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エルフの師弟
第39話 盗賊の正体
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――村では女性と子供を除いた男達が内密に集まり、盗賊を撃退する方法を話し合っていた。彼等は何日も盗賊に馬車馬のようにこき使われ、もう我慢の限界を迎えていた。
「もう我慢ならねえ!!皆で力を合わせてあいつらを捕まえるぞ!!」
「相手はたったの五人なんだ!!全員がかりで襲えば……」
「馬鹿言うんでねえっ!!人間はともかく、あの化物はどうするだ!?オラたちに敵う相手じゃねえべっ!!」
「しっ、声がでけぇっ……気づかれたらどうするんだ?」
厩舎の中に集まった男達は作戦会議を行い、彼等は自分達の手で盗賊を捕まえる方法を話し合う。この村に襲撃を仕掛けた盗賊の数はたったの五人であり、人数的には村人の方が圧倒的に多い。しかし、盗賊には厄介な味方が存在した。
盗賊が襲撃を仕掛けてきた際、彼等の傍には「魔物」が居た。どういう方法を用いたのかは不明だが、盗賊の一人が魔物を服従させて村人に襲わせ、圧倒的な力を持つ魔物の前に村人は為す術もなく、盗賊に降伏するしかなかった。
「ダテムネの奴め、あっさり捕まりおって……こんな時に役に立てないで何が用心棒だ!!」
「だから大声を出すな……気づかれたら終わりだぞ」
「それにあんな化物に人間がどうこうできるはずがない。冒険者じゃあるまいし……」
ダテムネが脱走して村の外に助けを求めに行った事はまだ誰も知らず、 未だに彼が捕まっていると勘違いしていた。だが、仮にダテムネが残っていたとしても状況は変わらない。いくら彼が強くとも魔物には到底敵わない。
「……アルが生きていればな」
「ん?爺さん、それはどういう意味だ?」
「前の村長がどうかしたのか?」
アルとは先代の村長の名前であり、ナイの父親でもある。集まった男達の中にはアルが生まれる前から村に暮らす老人も含まれていた。
「お前達も聞いたことがあるだろう。アルには強い味方がいたんだ。前に酔っ払った時に話していただろ?」
「それって魔術師のことだべか?あんなの村長のでまかせだろう」
アルは普段は温厚で優しい男だが、酒を飲むと人が変わったように口が軽くなり、他人から秘密にするように頼まれた話さえも暴露する悪癖があった。酒に酔う時に村長は自分には頼りになる「魔術師」の知り合いがいると村人達に豪語していた。
「おいおい、まさか本当に前の村長に魔術師の知り合いがいるなんて思ってるのか?あんなのでたらめに決まってんだろ」
「そうか、お前達は知らなかったな」
「何だと?爺さん、どういう意味だ?」
老人は小さい頃からアルの面倒を見ており、彼が酒に酔うと口が軽くなるのを知っていたが、決して嘘を吐く男ではないと知っていた。
「あいつは酒癖は悪いが嘘を吐いた事はない。あいつが魔術師の知り合いがいると言うのなら儂は信じた」
「爺さん、こんな時に与太話なんて……」
「いいから黙って聞け、どうしてアルが生きていた時に村が魔物に襲われなかったのか、その理由は知っているか?」
「な、何だよ急に……」
アルが存命の時は村に魔物が襲ってきた事は一度もなかった。これは他の村ならば有り得ぬ話であり、この近辺の村は年に数回ほど魔物に襲われるという。
どうして村が魔物に襲われなかったのか、それはアルがクロウに頼んで村の守り神として祀っている石像に年に一度彼の魔力を分け与えていたからだった。魔除けのペンダントと同じく、クロウの魔力を宿った石像があるお陰で村は魔物に襲われる事は今まで一度もなかった。
