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それから一年の月日が経ち、私は赤ん坊を抱えて馬車に乗っていた。
窓から外の景色に目をやると、かすかにそこに自分の顔が反射して映っていた。
生気のない瞳に、痩せこけた頬。
まるで老婆のようになってしまった自分を見て、私は自分が嫌いになった。
馬車が屋敷の庭に入って停車した。
私が馬車から降りると、案内役のメイドがそこに立っていた。
「お待ちしておりましたフィル様。どうぞこちらへ」
彼女は私の顔を見て一瞬眉を動かしたが、それ以上表情を崩すことはなかった。
彼女について家の中に入り、長い廊下を歩かされる。
両側の壁には絵画がたくさん飾られていて、今にも動き出しそうな甲冑も置かれていた。
廊下の奥まで歩くと、一際大きな扉の前で、メイドはピタリと足を止めた。
「ここが応接間になります。ダニエル様は中でお待ちです」
彼女はそう言うと、扉をゆっくりと開ける。
未だ赤ん坊を抱きかかえた私は、応接間に足を踏み入れた。
同じ公爵家であるが、実家の応接間よりも、ここの応接間の方が一回り広かった。
壁のように大きな窓が左側に敷き詰められていて、そこから庭の様子が見渡すことができた。
中央に置かれた大きなソファにダニエルは座っていた。
彼は私に気づくと、驚いた様子で立ち上がる。
「フィルさん……ですよね?」
一度パーティーで会っただけなのに、彼は私の顔を覚えていたみたいだ。
だってこんなにも驚きに満ちた表情をしているのだから。
「はい。フィルです。すみません……最近色々あって、落ち込んでいたものですから……」
「いえ……こちらこそすみません。昔お見掛けした時よりも……その……」
それ以上彼は言葉を紡ぐことが出来なかった。
姉のように正直に言えばいいのに。
醜い顔になっていて驚いたって。
私がダニエルの向かいのソファに座ると、彼も再び腰を下ろした。
口火を切ったのは私だった。
「ダニエルさん。事前にお伝えした通り、私はあなた方を許すつもりはありません。このことはいずれ公表するつもりです」
「そんな……考え直してはくれないでしょうか? もしあのことがバレたら、僕は……いや、あなたのお姉さんだって……」
「ええ、望む所です」
私は虚ろな目でダニエルを見つめた。
彼は怖気づいたように身構えると、私の膝の上で寝てしまった赤ん坊を見つめた。
「……この子はどうするのです?」
「もちろんあなたたちが育てて下さい。私はもうこれ以上面倒見切れません」
「そうですか……」
会話が終わり、沈黙が流れた。
壁に掛けられた時計の音と、外から聞こえてくる小鳥の泣き声だけが、応接間に音を響かせていた。
今から一年前。
私は姉のオレンダに王子の婚約者の座を奪われた。
しかし姉は大人しい王子が気に食わなかったのか、すぐにここにいるダニエルと浮気をした。
その結果妊娠してしまい、王子には病気と偽って、実家で子供を産んだ。
姉と両親の意向で、子供は私の子として家で育てていくことになった。
そのことを聞いた時、驚きで開いた口が塞がらなかったが、抵抗することも出来ずに、私は現実を受け入れた。
しかし、私はだんだんと疲弊していき、ついに限界が訪れた。
全てを暴露して、姉に復讐をしようと考えるようになっていた。
窓から外の景色に目をやると、かすかにそこに自分の顔が反射して映っていた。
生気のない瞳に、痩せこけた頬。
まるで老婆のようになってしまった自分を見て、私は自分が嫌いになった。
馬車が屋敷の庭に入って停車した。
私が馬車から降りると、案内役のメイドがそこに立っていた。
「お待ちしておりましたフィル様。どうぞこちらへ」
彼女は私の顔を見て一瞬眉を動かしたが、それ以上表情を崩すことはなかった。
彼女について家の中に入り、長い廊下を歩かされる。
両側の壁には絵画がたくさん飾られていて、今にも動き出しそうな甲冑も置かれていた。
廊下の奥まで歩くと、一際大きな扉の前で、メイドはピタリと足を止めた。
「ここが応接間になります。ダニエル様は中でお待ちです」
彼女はそう言うと、扉をゆっくりと開ける。
未だ赤ん坊を抱きかかえた私は、応接間に足を踏み入れた。
同じ公爵家であるが、実家の応接間よりも、ここの応接間の方が一回り広かった。
壁のように大きな窓が左側に敷き詰められていて、そこから庭の様子が見渡すことができた。
中央に置かれた大きなソファにダニエルは座っていた。
彼は私に気づくと、驚いた様子で立ち上がる。
「フィルさん……ですよね?」
一度パーティーで会っただけなのに、彼は私の顔を覚えていたみたいだ。
だってこんなにも驚きに満ちた表情をしているのだから。
「はい。フィルです。すみません……最近色々あって、落ち込んでいたものですから……」
「いえ……こちらこそすみません。昔お見掛けした時よりも……その……」
それ以上彼は言葉を紡ぐことが出来なかった。
姉のように正直に言えばいいのに。
醜い顔になっていて驚いたって。
私がダニエルの向かいのソファに座ると、彼も再び腰を下ろした。
口火を切ったのは私だった。
「ダニエルさん。事前にお伝えした通り、私はあなた方を許すつもりはありません。このことはいずれ公表するつもりです」
「そんな……考え直してはくれないでしょうか? もしあのことがバレたら、僕は……いや、あなたのお姉さんだって……」
「ええ、望む所です」
私は虚ろな目でダニエルを見つめた。
彼は怖気づいたように身構えると、私の膝の上で寝てしまった赤ん坊を見つめた。
「……この子はどうするのです?」
「もちろんあなたたちが育てて下さい。私はもうこれ以上面倒見切れません」
「そうですか……」
会話が終わり、沈黙が流れた。
壁に掛けられた時計の音と、外から聞こえてくる小鳥の泣き声だけが、応接間に音を響かせていた。
今から一年前。
私は姉のオレンダに王子の婚約者の座を奪われた。
しかし姉は大人しい王子が気に食わなかったのか、すぐにここにいるダニエルと浮気をした。
その結果妊娠してしまい、王子には病気と偽って、実家で子供を産んだ。
姉と両親の意向で、子供は私の子として家で育てていくことになった。
そのことを聞いた時、驚きで開いた口が塞がらなかったが、抵抗することも出来ずに、私は現実を受け入れた。
しかし、私はだんだんと疲弊していき、ついに限界が訪れた。
全てを暴露して、姉に復讐をしようと考えるようになっていた。
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