文字の大きさ
大
中
小
9 / 22
第9話: 効かない薬
調合室に、甘い焦げた匂いが充満していた。
マティアス・ヴェーバーは銅鍋の中身を睨みながら、三度目の溜息をついた。教科書通りに配合した解熱剤が、また濁った色のまま安定しない。
「なぜだ……処方通りのはずなのに……」
手のひらを鍋の上にかざす。指先に何の反応もない。灌魔《かんま》の才がないマティアスには、薬草に魔力を注ぐことができない。だがそんなものは必要ないはずだった。王都の医学院では、薬草の薬効は化学的な反応で引き出すものだと教わった。魔力を注いで育てるなど——迷信だ。
「教科書通りの薬が効かないはずがない。薬草の品質に問題があるのだ」
棚に並ぶ薬材のラベルは、まだリリアーナの丁寧な筆跡のままだった。だがその薬草自体が——弱っている。いや、枯れかけている。灌魔を受けなくなった薬草は、日を追うごとに薬効を失っていた。
マティアスにはその理由がわからなかった。
秋霧熱《あきぎりねつ》が領内を蝕んでいた。
最初の患者が出てから二週間。罹患者は七十を超え、三日前に最初の死者が出た。高熱、激しい咳、全身の倦怠感。毎年小規模に発生する季節病のはずが、今年は桁が違う。
マティアスの薬は、熱を半日だけ下げた。夜にはぶり返し、前より高くなった。
「先生、薬を! もっと効く薬を!」
調合室の前に領民が詰めかけた。マティアスは扉を閉め、背を預けて震える手を見つめた。白衣の袖口が汗で湿っている。
——教科書通りの処方なのに。八年間学んだ薬理学なのに。なぜ効かない。
領民の一人が叫んだ声が、扉越しに刺さった。
「姫君の薬があれば! 去年は星霜花《せいそうか》の予防薬で、誰も倒れなかったのに!」
報告を受けたハルトヴィヒ侯爵は、執務室の椅子から立ち上がれなかった。
「罹患者七十二名。死者一名。侍医殿の解熱剤は——」
家令の老人が言い淀んだ。その沈黙が、答えだった。
「……効かなかったのか」
侯爵の声は低い。彫りの深い顔に刻まれた皺が、この数週間で一段と深くなっていた。
「薬の効きが弱く、熱は下がるものの半日で再び上がります」
かつてこの領地で秋霧熱が流行した時のことを、侯爵は思い出していた。あの時は——リリアーナが一晩で百人分の予防薬を調合した。翌日には流行の拡大が止まり、一週間で収束していた。あまりに手際が良すぎて、侯爵は「薬師の仕事とはその程度のもの」と思っていた。
——リリアーナの時はこんなことは。
その思考が浮かんだ瞬間、侯爵は自分の顔が歪むのを感じた。
「マティアスを呼べ」
執務室に呼ばれたマティアスは、白衣の胸ポケットの羽根ペンを神経質にいじりながら口を開いた。
「侯爵閣下。薬草の品質に問題がございまして。前任の薬師が特殊な方法で管理していたようなのですが、引き継ぎもなく——」
「引き継ぎはあった」
侯爵が遮った。
「リリアーナが書き残した手入れの手順書を、使用人がお前に渡したはずだ」
マティアスの顔が強張った。
「あ、あれは……非科学的な記述ばかりで、医学的根拠に基づかない——」
「薬草園を見に行く」
侯爵は立ち上がった。マティアスの弁解を最後まで聞く気はなかった。
星霜の庭の門を開けた瞬間、侯爵の足が止まった。
そこに広がっていたのは——荒野だった。
雑草が薬草を覆い、月見草《つきみそう》は虫に食われて折れ、陽だまり草は根腐れを起こしてどろどろに溶けている。氷雪蘭《ひょうせつらん》は刈り取られた後に茶色く萎《しお》びた残骸が転がっていた。
星霜花は——一本も残っていなかった。
三十年の歳月が育てた庭が、二ヶ月の無知と怠慢で死んでいた。
侯爵は立ち尽くしたまま、声を発することができなかった。
妻が三十年かけて育てた庭だ。朝早くから夕暮れまで、妻はこの園に立ち、薬草に声をかけ、一株一株に手を添えていた。リリアーナはその全てを受け継いだ。七年間、毎朝ここで「おはよう」と薬草に話しかけていた。その声を、窓越しに何度も聞いていたのに——その重みを量ろうとしなかった。
「なぜ……こんなことに……」
掠《かす》れた声が漏れた。
マティアスは園の入口で足を止めたまま、一歩も中に入ろうとしなかった。
「わ、私のせいではございません! 前任者が特殊な術を施していたのです! 正統な薬学では——」
「黙れ」
侯爵の声が凍りついた。
「お前は手入れの手順書を——妻が三十年かけて積み上げ、娘が書き残した手順書を、払いのけたそうだな」
マティアスの顔が蒼白に変わった。使用人が報告したのだ。紙束を一瞥もせずに払いのけた、あの日のことを。
「こんなものは雑草の山だ——お前はそう言ったらしいな」
マティアスは口を開いたが、言葉が出なかった。
その夜。
クラウス・フォン・ブレンナーが侯爵邸に駆け込んできた。
「リリアーナはどこだ! 彼女を呼び戻さなければ——薬草のことがわかるのはリリアーナだけだ!」
「お前が婚約を破棄したのだろう!」
侯爵が怒鳴った。