「あいつは隠していたつもりだろうが、儂は何度かこの村に老人が訪れる姿を見たことがある。その時にアルの奴が食料と家具を渡しているのを見たことがある。多分、あの御老人が魔術師なんだろう」
「本当に居るってのか?村長の言っていたが魔術師が……」
「そ、そういえば村長が変わってから魔物が村を襲ってくるようになったよな……」
アルが亡くなった事でクロウは村に訪れる事はなくなり、彼は石像に魔力を込める事はなくなった。魔除けの効果は永久ではなく、定期的に魔力を込めなければ効果を失う。
魔力を注がれなくなった事で石像は魔除けの効果を失い、そのせいで村に魔物が近付けるようになり、他の村と同様に年に数回ほど魔物の被害を受けていた。
「アルが死んだのが運の尽きだ。この村が長く平和だったのは魔術師のお陰だった……しかし、どうやら儂等は見捨てられたようだな」
「な、何だよそれ!?そんな話、信じられるか!!」
「儂の話が信じられんのなら別に信じなくてもいい……どうせ、儂等の命運はもう尽きたんじゃ。今更戦おうが逃げようが運命は変わらん」
老人は疲れた表情を浮かべ、もう彼は諦めていた。盗賊に挑んでも返り討ちにされるのは分かり切っており、逃げた所で一番近くの街に辿り着くまで馬無しでは何日も歩き続けなければならない。
少し前に村人の一人が盗賊達の話を盗み聞きした時、村の備蓄を食い尽くしたあとは村人を殺して別の村に襲撃を仕掛ける計画を立てていた。それを知ったからこそ男達は集まって殺される前に手を打とうと考えたが、彼等ではあまりにも無力だった。
「畜生、アルさんが生きていたらこんな目に遭わずに済んだのかもしれないのか……」
「そういえば村長の奴はどうした?」
「忘れたのか?妻と子供を置いて一人で逃げ出そうとしたところを捕まって痛めつけられたよ」
「そういえばそうだったな。確か子供と女の方は逃げ出したんだっけ?」
「ああ、今頃は野垂れ死んでるかもな」
ナイの叔父は脱走に失敗して捕まり、今現在も盗賊達に痛めつけられていると思われた。その一方で妻と子供はどさくさに紛れて逃げ出したが、馬無しで村の外に逃げても行く当てはなく、他の村や街に辿り着く前に魔物に襲われて死んでいる可能性が高い。
今の所は村長の家族以外の村人は誰一人として死んでいないが、盗賊に逆らった人間は殺されはしないが徹底的に痛めつけられる。逆らおうにも盗賊には魔物が味方しているため、下手に抗えば殺されてしまう。
「くそっ、いったいどうすればいいんだ……あいつらの馬を盗んで逃げ出すしかないのか?」
「馬を盗んで街の兵士に助けを求めれば……」
「馬鹿言うな、馬が盗まれたことを知られたらあいつらは容赦なく俺達を殺すぞ!!」
「なら、どうしろってんだ!?」
話し合いは加熱し、盗賊に抗うか逃げるか意見が分かれる中、先ほどアルの話を思い出した老人が厩舎の入口を見て顔色を青ざめる。
「くそっ……お前達、逃げろ!!」
「爺さん?急にどうしたんだ?」
「いったい何を言って……」
老人が大声を出した途端、男達は彼の視線の先に顔を向けると、厩舎の入口に二メートルを超える人型の化物が立っていた。それを見た瞬間、男達は恐怖のあまりに腰を抜かしてしまう。
――化物の正体は「ミノタウロス」であり、この村を襲撃した盗賊の一人に付き従う恐ろしい魔人族だった。
唐突に厩舎の前に現れたミノタウロスに男達は動けず、そんな彼等の前に一人の男が現れた。その男こそが盗賊の頭であり、片目に眼帯を付けた禿げ頭の大男だった。
「くくく、こんな場所に集まって何を話し込んでいるかと思えば、俺達の馬を奪うだと?どうやらまだお仕置きが足りなかったようだな」
「ブモォッ……!!」
「ひいっ!?」
