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第79話 不審者
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「そういえば二人は何処で寝泊まりしてるの?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「私達はギルドの宿舎に泊まってるんだよ~」
「宿舎……そんなのがあるんだ」
ダインとハルナは普段は宿舎で生活しており、一般人は立入禁止なのでレノを泊めることはできない。
「宿舎の利用が許可されているのは銅級と鉄級の冒険者だけなんだよ」
「どうして?」
「うちのギルドは人数が多すぎるから冒険者全員が泊まれる程の宿舎なんて用意できないんだよ。だからギルドマスターの方針で銀級まで昇格した冒険者は宿舎を出て自力で生活することになったんだ」
「私達はまだ銅級冒険者だから宿舎に泊まれるんだよ~」
「へえ……でも、銀級に昇格したら宿舎を出るとなると生活も大変そうだね」
「そうでもないよ。銀級まで昇格したら仕事に困ることはないし、色々と援助も受けられるようになるんだよ」
「ヒカゲちゃんも銀級冒険者になってからいっぱい稼げるようになったと言ってたよ~」
「なるほど」
銀級以上の冒険者は宿舎に泊まれないことに不満を抱く者は皆無であり、銅級や鉄級の時よりも収入が大幅に増えるので仕事を失敗しなければ住む場所に困ることはない。自力で生活できるような人間でなければそもそも銀級冒険者は勤まらないというのがギルドマスターの考えであり、現在の宿舎は銅級と鉄級冒険者が独占している。
「レノも冒険者になれば僕達と同じ宿舎に泊まれたのにな」
「でも、冒険者になるには試験を受けて結果を待たないと駄目だよ~」
「あ、そっか……いくら実力があってもすぐには冒険者にはなれないんだった」
「へえ、そうなんだ」
試験を受けて実力を示したとしても冒険者になるためには色々と時間が掛かるらしく、仮にレノが冒険者を志願しても一日の間に冒険者になることはできない。そんなことを話しながらレノ達は空き地を抜けようとした時、不意にウルが何かに勘付いたように振り返った。
「ウォンッ!?」
「ウル?どうした?」
「何だ?」
「何々?」
ウルの反応を見てレノ達は振り返ると、いつの間にか空き地に誰かが立っていた。先ほどまではレノ達以外に人間はいなかったはずだが、全身をマントで覆い隠した謎の人物が立ち尽くしていた。
(誰だ!?いつの間にいたんだ!?)
動物や魔物を相手に狩猟してきたレノは気配には敏感だが、謎の人物は全く音も気配も立てずに姿を現わした。ウルは鋭い嗅覚で気づいたらしいが、いきなり現れた謎の人物に唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「な、何だあいつ……何時から居たんだ!?」
「だ、誰だろうね?」
「……二人とも油断しないで」
いきなり現れた何者かにレノ達は警戒する中、マントの人物は顔を向けた。マントから現れたのは白い狐の面であり、それを見たレノ達は呆気にとられた。
狐の面を被った何者かはレノ達を見つめたまま動きを見せず、そんな相手にレノは嫌な予感を抱く。こういう場合の予感は外れたことはなく、レノは咄嗟に背中の弓を構えた。
「誰だ!!」
「な、何だよお前!?まさか……殺人鬼か!?」
「ええっ!?」
「ウォオンッ!!」
自分達を見つめたまま動かない相手にレノは弓を構え、ダインも杖を取り出して影魔法の準備を行う。ハルナだけは慌てふためいているが、そんな彼女を庇うようにウルは前に立つ。
(こいつ……やばいっ!!)
直感でレノは狐面を被った相手が危険だと悟り、子供の頃に魔物と初めて遭遇した時のことを思い出す。人は得体のしれない相手を前にした時は冷静でいられず、レノは弓を構えたまま動けない。
(この距離なら外さない……もしも不審な動きをしたら撃つしかない!!)