「僕が……僕が間違っていた。あのとき、ちゃんとリリアーナの話を聞くべきだった」
クラウスの声が震えた。明るい金髪が乱れ、青い瞳に浮かぶのは手遅れの後悔だった。
侯爵は沈黙した。自分もまた同じだった。妻の庭を守ってきた娘を、侍医の肩書き一つで追い出した。
「……使者を出す」
侯爵の声は乾いていた。
「リリアーナの居場所を探せ。見つけ次第、手紙を届けろ。——戻ってきてほしい、と」
書くべき言葉が見つからなかった。「戻ってこい」と命じる資格はない。追放した相手に頭を下げることは——自分の判断が全て誤りだったと認めることに他ならない。
だが領民が死んでいく。
侯爵は羽根ペンを手に取り、震える手で羊皮紙に向き合った。
『リリアーナ。私は間違っていた——』
クラウスも手紙を書いた。
何度も書き直した。言い訳を削り、自己弁護を削り、残ったのは——ただの懇願だった。
『リリアーナ。僕が間違っていた。君の薬草がどれほど大切なものだったか、今になってようやくわかった。頼む。戻ってきてくれ。僕は——』
ペンが止まった。
「少し青臭いな」——彼女の指先についた薬草の匂いを、そう笑ったことがある。あの匂いは、人の命を救う匂いだったのだ。
もう戻ってきてくれとは言えないかもしれない。だが言わなければ、領民が死ぬ。
クラウスは手紙を封じ、使者に託した。
使者の馬が、北への街道を駆けていった。
星霜の庭の跡では、踏みつけられた手順書の紙束を、庭番の老人が泥の中から一枚一枚拾い上げていた。
マティアス・ヴェーバーは銅鍋の中身を睨みながら、三度目の溜息をついた。教科書通りに配合した解熱剤が、また濁った色のまま安定しない。
「なぜだ……処方通りのはずなのに……」
手のひらを鍋の上にかざす。指先に何の反応もない。灌魔《かんま》の才がないマティアスには、薬草に魔力を注ぐことができない。だがそんなものは必要ないはずだった。王都の医学院では、薬草の薬効は化学的な反応で引き出すものだと教わった。魔力を注いで育てるなど——迷信だ。
「教科書通りの薬が効かないはずがない。薬草の品質に問題があるのだ」
棚に並ぶ薬材のラベルは、まだリリアーナの丁寧な筆跡のままだった。だがその薬草自体が——弱っている。いや、枯れかけている。灌魔を受けなくなった薬草は、日を追うごとに薬効を失っていた。
マティアスにはその理由がわからなかった。
秋霧熱《あきぎりねつ》が領内を蝕んでいた。
最初の患者が出てから二週間。罹患者は七十を超え、三日前に最初の死者が出た。高熱、激しい咳、全身の倦怠感。毎年小規模に発生する季節病のはずが、今年は桁が違う。
マティアスの薬は、熱を半日だけ下げた。夜にはぶり返し、前より高くなった。
「先生、薬を! もっと効く薬を!」
調合室の前に領民が詰めかけた。マティアスは扉を閉め、背を預けて震える手を見つめた。白衣の袖口が汗で湿っている。
——教科書通りの処方なのに。八年間学んだ薬理学なのに。なぜ効かない。
領民の一人が叫んだ声が、扉越しに刺さった。
「姫君の薬があれば! 去年は星霜花《せいそうか》の予防薬で、誰も倒れなかったのに!」
報告を受けたハルトヴィヒ侯爵は、執務室の椅子から立ち上がれなかった。
「罹患者七十二名。死者一名。侍医殿の解熱剤は——」
家令の老人が言い淀んだ。その沈黙が、答えだった。
「……効かなかったのか」
侯爵の声は低い。彫りの深い顔に刻まれた皺が、この数週間で一段と深くなっていた。
「薬の効きが弱く、熱は下がるものの半日で再び上がります」
かつてこの領地で秋霧熱が流行した時のことを、侯爵は思い出していた。あの時は——リリアーナが一晩で百人分の予防薬を調合した。翌日には流行の拡大が止まり、一週間で収束していた。あまりに手際が良すぎて、侯爵は「薬師の仕事とはその程度のもの」と思っていた。
——リリアーナの時はこんなことは。
その思考が浮かんだ瞬間、侯爵は自分の顔が歪むのを感じた。
「マティアスを呼べ」
執務室に呼ばれたマティアスは、白衣の胸ポケットの羽根ペンを神経質にいじりながら口を開いた。
「侯爵閣下。薬草の品質に問題がございまして。前任の薬師が特殊な方法で管理していたようなのですが、引き継ぎもなく——」
「引き継ぎはあった」
侯爵が遮った。
「リリアーナが書き残した手入れの手順書を、使用人がお前に渡したはずだ」
マティアスの顔が強張った。
「あ、あれは……非科学的な記述ばかりで、医学的根拠に基づかない——」
「薬草園を見に行く」
侯爵は立ち上がった。マティアスの弁解を最後まで聞く気はなかった。
星霜の庭の門を開けた瞬間、侯爵の足が止まった。
そこに広がっていたのは——荒野だった。
雑草が薬草を覆い、月見草《つきみそう》は虫に食われて折れ、陽だまり草は根腐れを起こしてどろどろに溶けている。氷雪蘭《ひょうせつらん》は刈り取られた後に茶色く萎《しお》びた残骸が転がっていた。
星霜花は——一本も残っていなかった。