盗賊の頭の名前は「デキン」この男がミノタウロスと部下を引き連れて村を襲撃した張本人だった。デキンの傍には配下である四人の盗賊の姿もあり、村人達を見て二やついていた。
「もう我慢ならねえ!!皆で力を合わせてあいつらを捕まえるぞ!!」
「相手はたったの五人なんだ!!全員がかりで襲えば……」
「馬鹿言うんでねえっ!!人間はともかく、あの化物はどうするだ!?オラたちに敵う相手じゃねえべっ!!」
「しっ、声がでけぇっ……気づかれたらどうするんだ?」
厩舎の中に集まった男達は作戦会議を行い、彼等は自分達の手で盗賊を捕まえる方法を話し合う。この村に襲撃を仕掛けた盗賊の数はたったの五人であり、人数的には村人の方が圧倒的に多い。しかし、盗賊には厄介な味方が存在した。
盗賊が襲撃を仕掛けてきた際、彼等の傍には「魔物」が居た。どういう方法を用いたのかは不明だが、盗賊の一人が魔物を服従させて村人に襲わせ、圧倒的な力を持つ魔物の前に村人は為す術もなく、盗賊に降伏するしかなかった。
「ダテムネの奴め、あっさり捕まりおって……こんな時に役に立てないで何が用心棒だ!!」
「だから大声を出すな……気づかれたら終わりだぞ」
「それにあんな化物に人間がどうこうできるはずがない。冒険者じゃあるまいし……」
ダテムネが脱走して村の外に助けを求めに行った事はまだ誰も知らず、 未だに彼が捕まっていると勘違いしていた。だが、仮にダテムネが残っていたとしても状況は変わらない。いくら彼が強くとも魔物には到底敵わない。
「……アルが生きていればな」
「ん?爺さん、それはどういう意味だ?」
「前の村長がどうかしたのか?」
アルとは先代の村長の名前であり、ナイの父親でもある。集まった男達の中にはアルが生まれる前から村に暮らす老人も含まれていた。
「お前達も聞いたことがあるだろう。アルには強い味方がいたんだ。前に酔っ払った時に話していただろ?」
「それって魔術師のことだべか?あんなの村長のでまかせだろう」
アルは普段は温厚で優しい男だが、酒を飲むと人が変わったように口が軽くなり、他人から秘密にするように頼まれた話さえも暴露する悪癖があった。酒に酔う時に村長は自分には頼りになる「魔術師」の知り合いがいると村人達に豪語していた。
「おいおい、まさか本当に前の村長に魔術師の知り合いがいるなんて思ってるのか?あんなのでたらめに決まってんだろ」
「そうか、お前達は知らなかったな」
「何だと?爺さん、どういう意味だ?」
老人は小さい頃からアルの面倒を見ており、彼が酒に酔うと口が軽くなるのを知っていたが、決して嘘を吐く男ではないと知っていた。
「あいつは酒癖は悪いが嘘を吐いた事はない。あいつが魔術師の知り合いがいると言うのなら儂は信じた」
「爺さん、こんな時に与太話なんて……」
「いいから黙って聞け、どうしてアルが生きていた時に村が魔物に襲われなかったのか、その理由は知っているか?」
「な、何だよ急に……」
アルが存命の時は村に魔物が襲ってきた事は一度もなかった。これは他の村ならば有り得ぬ話であり、この近辺の村は年に数回ほど魔物に襲われるという。
どうして村が魔物に襲われなかったのか、それはアルがクロウに頼んで村の守り神として祀っている石像に年に一度彼の魔力を分け与えていたからだった。魔除けのペンダントと同じく、クロウの魔力を宿った石像があるお陰で村は魔物に襲われる事は今まで一度もなかった。
「あいつは隠していたつもりだろうが、儂は何度かこの村に老人が訪れる姿を見たことがある。その時にアルの奴が食料と家具を渡しているのを見たことがある。多分、あの御老人が魔術師なんだろう」
「本当に居るってのか?村長の言っていたが魔術師が……」
