オネエとヤクザ

ちんすこう

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第四章:The Catcher in the "Lie"

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 「おい、誰だお前」

 さっそく入口付近に立っていたボーイが眉を寄せる。

 「今日は店閉めてるんだよ」

 「ボーイのくせにたいそうな口の利き方ね。
 遥斗はここにいるかしら? あの子に用事があるの」

 「っお前、あのときのオカマ!?」

 ミフユの正体に気付いたらしいボーイがハッと目を瞠る。
 あの日、ミフユと伊吹を男だからと入店拒否しようとした店員だった。

 「あら、誰のことかな。
……そんなことより遥斗はいるかって聞いてんの」

 「答える義務はない。お前はここで死ぬからな」

 ニヤリ、ととても堅気とは思えない笑みを浮かべたボーイが、懐に手を入れる。

 ドスがミフユの目の前に突きつけられる――前に、男の顎にミフユの革靴の先がめり込んでいた。

 「ぶごおっ!?」

 のけ反った男が大きく腕を振って、地面に倒れていく。
 それを聞きつけた他のホストたちが、次々とこちらに押し寄せてきた。

 「おい、なんだ!?」

 「アイツだ! 取り押さえろ!」

 ヤクザとホストが入り乱れ、大勢押しかけてくる。

 拳やナイフを振りかざして迫り来る大群に、ミフユはにぃっと歪んだ笑みを浮かべた。


 「あらぁ、若い子ばっかりで幸せ。
 幸せすぎて――ぶっ倒したくなっちゃう!!」



・・・



 「う…………」

 激しい頭痛に苛まれながら、伊吹は意識を取り戻した。

 (クソ、やられた)

 栓をされたように塞がった記憶を必死にたぐり寄せて、気を失う直前のことを思い出す。

 (アキの奴、なんで)


 視界はまだ暗く翳っている。

……と思ったが、そうじゃない。


 (どこだ、ここは?)

 頭がはっきりしてくると、自分が剥き出しのコンクリートに囲まれていることが分かった。
 見たところビルの一フロアだが、建設途中で放棄されたまま朽ちてしまったような、殺風景な空間だった。
 仕切りもなく、建物の基礎部分だけ取り残された、明らかに使われていない建物。

 照明もなく暗いが、四方の壁に開いた窓もない穴から街の灯りが射し込んでくるので、自分の手元くらいは判別できた。

 襲われたのは昼前だったが、いまは夜になっている。体の感覚からしてまだ一日は経っていない。
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