三十年の歳月が育てた庭が、二ヶ月の無知と怠慢で死んでいた。
侯爵は立ち尽くしたまま、声を発することができなかった。
妻が三十年かけて育てた庭だ。朝早くから夕暮れまで、妻はこの園に立ち、薬草に声をかけ、一株一株に手を添えていた。リリアーナはその全てを受け継いだ。七年間、毎朝ここで「おはよう」と薬草に話しかけていた。その声を、窓越しに何度も聞いていたのに——その重みを量ろうとしなかった。
「なぜ……こんなことに……」
掠《かす》れた声が漏れた。
マティアスは園の入口で足を止めたまま、一歩も中に入ろうとしなかった。
「わ、私のせいではございません! 前任者が特殊な術を施していたのです! 正統な薬学では——」
「黙れ」
侯爵の声が凍りついた。
「お前は手入れの手順書を——妻が三十年かけて積み上げ、娘が書き残した手順書を、払いのけたそうだな」
マティアスの顔が蒼白に変わった。使用人が報告したのだ。紙束を一瞥もせずに払いのけた、あの日のことを。
「こんなものは雑草の山だ——お前はそう言ったらしいな」
マティアスは口を開いたが、言葉が出なかった。
その夜。
クラウス・フォン・ブレンナーが侯爵邸に駆け込んできた。
「リリアーナはどこだ! 彼女を呼び戻さなければ——薬草のことがわかるのはリリアーナだけだ!」
「お前が婚約を破棄したのだろう!」
侯爵が怒鳴った。
「僕が……僕が間違っていた。あのとき、ちゃんとリリアーナの話を聞くべきだった」
クラウスの声が震えた。明るい金髪が乱れ、青い瞳に浮かぶのは手遅れの後悔だった。
侯爵は沈黙した。自分もまた同じだった。妻の庭を守ってきた娘を、侍医の肩書き一つで追い出した。
「……使者を出す」
侯爵の声は乾いていた。
「リリアーナの居場所を探せ。見つけ次第、手紙を届けろ。——戻ってきてほしい、と」
書くべき言葉が見つからなかった。「戻ってこい」と命じる資格はない。追放した相手に頭を下げることは——自分の判断が全て誤りだったと認めることに他ならない。
だが領民が死んでいく。
侯爵は羽根ペンを手に取り、震える手で羊皮紙に向き合った。
『リリアーナ。私は間違っていた——』
クラウスも手紙を書いた。
何度も書き直した。言い訳を削り、自己弁護を削り、残ったのは——ただの懇願だった。
『リリアーナ。僕が間違っていた。君の薬草がどれほど大切なものだったか、今になってようやくわかった。頼む。戻ってきてくれ。僕は——』
ペンが止まった。
「少し青臭いな」——彼女の指先についた薬草の匂いを、そう笑ったことがある。あの匂いは、人の命を救う匂いだったのだ。
もう戻ってきてくれとは言えないかもしれない。だが言わなければ、領民が死ぬ。
クラウスは手紙を封じ、使者に託した。
使者の馬が、北への街道を駆けていった。
星霜の庭の跡では、踏みつけられた手順書の紙束を、庭番の老人が泥の中から一枚一枚拾い上げていた。
感想 16
あなたにおすすめの小説
「彼女をどのような立場に置かれるつもりですか」と聞かれたら…
章槻雅希王立学園で王太子ランベルトは真実の愛に出会った。よく恋愛小説にある話だ。しかし、ランベルトには婚約者がいる。そのディートリンデは冷静に状況を見ていた。真実の愛の相手ピーアに警告することもなく、ランベルトに諫言もしない。だが、ディートリンデは将来の王太子妃としてランベルトに問いかけた。「彼女をどのような立場に置かれるおつもりですか」と。
その結果、小説のような断罪劇や反撃もなく、静かにランベルトは表舞台から去ることになる。
「小説家になろう」・「アルファポリス」に重複投稿、自サイトにも掲載。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人「お前のような女が聖女であるはずがない!」
婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。
罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。
それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。
しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。
「どんな場所でも、私は生きていける」
打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。
これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。
国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。
【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。