「そ、そういえば村長が変わってから魔物が村を襲ってくるようになったよな……」
アルが亡くなった事でクロウは村に訪れる事はなくなり、彼は石像に魔力を込める事はなくなった。魔除けの効果は永久ではなく、定期的に魔力を込めなければ効果を失う。
魔力を注がれなくなった事で石像は魔除けの効果を失い、そのせいで村に魔物が近付けるようになり、他の村と同様に年に数回ほど魔物の被害を受けていた。
「アルが死んだのが運の尽きだ。この村が長く平和だったのは魔術師のお陰だった……しかし、どうやら儂等は見捨てられたようだな」
「な、何だよそれ!?そんな話、信じられるか!!」
「儂の話が信じられんのなら別に信じなくてもいい……どうせ、儂等の命運はもう尽きたんじゃ。今更戦おうが逃げようが運命は変わらん」
老人は疲れた表情を浮かべ、もう彼は諦めていた。盗賊に挑んでも返り討ちにされるのは分かり切っており、逃げた所で一番近くの街に辿り着くまで馬無しでは何日も歩き続けなければならない。
少し前に村人の一人が盗賊達の話を盗み聞きした時、村の備蓄を食い尽くしたあとは村人を殺して別の村に襲撃を仕掛ける計画を立てていた。それを知ったからこそ男達は集まって殺される前に手を打とうと考えたが、彼等ではあまりにも無力だった。
「畜生、アルさんが生きていたらこんな目に遭わずに済んだのかもしれないのか……」
「そういえば村長の奴はどうした?」
「忘れたのか?妻と子供を置いて一人で逃げ出そうとしたところを捕まって痛めつけられたよ」
「そういえばそうだったな。確か子供と女の方は逃げ出したんだっけ?」
「ああ、今頃は野垂れ死んでるかもな」
ナイの叔父は脱走に失敗して捕まり、今現在も盗賊達に痛めつけられていると思われた。その一方で妻と子供はどさくさに紛れて逃げ出したが、馬無しで村の外に逃げても行く当てはなく、他の村や街に辿り着く前に魔物に襲われて死んでいる可能性が高い。
今の所は村長の家族以外の村人は誰一人として死んでいないが、盗賊に逆らった人間は殺されはしないが徹底的に痛めつけられる。逆らおうにも盗賊には魔物が味方しているため、下手に抗えば殺されてしまう。
「くそっ、いったいどうすればいいんだ……あいつらの馬を盗んで逃げ出すしかないのか?」
「馬を盗んで街の兵士に助けを求めれば……」
「馬鹿言うな、馬が盗まれたことを知られたらあいつらは容赦なく俺達を殺すぞ!!」
「なら、どうしろってんだ!?」
話し合いは加熱し、盗賊に抗うか逃げるか意見が分かれる中、先ほどアルの話を思い出した老人が厩舎の入口を見て顔色を青ざめる。
「くそっ……お前達、逃げろ!!」
「爺さん?急にどうしたんだ?」
「いったい何を言って……」
老人が大声を出した途端、男達は彼の視線の先に顔を向けると、厩舎の入口に二メートルを超える人型の化物が立っていた。それを見た瞬間、男達は恐怖のあまりに腰を抜かしてしまう。
――化物の正体は「ミノタウロス」であり、この村を襲撃した盗賊の一人に付き従う恐ろしい魔人族だった。
唐突に厩舎の前に現れたミノタウロスに男達は動けず、そんな彼等の前に一人の男が現れた。その男こそが盗賊の頭であり、片目に眼帯を付けた禿げ頭の大男だった。
「くくく、こんな場所に集まって何を話し込んでいるかと思えば、俺達の馬を奪うだと?どうやらまだお仕置きが足りなかったようだな」
「ブモォッ……!!」
「ひいっ!?」
盗賊の頭の名前は「デキン」この男がミノタウロスと部下を引き連れて村を襲撃した張本人だった。デキンの傍には配下である四人の盗賊の姿もあり、村人達を見て二やついていた。
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