レノは人を撃つことにはまだ抵抗はあるが、もしも相手が殺人鬼ならば手加減する余裕はない。油断すればこちらが殺されるかもしれず、ダインに耳打ちを行う。
「ダイン、影魔法であいつの動きを封じられる?」
「だ、大丈夫……大分暗くなったし、今なら僕も全力で戦える」
ダインの影魔法は暗闇の中でこそ真価を発揮し、太陽は沈み始めて間もなく夜を迎える。夜間ならばダインは影魔法は強化されるため、援護には最適だった。
(ダインの影魔法で相手を捉えて俺が撃つ……それしか方法はない)
狐面との距離を見計り、レノは自分が最初の矢を外せば次の矢を撃つ前に相手が接近して攻撃を仕掛けてくると判断した。だから不用意に矢を撃つことはできず、相手に構えたまま動かない。
最初の一矢を当たり損ねれば自分達の身が危険に晒されることにレノは緊張感を抱く。だが、子供の頃と違って精神的にも成長したレノは冷静になって相手を観察した。
(大丈夫だ、落ち着け。あんなに修行してきたんだ……師匠なら絶対に外さない!!)
自分の師匠であるアルならば同じ状況に陥ったとしても決して取り乱さず、冷静に相手を射抜くだろうと確信があった。アルの教えを思い返しながらレノは警告を行う。
「そこから動くな!!変な動きをすれば撃つぞ!!」
「…………」
「な、何とか言えよ!?お前がギンさん達を殺した殺人鬼なのか!?」
「ええっ!?そ、そうなの!?」
ダインの言葉にハルナは驚き、彼女だけが状況をよく理解していなかった。狐面は黙り込んだまま動かず、そんな相手にレノは弓を構えたまま考える。
(こいつ何が目的なんだ?まさか本当に例の事件の犯人なのか?)
狐面の正体を確かめるには捕まえる以外に方法はなく、この時にレノは付与魔法を発動させる準備を行う。狙いは聖属性の魔力を矢に付与して閃光を生み出し、相手の目が眩んだ隙に捕まえる作戦を思いつく。
「ダイン、ハルナ……俺が合図したら二人とも目を閉じて」
「え?あ、そうか……分かった」
「目を閉じればいいの?」
「しっ、声が大きい……とにかく俺が合図したら目を閉じて」
「ウォンッ」
小声で仲間にレノは注意を促すと、付与魔法を発動させる準備を行う。一瞬でも狐面が目を眩ませればダインの影魔法で捉えることができる。この作戦はタイミングが大事であり、レノは冷や汗を流しながら準備を行う。
「今だ!!付与!!」
「「「っ……!!」」」
レノが合図を出すとダイン達は目を閉じて閃光に備えた。レノは狐面の相手に目掛けてではなく、足元の地面に向けて魔力を付与させた矢を放つ。しかし、それに対して狐面は予想外の行動を取る。
矢が放たれる直前に狐面はマントで顔を覆い隠し、矢が地面に衝突した際に閃光が空き地を包み込む。しかし、狐面はマントで目元を覆い隠していたことで目眩ましを防ぐ。
(こいつ!?どうして目眩ましに気付いたんだ!?)
閃光が発生する前に狐面がマントで顔を覆い隠したことにレノは動揺し、まるで最初から目眩ましを仕掛けることを知っていたような反応に戸惑う。しかも狐面は更に思いもよらぬ行動を取った。
『ダイン!!あいつが動けないうちに捕まえろっ!!』
「わ、分かった!!」
「えっ!?ちがっ……」
狐面はレノとそっくりの声音で大声をあげた。レノからの合図だと勘違いしたダインは影魔法を繰り出そうと杖を構えると、彼の影が蛇のように変化して地面を這う。
「シャドウスネーク!!」
「ダイン!?」
ダインが繰り出した影蛇は狐面の元へ向かうが、それに対して狐面は自ら前に出てきた。影蛇に捕らえられる前に狐面は勢いよく跳躍し、真っ直ぐにレノ達に目掛けて突っ込む。
(こいつ!?狙いは俺か!?)
