはり貴方と私の弟子を競い合わせましょう」
「な、何だと!?」


弟子同士を争わせる話に戻したマリアはビャクに視線を向け、ナイがビャクを従えているのならば面白い勝負になると確信した。


「そうね、だったら狩猟で勝負するというのはどうかしら?この山に潜む魔物を狩らせて、より大物を仕留めた者の勝利ということでどうかしら?」
「な、何を言い出す!?」
「おっ、狩猟ならあたしは大得意っす!!」
「狩猟で勝負……それなら」


収納魔法しか覚えていないナイにエリナと直接戦わせるのは酷だと判断したマリアは、二人を狩猟に出向かせて獲物を狩る勝負を提案する。エリナは師の提案に賛成し、ナイも普段から狩猟は行っているので自信はあった。だが、クロウだけは反対する。


「待て!!その勝負だとエリナが有利すぎるだろう!?狩猟などエルフの独壇場ではないか!!」
「確かにそうね。ならハンデとしてそのワンコも一緒に連れて行っていいわ」
「え?ビャクも?」
「ウォンッ?」


エルフは狩猟を得意とする種族であるため、一対一の勝負ではナイはエリナに勝ち目はない。そのためにマリアは白狼種のビャクの同行を認めた。白狼種は狼種の魔物の中でも嗅覚と脚力に優れているため、猟犬代わりには打って付けだった。

ナイとしては普段から住んでいる山の中での狩猟ならば自分の方が有利だと思うのだが、クロウはそんな彼に耳打ちを行う。


「ナイ、悪い事を言わんからこの勝負は断れ。お前ではエリナに勝つのはまだ無理だ」
「え?どうして?狩猟なら俺も得意だけど……」
「エルフは幼少期から狩猟を行う種族だ。だから人間よりも気配を察知する能力も優れている。ほんの一、二年の狩猟しか経験していないお前では勝ち目はないだろう」
「あら、怖気づいたのかしら?」
「大丈夫っすよ。人間さんがエルフに負けても恥じゃありませんから」


二人の会話が耳に入ったのかマリアとエリナは余裕の笑みを浮かべ、そんな二人の態度にナイは悔しく思う。隣に立つビャクも同じ気持ちなのか、威嚇する様に唸り声を上げる。


「グルルルッ!!」
「ビャク……分かった。師匠、俺は勝負を受けるよ」
「ま、待て!!あんな安い挑発に乗る奴がおるか!?」
「大丈夫だよ。俺とビャクが一緒ならこの山で狩れない獲物なんていないよ」
「ウォンッ!!」


クロウの制止を振り切ってナイはビャクを連れてエリナの前に立つと、彼女は人懐っこい笑みを浮かべながら右手を差し出す。


「おっ、やる気になったんすね。それじゃあ、お手柔らかにお願いします」
「……手加減はしないよ」
「ウォンッ!!」
「ふふっ、話はまとまったようね」
「はあっ……仕方あるまい。まあ、敗北もいい経験になるか」


師である自分の忠告を無視して勝負を引き受けたナイにクロウはため息を吐くが、そんな彼にもナイは内心怒りを抱いていた。まるで自分が負けることを確信しているようなクロウにナイは怒鳴る。


「さっきからうるさいな!!師匠はそんなに俺達の事が信用できないの!?」
「ウォンウォンッ!!」
「い、いや、そういうわけではないが……」
「ちょっとちょっと、勝負の前から喧嘩は駄目ですよ」


ナイとビャクがクロウに怒るとエリナが宥めようとするが、それを見ていたマリアが口を挟む。


「好きに言わせてあげなさい。弟子を信用できないような師なんて最低なのは事実なんだから」
「な、何だと!?人が大人しくしておれば調子に乗りおって……もしもお前の弟子が負けたら二度と儂の前に現れるなよ!!」
「ええ、それで構わないわ。だけど私の弟子が勝ったら何でも一つ言う事を聞いてもらうわよ」
「望むところだ!!」
「ちょ、師匠!?」


まんまとマリアの言葉に乗せられて賭けに乗ったクロウに今度はナイが焦るが、もう引き返せなかった。
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