狐面の狙いはレノらしく、いつの間にか右手に短剣を握りしめていた。レノが次の矢を撃つ暇もなく、回避も防御も間に合わなかった。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「私達はギルドの宿舎に泊まってるんだよ~」
「宿舎……そんなのがあるんだ」
ダインとハルナは普段は宿舎で生活しており、一般人は立入禁止なのでレノを泊めることはできない。
「宿舎の利用が許可されているのは銅級と鉄級の冒険者だけなんだよ」
「どうして?」
「うちのギルドは人数が多すぎるから冒険者全員が泊まれる程の宿舎なんて用意できないんだよ。だからギルドマスターの方針で銀級まで昇格した冒険者は宿舎を出て自力で生活することになったんだ」
「私達はまだ銅級冒険者だから宿舎に泊まれるんだよ~」
「へえ……でも、銀級に昇格したら宿舎を出るとなると生活も大変そうだね」
「そうでもないよ。銀級まで昇格したら仕事に困ることはないし、色々と援助も受けられるようになるんだよ」
「ヒカゲちゃんも銀級冒険者になってからいっぱい稼げるようになったと言ってたよ~」
「なるほど」
銀級以上の冒険者は宿舎に泊まれないことに不満を抱く者は皆無であり、銅級や鉄級の時よりも収入が大幅に増えるので仕事を失敗しなければ住む場所に困ることはない。自力で生活できるような人間でなければそもそも銀級冒険者は勤まらないというのがギルドマスターの考えであり、現在の宿舎は銅級と鉄級冒険者が独占している。
「レノも冒険者になれば僕達と同じ宿舎に泊まれたのにな」
「でも、冒険者になるには試験を受けて結果を待たないと駄目だよ~」
「あ、そっか……いくら実力があってもすぐには冒険者にはなれないんだった」
「へえ、そうなんだ」
試験を受けて実力を示したとしても冒険者になるためには色々と時間が掛かるらしく、仮にレノが冒険者を志願しても一日の間に冒険者になることはできない。そんなことを話しながらレノ達は空き地を抜けようとした時、不意にウルが何かに勘付いたように振り返った。
「ウォンッ!?」
「ウル?どうした?」
「何だ?」
「何々?」
ウルの反応を見てレノ達は振り返ると、いつの間にか空き地に誰かが立っていた。先ほどまではレノ達以外に人間はいなかったはずだが、全身をマントで覆い隠した謎の人物が立ち尽くしていた。
(誰だ!?いつの間にいたんだ!?)
動物や魔物を相手に狩猟してきたレノは気配には敏感だが、謎の人物は全く音も気配も立てずに姿を現わした。ウルは鋭い嗅覚で気づいたらしいが、いきなり現れた謎の人物に唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「な、何だあいつ……何時から居たんだ!?」
「だ、誰だろうね?」
「……二人とも油断しないで」
いきなり現れた何者かにレノ達は警戒する中、マントの人物は顔を向けた。マントから現れたのは白い狐の面であり、それを見たレノ達は呆気にとられた。
狐の面を被った何者かはレノ達を見つめたまま動きを見せず、そんな相手にレノは嫌な予感を抱く。こういう場合の予感は外れたことはなく、レノは咄嗟に背中の弓を構えた。
「誰だ!!」
「な、何だよお前!?まさか……殺人鬼か!?」
「ええっ!?」
「ウォオンッ!!」
自分達を見つめたまま動かない相手にレノは弓を構え、ダインも杖を取り出して影魔法の準備を行う。ハルナだけは慌てふためいているが、そんな彼女を庇うようにウルは前に立つ。
(こいつ……やばいっ!!)
直感でレノは狐面を被った相手が危険だと悟り、子供の頃に魔物と初めて遭遇した時のことを思い出す。人は得体のしれない相手を前にした時は冷静でいられず、レノは弓を構えたまま動けない。
(この距離なら外さない……もしも不審な動きをしたら撃つしかない!!)
レノは人を撃つことにはまだ抵抗はあるが、もしも相手が殺人鬼ならば手加減する余裕はない。油断すればこちらが殺されるかもしれず、ダインに耳打ちを行う。
「ダイン、影魔法であいつの動きを封じられる?」
「だ、大丈夫……大分暗くなったし、今なら僕も全力で戦える」
ダインの影魔法は暗闇の中でこそ真価を発揮し、太陽は沈み始めて間もなく夜を迎える。夜間ならばダインは影魔法は強化されるため、援護には最適だった。
(ダインの影魔法で相手を捉えて俺が撃つ……それしか方法はない)
狐面との距離を見計り、レノは自分が最初の矢を外せば次の矢を撃つ前に相手が接近して攻撃を仕掛けてくると判断した。だから不用意に矢を撃つことはできず、相手に構えたまま動かない。
最初の一矢を当たり損ねれば自分達の身が危険に晒されることにレノは緊張感を抱く。だが、子供の頃と違って精神的にも成長したレノは冷静になって相手を観察した。
(大丈夫だ、落ち着け。あんなに修行してきたんだ……師匠なら絶対に外さない!!)
自分の師匠であるアルならば同じ状況に陥ったとしても決して取り乱さず、冷静に相手を射抜くだろうと確信があった。アルの教えを思い返しながらレノは警告を行う。
「そこから動くな!!変な動きをすれば撃つぞ!!」
「…………」
「な、何とか言えよ!?お前がギンさん達を殺した殺人鬼なのか!?」
「ええっ!?そ、そうなの!?」
ダインの言葉にハルナは驚き、彼女だけが状況をよく理解していなかった。狐面は黙り込んだまま動かず、そんな相手にレノは弓を構えたまま考える。
(こいつ何が目的なんだ?まさか本当に例の事件の犯人なのか?)
狐面の正体を確かめるには捕まえる以外に方法はなく、この時にレノは付与魔法を発動させる準備を行う。狙いは聖属性の魔力を矢に付与して閃光を生み出し、相手の目が眩んだ隙に捕まえる作戦を思いつく。
「ダイン、ハルナ……俺が合図したら二人とも目を閉じて」
「え?あ、そうか……分かった」
「目を閉じればいいの?」
「しっ、声が大きい……とにかく俺が合図したら目を閉じて」
「ウォンッ」
小声で仲間にレノは注意を促すと、付与魔法を発動させる準備を行う。一瞬でも狐面が目を眩ませればダインの影魔法で捉えることができる。この作戦はタイミングが大事であり、レノは冷や汗を流しながら準備を行う。
「今だ!!付与!!」
「「「っ……!!」」」
レノが合図を出すとダイン達は目を閉じて閃光に備えた。レノは狐面の相手に目掛けてではなく、足元の地面に向けて魔力を付与させた矢を放つ。しかし、それに対して狐面は予想外の行動を取る。
矢が放たれる直前に狐面はマントで顔を覆い隠し、矢が地面に衝突した際に閃光が空き地を包み込む。しかし、狐面はマントで目元を覆い隠していたことで目眩ましを防ぐ。
(こいつ!?どうして目眩ましに気付いたんだ!?)
閃光が発生する前に狐面がマントで顔を覆い隠したことにレノは動揺し、まるで最初から目眩ましを仕掛けることを知っていたような反応に戸惑う。しかも狐面は更に思いもよらぬ行動を取った。
『ダイン!!あいつが動けないうちに捕まえろっ!!』
「わ、分かった!!」
「えっ!?ちがっ……」
狐面はレノとそっくりの声音で大声をあげた。レノからの合図だと勘違いしたダインは影魔法を繰り出そうと杖を構えると、彼の影が蛇のように変化して地面を這う。
「シャドウスネーク!!」
「ダイン!?」
ダインが繰り出した影蛇は狐面の元へ向かうが、それに対して狐面は自ら前に出てきた。影蛇に捕らえられる前に狐面は勢いよく跳躍し、真っ直ぐにレノ達に目掛けて突っ込む。
(こいつ!?狙いは俺か!?)
狐面の狙いはレノらしく、いつの間にか右手に短剣を握りしめていた。レノが次の矢を撃つ暇もなく、回避も防御も間に合わなかった。
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